第五十二話 幕間:金青天井ヴァーモット
しばらくすると何人もの兵士紛いの男たちが室内に押し寄せてきた。
そしてその男たちの後ろから大きな馬鹿笑いをした男が更にやってきた。
「ハッハッハッハッハァ!ここかぁ!レジスタンスなどという鼠共の住処は!!この六将軍一の頭脳派たるヴァーモット様が貴様等に引導を渡しに来たぞー!」
唐突にやってきたのは豚・・・ではなく一様六将軍(笑)のヴァーモットであった。
何をしに来たのかと考えたエレクトラだったが、何をしに来たのかは先程自分で叫んでいたので、どうやら先程まで残っていたであろうレジスタンスの残りを始末しに来たのだろう。
確か、本来はここのレジスタンス達は逃がすはずだったのだが、どこから情報を仕入れてきたのやら。
だがこの男のお陰である意味エレクトラは助かった。
何せ自分の前にも後ろにも兵士紛いの男共が入ってきたのだ。
それはつまり今動いても自分も大丈夫という事だろう。
兵士紛いの男共がこちらに向けて卑しい笑みを浮かべている。
どうやらエレクトラの事をレジスタンスの人間だと思っているようだ。
汚らわしいという表情をする。
「ヴァーモット、なぜ貴方がここにいるのかしら?貴方は城で待機を命じられていたはずだったと思うのだけれど?」
エレクトラがヴァーモットに声をかけたことで、周りにいた兵士達の下卑た視線が急に驚きに彩られ、そしてその後は怯えたような表情へと変わった。
ヴァーモット相手にこれだけの言葉を交わせる立場にある人間である事に気が付いたようだ。
「え・・エレクトラ!?何でお前がここにいるんだ!?まさかお前も鼠共の始末に来ていたのか!?抜け駆けしたのかぁ!?」
「あのねぇ、私とシルフは元々ここを任されていたのよぉ?抜け駆けも何もそれは貴方に対する言葉じゃないのかしらぁ?」
そう言われるととたんに慌て始めるヴァーモット。
何やらもごもご言いながら言葉にならない声を上げている。
と、ヴァーモットの視線がエレクトラから地面に倒れているシルフに向かった。
「!?(シルフが死んでる!?待て待て!?これはどういう状況だ!?エレクトラとシルフがいて、向こうには同じように見知らぬ輩が死んでいる。つまりシルフが鼠に噛まれてやられたという事か!これは・・・チャンスだ!!)」
伊達に元商人から成り上がった訳ではない。
自分にとっての出世のチャンスには鼻の良いヴァーモットはこの事態を即座に把握した。
そしてそれを知ったヴァーモットはすぐにエレクトラに向けて下卑た視線を送りだした。
「(今この場にはエレクトラだけ、後はワシの金で雇ってあるいいなりの兵士のみだ。つまりここでエレクトラを抑える事が出来れば、シルフの地位にワシが就いて今のワシの地位にはワシの手の者を就ける!そうすることで六将軍の地位を更に上げられる!何より・・・何よりだ!!エレクトラのあの体をワシの好きに出来るという事か!!ぐふっ!ぐふふふふふっ!!)」
ヴァーモットからの唐突の下品な視線に嫌気が差したエレクトラは「はぁ」とため息を吐いた。
そのため息姿すらも美しく感じられて周囲の兵士達も再び下卑た視線を送り出した。
「(良し!ここはまずエレクトラを力ずくで抑え込んでヒィヒィ言わしてワシの言いなりにして後は・・・・ん?なんだ?何やら随分といい匂いが・・・)」
そこまで考えていたヴァーモットが急に股間を押さえて呻きだした。
「う・・うぐッ!!ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」
急に自分たちの主が悲鳴を上げたことで兵士達も動揺し始める。
そこにエレクトラがヴァーモットを見下しながら言葉をかける。
「これに懲りたら二度と私に対して卑しい視線を送らない事ね。ウジ虫に這われたみたいでほんっと気持ち悪いったらないわぁ」
そう言われて自分の今の原因がエレクトラである事に気付いたヴァーモットが額に脂汗を流しながら虫の鳴くような声で問いかける。
「わ・・・ワシに・・何を・・・した・・・ワシが死ねば・・・て・・・帝国の・・・金は・・・」
「安心なさい、別に死にはしないわ。ただ一月ほど貴方のソレが使い物にならないだけよ。痛みもじきに無くなるわ」
そう言われても痛いものは痛い。
必死にエレクトラに何とかして欲しい様に見上げていたが、エレクトラはもうヴァーモットに興味がないというように視線を向ける事を止めた。
そしてシルフの死体に向かって声をかける。
「そんなことより、シルフ!いつまでそうしているつもりかしら?もう十分戻れるだけの魔力は戻ったでしょう?早くお立ちなさい」
そう声をかけるとシルフの体と頭が風に包まれる。
しばらく風によって何も見えなかったが風が収まると中からは何事もなかったかのようにシルフがいつもの笑顔で立っていた。
「ふわぁ!びっくりしたぁ!いきなり頭落ちちゃったから元に戻るのに時間かかっちゃったよぉ~!」
先程まで首が離れて死んでいたはずの者がいきなり動き出した事に、周囲の兵士達は勿論ヴァーモットも唖然としたように口を開けたまま言葉を発する事が出来ずにいた。
「全く、ちょっと油断しすぎていたんじゃないのぉ?まぁまさかあんな事になるなんて、私も予想外だったから仕方ないのかもしれないけれど・・体は大丈夫なのぉ?」
「油断しちゃった☆体は一様大丈夫だけどしばらくは休憩が必要かな?休まないと本気は出せないかも」
そんな風に自然と会話をする二人に完全に置いて行かれている兵士達とヴァーモット。
何が何やらわからないが、とりあえず先程ヴァーモットが考えていた計画はあっという間に崩れ去った事だけは確かだった。
「それにしても一体何だったんだろうね?どうやって僕を攻撃したんだろう?あの人の体見てみたいかも~」
「止めておきなさいな、近づくのは流石に・・・!?」
近づくのは流石に危険だ。
そう声をかけようとしてリカの死体に目を向けた時、明らかにリカの死体に変化がある事に気が付いた。
先程までは首と体が落ちていただけだったはずなのに、今その二つが存在しない。
いや違う、二つの白い煙のような物が首と体をいつの間にか覆っていたのだ。
今、リカの体は煙のような物に覆われてその部分は何も見えない、だが急に起きた変化にシルフとエレクトラは警戒態勢をとる。
よもや首の飛んだ生物が生きていられるなんてシルフ以外にはあり得ない、そう思っていたエレクトラだったが、先程の唐突の攻撃を考えても嫌な予感しかしなかった。
ヴァーモットはようやく股間の痛みは治まったようだが、その奇妙な光景を見て険しい表情をしている二人に対して頭に?マークを付けている。
どうやら彼には死体が何もせずに白い煙に包まれる事が異常事態とは感じられなかったのか、それとも何も考えていないのか・・・兵士達もその異様な光景に何も出来ずに眺めているだけである。
と、ここで変化が起こった。
リカの頭の部分の煙が弾けていくつもの小さな塊となって、室内にゆっくりと広がっていくのだった。
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