第四十八話 幕間:旧ランドグルーム国
幕間の間、視点は完全にジュナスとは別になります。
ジュナスのいる場所とは離れたとある街、ライール。
その街はランドグルーム国という国の中にある街の一つで、帝国から最も近い大きな国だったという事もあり、魔物大侵攻の後に最も栄えるのが早かった国であり、そして帝国に最も近かったという事から真っ先に帝国に侵略された国でもあった。
この街の領主は帝国が侵略してきた際に、属国となる事を良しとせず抵抗する事にしたランドグルーム国の王族の意向に反して、真っ先に帝国に降伏し、あまつさえ帝国がランドグルーム国に侵略する為の手助けまでしたという街でもあった。
この街の領主は長いものには巻かれろの精神を体現したかのような人間であり、その場その場で常に強いものに付いて行くことで生きてきた男でもあった。
そしてこのライールの街で異変が起き、その異変を察して更に別の街であるここグリンダムの街の地下にてローブを被った人々が口々に言葉を交わしている。
「どうやらライールの街のメンバーがまたやられたらしい。これでこの十日以内でライールにある三つ全ての隠れ家のメンバー達が全員やられたぞ!」
一人の男が焦ったような怒ったような複雑な感情を持ったかのような声でもって怒鳴った。
それを聞いた別の男が更に焦ったように声を張り上げ、他の男たちもしきりに周囲の者達と言葉を交わしていく。その場には何とも言えない重い空気が漂っていた。
「そんな!?ライールの街と言えばザイルがいたんじゃないのか!?あいつがいてそんなにあっけなくやられたってのかよ!?」
「ザイル・・・確か我々の中でもそうとうの手練れだったはずなんだが。あいつがそこまであっけなくやられたという事は相手もかなりの手練れという事か・・・まさかあの『一振の悪魔』じゃないだろうな?」
『一振の悪魔』
その単語が出たとたんに周囲の者達が絶望したかのような表情になっていく。
中には腰が抜けたかのように地面に座り込む者も出てきた。
とそこに威厳のある声と雰囲気のテーブルに座っている男が周囲の者達に向かって声をかける。
「いや、あの悪魔ならもっと街そのものに被害が出ているだろう。ライールの街はメンバーの隠れ家のみ襲撃されたらしい」
その発言を聞いてほっと安堵したもの達が多かったものの、襲撃されて手練れを殺されたことには変わらない事実に、別の男が苛立ったように声を張り上げる。
「じゃあ一体誰が殺ったってんだよ!?ライールの街まで来てんだろ!?だったらここだってかなりやばいじゃねぇかよ!」
その一言で再び周囲がざわつき出す。ある者はおろおろと周囲を見回していたり、またある者は隣にいる人間にどうすればと慌てて不安の感情を吐露している。
と、先ほどのテーブルに座っている男が言葉を発した。
「・・・・・落ち着け。今回の襲撃はまず被害の関係からしてあの『一振の悪魔』ではない。そして敵の目的はおそらく俺達のレジスタンスの存在であり、我らが希望であるイース・ランドグルーム王子だろう。街そのものを破壊していないことからもおそらくは間違いあるまい、だが・・・」
男がそう発すると一度後ろにある扉へと視線を軽く向けるがすぐに正面に視線を戻す。
その男の発言により周囲の者は先ほどとは違い随分と落ち着いたようになった。
だがそこにまだ落ち着きを取り戻していない男がテーブルに座る男に問い詰めるように声をかける。
「だ、だったら!すぐにでもここに来るんじゃないのか!!どうするんだよ!早く何とかしないと・・・」
そこまで言って男が急に言葉を途中で遮って止まった。
落ち着いている男が手の平を男に向けて伸ばす。
男の発言を止めさせる為の行動である。
「話は最後まで聞け。だが少し動きがおかしい。ライールから帰ってきたメンバーに聞いた話では隠れ家近くの無関係な住人も倒れていると聞いている。奇妙な匂いがかすかにしたという意見もある。この事からして相手はおそらく香を使うタイプだ」
