第三十六話 追跡者撃退
近づくにつれて襲いかかってきていた鞭のようなものが増えて行く。
最初は二~三本程度だったのに今では六本程まで増えている。
これはどう見ても人間じゃないよな。
人の手には精々二本が限界だろうし。
全てを弾きながら本体の元に着いた時、俺はあまりの物体に吐き気がした。
その物体とは完全に人ではない何かであった。
いや、その見た目は一様・・・人・・・なのであろう。
だがあくまでも見た目、いや姿形だけであり、顔はもはや目や口から木のツルのような物が飛び出していてそれがうねうねと動いているし、さっきから襲ってきていた鞭のような物は、所謂触手的な感じで手から同じようなうねうねが片手三本ずつ、計六本が生えていた。
完全に人間ではない、だがどう見ても元は人のようにしか見えない。
つまりは元々人間でこれをどこの誰だかが改造でもしたのか、あるいはそういった寄生するみたいな魔物でもいるのか・・・それとも実はこんな人種がこの世界にはいるのか?
いや、いたら気持ち悪すぎるだろ・・・俺この世界でやっていけないぜ。
その可能性をジュナスが考えていた時、その中の内の一つが正解だとわかってしまった。
何故なら近づいて姿を現したネームレスに向かって言葉を発したのだ。
「よう・・・・や・・く・・・みつ・・け・・た・・・じっけん・・・たい・・・」
その一言でこれを行った人物がすぐにわかった。
あの男だ。
俺の事を何度も何度も痛めつけていた時に、笑いながら命令を出していたっぽい奴・・・今思えばあいつが何か言った後に周りの奴らが動いていた気がする。
つまりあのままあの場所にいたら俺もこんな風にされていたかもしれないってことか・・・。
つくづく逃げ出せてよかった。
オフィーリアとアグスティナさんがいなかったらと思うと背筋が凍る。
何にせよ今、連れ戻される訳にはいかない。
実験されてしまったこいつには悪いがここは逃げさせてもらわないと。
(ネームレス・・・やれるか?)
「問題ない。この程度の相手ならばたいした苦労もなかろう」
それはよかった。ここでこいつに勝てない=実験体に逆戻りだからな。
それだけは勘弁してほしい。
いや、浮かれるのは早いな。
他にも追っ手がいるかもしれないし。
(周囲にはこいつだけか?他に追っ手らしい奴はいないのか?)
「うむ、間違いなくこ奴だけだな。同じような気配はもうおらぬ」
なら良かった。ここはさっさとネームレスに任せてとっとと逃げよう。
そういうや否やキモ触手に向かって駆け出すネームレス。
ちなみにさっきまでの会話と俺の試行中はずっとネームレスが触手を避けるか弾くかしていた。
つまりはそれくらい実力に差があるという事だろう。
相手もおそらく元人間なんだろうけど、そういった戦闘の知識はないのか、弾かれたり避けられたりしているのに何故かずっと同じようにこっちを拘束しようとしかしてきていないところを見るに、改造?されて頭はあまり回らないぽいな。
それでも触手の攻撃力は流石にとんでもない。
普通に周囲の木とか傷ついたり、俺の足と同じくらいの木や枝なら普通になぎ倒していたりしているし。
改造?されて攻撃力は上がっているぽいけど頭は駄目的なあれか。
それって効率的に考えればあんまり意味ないよな?
良くて使い捨て兵士扱いってところか。指示する奴が周囲にいないと意味ないと思うけど。
しかしあれだな、改造されてしまった人を目の当たりにしているってのに、何で俺こんなに冷静なんだろう。
まぁ俺自身すでに改造モドキされかけてるからなのかもしれないが、現実の世界の時の俺だったら、人の倫理とか常識とかそういうので多分かなり混乱すると思うんだけど・・・
それだけこの世界に毒されたのかあるいはその改造の影響なのか、もしくは・・・チラッと腰に差してあるネームレスの本体を見る。
まぁわからんが、もうそう感じているなら今焦ったところでどうしようもない訳だ。
少なくとも俺が自分を認識できてさえいれば、とりあえずは大丈夫と思うしかないかな。
大体、元の世界の倫理感とか・・・相談する相手すらこの世界にはいないしな。
っとそうこう考えていたら戦いはすでに終わっていた。
どうやら剣に魔力を帯びさせることが出来るみたいだな。
それやったら急に切れ味が上がりまくって、さっきまで弾いていたはずの触手がバッサバッサ切れだしたんだけど・・・。
ただキモ触手こと触手マンもそれだけでは諦めずにというかどこから出してるのか斬られた先から復活してたからキモイ事この上ない。
いや~、漫画とかゲームとかで触手とかあったけど実際に見るとはっきりいって尋常じゃないくらいキモイな。
でかいミミズがうねうねとして襲いかかってくるみたいなもんだしなぁ。
昔のイメージはもっとロープとかそっち系のイメージがあったけど、はっきり言ってそんな生易しいものじゃないわ。
まぁいくら復活したところで結局斬られちゃうからネームレスの進行を阻止出来てないしね。
一気に近づいたネームレスが首飛ばして終わったわ。
と思っていた時期が私にもありました。
後ろ向いた瞬間、体だけで普通に動いてきましたよ、ええ。
本体は触手になってるの?だとしたら触手ってどうやって死ぬんだろ?
とか考えていたらネームレスが煩わしいといわんばかりに体をみじん切りにしましたよ・・。
いや~もうあれですよ。
触手マン自身存在がモザイクなしでは語れないようなナリをしていたのに、今となっては細切れになり過ぎて。違う意味でモザイクなしじゃ映せないようになっていますよ。
これ今はネームレスに変わっているからいいけど、しばらく体変わって欲しくないなぁ。
確実に吐く。間違いない。
と言う事でネームレスにあの少女二人の会話を任せようとしたんだけど、体の意識が俺に戻ってしまった。
おま!俺の考えてることわかってんだろ!お前に任せるって言ってんのに何勝手に体戻してるわけ!?
なに?反抗期なの?ナンオラァ!ザッケンナコラァ!ヤンノカコラァ!スッゾオラァ!!
文句を言っても反応はない。そしてとりあえず吐く。
当たり前だ。あんな気持ち悪いもの見て吐かない方がおかしい。
そして元の場所に戻ってみれば少女二人がすっごい不審な顔でこっち見てる。
うわ~、なんかもう色々投げ出したい!もうどうしたらいいの?
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