第三十七話 アミーラの困惑
その頃、帝国の一室にて
何かの機械を触っていたアミーラがウルベの方へと体を向ける。
「ウルベ様。数日前に作られ・・・いえ、改造されましたテンタクルタイプの実験体からの信号が途絶えました」
「???そんなのいましたかねぇ?」
それに対してウルベは、自分の記憶を軽く探るようにして頭を押さえるが、記憶からはいまいちなにも思い出せない。
「逃亡したと思われる件の実験体の探索用にご用意された者です」
思い出せないであろうと予測していたアミーラは、特に気にした様子もなくさらに追加の情報を渡すことでウルベに思い出してもらおうとする。
「・・・・?あぁ!そういえばそんなのを作ったような気がしますねぇ。そうでしたそうでしたぁ、大事な実験体を逃がしてしまうという失態を犯した愚かな愚人に探してこいと言ったら出来ないなんて言うものですからぁ、出来るようにしてあげましたねぇ、くっくっくっくっく」
ようやく思い出したと思ったら、何やらとんでもない発言をする。
「はい、その実験体からの信号がつい先ほど途絶えました。ここからおよそ百キロほど先にある森林地帯のようです。如何なさいましょうか?」
その発言にもアミーラは、気にすることなく追加の指示を仰ぐ。
「随分とまぁ離れた場所まで逃げたものですねぇ。しかしぃ、あの森でアレに敵う程の魔物はいないはずですし、人にやられたのかそれとも?」
お互いただの世間話のように話すが一様、結果を知ろうとアミーラに問う。
「いえ、おそらくは件の実験体かと。次の追跡はどのように?」
「なるほどぉ、ほっほぅ。いえいえぇ、放っておいていいでしょう」
流石にこの発言にはアミーラも表情が変わる。
「な!?よ、宜しいのですか!?正直アレに勝てるような戦闘の実験はまだ行っていなかったはず。つまりは独自に・・・」
最初の実験では戦闘をするための実験は行っておらず、ただ実験に耐えうるための肉体を作ることを最優先に行っていたため、ウルベの作った戦闘を前提とした実験体に敵うはずがないのだが、現実はそれに打ち勝ったという事になっている。
「いいんですよぉ、アミーラ。むしろ私の実験なしにアレに勝てるようになっているなど一体どんな成長をしたのでしょうかねぇ、くっくっくっくっく」
だが自身の主は、この予想外の事態すらも楽しそうに笑うだけであった。
否、本当に予想外なのだろうかと疑いたくなるくらいに余裕の表情であった。
「危険ではありませんか?もしこのまま他国に渡り、そのまま成長を続けるような事になれば・・・・・」
流石にあれだけの力を秘めた人物を放置するのは危険と判断して、主に忠言をするが。
「構いませんよぉ。正直アレに勝てるとは思っていませんでしたからねぇ、暴走したのなら勝てる可能性があったでしょうがぁ、その為にわざわざ暴走用の対策もしてありましたしぃ、そういうわけでもないのでしょう?」
「はい。アレが死ぬ間際までの魔力の残思を確認していた限りでは、暴走の魔力は確認されておりません。むしろ暴走していたならばアレがやられる確率は低く、更に件の実験体で間違いないと断定できたのですが・・・・」
件の実験体とは勿論ジュナスの事であり、暴走とは変異の事である。
そしてアレとはジュナスに、いやネームレスに切り刻まれた例の男であり、ジュナス曰く触手マン。
ネームレスは触手マンを瞬時に葬って見せたが、あの男はああ見えて並の魔物などでは太刀打ちできないほどの強さを持っていたのである。
でなければたった一体でジュナスを追わせるようなことはしなかったであろう。
更に触手マンにはジュナスの魔力だけでなく、変異者の魔力も認識することが出来るように改造されてあった。
ウルベはむしろジュナスを暴走させて変異させたところを捕獲する、そのためにあの触手マンを用意していたのである。
あの触手には衝撃に関してはかなりの耐久性があり、ネームレスが魔力を込めていない剣で何度斬っても切れずに弾くだけになっていたのはそういう事である。
竜の物理手段は主に爪と牙しかない。
その代わりに炎であったり、ブレスなどを用いる事が出来るのであるが、今のジュナスの変異による爪や牙での攻撃で負けるような再生力ではなかったし、ブレスや炎には強いように作られたのがあの触手マンだ。
故に暴走もせずに負けるなどと言う事は想定の範囲外だったはずである。
普通の科学者であれば、困惑、あるいは焦りを見せて、追加の追っ手を差し向けるところではあるが。
「くっくっくっくっく。私の元を離れたのにより強くなる実験体・・・・・あぁ!なんと心躍らせてくれるのでしょうかぁ!もっと!もっと強くなったところを早くみたいですねぇ!!!くっくっく!くひゃっはっはっはっは!!」
もはや心ここにあらずと言わんばかりに、中空を眺めては悦に浸っている。
「で、ですが!あれが力を付ければ間違いなくウルベ様に害するようになるのは必定!であるならば今すぐに捕獲して手元で育成すべきでは!」
それでも何とか主を説得しようと必死になるが、その説得の甲斐もなく。
「いえいえぇ、大丈夫ですよぉ、彼は必ず私の元に帰ってきますからぁ、そして私の前でその頭を垂れてくれるのですからぁ。必ず・・・必ずねぇ、くひゃっはっはっは!」
「・・・・・・・・・・」
何やら主にしかわからないようなことのみを告げるだけであり、もはやアミーラもこれ以上は何も言うことはできなかった。
少し短いかもしれません。
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