第三十一話 胸中独白
(元蛮族ってことは今は何かしらの理由で違っていて、砦に住んでる・・か。修道院の娘ってことは近くに修道院がある事をこいつらは知っている訳だ。じゃあなんで修道院そのものを襲わないんだ?わざわざ森の中で襲う理由は何だ?護衛でもいるのか?)
相手の話に疑問がいくつも出てきたので、そのことを聞いていく。
「おい?何故修道院を襲わずに森の中で出てきたところを襲うんだ?」
「へっ?あ・・あぁ!いやその・・修道院の中には入ることが出来ねぇんですよ。なんか変な結界か何かがあるとか何とかで・・・へ・・へへへ」
意外なことを聞かれたのか少しキョトンとした表情をしたが、すぐに聞かれたことに対して答える。
「(なるほど、結界か。確かにこんな奴がいるようならそういった対処はしているんだろうが、結界から出たところを攫われたのか。更にエルフか。・・・待てよ?修道院にいる娘達って言ったな、他にも何人かいるかのような言い方だな)」
人攫いが当たり前のように起こるような世の中なのだ。
結界があってもおかしくはない。
まぁ攫われたところを見るに何かの手違いでもあったのかもしれないが。
しかし修道院っていうと教会的なイメージだったけど、子供もいるってことはこの世界の修道院はちょっと違うのかね?
「・・・修道院には他にも多くの子がいるのか?」
「え?ええ。いてますぜ。ガキが十人くらいはいるんじゃないですかね」
相変わらずなんでそんな当たり前なことを聞くのかわからずに疑問に思ったが、それでも聞かれたことをすぐに答えないと今度は右腕が飛ばされると恐怖してすぐに答える。
「(つまり修道院は所謂孤児施設みたいなものか。その中に何故かエルフがいて、それに目をつけたと。エルフを売って金を・・・ねぇ。テンプレだな、その金で贅沢な暮らしでもするつもりだったのか?)」
別の小説やゲームなんかでもそういった展開は間々あったのでわからなくはないが実際にそうされる側の事を考えるとたまったモノではない。
「えっと・・・だ・・旦那?」
「(いや、違うな。そういやこいつら最初に言ってたな、エルフを売った金で頭とやらが元の地位に戻れば何やとか・・元々の蛮族とやらに戻るつもりか。つまり追い出されたのか?そういや砦にも『今は砦に』と言っていたな)」
さっきまでの会話を繋げ合わせて色々と考える。
それほど頭がいいわけではないが、この想像力というのか妄想力が自分にとって一番の武器ではないか?とそう思っている。
いろんなパターンを予測するだけで、想定外の事態が起こってもある程度は対処し易くなるからだ。
「・・・・・・(な、なんだ?何でそんな修道院やガキの事を聞くんだ?)」
だが、ジュナスが急に黙って何も喋らなくなってケーガナイにも考える時間が出来た。
「(ということは、こいつらよりもその修道院の人間に道を聞いたらフィーリッツ王国への道も教えて貰えるんだろうが・・・この調子じゃいずれこいつらのお頭とやらに子供が狙われ放題だな。さてどうするか・・・)」
人としての道を取るべきか、でも自分の事を優先したい気持ちも大きい。
特にこの世界で生きるためなら。何より自分も追われている身なのだし・・・。
「(修道院のガキの事を聞いたり、中に入れない理由を聞いたりまるで俺達みたいにガキを売りたいのか?そうか!きっとこいつも金が欲しいに違いねぇ!そりゃそうだ!誰だって金は欲しいと思うに決まってるんだ!間違いねぇ!!それなら・・・)」
ここでケーガナイが自分の中の都合のいい答えを導き出した。
だが普通の人間ならば自分を中心に考えるのだからそれも仕方ないのかもしれない。
ましてそれが人攫いなどを平気で行うような奴なら尚の事。
「だ・旦那?旦那さえよけりゃ手ぇ貸しやすぜ。あっしらと修道院を襲ってガキ共売り払って金にしやせんか?旦那ほどの力がありゃ楽勝ですぜ!」
そう発言したハゲに冷たい視線を送るジュナス。
その視線に気が付いて慌てたようにケーガナイの男が語る。
「あ、あぁ!旦那の分け前の方が多いのが当然ですぜ!それにあっしからお頭に言って旦那の事もうまく仲間にして貰えるようにいいやすぜ!旦那ほどの実力ならきっとお頭の次の実力は間違いねぇ!おまけに旦那は若ぇ!お頭の次に王にだってなれやすぜ!」
勿論勝手に分け前がどうのというのをこの男が好きに決められるわけがない。
ただ今はこの状況を抜け出すためには少しでもプラスになるようにそういう必要があったというか、とにかく生きたいという一心で思いついたことを言っていたに過ぎないのだが。
