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第三十四話 二人の少女


エルフの少女が目を覚ますと目の前には焚き木が焚かれていた。

ふと周囲を見回すと周りは薄暗く、焚き木の明かりで周りがようやく見える程度であった。


目を覚まして少しの間、少女は茫然としていたが、自分がどのようにして意識を失い、どのようにしてこの場所にいるのかを思い出すとハッとして体を起こした。


そしてよくよく周りを見ると、自分と共にいたもう一人の少女がすぐ横で眠っていることに気が付き、ホッと一息ついた。


と、そこで焚き木の向かいにいる人の気配に気がついてそちらに意識を向ける。

そこにいたのは一人の青年であった。


見た目はボロい服を着ており、決して裕福には見えない。

丸太に腰掛けて座っており、こちらを見ている。


その青年以外には自分と隣でいまだに眠っている少女の二人のみで、他に人はいない。

ここでエルフの少女、シロエの記憶がはっきりと思い出す。


自分たちを攫った男は二人であり、そのどちらとも今目の前にいる男の容姿は似ても似つかないことに。

ということはこの男は全く関係のない人間なのか、それともあの男たちの仲間なのか・・・。


シロエはどちらの可能性が高いのかを考えてどう考えても後者の方が圧倒的に高いという結論に至った。

だがよくよく周りを見回してみれば、今自分がいる場所は見覚えのある場所であった。


シロエ自身と隣に眠る少女はこの近くに住んでいるのである。

当然この辺りの地形はある程度通ったこともある。


ましてシロエはエルフなのだ。

エルフにとって森とは自分の領域も当然のように頭の中に入ってくる、そして今自分がいる場所は、自分たちが襲われた場所から、大人の足でも僅か三十分ほど移動した程度の距離しか離れていない。


ふと、その程度しか移動できなかったのかと考えるが、すぐにそれはないと思い至る。

何故なら相手は大人で、しかも完全にこちらを捕まえるための準備をしているようだった。


私たちを入れるための袋まで用意していたのだ、そんな相手が目的を達したにもかかわらずこの場所に留まる理由がわからない。


いくら私達を担いで行くから多少遅れたとしても、この移動距離はありえない。

そんな近くにアイツらの拠点があるはずもない。


では何故この場所に自分がいて、あの男達はどこにもいないのか・・・。

ますます混乱する頭の中であったがふと隣の少女が目を覚ます気配を感じてそちらに視線を移す。


見ると目の前の青年もこちらに送っていた視線をそちらの少女に移している。

そこでもう一人の少女、ソフィがゆっくりと目を覚ましていくのであった。


少女、ソフィが目を覚ますとすぐ隣には自分の見知った顔があった。

エルフの少女、シロエ。


彼女とは修道院で出会った。

自分の方が先に修道院にいたので彼女が来た時の事はよく覚えている。


酷く周囲を警戒しながら、誰も信じないような眼をして私達を見ていたのを良く覚えていた。

その目がいつかの貴族の屋敷の鏡に写っていた私ととても似ていた事を思い出した。


この子も私と似たような経験をしてきたのだろうかとふと当時の事を思い出してしまい、体調が悪くなった事があって、初対面の時は正直あまりいい印象ではなかった。


しばらくして彼女もこの修道院で暮らすことになったらしいけれど、彼女は誰とも仲良くなろうとしなかった。


誰かに話しかけられてもそっけない返事しかしなかったり、そもそも話しかけられそうになれば離れて行く、そんな行動が目立っていた。


ある日、修道院のお仕事で彼女と二人で森の中に水を汲みに行くことになった。

と言ってもそれほど遠い場所にある訳ではない。

何度も通った事のある道だったので、危険なんて一切感じていなかった。


行きの道のりではどちらも何も話さずに目的の場所まで行くことになったけれど、ふと水を汲む川まで来たときに私はその川に写る自分を見て、自分の今の目は彼女と同じ眼をしているのだろうかと考えていると、つい言葉が出てしまった。


「貴女も、死んだままなの?」


勿論本当に死んでいる訳ではない、それは別の意味での死を意味していたのだが。

私がそう語りかけると、ひどく驚いたような顔をしながらこちらを見ていた。

その表情は今まで一度も見た事のないような顔で、初めて彼女の別の表情を見た。


「やっぱりそうなんだ・・・」


そう呟いた時の私の顔は果たして笑顔だっただろうか・・・それとも私も彼女と同じ別の顔をしていたのだろうか・・・。

その日以来、私とシロエは二人でいる事が多くなった。


特に理由はない。どことなく同じ雰囲気を持っていたという程度のことだったけれど、少なくともあの修道院には自分と同じ人は他にはいない。


親を亡くした子達はいっぱいいたけれど、自分達のような子は他にはいなかった。

正直なところ、あの日のあの問いかけは私自身、あまり自分で理解出来てはいなかったと思う。


ただ何故かその言葉が勝手に出ただけ。でもその言葉が最も当時の、そして今の自分に当てはまっているという事だけは確かだった。


私は思う。

この先いつか私達が生き返るような事があるのだろうかと・・・。



二人が起き上がる様を見るのを待ってからようやく二人に声がかけられる。

声をかけてきたのは若い男だ。


周囲が薄暗くて、光が目の前の焚き木の明かりだけの為、あまり良くは見えないが顔は見える。

片方の目に傷がある男で、少なくとも一度見ればあまり忘れることはないような顔をしている。


そして自分達の記憶が正しければ、この男は私達を連れ去った男達ではない。

仲間の可能性も勿論あるのだろうが・・・と二人が思案していると男が語り出す。


「お前達、まずは何か食え。詳しい話はその後だ。お前たちを拾ってからそれなりに時間が経っているからな。腹も減っているだろう」


男がそういうと、焚き木のそばに刺さってある魚と何かは分からないが肉が刺さった棒をこちらに渡そうとしてきた。


ここでエルフの少女、シロエはその男を見る。

特に怪しい動きをしている訳でもなく、かといって手放しに信頼できるほどこの男の事を知らない。


シロエがどうしようかと悩んでいると隣の少女、ソフィが男の手から渡されていた棒を受け取っていた。


「・・・・ソフィ・・・・」


「大丈夫だよシロちゃん。この人が悪い人なら私達こんな扱い受けていないよ。」


そういうとソフィは男に向かって「ありがとうございます」といつもの笑顔で礼を言う。

大抵の人間ならソフィのこの笑顔でほぼ警戒心を解く。


それほどまでにある意味で洗礼された作られた笑顔であった。

だがその笑顔を受けた男は顔を歪めて、少し不機嫌そうな顔になった。


ソフィも男の顔に違和感を感じたようだ。だが何故かはわからない。

何か気に障る事でもしたのだろうかという表情をソフィは浮かべたが男の顔がすぐに元に戻ったため、その事を聞くことは憚られたようだ。


とりあえずソフィから魚の刺さった棒を受け取るが食べる前にどうしても手が止まってしまう。

食べようとしてふと隣を見るとソフィは遠慮なしに肉を食べていた。


不用心だなと思う反面、今ここで疑ってもキリがないことも確かだ。


ここは大人しく貰った食糧を食べて、何かあった際にすぐに動けるように体力を回復する事の方が大事かと考えなおして自分も魚を食べるのであった。


いつもご覧いただきまして、ありがとうございます。


楽しんでいただけましたら、感想や誤字訂正、ブックマークや評価などして頂けますと大変うれしく思います。これからもどうぞよろしくお願い致します。


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