第五十九話 砦侵入
ドサッと音がして女性は男たちの力が弱まったのを確認してすぐに男たちの拘束を解くと周囲を確認した。
そして女性は見た。
つい先ほどまで下卑た表情をして自分を拘束していた男たちの頭部が存在していないのを。
一瞬何が起こったのかわからず周囲を見回してようやく気が付いた。
先ほどの音は男たちの首が胴から永久に離れてしまった音であったことを。
またその男の後ろに立っている人物も確認した。
門にある松明に照らされて自分に影を作っている一人の男を。
男の右手には一振りの剣が握られており、剣には明らかに先ほどの男たちの血が滴っていたのを一振りして振り払っていた。
それらが終わるとこちらに振り返り近づいてきた。
女性は警戒心を一層強くするが男の目的がわからなかった。
「(私を助けた?それともここの男どもの仲間でただ単に私を奴らから奪っただけ?あるいは特に意味はなく殺したかっただけ?だとすると私も・・・)」
女性は声を上げるかどうかで悩んだが距離は全く空いてなどいない。
すぐに男が目の前に来るとなぜか少し顔色の悪いような表情をしながらも膝を曲げて女性を同じ視線になり、ひと声言葉を発した。
「大丈夫ですか?私はジュナスといいます。森にある修道院の司祭、ギルバートさんのご依頼で村から消えた人達を探してこちらに来ました。見つけた際には救助も兼ねて。貴女はこの周辺の村の方ですか?」
ジュナスがそういうと女性はしばらく唖然とした表情をしていたが、ジュナスの発言を理解したのか、少しすると瞳に涙が溜まり、その涙が静かに、静かに頬に流れ落ちていった後に何度も何度も首を縦に振るのであった。
少しして女性が泣き止むのを待っていると女性から言葉をかけられた。
「すみません、ありがとうございます。私は村の冒険者で警護をしておりました、アイナといいます・・・ってそうだ!私以外にも捕まっている人たちが!仲間がいるんです!男は殺されてしまいましたが、他の村の女性や同じ冒険者の仲間が!!」
「大丈夫、まずは落ち着いてこれを」
そういうとジュナスは顔を逸らしつつ、ギルバートやマザーから渡されていた濡らしたタオルや毛布、全身を隠せるローブなどを魔法の袋から取り出してアイナに渡した。
アイナもそれらを渡されたことにより、今の自分の格好を思い出して、顔を赤らめて、両手で体を隠しつつ、ジュナスに背を向けてタオルやローブなどを受け取った。
少し落ち着いたのを見てからジュナスはアイナに話しかけた。
「他の方も勿論助けます。ですが流石にここの奴らを放置して助けることはできないので先に奴らを片付けようと思うのですが、奴らがどこにいるか、この砦の中の構造は解りますか?」
とジュナスがそういうとアイナは少し考えたような表情をした後に、
「時間の感覚がなかったため、何時頃かはわかりませんが、しばらく前に奴らのボスみたいな人が手下を連れて出て行ったと思います。今ここには最低限の数しかいないと思います。いつももっといろんな奴らが出入りしているから」
そう聞くとジュナスは「いない?どこに行ったんだ?」と呟きつつも、いないならばむしろ好都合か、捕まっている人たちを救助しやすくなった、と感じてすぐに準備する。
「なるほど、わかりました、そういう事でしたら貴女の解る限りで構いませんのであの砦の内部を教えて頂いてもいいでしょうか?そのあとはここから少し離れてどこかに隠れて頂いて・・・」
とここまで話していると、そのジュナスの言葉に被せる様に「私も行きます!」と力強い言葉を発した。
が、その声が少々大きすぎたのか、流石に二階でのんびりしていた見張りの男がこちらの様子に注意が向いてしまい、周囲の松明の状況などがおかしいことに気が付いた。
それにすぐ気が付いたのがネームレス、見張りの男がこちらに注意を向けた時に動かした足音に即座に気が付き、ジュナスと入れ替わって魔力とジュナスの人間離れした身体能力によって、砦の扉や飾りなどのとっかかりをうまく使い見張り男の背後に着地。