だがその発言の中に不可解なモノが混ざっていた。
「(王だと?王ってどういう事だ?ただの蛮族なら王なんて言い方するか?まるで国を持っていたかのような言い方を)」
蛮族などと自分たちから言うからにはその言葉の意味をあまり理解していないのかはよくわからないが、族長などならわからなくないが、王というにはあまりにかけ離れているような気がしていた。
「・・・・・王・・・とはどういうことだ?」
ジュナスは自分が蛮族とやらと同族だと思われたことに怒りながらも、その怒りを抑えつつ問いかける。
とにかく今は情報を少しでも手に入れるのを優先したかったからだ。
ジュナスが王という地位に興味を持ったと思ったケーガナイは嬉々として話し出す。
「実はあっし達は元々ここから北東にあるロブスナッチ部族国の出身でして、お頭はそこの王だったんでさぁ。旦那の力とお頭と金さえあればすぐに元の戻れやすぜ!」
元々はだの戻れるだのと言った言葉から想定できる疑問を挟む。
「つまり今はその地位を追われたというわけか?」
「・・・そ、そうだ・・・いやそうですぜ。ですがお頭は今の状態に満足してやいやせん!だから金を手にして仲間を集めて取り戻すんでさぁ!」
苦々しい表情をしながらも自分だっていや、元々あそこで生きていた奴らは皆、今の状況に納得していないという。
だから人売りだろうとなんだろうとやると決めたのだろう、もしくは最初からそういうことをしていたのか。
「なるほどな(本来はこの近くにはいなかったから修道院の方もこいつらへの対処に遅れてこんな誘拐を許してしまったというわけか。イカれた世の中だな!クソ!)」
自分もまた、元の世界からこの世界に誘拐されたようなものだからだろう。
そんな奴らに対して怒りしか沸いてこなかった。
「そういうわけでさぁ!さぁ旦那!お頭の元に案内しやすぜ!そのガキ共を売っぱらって金を手に・・・」
ケーガナイが途中まで喋っていたが、とたんに言葉をなくす。
それは先程感じた殺気がまたもや自分へと向けられていたからだ。
「お前は、いやお前たちは・・・いきなり誘拐される者の事を考えた事があるのか?ある日突然目が覚めると自分の知らない場所にいて、自分の発言は何一つ認められず、ただされたいようにされる事がどれほどの恐怖か絶望かわかるか?」
ジュナスの表情が完全に無に変わり、瞳からも光が消えたような状態となり、一言一言喋るごとに殺気がどんどんと膨れ上がる。
「う・・・あ・・ぁぁぁ・・・」
ここまできてようやくケーガナイは自分が失言したことに気が付いた。
だが呻き声だけで言葉すらまともに発せず、息すらも上がりだしていた。
「自分の体を好きなようにいじくられて、訳のわからない実験をされて、痛めつけられて、その上、気が付くと自分じゃない何かが自身の中に存在している事の恐怖。いつその良く分からない存在に飲まれるんじゃないかと不安になる日々・・・」
この時のジュナスは完全に自分に起きたことへの怒りや恐怖や理不尽さなど、様々な感情がごちゃ混ぜになっており、自分で自分の状態がよくわかっていなかった。
だがケーガナイにはそんなことは関係ない。
重要なのは自分に殺気が向けられている、ただその事実のみであった。
「・・・・あ・・・・ぁ・・ぁぁ・・・・」
完全に言葉など言えない、息すらほぼ吸えず、ただ音が喉から漏れ出ただけだった。
「貴様ら盗む側は・・・やりたい放題だろうが・・・・・・何様のつもりだ!!!」
カッ!と目を大きく開くと剣を振り下ろす。
「ひ・・・・びゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
今まで出なかった声が堰を切ったかのように悲鳴として飛び出た。
それを最後に静かになる。
そう叫び振り下ろしたジュナスの剣は、ケーガナイの首を紙一重で真横の地面に突き刺さっている。
ケーガナイはあまりの殺気に口から泡を吐き、気絶している。
股間も濡れているようだ。
「・・・それでも俺は・・・自分で何も・・・出来ないんだ・・・結局・・何も・・・」
そう呟いたジュナスは苦しげな様子で息をしつつ、気絶した男を無視して地面に落ちていた袋へ向かって歩き出した。
先程の場所からある程度離れた森の中で一つの明かりが見える。
休息をしているようで、その明りの中にいる男は何もせずにただ火を見つめていた。
と、ここで男の頭に言葉がかけられる。
(あの男、止めを刺さなくて良かったのか?)
