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第四十一話 帝国軍会議 上


その頃、帝国のとある一室での出来事。


帝国では半年に一度の帝国将軍議というものがある。

参加者は帝国で最強と言われる帝国六将軍とその付き人。


それから帝国の大臣の代表一名、代表研究員一名、そして帝国軍の皇帝である。

今一つの大きな円卓となっているテーブルに七名の人間が座っている。


最も上座となる上等で華美な椅子のみが空席となっており、そこに皇帝が座る事は傍から見てもわかるであろう。


その皇帝が座るであろう席の両隣りからまず


『帝国天魔将軍 第一軍団長 魔将軍アークウェル』

『帝国皇子将軍 第二軍団長 第一皇子リュディガ』


この二名が対面両隣りの椅子に座っている。


第一皇子は明らかに不機嫌そうな表情をしながら天魔将軍アークウェルの方を睨んでは威圧しているが当のアークウェルは腕を組んで目を瞑ったままその威圧を受け流している。


次いでその更に先の下座に位置する両翼が


『帝国硬老将軍 第三軍団長 堅壁老ダヴィット』

『帝国女帝将軍 第四軍団長 美香死女エレクトラ』


両名は先程の二人とは違い、互いに好きにしている。


具体的には堅壁老ダヴィットは難しい顔をしながら手元の資料に視線を傾けては思考しているのに対して美香死女エレクトラは、自らの顔が映る鏡を見ては、何やら顔に塗っているようだ。


どうやらいつの時代も女性の化粧は存在するようだ。

そしてその更に下座の両翼には


『帝国少霊将軍 第五軍団長 天真邪鬼シルフ』

『帝国成金将軍 第六軍団長 金青天井ヴァーモット』


こちらも同じように好きにしているのだが唯一の違いは、笑顔の天真邪鬼シルフが金青天井ヴァーモットに話しかけている。


というかシルフが言葉を発するたびにヴァーモットの顔がみるみる赤くなり、血管が浮き出ているところを見るにどうやら遊ばれているのか、からかわれているのか、今にもヴァーモットが叫び出しそうになっている。


そのヴァーモットの後ろには他の将軍にはいない唯一の付き人が立っている。

が、主人であろうヴァーモットがからかわれているのにも関わらず、会話に参加しないのは単純に相手が目上の存在だから、それとも本当に助ける気がないのか、どちらにしろ不干渉を決めているようだ。


