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第四十七話 善人認定


「ではジュナス殿。こちらの用意は出来ました。貴方のいう『見せたいもの』というものをお見せいただけますでしょうか?」


「わかりました。これが証拠となるかどうかは何とも言えないですが少なくとも私に起こった事、先程話した内容が事実である事の物証にはなるでしょう。では見苦しいものをお見せいたしますが失礼いたします」


ジュナスがそういうとおもむろに着ていた服を脱ぎ始める。


「きゃ!?」「ひゃ!?」「な・・なにを!?」「あわわ・・・」


「・・・・・・・じゅる」「ウホッ!」


などと様々な声が聞こえてくる。

というか最後の方の奴らなんだよ!?何かちょっと悪寒が走った気がするんだけど!?


「ジュナス殿?一体なに・・を・・・・」


何をしているのか、という声は途中で途切れる。


ジュナスが完全に上半身の服を脱ぎ捨て、現れた体、その体には無数の火傷、刀傷、打撲の後などさまざまな傷跡が残っていた為であった。


「そ・・・・それ・・・は・・・・・・」


先程まで上がっていた黄色い(茶色か?)声も今は完全に沈黙している。


「拷問の傷跡・・・かねぇ、いや、拷問にしても普通ここまでやりゃしないね。一体何の目的があってここまで痛めつけるのか。むしろ・・人が人をここまで傷つける事が出来るものなのかねぇ」


マザーはそういうと悲しげな表情でこちらを見ている。


「理由に関しては俺自身わかってはいません。何故ここまでの事をされたのかそれすら俺にはわからないんです。無くなった記憶に関係しているのかもしれませんが・・・」


ジュナスはそういったが実際には記憶などなくなってはいない。

だが事実、何故この様な仕打ちを自分が受けなければならなかったのかに関しては、確かにわかっていない。


その辺りも踏まえてあえてそういう風に言う事で、少しでも信じて貰おうという思いがあった。

あまりの姿に近くにいたシスターの一人が、癒しの魔法らしきものをかけてくる。


オフィーリアにして貰った時のように緑色の温かい光が自分を包んでくるのだが、傷自体はもう塞がっているので効果はない様だ。


「そんな・・・傷跡が消えないなんて・・・」


癒してくれたシスターがそんな事を呟いた。

傷跡って消えるのか?


そういや顔の傷はオフィーリアが治してくれたっけ。

まぁ、穴に落ちる時にまた顔に傷が出来たから、結局今も顔にも傷は残ってるんだけど。


「傷跡が消えない・・・ですか。どうやら普通の傷ではないようですね。あるいはジュナスさん自身の心の問題かもしれませんね」


ギルバートはそういうと魔法をかけていたシスターに戻るように指示する。


流石に傷を治してくれようとしていた訳だから、俺も無言というわけにもいかなかったので「ありがとう」と一言だけ言っておくと、シスターは笑顔になったが、もう一度傷を見てその後に少し暗い表情で元の席に戻っていく。


それよりもギルバートのおっさんが何やら気になる事を言っていたな。


「俺の心?」


「えぇ、先程のお話をお伺いしていた限りですと、強い思い、恨みや復讐心といった負の感情がジュナスさん自身の心の内にあって、傷を治す事を無意識に体が拒絶しているのかもしれませんね」


なんぞそれ?無意識に拒絶って?怪我ってその内勝手に治るものじゃないの?って感じで良く分からないという表情をしていると、マザーも同じように話してくる。


「つまりあんたの心が恨みを忘れたくなくて傷を残してるのかもしれないって事さね。まぁ本当にそうかはわかりゃしないんだけどね。変な呪術的な物かもしれないしねぇ」


余計よくわからなくなってきた。てか魔法とかあるのに呪術とかもあるのか?

いや、呪いとかもある意味魔法か。ならあっても当然なのか?


ってか俺の体に呪いって嫌過ぎるだろ・・・特にそれらしい変なことはないと思うんだけど。


とにかくもう傷がある事は見せたんだし、いつまでも上半身裸ってのも恰好がつかないからさっさと服を着よう。


服を着ている時にホッとしている人の中に明らかに残念そうな顔をしている人が数人いたんだけど・・・あいつ等か!?さっきの悪寒の原因は!!


服を着つつ、話の内容を再度確認しておく。


「この傷が証拠になるとは言いませんが、少なくとも俺自身に起こった事は理解していただけたかと思います。その上で俺はフィーリッツ王国にどうしても行きたいのです。オフィーリアとの約束の為に」