見張り男が何事かと気が付く様子もなく、そのまま崩れ落ちた。
「フン、我的には殺してしまいたいところだが、ジュナスの奴が言うにはここは眠らせておけば万が一、交代の奴が来てもサボって寝ていると思われて、時間を稼げるというのでな、とはいえ、このままというのも気に食わん。魔力だけは貰っていくぞ」
とジュナスの声音で、ただし中身はネームレス自身がとそう口にすると崩れ落ちた見張り男から魔力を奪い、再度アイナの元へ戻った。
急に消えたと思ったジュナスが再度現れたことに驚いたアイナが声を出しそうになるが、それをジュナスは口に手を添えて言葉を発せないようにして、首を振る。
その意図を理解したアイナは首をコクリと縦に振ったのを確認するとジュナスは指を話して小さな声で、「戦えますか?」とだけ言う。
見張りの男を眠らせたとはいえ、次の見張りがいつ来るかはわからないし、出て行ったと思われる敵の主力達もいつ帰ってくるかわからない。
連れて行く行かないと口論している暇もないと判断したジュナスは必要な事だけを言い、役割を確認しようとした。
戦えなければ守りながら動かなければならない為、どうしても進軍速度が少なからず落ちるし、敵の殲滅も時間がかかってしまうが、アイナがある程度でも自分を守れるなら攻撃だけを考えてすぐに動けるための質問だった。
「大丈夫です、魔力は枯渇していて魔法は使えませんが、元々魔力で身体強化して戦うので剣も扱えます」
そういえば何故かそれなりに戦う力がある者だけが連れ去られていたんだったな。
という事を思い出して頷きを一つ。
何故そういった者だけを連れ去ったのかはいまだ不明だが戦えるというならそれに越したことはない。
むしろある程度楽になる、敵の数が少ないとはいえ、未知数であることを考えるなら殲滅を優先するよりも他の人達を先に救助した方が戦力的にはいいかもしれない。
何よりも人質にされる可能性も大きく下がるし、体の調子が悪かったりする人もいるかもしれないしそちらを優先するべきか・・・と一人頭の中で戦略を立ててそれが終わるとアイナへ問いかける。
「ではまず捕まっている人たちを救助しましょう。戦える者は援護してもらい、動けなそうな人たちは他の動ける人達に手伝ってもらいながら砦を出るとしましょう。場所は解りますか?」
「はい、この砦の一番上の端にある場所です。途中に広間を二つほど抜けなければならないので、戦闘は避けられないと思いますが、私も精いっぱい戦います!」
と気合を入れているアイナには気に留めず、「一番上か・・・」と呟きながら砦を見ている。
「(ネームレス、さっきみたいにとっかかり使って一番上まで行けるか?この人も連れてになるけど)」
(この小娘もか?出来ぬこともないが小娘が若干面倒ではある。ここに捨て置いても構わんのではないのか?)
「(いや、上で救助する際に初対面のしかも男の俺が行くよりも、彼女に説得して貰った方が上に上がる手間がかかっても結果的に早くなる可能性の方が高い。彼女に先導してもらって且つ他の人達の面倒も見て貰えれば俺がいちいち気にする必要もなくなるだろう)」
(ほう、なるほど。良い考えだ、ならばいささか面倒でも連れて行くのがよいか。ではやるぞ)
そういうとあっという間にジュナスと入れ替わってアイナの身を抱える。
流石に片手はとっかかりを使うため、片手のみでアイナを抱えるというのはやはり人間離れしたジュナスの筋力だからこそ出来ることである。
「小娘、少し黙っていろ」
「えっ?あれ?えっ??」
突然の口調や雰囲気の変化、そして何よりも片手で自分を担ぎ上げられて何が何だかわからず混乱している様子のアイナであったが事態を理解する時間はなかった。
次の瞬間、ジュナス(ネームレス)は足に力を入れたと思うと先ほどと同じようにとっかかりを使ってあっという間に最上階までを登りつめた。
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