第五十一話 幕間:謎の女性『リカ』
「・・・貴女・・・一体何者かしら?」
そう言われて女性は一言だけ言葉を返す。
「名前ですか?名前ならリカっていいます」
緊張した面持ちで若干震えつつもリカはそう名乗った。
エレクトラは目の前の名前のみを名乗るリカに対して明らかに警戒していた。
「(なんなのこの子?何故私の香を吸っていて動いていられるの?それに一体どうやってあの三人を治したというの?わからないわ・・・)」
そんな風に思案するエレクトラに対してシルフは何とも奇妙な物を見るかのような目でリカに話しかけた。
「ねぇおねぇちゃんさ。なんかちょっと震えてるみたいだけど大丈夫なの?強いの?あの人たち逃がしちゃって大丈夫だったわけ?皆で遊んでくれたら良かったのに。あ、でもエレクトラの香を吸っても動けるのはすごいね!どうやってるの?」
シルフはリカに対して新しいおもちゃを見つけた子供のように舞い上がって話しかける。それに対してリカは明るいという言葉とは対照的な暗い瞳でもって言葉を放つ。
「どうやって・・だろう。どうやってるんだろうね。私自身よくは分かってないので」
そう言うリカは嘘をついているようにも見えず、一層エレクトラの警戒は強くなる。
エレクトラが最初にリカを見た時に抱いた感想は奇妙であり不気味であった。
見た目には明らかに自分よりも劣っていそうな雰囲気の、決して戦闘力の高そうでもない雰囲気の女性なのに、何故か自身の知らない恐怖というか不安感というか、そういった目に見えない何かがエレクトラの中の警戒心をむき出しにさせていた。
だがこのまま何もしない訳にはいかない。
先程の男達に随分と自分たちの手の内を見せたのだ。
別に構わないと言えばそれまでだが出来るなら消しておきたい、そう思ってしまうくらい余計な事を喋ってしまっていたのである。
チッと内心、舌打ちを打ちたい気分であったが、迂闊に手を出すのも躊躇われる、どうしたものかと思っているとシルフが先に行動に出た。
「よくわからないんだったら試してみたらいいじゃん!そ~れ♪」
そういうとシルフは自分の目の前に先程よりも巨大で明らかに強力そうな風の刃を出してそれをリカに向けて放ったのであった。
強力な風の刃がリカに向かって飛んでいく。
それは普通であれば見えないはずの風の魔法が、明らかに目に見える程の魔力の凝縮された刃であった。
向かってくる刃に対して一切の動きを見せないリカ。
あまりの動きのなさにシルフもエレクトラも驚きの表情を見せる。
流石に何の行動もとらないとは思っていなかったようだ。
強力な風の刃がリカを飲み込んでいく。
更にその刃はリカの体の後ろにあった脱出扉をも斬り裂いて、背後の通路の中程まで石で出来た壁を抉りながら突き進み消えた。
リカ本人だけではなく、背後の石造りの建物にまで被害が及んだ事によって、またも砂埃が舞い上がる。
先程よりも量が多い。
どうやら石の粉塵も数多く混ざっているようだ。
どの程度で周囲が落ち着くようになるかわからない状態を嫌ったのか、シルフが風の魔法で周囲に舞い上がっているさまざまな物を消し飛ばした。
そしてそこにあった光景に実際に行ったシルフも、そばで見ていたエレクトラも唖然とした表情でその場を見ていた。
その場にあったのは先程ここで二人を足止めすると言っていたリカの胴体と首が離れた姿であったためだ。
あまりに綺麗に離れたためか血などが一切飛び散ってはいない。
何とも言えない結果に流石のシルフも言葉がないようだ。
「(な、なんだったの?この子は。結局何もしてこなかったけど・・・予想以上にシルフの攻撃が強すぎて何もできなかった・・・という事かしら)」
唖然としつつその光景を見ているとシルフも目の前の光景を把握したようだ。
「なんだ・・・つまんないの。あれだけ勿体ぶっておいて、あんな程度でやられちゃうなんて。ちょっと気合い入れて損したよ」
そう言うシルフだがエレクトラはある意味当然かとも思い直した。
見た目や普段の言動は年相応に幼く見えるが、シルフはこう見えても帝国の将軍になれる程の魔力を備えているのだ。
それに対して相手は奇妙な力を持っていたとはいえ、所詮はレジスタンスのそれもただの生き残りだ。
そもそもの格が違うという事だろうとそう思い、自分たちが感じていた警戒心はただの奇妙な力に踊らされていただけだろうとそう判断した。
「なんだか良く分からない子だったわねぇ。何故私の香が効かなかったのかはよく分からないけど、まぁ死んでしまったのならそれでいいわ。ねぇシル・・・フ?」
話しかけながらシルフの方を見たエレクトラは、自身が見ているものがわからず、思わず言葉が途中で途切れてしまった。
「あ・・・れ?なに・・・?こ・・・れ・・・・?」
そういうシルフの首がゆっくりとだが確実に胴体と離れて行く。
その姿は目の前に倒れている先程警戒した女性の姿とまったく同じように見えた。
エレクトラの隣にいたはずのシルフの首が急に落ちた!
その事態にエレクトラは動く事が出来ず、何よりもまず自分の首が未だに付いているかを確認するようにゆっくりと自身の手を首へと持っていき、そして安堵する。
「(一体何が起こったの!?どう見ても相手から攻撃があったようには見えなかった!何よりも魔法ならシルフが気が付かないはずがない!どういう事!?私とシルフの違い・・攻撃したかどうか、あるいは立ち位置?もし位置なら私はこの場所から動く事が出来ない!?)
チラッと視線だけでシルフの方を見ると、やはり首と胴体が完全に離れてしまっている。
その姿は先程見たリカと名乗る女性と全く同じ姿だ。
そう思いリカの方へと視線を送ると、攻撃する以前の時との違いに気が付いた。
「(!?腕に奇妙な・・・爪?あんなもの、さっきまではなかったはず・・一体いつの間に?)」
警戒した相手だからこそ良く観察をしていたのだ。
確かに攻撃した時にはあの様なものはなかったはずだ。
だがいつそれを付けたのかがわからない。
そしてリカ自身が未だに動き出さないからこそ、エレクトラ自身もどうすればいいのかがわからなかった。
「(どうしたものかしら・・・迂闊に動いてシルフの二の舞になる可能性がある以上、私はここから動く事が出来ないわ。でもあのリカって子もあれから特に変化がない。でも間違いなくシルフに攻撃してきたのはあの子、それ以外考えられない)」
エレクトラがどうしたらいいのかと自問自答していると急に背後からいくつもの気配が現れる。
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