それを聞いて落ち着いている男の隣に座っている女が声を出す。
「香・・・ですか?薬物ではなく?」
「あぁ、薬物ならばもっと大騒ぎになっているはずだ。誰もが倒れた原因と匂いを関連付ける事が出来ていない為、急に倒れたというようになっているから騒がれているのだろうが・・・な。それならザイルがあっけなくやられたのにも理解できる」
それを聞いて女とは逆に座っていた男が今度は喋り出す。
「・・・確かに。ザイルは腕は立ちますが、荒事以外はからっきしでしたから」
そこまでの話を聞いてもやはり慌てている男の状態は変わらない。
「今そんな事を話している場合じゃないんじゃないですか!!現実にやられてる奴らがいるんだから早く何とかしないと!いつここにそいつらが来るか!!!!」
そこまで言って落ち着いている男のみならず、テーブルに座っている内の数人の人間は肩をすくめた。
どうやら現実が見えていないのはどちらかわかったようで呆れたように慌てている男を見ている。
「何度も言うが落ち着けと言っている。いいか?それほどの相手だ。それなりに力も持っているとみていいだろう。だがそんな回りくどい事をする理由はなんだ?相手が帝国なのはまず間違いないとして俺達を潰すだけなら力でいくらでも出来るだろう。だがそれをしない理由はなんだ?」
そう問いかけられて慌てている男は言葉を噤んだ。答えが思いつかなかったのだろう。
「おそらくだが奴らは俺達を潰したいんじゃない。何か・・・探っているな。それが一体何なのか、王子が邪魔なら力で潰せばいい。それをわざわざしないで香まで使って効果が出るのに時間のかかるような手間をかける何かがある」
「(なんだ・・何を探っている。王子の居場所を探るためか?いや、だとしてもやはり動き方が少々おかしい。もしや目的は王子ではなくあの女か?いや、まだあの女の事は感づかれてはいないはずだ。だとしたらなんだ?奴らの目的は一体・・・)」
その頃のライールの街の領主の館の客間には三人の人物がいた。
「・・・これでいいかしら?これならレジスタンスの奴らも自分たちが狙われる事を察してさっさと逃げてくれるでしょう?」
苛立つというよりは面倒事をさせられて辟易としている、といった様子で後ろに立つ男に向かって語りかけるのは帝国軍女将軍の美香死女エレクトラである
「はい。感謝いたします、エレクトラ様。これでウルベ様の懸念が消えます」
「・・・貴方のご主人様に伝えておいてくれるかしら?貸し一つってね?」
「確かに承りました。それでは私はこれで・・・」
そういうと男はエレクトラの前から姿を消した。
そこまでを後ろで見ていたシルフが不快そうな表情をしながらエレクトラに話しかける。
「ねぇねぇ、何でこんな面倒なことするのさ?あんな奴らさっさと殺しちゃった方が楽じゃん。邪魔な奴らなんでしょ?」
見た目は幼い小学生くらいの少年のような背格好で表情も子供ではあるが、その口から出てくる発言はとても見た目相応の言葉ではない。
周囲にはエレクトラ以外いないため特に問題はなかったが、もし何も知らない者が見れば自身の耳を疑ったであろう程の発言であった。
「どうなのかしらねぇ。私にもよくわからないけど何かあるんじゃないかしら?それに殺すって言ったって色んな所に隠れてるレジスタンスとか言う奴らを虱潰しする方が面倒だし、これで終わるのなら楽でいいんじゃないかしら?」
そういうとエレクトラはもう興味を失ったといわんばかりに手鏡サイズの鏡を出して自身の顔を見て化粧をし始めた。
「ふ~ん・・・そっかぁ♪」
そういうシルフの顔は悪戯を思いついたかのような年相応の表情をしていた。
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