第五十七話 盗賊団
少し胸糞な話になるかもしれません。
その頃の元蛮族で現盗賊団の砦では・・・
多くの男たちが酒を飲みながらも愉快そうに下卑た笑いを上げつつ声を張り上げる。
「ひゃははははは!すげぇぜ!お頭のあの力はやべぇぜ!これならぜってぇ殺れるぜ!俺たちの以前の場所どころかほかの国だって落とせるに違いねぇぜ!」
一人の男がそう声を上げると周囲からは「違いねぇ!」「全くだぜ!」「俺たちの時代って訳だ!」などといった声が聞こえてくる。
そしてその周囲には消えたと思われる集落の者と思われる男の遺体と慰み者とされたと思われる女性の姿がそこかしこにあった。
いやどうやらそれだけではないようで、冒険者風と思われる者たちも何名かいるようではあったが、同じような状態で男性は一人として生き残ってはいない。
そして一人の女性は慰み者にされながらもその目はまだ諦めていないのか、恨みの籠った視線を男達に返した。
それを見た男達は立場が圧倒的に上にいることもあり、そんな視線すらも楽し気に見下してみては再び酒を飲み笑い通している。
「おいおい、そんな目をして睨むなよ?お前たちが悪いんだぜ?何せ、弱かったんだからよぉ」
そういいながら冒険者風の女に近づいて行ったかと思うと女性の腹部に向かって蹴りを放つ。
女性はその衝撃に呻き声をあげるがそれでも睨むのを止めようとしない。
そんな女の態度に腹が立ったのか「チッ!」と舌打ちを一つすると、その後にはニヤニヤしながら女の体をジロジロと眺めだした。
その視線は明らかに欲情したようなねっとりとした粘着質な視線になっており、見られた女は鳥肌が立つのか自身の体を抱くようにして丸くなる。
そんな女の反応を良く思ったのか男が下卑た笑みを浮かべながら声をかけつつ女に近づいていく。
「げっへっへっへ。そんなに構って欲しいってんならまた相手してやんよぉ、えぇ?ひゃっはっはっはぁ!」
そういいながら女に一気に近づき女の体に触れていく。
女は必死に抵抗しているがそれでも所詮は男と女、力の差もある上に女の方はただでさえ先ほどまでも十分に嬲られた後なのだ、体力もほとんど残ってなどいなかった。
男が女を組み伏せてあわやというところであったがそこに扉が開く。
入ってきた男は明らかに他の男とは纏う雰囲気が違った。
その男は2m近くはあるであろう身長なのにもかかわらずあまり背が高いようには見えなかった。
それは背だけでなく、腕も肩もそして腹も筋肉質なのか、そのどれもが横に広がっていたからであろう。
だがその眼光は鋭く、背には巨大で黒いが所々に赤い線の走った禍々しい斧を背負っている。
その男が周囲を一瞥すると一言「集まれ」とだけ言うと踵を返して扉の向こうへと消えていった。
誰もが時が止まったように動きを止めていたが、その扉が閉まる音がしてハッとしたようにして多くの者がすぐに扉の向こうへ向かって走っていった。
女を襲おうとしていた男も「クソッ!」と言いつつも逆らうつもりはないのか女の顔を一発殴ってからすぐに扉の向こうへと消えていった。
そして扉が閉められるとガチャリと音がして扉の鍵もかけられる。
残された女達は殆どの者は動かなかったが先ほど襲われそうになった女はそれでも気丈に扉を睨みつけた。
ただその目の端には一筋の涙が流れていた。
男たちが向かった先は砦の中でも最も大きな部屋である。
どうやら元は砦の作戦司令部のような場所だったのであろう。
そこに本来あるはずのテーブルなどはなく、どこからか持ってきたのか明らかに周囲とは場違いな豪華そうな椅子が一つあるだけであり、椅子に先ほどの筋肉質の男が座っている。
その隣には黒い奇妙なローブを深く被った者が控えている。
背丈はそれほど高いようではないようだが、この部屋に集まったものの中で唯一異質の姿と雰囲気を纏っており、明らかにここの住人ではないといった風貌で佇んでいる。
そんな相手をだが誰も気にする様子もなく、集まった者たちは自身の主に視線を注いでいる。
ある程度の人数が揃ったからなのか筋肉質の男が「おい!」と一言だけ告げると端の方にいた男が何かを引きずるように男の前にやってきた。
引きずられてやってきた男はスキンヘッドのイカつい見た目のはずなのだが弱弱しい、どうやら片腕がないからなのか、隻腕の状態で腕を抑えながら膝をつき、頭を下げている。
筋肉質の男が告げた。
「お前たち。ケーガナイの野郎が帰ってきた。いや、見つけたといった方がいいか」
それを告げると始めは仲間内で喜びの声が上がっていたが、自身の主である筋肉質の男の機嫌が悪いことに気が付き始めたのか、喜びの声がすぐに掻き消えていった。
「ケーガナイ、俺様はお前とデューフからこう報告を受けたはずだったんだがなぁ「エルフのガキを捕まえた」と。で?その肝心のガキは一体どこにいるんだ?あぁ?」
その一言で集まった者たちもケーガナイと呼ばれた隻腕の男が任務に失敗したのだと気が付き、辺りは完全にシンと静まり返っていた。
そこでスキンヘッドの男ケーガナイが言葉を発する。
「か・・・頭・・許してくだせぇ・・邪魔を・・邪魔をされたんだ!ガキに!!銀髪のガキに!!俺も腕を切られてデューフの野郎は・・・!」
突如、ゴキッ!!という大きな音がした。