俺がそういうとギルバートとマザーは少し場を離れて何やら話しあっている。

俺は二人が結論を出すのをひとまず待つのであった。


ある程度話が落ち着いた事もあったのか、離れていた人たちも戻ってきて、残っていた人たちに俺の事を聞いているみたいだ。


そのまま休んでいると、さっきのシスターの人が飲み物を持ってきてくれた。


ギルバートとマザーは未だに話し中で、他の面々と飲み物を飲んで二人の会話が終わるのを待つ。


と、ふと周りの表情を見ると、先程俺が帝国から来たといった時の表情とは打って変わり、随分と穏やかな雰囲気になっている。


少なくとも周りの人たちには、俺が帝国の人間ではないと信じて貰えたようだ。

どちらかというと同情というか痛々しげな表情で見られているけど。


しばらくすると話がまとまったのか、ギルバートとマザーの二人がこちらに戻ってくる。


「ジュナスさん、まずは色々とお疑いをしてしまいました事、深くお詫びいたします。貴方ご自身も随分と苦労をなされた事でしょう。本当に申し訳ありません」


そういうとギルバートが頭を大きく下げてくる。


「気にしないで下さい。いきなり来た身分も身元も不明な初対面の人間に対して疑ってかかる事は、こういった場所を管理する人にとっては当然の事だと思っていますので」


「そう言っていただけると気が楽になります。その上でもう一つだけお伺いしておきたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」


「俺にわかる事で、答えられる事でしたら」


なんだろ、他に何か言い忘れていた事ってあったかな?


「貴方のその腰に差してある剣です。そちらは僅かに話しに出てきただけでしたので可能であれば詳しくお話していただけると良いのですか・・・見たところかなりの・・・おそらくは聖剣ではないのですか?」


嗚呼、ネームレスの事か・・・うーん、どうしたものかな、こいつの事を話すって言ってもどう話したらよいものか・・・ここは素直に・・・誤魔化すか!!


「すみません、お話したいのは山々なのですが、俺自身こいつに関しては殆ど何もわかっていないのが現状なんです」


「と・・・おっしゃいますと?」


「先程の話に少し出てきていましたが、俺もこいつも記憶を失っているんです。こいつに至っては自身の名前すら覚えていないんです。こいつに意思があることから聖剣?でしたっけ?だとは思いますがそれ以上の事は何も・・・」


これは真実であると同時に嘘も含まれている。

こいつは確かに記憶がない。

自身の名も覚えてはいない。


だがそれ以外には過去の記憶や戦い方の記憶といった事はこいつはちゃんと覚えている。


だから俺がこの世界の言語を理解出来たわけだし、戦闘になってもこいつに戦いを任せる事が出来ている訳だ。


つまり何も覚えていない訳ではないのだが、それを言うつもりはない。

自身の持ちえる全ての情報を開示する必要はないだろう。


「なるほど・・・そうでしたか。それでは何か聞こうにも聞くことはできませんね。ではそのネームレスという名前は?」


「これは俺が付けた名前ですね。こいつ自身が名前を覚えていないものですから、何かしら呼び名が必要かと思いましたので」


俺がそういうとギルバートも頭を縦に振って何度か頷く動作をしている。

まぁこれに関しては嘘がほぼないから疑われるような事態にはならないと思う。


「良くわかりました。ありがとうございます。ですが・・・良くこれだけの事をお話して下さいましたね。私達が帝国の人間であった場合、貴方は確実に拘束されていたと思うのですが」


確かにその通りである。

だが確実にそうではないという確信があったからこそ話したのだ。


「ギルバートさんもなかなかお人が悪いですね。それを確かめるために俺をあの部屋に通したのでしょう?」


俺がそういうとギルバートはにっこりとした笑みを浮かべた。


「気付いておられましたか。その通りです。あの部屋には唯一フィーリッツ王国の紋章があるのです。ジュナス殿がフィーリッツ王国に行きたがっていた事から何かしら関係があると思っていましたので、アレに気付くかどうかは一つの判断材料でした」


そうなのだ、俺が目が覚めた部屋に見た事があるような形をした紋章が壁に掛けられてあったのだ。


目が覚めた時は思い出せなかったが、飯を食っている時に色々と考えて何を話すかとかの状況整理をしていた時に、あの壁の紋章をどこで見たかを思い出した。


あれはアグスティナさんの剣を見た時に剣柄に刻まれていた紋章だ。

あの時たまたまだったが剣というものが珍しくて、じっくり見ていたのがある意味運が良かった。


俺じゃなきゃ見逃しちゃうね?

見てなかったら気付かなかったかもしれないからな。


あの部屋の紋章を見たからこそ、この修道院はフィーリッツ王国と関係があると踏んだのだ。

それでも結構切りだすのには勇気が必要だったけど。


「貴方はどうやらかなり頭の切れる方のようですね。信頼も出来るようです。わかりました。フィーリッツ王国への紹介状を書きましょう」


「!?いいのですか?俺が完全に信用されたというわけでもないでしょう?」


俺は全てを語った訳ではない。正直信頼されるにはもう少し時間がかかると考えていたんだが。


「えぇ、少なくとも貴方は嘘をついているようには見えません。それにソフィやシロエも助けていただきましたし、何より、この場所に入っていられるという事は女神イーヴァリス様のご加護を受けていられるという事に他なりませんので」


そういやここ結界の中だったっけ。


とりあえず悪人認定はされなかったというわけだ。


ひとまず雰囲気に流され男ジュナスの第二章のお話は終わります。

この後は少し別の街のお話が出て二章はすべて完了となります。


いつもご覧いただきまして、ありがとうございます。


楽しんでいただけましたら、感想や誤字訂正、ブックマークや評価などして頂けますと大変うれしく思います。これからもどうぞよろしくお願い致します。


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