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第四十二話 帝国軍会議 下

「ではクラウス殿、どうなさるおつもりか?エレクトラ殿とシルフ殿が動けぬとなるとワシかヴァーモット卿が動くしかあるまいか?」


ダヴィットは自身とヴァーモットしか候補には挙げなかったが、それには勿論意味があった。


エレクトラとシルフが動けないのは当然として残りの将軍では他にリュディガとアークウェルがいたのだがそのどちらも挙げなかった理由としてまずリュディガは第一皇子である。


帝国の皇帝ガイウスには第三皇子までいるが、次期国王候補となっているのは当然ながら第一皇子であるリュディガである。


流石に時期国王候補を危険度の高い南の戦線に連れて行く訳にはいかない、と言うのは当然の判断である。


最もリュディガ自身は非常に好戦的な性格をしているため、この決定には非常に不満があるのだが、それでも王に逆らうというようなことはしない。


そしてアークウェルだがこちらは伊達に第一皇子を追いこして第一軍団長となっている訳ではないのだ。

第一軍団長と言う事は実質の国の最高戦力であり、ガイウス王の最強の手札である。


そんな人物を帝国から出すという事自体、簡単には出来かねるのだ。

そういう意味でもリュディガはアークウェルに敵対心を燃やしているのだが。


「そのことなのですが、現在とある計画が南でも進めておられます。ですがこちらは北とは違い、実行に移って効果が表れるまでに非常に時間がかかるものと推測されます。ですのでここは将軍内で最も防衛に優れておりますダヴィット様に、戦線をお任せしたいのですが如何でしょうか?兵からの人望も厚いダヴィット様が向かわれれば、兵たちの士気も上がりましょう」


ダヴィットは将軍の中でも最も年を重ねている。

その分、他の将軍たちとは違い、攻めはあまり得意ではないが、事守りの戦いに置いては右に出る者はいないとまで言われるほどであった。


また、その戦術も兵たちを無駄死にさせるような戦略ではなく、自身が常に最前線で兵たちと共に戦う姿から、兵たちからの人望も非常に高いのであった。


「ふむ、そういうことであればヴァーモット卿よりもワシの方が向いていよう。あい解り申した。その任、謹んで賜りましょうぞ」


「感謝いたします。では南の戦線はそのようにお願い致します。それではひとまずの方針は以上、軍議は終了となりますが・・・」


とここでクラウスの発言を遮る者が一人いた。

この場の最高権力者ガイウス王である。


「ウルベよ、裏で何やら動いているようであるが、また悪だくみか?」


顔では笑いながらも威圧は少しも無くす事なく、ウルベへと問いかけるのであった。

ウルベはその威圧感に怯むような事もなく発言する。


「えぇ、陛下。悪だくみですよぉ、それはもう大きな。くっくっく・・・」


特に詳細を述べる事もなく、ガイウス王の発言をそのまま認めるのみに留めて、説明をしようとしないウルベに対して、最も将軍内で実質地位の低いヴァーモットがこれまでのうっ憤を晴らさんばかりかこれ幸いと言わんばかりにウルベに噛み付く。


「ウルベ!貴様!たかが研究員の癖に陛下になんという口のきき方を!貴様はただ陛下やワシに言われた通りの事をやっていればそれでよいのだ!」


陛下への信義を貫いているとアピールをしているように見えて、実は自分こそが将軍の中で唯一ウルベに命令できるのだという自慢もまた混じっていた。


実際にヴァーモットがウルベに命令できるのには勿論理由がある訳だが。


「えぇ、特に私が何か意見を言うなどと言う事はありませんよ、ヴァーモット卿・・・。くっくっく。言葉遣いに関してはご容赦ください、何せ私は育ちが良くなかったものでしてねぇ、くっくっくっくっく」