そして皇帝が座るであろう席のちょうど真正面に当たる、対極の位置に座るのはこの場で唯一将軍ではなく、帝国軍一の頭脳であり、かつマッドと呼ばれている


帝国軍事研究局長『魔魂人ウルベ』とそのウルベの座る椅子の後ろに立っている『無顔アミーラ』である。

今この場に帝国の最大戦力と頭脳が集まっている中、最奥の扉が開かれた。


最奥の扉から入ってきたのは齢五十を過ぎた程であろう男である。

だがその眼光は鋭く堂々としており、歩く先々から殺気を飛ばしては周囲を威圧している。


現に飲み物を持ってきていたのであろう女性の給仕は、皇帝が入ってきた拍子に全く身動きが出来なくなっていたのである。


幸い、手に持っていた飲み物は既にテーブルに置いてあったため、何とか落とさずに済んだが、もはや蛇に睨まれた蛙のように腰を抜かして動けなくなっていた。


そこに卑しい顔をしたヴァーモットがその女性に手を出そうとするが、先にシルフが席を立って、女性に向かって笑いながら貶しつつも外に出している。


すぐに戻ってくるとシルフの席の横に座っていたエレクトラから、何やら褒められていたところを見るにエレクトラがシルフを動かしたようだ。


その様子をヴァーモットは隠そうともせず、あからさまに不機嫌な様子で眺めて、「チッ」と舌打ちをしていた。


「皆さまご静粛に。帝国皇帝ガイウス・グランダル・キング陛下のご到着です」


とガイウス王の後ろから現れた細身の男から声がかかる。

その声を聞いて、それまで自由にしていた各々が全て席を立ち、臣下の礼を取る。


その様子を確認したガイウス王は、特に言葉をかける事も、表情を変えることもなく席に座る。

ガイウスが席に座ると同時にまた、細身の男から声がかかる。


「それではこれより第四回、帝国将軍議を始めます。進行は私、帝国大臣代表クラウスが務めさせていただきます。では皆様、ご着席ください」


そう声がかかり、ようやく立っていた七人は席に腰を下ろす。


「では早速始めたいと思います。まず初めに現在の各大陸の浸食状況から確認いたします。我が帝国はこの世界で最も大きな大陸であるゼロ大陸のおよそ三分の一を確保しております。これは戦争を始めた一年前と比べて既に三割以上の浸食を終えているという結果であります。また現在もその浸食の計画は続いており、半年後には更に二割程の土地が手に入るであろうと予測されております」


ゼロ大陸、魔物大侵攻の際に唯一残ったとされる土地を称してそう呼ばれている。

そこまで話したところで、一つの声が上がる。

発言の主は将軍で唯一の紅一点であるエレクトラである。


「はぁーい、ちょっと質問があるんだけど?その半年後に二割って言うのは、具体的にはどの地域の事を言っているのかしらぁ?」


圧迫されるような空気の場にあって、決して流されることなくマイペースに質問をするエレクトラ。だがそれが出来なければこの場に居座る事はきっと出来ないのであろう。


それだけの実力があるからこそ将軍と呼ばれているのだ。ただ一人を除いてだが。


「き、きき・・・きさ、貴様!!へ・・陛下のご・・・御前で・・な・・なんと・・いう・・くく・・口を!」


そのただ一人と思しき男が、威圧と怒りと恐怖など様々な感情が折り重なって、震えるような言葉に変わり口から出た。


それに対して声をかけられたエレクトラは特に気にすることもなく涼し気な表情で返事をする。


「あら~?どこからか豚の鳴き声が聞こえた気がするわねぇ?ぶぅぶぅってね?うふふふふふ」

「あははははははは!!豚だって!ヴァーモット豚だってさ!あははははは!!」


隣でやり取りを聞いていたシルフがツボだったのかお腹を抱えて笑いこけている。


「だ・・・誰が!!!・・きき!貴様ら・・・・!!!」


流石に馬鹿にされて怒りの方のメーターが上昇したがそこで一つ物音が鳴る。


『ダダン!!!!!!』


その音が会議室に鳴り響くと、ひとたび机が大きく揺れる。

叩いたのはどうやら老将軍のダヴィットのようだ。


「ここは軍議の場。下らぬ事を話すならば出て行かれよ。して、クラウス殿、最初にエレクトラ殿が申した、二割の土地とは一体どこを差すのですかな?」


老将軍が尋ねると軍議の場は静かになる。

相変わらずヴァーモットは顔を真っ赤にして血管を浮きだたせていて、シルフは小声で笑っており、エレクトラは涼しい顔をして流していたが。


「はい、具体的には我が帝国の北方、川を挟んだ先にある国、フィーリッツ王国とその対岸の位置し、フィーリッツ王国とは現在戦争中の元ロブスナッチ部族国のあった土地となります」


「フィーリッツ・・・彼の国は確か大した戦力を有していた訳ではなかったはず・・・潰すのか?」


苦虫を潰したかのような表情をしながら老将軍は問いかける。

それに対して答えたのはクラウスではなかった。


「ハッ!あんな弱小国家!俺の部隊だけで一月と経たずに潰してやれるぜ。どっかの将軍様の部隊はどうかはわからんがな!」


そういうと視線をアークウェルの方へと向ける。が、アークウェルはやはり特に反応することなくただ腕を組んで瞼を閉じている。


その様子が気に入らなかったのか、第一皇子たるリュディガが席を立とうとしたが、その前に声がかかる。


「リュディガ様、申し訳ありませんが彼の国は潰す予定はございません。何せ彼の国は別名『花と緑の王国』。彼の国が生み出す糧食や素材は潰すには惜しい。是非とも帝国の手中に収めて生かさず殺さずで搾り取るのです」