そこまで言ってからケーガナイはその先の言葉を発することができなかった。
正確には次に気が付いた時には視界が天井を向いており、顎のあたりに酷い痛みが走っており、しばらくしてから自身が蹴られたと気が付き、蹴られたと意識してから急に顎の痛みが酷くなり、思わず悲鳴を上げるが悲鳴を上げるごとに顎にもダメージが通りより一層痛みが酷くなった。
「うぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そう叫んでいたが今度はすぐ隣に先ほどの筋肉質の男が立つと一言だけ告げる。
「うるせぇよ」
それだけ言うと更にケーガナイの腹を思いっきり踏みつける。
それだけでケーガナイは悲鳴を上げるどころか息すらできなくなり、陸に上げられた魚のように口をパクパクさせるだけで言葉を発することも出来なくなった。
筋肉質の男はそれを確認すると視線をケーガナイの方には向けずにただ言葉だけを発する。
「なぁ、ケーガナイ。俺様はよぉ、随分と待ったんだぜ?それも期待してなぁ。ようやく、ようやく俺様の国を取り戻すことができるってよぉ。ガキみてぇにワクワクしながらよぉ。わかるか?俺様のこの気持ちが・・・・よぉ!!!!」
そう告げると言葉尻の部分が強くなり、踏みつけている足にも力が入る。
それだけでケーガナイは口の端から少し血を流しながら、だがまともな言葉を発することが出来ずに「ぐ・・・ぐうぅぅぅぅ」と呻き声だけが聞こえてくる。
周りの者は誰もケーガナイを助けようとはせず、ただただ我関せずと言わんばかりに視線を逸らしている者が殆どだった。
「全くよぉ、てめぇらがなかなか帰ってこなくておれぁ遂にイライラしちまってよぉ。近くにいた奴らや攫ってきた奴らを何人かつい殺っちまったわけよ。そしてようやく帰ってきたと思ったらてめぇ、ガキに逃げられた、だからよぉ。おれぁよく耐えたと思うぜ?なんせまだ・・・・てめぇは生きているんだからよぉ?」
そういうと最後にケーガナイの方へ視線を向けた。
その視線は怒りのあまりなのか目が血走っており、額にも青筋が幾本も見える程で誰がどう見てもキレていることがまるわかりであった。
それゆえか誰も筋肉質の男に話しかけようとはしなかった。
だがそこでローブを来た謎の人物が筋肉質の男に近寄り何事か囁くと、怒りは消えていないであろうがそれでも足をケーガナイの腹の上から退けながら元の椅子に戻って座った。
ローブの人物も元の椅子の隣に立つようにして戻っている。
ケーガナイがゴホッと口から血を流しつつ起き上がろうとするが誰もそれに手を貸すようなものはいない。
「それで?ガキは結局どうなったんだ?あぁ?まさかそれすらわかってねぇってんじゃねぇよなぁ?」
そう告げるとケーガナイの方に鋭い視線を向ける。
ケーガナイはまだ血を口から吐き出していたが、それでもここで言葉を告げなければ今度こそ完全に殺されるとわかっていたのか必死に言葉を紡いだ。
「も・・勿論・・です・・ゴボッ。が・・ガキは・・・あの・・教会みてぇな・・・建物に・・・戻って・・・ゴホッ」
血を吐きながらも必死にそう告げる。
実はこの時、本当はそこに彼らの目的の人物であるエルフのシロエがいるという事をケーガナイは知りえなかったのだが、彼は自分の命が惜しかったため、そしてそこ以外に思いつかなかったため、見事に真実を言い当てていた。
だがそれを告げた後にケーガナイは後悔した。
何せこれまでもその場所にいることは解っていたのだ。
だが、あの孤児院には結界があるため、わかってはいても実際にシロエを捕まることが出来なかったのである。
彼は自分の失言に気が付き、絶望的な表情で筋肉質の男を見上げたがそこには予期していない男の表情があった。
「そうか・・くっくっくっくっく。場所がわかってるってんなら話ははえぇ。なぁ?そうだろう?」
随分と上機嫌な様子で隣に立つローブの人物に声をかける。
その際に自身の背に背負ってある斧に視線を向けて。
それに対してローブの人物は言葉を発さずにただ頷く。
だがそれだけで筋肉質の男はよりいっそ満足そうに笑みを深めて笑う。
「あのガキさえ手に入りゃこっちのもんだ。後は金だけだからな。それさえ手に入れば俺様は以前のように、いや、もはや新たな国すら作れるぜ。この力でな」
そういうと今度は背負っていた斧を自らの手に持った。
そして斧に視線を向けてやはり笑みを浮かべる。
「俺様は遂に力を手にした。誰にも負けはしねぇ。こいつさえあれば俺様は無敵よ。そしてあとは金だ。それだけで俺様の帝国、インヌ帝国が作れるって訳だ!そして当然その国の、いや世界の王はこの俺様・・・カーマッセ・インヌ様って訳だ!!がっはっはっはっは!!!」
そういうとただただ大声で満足そうに笑って斧を見つめていた。
その姿はかなり異様な光景であったが誰も筋肉質の男、カーマッセ・インヌに声をかけることはできなかった。
いつもご覧いただきまして、ありがとうございます。
楽しんでいただけましたら、感想や誤字訂正、ブックマークや評価などして頂けますとモチベーションアップにつながり、更新のペースも上がるかと思います。
これからもどうぞよろしくお願い致します。