第四十四話 誰だお前!!
しばらくネームレスと会話していると、先程閉めた扉をノックされる。
どうやら誰か来たようだ。ネームレスと今後の会話を止める。
といっても結局司祭からフィーリッツ王国の事を聞かない事にはほとんど先の予定なんて立てる事が出来ないから、実際にはただただネームレスと適当に喋ってただけなんだが。
「どうぞ」
そう声をかけると少ししてから「失礼します」という声と共に扉が開かれる。
扉の向こうから現れたのは司祭だった。
確かギルバートと名乗っていた気がする。
相手が司祭と解り、軽くネームレスを持つ手に力が入る。
「おはようございます。随分とお疲れのようでしたね。お体はゆっくりと休める事が出来ましたでしょうか?色々とお話もあるかと思いますが、ちょうどそろそろ食事の用意が出来ると思いますので、まずはそちらで食事を済ませましょう」
今度こそ質問攻めが来るかと身構えていたのにまたしても予想の斜め上の発言をして、こちらの予定をことごとく躱してくる。
全く・・・やりにくいおっさんだよ。
いや、あの子達の話では確か六十を超えてるんだっけか?見た目は完全に四十そこら程度にしか見えないからおっさん扱いだったけど、確かに会話した時とかの落ち着き度はとてもじゃないが四十どころじゃないか?
いや人によるんだろうけど・・・じゃあやりにくい爺さんだな。
とはいえ、俺も流石に三日も寝続けていたんだから当然腹は減っている。
そんな状態で飯を先にと言われて否とは言えない。
向こうからそう言ってきてくれた事だし、ここは大人しく飯にありつかせてもらおう。
良く考えたらあの変な実験室?訳もわからん場所でもまともな物は食わせてもらってないし、その後に逃げ出した先でも基本は魚やら獣やらを焼いて食うだけだったからな。
まともな料理はこれが初めてになるだろう。
まぁ見たところそんなに裕福そうじゃないし、大層な物が出るなんて思っちゃいないが今までが今までだからな。
それと比べりゃどんなものでもマシだろう。
そうと決まれば否はねぇ。
ついて行って食事にありつきますかね。
と思ったんだけど、今の俺は修道院の外にいます。
正確には修道院のすぐ横にある井戸の前だな。
あの後少し歩いたんだがどうにも他の人の視線がありまくりでな。
で、良く考えたら俺三日も寝てたんだし、顔も髪もヤバいんじゃね?って思い至って、顔を洗いに来たって訳だ。
まぁ単純にようやく起きてきたことで警戒されてるとか、俺が珍しいというかかもしれないんだけどな。
何せ黒髪の黒目ってこの修道院では少なくとも見かけてないしな。
前にいた場所でも見てないところを考えると、おそらく珍しいんじゃないかと思ったんだけど・・・良く見たら俺・・・前髪の色どう見ても黒じゃないんだけど?
おかしいな・・・俺はこう見えても髪は染めた事ないんだけど、というかグレーというか灰色というか銀髪というかそんな色に見えるんだけど・・・これはアレか?あの変な実験中に実は髪の色まで変えられました的な?みたいな?
そんなことわざわざする意味がわからないけど・・・カモフラージュ?珍しいから目立つと駄目みたいな?
いや銀髪っぽいのもここにはいなかったけど、でもオフィーリアも銀髪っぽかったし珍しくはないのかな?よくわからん。
まぁ髪の色くらいはいいか。
そんなに拘りがある訳じゃないし、余程奇抜な色でもなければまぁいいだろ、オフィーリアともお揃いだしな。
あれ?この考え方典型的なストーカー・・・止めよう、これ以上の考え方は危険だ。
コレまでは逃げるだけでそんなところまで気をかけていられなかったしな。
井戸に桶があるな。そして滑車が付いている。
うわ~、これテレビとかで見た古いタイプの井戸なんじゃね?
ポンプで引く以前の、自分で滑車についてるロープ引っ張って桶をおろして水入れるような。
すげぇな、文明的にはそんなものってことか?でもちょっと一回やってみたかった感はあるから地味に嬉しかったりする。
ではでは早速顔を洗うために水を入れますかね!
・・・・・一分後・・・・・
「ぜぇはぁぜぇはぁ・・・・」
俺は数分前の自分を叱りつけたい。
何だこれ!めっちゃ力いるんですけど・・・・いや、力自体は変な体にされてあるんだろうけど、なんというか普段全然使わない様な筋肉の場所を使うからか、何か腕の変なとことかプルプルしてるんだが、三日寝てて体力とか筋力落ちているからかもだけど。
昔の人・・・筋力やばいんじゃね?
まさかこんなに力いるなんて思ってなかったぜ。
まぁ調子に乗って水をほぼ満タンで入れてるからかもしれないけどさ。
もしかしてこの世界の住人って結構力あるんじゃね?日常的にこんなことやってるとしたら。
まぁともかくとして水は手に入った。息も落ち着いてきた。
「よし、ようやく顔が洗えるわ。何せ三日も寝ていた訳だし、長い間森の中にいた事もあってか、ゆっくり顔なんて洗えてなかったからな。」
一様寝る前に体とかはほんの少し拭いてたけどやっぱりちゃんと洗いたいよね!
というわけで、桶の水を贅沢に使って顔を洗うか!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「誰じゃオンドリャー!!!!!!!」
突然のジュナスの叫びに多くの者が修道院からこちらを見ていたり、飛び出してきている。
真っ先にきた司祭のギルバートが俺の元までやってきた。
「ど、どうされたのですか!?ジュナス殿!!?何かありましたか!?魔物でも入ってきたのですか!?」
そういうと俺に背を向けて周囲を警戒するギルバート。
いや、そうじゃないんだ。そうじゃないんだよ。
「あ~、すみません、大丈夫です。魔物とかじゃないです」
俺がそういうともう一度周囲を警戒した後に、大丈夫だと判断したのか、体をこちらに向けてくるギルバート。
「そうですか、それは良かった。では一体何が?」
あ~、なんて説明したらいいんだろう。思わず叫んじまったのは失敗だった。
でも仕方ないだろう。
だって・・・・・・・・・・・自分の顔が全然知らない人の顔になってんだもん。
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