腰に挿してある剣ことネームレスから男、ジュナスへ問いかけられる。
それに対してジュナスはというと。
「構わん。どうせあんな森の中で片腕もなしに気絶しているんなら野生の獣かモンスターに食われるのがオチだろ。お前の目的は魔力だっただろうし、それは既に奪っていたんだ。文句はないだろ?」
(うむ、お主がそういうのなら我は構わぬがな)
約束はしていたもののネームレスの本来の目的は自分探しであり、そのために必要な魔力を回復させることであって、別に命を奪いたいわけではない。
ケーガナイの魔力は生命力も込みで瀕死にまで持っていっているから特に反論などはなかった。
「ならそっちはもういい。それよりも今はこっちの方が問題だろ」
そういうジュナスの視線が自身の正面にいる二つの影に向けられる。
その二つの影は小さく、また横たわっている少女が二人。
未だに目を覚ましていない少女二人が詰められていた袋の上で眠ったままであった。
「まずこの子たちが目を覚まさない事には先に進む事も出来ない。とはいえ修道院の場所を聞けば大人もいるだろうし、最悪この子たちがフィーリッツ王国の場所さえ知っていれば修道院に行く必要さえないからな」
そして自分の本来の目的もフィーリッツ王国に行くことであり、この子たちを助けることではない。
それでもちょっと自分と境遇が似ていたというかジュナスがそう感じただけだが、そういったこともあって助けたという感情も大きかった。
(あの男達のお頭とやらはどうするつもりだ?このままではいずれその修道院とやらはつぶされるぞ)
結界とやらがあるとしてもそんなに大きなものでもないだろう。
でなければこの子たちが誘拐されるような事態にはならないだろうしな。
「・・・・・そうだな。その辺に関してもはっきり言ってまだ決まっちゃいない。そもそも修道院は今回の件をどれほど重要視しているのかまだ分からんしな」
(ふむ・・・そうだな。だがそうなると修道院にはいかなくてはならないのではないのか?)
「そうなんだが・・・そもそもその修道院は俺の事を信じてくれると思うか?それ以前にこの子たちが大人しく修道院の場所を教えてくれるとも思えん。この子たちからすればいきなり男に襲われて気が付いたら俺がいたわけだ。怪しすぎだろ・・・俺」
改めて自分で言っててもそう思うのだ。
今し方誘拐されて危険な目にあった子たちがそんな都合よく俺に助けて貰えたと信じて貰えるとは思えない。
(そうだな。むしろお主が所謂『お頭』だと思われてもおかしくはあるまい)
そういいながらネームレスは少し笑っているような、からかうような声色に変わる。
勘弁してくれ・・・あんなクズ野郎どもの親玉なんて死んでもなりたくはない。
そんな会話をしていると正面の少女の内の一人がもぞもぞと動き出した。
どうやら目を覚ましてくれそうな雰囲気だ。
「さて、果たしてどうなることかね」
そう呟くジュナスの顔はひどく疲れ切ったかのような表情であった。
言葉の意味が間違っていることがあるかもしれません。
キリのいいところまで書いたら少し長くなりました、すみません。
いつもご覧いただきまして、ありがとうございます。
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