「ちっ!陛下!申し訳ありません!ウルベにはワシの方からきつく・・・」


ヴァーモットが言葉を発している途中だったが急にその発言が止まる。

その理由はほかでもないガイウス王から発せられる威圧感がヴァーモット自身に向かったためである。


「余は貴様に問うたのではない」


たった一言であったが、それだけでヴァーモットは自らの死をその身に感じるほどの威圧感でまともに言葉を発する事が出来なくなっていた。


「も・・・もう・・・し・・・わ・・・・わ・・・・け・・・・」


それ以上の言葉は紡がれない。

ヴァーモットは自身が将軍ではあるが、武勇も知略も一切ない。


ヴァーモットはかつての先祖は一様貴族の遠縁であったらしいが、この男自身の出自は商人である。今の自らの地位も全て金で手に入れたものである。


その為、武人が放つ殺気などの耐性など一切皆無だ。


まぁ普段は殺気を放たれても気が付かないほどの愚鈍っぷりな為、ガイウス王がこの部屋に入ってきた際にも、その殺気に気が付いていなかったようではあるが。


「まぁ・・・よい。ウルベ。思うままにせよ」


気が削がれたのか、ガイウス王から探るような視線と言葉が無くなる。


それと同時に殺気も抑えられたため、解放されたヴァーモットは『ハァハァ』と息を切らしている。


「ありがとうございます陛下。また研究の成果をご覧に入れますよぉ」


そういうとウルベはニタッと笑みを浮かべる。

どうやら笑っているようではあるがその表情はただただ気持ちの悪い笑みであった。


その言葉を最後に軍議は終わるのである。

軍議の終わった後の通路にて。


ウルベは軍議が終わるとアミーラを連れてさっさと出て行った。

どうやら早く実験を行いたいようである。


そんなウルベの感情を知ってか知らずか後ろからドスドスと気配を殺す気など全くないような様子で近づいてくる者がいた。


「ウルベ!待つのだ!」


豚である。いや違う。豚は二足歩行をしない。帝国軍の成金将軍、ヴァーモットである。

ウルベはやれやれ・・・といった様子で少々鬱陶しいという態度を隠そうともせずに振り返る。


「これはこれはぁ、ヴァーモット卿。何かご用でも?」


とはいえ、ウルベは何故かちゃんと対応をする。それにはちゃんと訳があるのだが。


ヴァーモットはアミーラの方をチラッと見るといやらしい笑みを少し浮かべたが、ウルベに用がある事を思い出してウルベへと話しかける。


「ウルベ!新たな実験兵器はまずワシに渡すという話しのはずだ!それを忘れてはおるまいな!」


どうやら先程の軍議の場で最後に言い放った言葉に不安を覚えたようである。


とはいえ、本来は国の最高権力者であるガイウス王に研究の成果を渡すのが当たり前であるのに対してこのセリフ。


聞く者が聞けば謀反の疑いありと思われても仕方ないような発言である。

しかもここは帝国の城の中なのだからなおさらだ。


しかしヴァーモットはそこまで頭が回らないのか、あるいはそれ以上に自分の心の安心を得るのが先なのか、ところ構わず問うてくる。


この辺りがこの男の限界なのだろう。


「えぇえぇ、それは勿論理解してはおりますともぉ。何せ研究が自由に出来るのはヴァーモット卿が資金を捻出して下さっているお陰ですからねぇ。ちゃんと成果はヴァーモット卿にもお渡しいたしますとも」


その言葉を聞いて安堵したのかヴァーモットが相変わらずニタッとした、いや、ニチャッとした笑みを浮かべる。


「そうかそうか!いや解っておれば良いのだ!何せワシのお陰で貴様らは研究が出来るのだからな!とはいえ、もう少し頻繁に成果とやらを貰えん事にはワシもいささか困る。何せ貴様に渡している金の額は安くはないのでな」


そう、ウルベが所属しているのは帝国で最高の研究施設であり、そこの最上位の研究者であるウルベだ。

その研究内容も上位のものであり当然その研究には多くの金が必要となる。


その金をヴァーモットが賄っている事によってウルベは幅広く研究が出来ているのだ。


「どうしても頻繁に成果とやらを渡すのが難しいというのであれば・・・他のもので代用してくれてもワシは構わんのだがな・・・ん?」


そういうとヴァーモットは再びニチャッとした笑みをしてアミーラの方へと視線を向ける。

そのような笑みで見られてもアミーラの表情は変わる事はない。

無顔の異名は伊達ではないようだ。


「すみませんねぇ、ヴァーモット卿。アミーラは研究する上で必要な道具でしてねぇ、まぁ、また何か出来次第すぐにでもヴァーモット卿のところに送りますよぉ」


アミーラを貸せと遠回しに言われてもそれを直接受け取ることのないウルベ。

だがウルベ自身アミーラを助けるつもりなどない。


ただ単にアミーラがいなければ自分がやる事が増えるから断っただけである。

ウルベにとっては研究がすべてなのだから。


「そういえば、タイタンの様子はどうでしょうかねぇ?何か支障はありませんかねぇ?」


ウルベが視線をヴァーモットの後ろにいる男に向けるとそう発言する。

タイタンと呼ばれたのは軍議の間も、いまもずっとヴァーモットの後ろで立っているローブ姿の男である。


男は自身に視線を向けられようと、特に反応することはない。

ただヴァーモットの後ろを付いて回っているだけである。


ヴァーモットはアミーラを手に入れる事を拒否されて少々不機嫌な表情をしていたが、自身の後ろにいた男の話題になるや否や、急にまたニチャッとした笑みを浮かべて話し出す。


「この男か!良いぞ!この前も愚かにもワシに斬りかかろうとしおった愚か者を一瞬で消してくれたわ!ハッハッハッハッハァ!!この男はいい買い物だったぞ!次は是非とも女で用意して欲しいものだわい!」


そういうと急に上機嫌になりまたニチャッとした笑みをした後に大声で笑い出す。


「そうでしたかぁ、特に問題ないようなら良いのですよぉ。何かあれば言って下さればぁ。女の件は一様、善処はしてみましょうかねぇ」


明らかにめんどくさいといった感じで言葉を返すウルベ。


どう見ても善処するという雰囲気は一切ない。だが上機嫌で大笑いしているヴァーモットはそんなウルベの様子に気付かない。


「ハッハッハッハッハァ!是非とも頼むぞ!何せこいつは国を滅ぼせるほどの力すら持っているのだからなぁ!こいつがいれば!ワシが第一将軍になるのもそう遠い日でもあるまい!ハッハッハッハッハァ!」


相変わらず危険な言葉を遠慮なく大声でいう男。


「えぇえぇ、その日と楽しみにしているとしましょうかねぇ。その日を・・・」


タイタンと呼ばれた男を見ながら意味深に言葉を放つウルベだがそのことにも気付かずに大声で笑い続けるヴァーモット。


この帝国の中でも代わりの者の二人の男に近付くような者は皆無であった。

いつもご覧いただきまして、ありがとうございます。


楽しんでいただけましたら、感想や誤字訂正、ブックマークや評価などして頂けますと大変うれしく思います。これからもどうぞよろしくお願い致します。


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