その答えを聞いてダヴィットは安堵したような表情を、リュディガは「チッ」とつまらなそうな顔をして席から立ち上がる事を止めた。


「その計画は既に進行しております。ですので今は北に関しては放置で構わないでしょう。むしろ現在の問題は南。我が国はこの大陸の西部に位置します。ですので西は進軍するような場所はありません。東は半年前にヴァーモット卿の配下の手により帝国の支配領域にあります」


その言葉が出てヴァーモットはようやく真っ赤にしていた顔をニヤリと口角の端を上げて歪める。

そしてチラっと後ろに立つ自らの付き人に視線を送った。


当然のごとく付き人は何の反応も示さない。

クラウスの言葉は続く。


「南が現状攻め手の足りていない地点となっております。南に位置するのは支配下にない大陸部のおよそ半数を確保してある我が帝国に次ぐ国家、教国が存在しています。半数と言っても現実的に使用できる土地は、その更に半数程度ではありますが。現在も多くの兵を使い南への侵攻を行っておりますが、依然として戦果は出ておりません」


「ねぇねぇ?何で南ってそんなに勝てないの?教国ってそんなに強いの?それとも前線の兵士が弱すぎるんじゃないの?なんなら僕が行って全員ぶっ殺してきてあげよっか?すぐに地面とか川とか血塗れにしてあげるよ。きゃはははは!」


見た目は非常に幼い、まだ十代前半といったような容姿をしている少年であるが、その発言は容姿に反して非常に恐ろしいものであった。


だが実際にこれまで幾度となく同じような事をしてきているのだ。

そもそも元々の帝国の支配領域は多く見積もってもゼロ大陸のおよそ五分の一程度だったのだ。


いくら宣戦布告して即攻撃を仕掛けるという奇襲を使ったとはいえ、その状態から僅か一年でゼロ大陸の半数ほどまで支配下に入れたというのは驚異的な数字であった。


それを成したのが帝国の各将軍である。

将軍と言う地位は決して名前だけの偉い役職ではないのだ。ごく一名を除いて。


「シルフ様。南の戦線がうまく進んでいないのは、敵兵士の錬度もありますが、それ以上に土地にあります」


「土地?」


何やら予想していたこととは全然違う答えが来たことでキョトンとした表情で言い返す。


「はい、彼の地は別名『凍死の大地』とも呼ばれており、その自然環境が突如として牙を剥くのです。帝国の兵たちは寒さにあまり慣れておりません。それゆえに仮に一時土地を奪ったとしても、その場所を維持するだけの補給路の確保がなかなか出来ずにすぐに奪い返されてしまうのです」


「ふ~ん、何かめんどくさそうだけど、だったらなおさら僕が言ってぶっ殺しまくったらいいんじゃないの?」


自分には関係がないと言わんばかりにそういうがそれに対してクラウスからは待ったがかかる。


「いえ、そう言っていただけるのは助かりますが、現在、東側でかつて滅ぼした国の一部が集まって何やら水面下で動いているようです。シルフ様、エレクトラ様にはお手数ですが、そちらの方へ動いて頂きたいのです」


「な~んだ、つまんないの。まぁ別の仕事があるんだったら仕方ないかぁ」


自分がやりたいこととは違うことを指示されたので若干不満げな表情をしていたが特に命令に反するつもりはないようだ。


「あら?私と一緒の仕事はいやなのぉ?」


「ち!違うよ!あんまり殺せないのが暇だってだけでエレクトラと一緒がいやって訳じゃ!」


そう問われて慌てて否定する。


エレクトラが笑いながらそう言っていたことから、特に気にしていったのではなくてちょっとからかった程度の事だろう。


「そ、良かったわ。貴方じゃないとなると豚か無愛想か好戦的かおじいちゃんしか残っていないんだもの」


各々に対する辛辣な表現をするも、唯一反応するのはヴァーモットのみである。

他の面々はエレクトラのいつもの事と言わんばかりにスルーしている。


むしろヴァーモットのスルー能力のなさが露呈されるだけであった。


かなり中途半端な区切り方で申し訳ありません。


いつもご覧いただきまして、ありがとうございます。


楽しんでいただけましたら、感想や誤字訂正、ブックマークや評価などして頂けますと大変うれしく思います。これからもどうぞよろしくお願い致します。


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