第二十九話 変な二人組
しばらく移動しているとネームレスから声がかかる。
(む、ジュナスよ、魔力の反応がまた移動を開始しておるぞ)
「チッ、そのままでいてくれれば様子を窺いやすかったってのに。となると奴らの移動先に事前に着いておいて様子を見るのがよさそうか。いけるか?」
面倒な、と言わんばかりの表情をしながら愚痴を言いつつ、ネームレスに先回りが可能かどうかを聞いてみる。
(うむ、魔力の反応はここからずっと一つの方向に向かっておる。急に方向を変える可能性はあまり高くはあるまい)
ネームレスから問題ないという回答が得られたことで、どう動くか考えつつ、更に加速するよう意識した。
「よし、なら移動速度を上げつつ、奴らに見つからない様に先回りしておくぞ」
そう言うや否やジュナスは走る速度を上げる。
相手との距離がわかっているため、距離の離れているうちは多少派手に移動したとしても気付かれまい。
仮に気付かれたとしてもそんな移動をするようなのは野生の獣かモンスター位だと思われるだろう。
ジュナスは直線の移動から少し脇に逸れて走り出す。
目標より回り道をして先回りしなくてはならないのだからこちらの移動距離は更に増える訳だ。
だが、人間離れしたジュナスの体力は、一時間だろうと問題なく走り続けられる。
何せ帝国から逃げた時には、三日は寝ずに逃げ続けたのだから。
更にネームレスの魔力で追加で強化もされているらしいし、腕や足だけネームレスに動かしてもらうなんて芸当も可能だ。
この数日で随分とこいつの事を信頼したものだ。
まぁ実際に死にかけの所を助けられたら、少なからずそう感じざるを得ないのか俺が甘いだけなのか。
そうしないと生き残れなかったというものあるんだけどな。
森の中に疾走する一つの闇が見える。
その闇、ジュナスは突如動きを止めて、腰を低くして何かを窺うかのように暗闇の先を見た後に、腰に差している剣、ネームレスへ視線を向けて語りかける。
「どうだ?こっちに向かって移動しているのか?」
(うむ、あれから道を変更することなく一直線にこちらに向かって移動している。魔力の反応はやはり四つだな。内一つは大きい、これは我の力の回復に存分に役立ってくれようぞ)
相手の位置を確認しているとネームレスから魔力の反応をより近くで感じ取ることが出来て、更にその一つは大きな魔力を持っているらしいからか、随分と嬉しそうな声が聞こえてきた。
「可能性として低いとは思うが、もし敵じゃなかったり、捕まっている者がいてそいつの方の魔力が高かった場合は・・・・殺すなよ?」
(ふむ、致し方あるまい。だが敵であった際は容赦なく頂くぞ)
「ああ、その時はちゃんと体を貸してやるから好きにしろ」
どうやら約束は守ってくれるようだから俺も最低限の約束は守る。
お互いの矜持を一線越えない程度の関係だからこそ、案外上手く行っているのかもしれない。
(ふっ、敵であることを期待している)
そういうとネームレスは静かになった。
どうやら力を溜めているのか精神集中でもしているのか、剣の鍔にある宝石部分が淡く光りながら点滅している。
「敵じゃない方が楽だってのに・・・相変わらず自分中心な奴だ」
ジュナスは呆れつつもそう呟くと、お喋りは終わりとばかりに森の先に視線を戻す。
森の先は特に変化はない。
時折鳥の声や虫の音といったものが聞こえてくるくらいで、それ以外に特に何もないように見える。
森の中で一人待つというのはなかなかに時間の感覚が狂わされる。
どれほど経ったのかジュナスにはいまいちよくわからなかったが、ふと自然の森から発生することはないであろう音がジュナスの耳に伝わってきた。
それはバキバキと木を切っているであろう音、剣を振るっているであろうビュッという風切り音、そして人の声。
どうやらこれから来るであろう人物は、あまり自分達の事を隠そうとしているという風ではないようだ。
更には森の事を特別気遣いしているという風でもない。
笑い声が静かな森に大きく木霊している。
そこでジュナスは一つの事に気がつく。
聞こえてくるであろう声は二つのみ。
大人の男の声のみだ。
つまりは残りの二つ、小さな足跡の持ち主は少なくとも喋ってはいない。
ネームレスの魔力による確認で四人いることは間違いない。
喋っていないのか、あるいは喋ることのできない状態なのか、これは穏便には行かない可能性の方が高いであろうかとジュナスは辟易とした思いでこの先の展開を予測する。
まず一番高いであろう可能性、敵の場合だ。
小さな足跡の持ち主たちは何らかの理由で攫われている、あるいは脅されて付いて行っている可能性。
次は小さな足跡の持ち主たちをあの男たちが助けたという可能性。
だがこの可能性は正直に言って低いだろう。
もし助けたというなら小さな足跡の持ち主たちの声も聞こえてくるだろうし、何より助けたのならあんなに大声では話すことはないだろう。
モンスターや野生の獣をわざわざ呼ぶような真似はするまい。
その他として・・・・・・・・・・
いくつもの可能性を考慮していると遂にその時が来る。
暗闇の森の奥から現れたのは二人の大人の男。
前を歩く男は手に斧を持っており、その容姿は厳つい。
髪の毛はなく、ハゲ・・・いやいや所謂スキンヘッドで、右手に持つ斧で周りの木を薙ぎ払っている。
表情は笑いながら声も出して先を進んでいる。
ふと逆の手を見てみると、なにやら大きな袋のようなものを抱えている。
次に出てきた男、こちらは右手に剣を持っている。
その容姿はいささか醜悪で体格は結構太め、髪の毛が逆立っているような髪型が周囲に無駄に威圧感をもたらしているであろうことが推測される。
こちらも同じように逆の手には大きな袋を抱えている。
見たところこの二人以外に他に人はいない。
「ネームレス、視界には目標は二人しか見えないが魔力の反応はどうなっている?」
ジュナスは念の為と言わんばかりにネームレスへと確認を取る。
(魔力の反応は変わっておらぬ。四つなのは間違いない。うち二つはあの袋の中のようだな)
どうやら小さな足跡の持ち主は袋に入れられている様子。
これはプランA、所謂最も可能性の高かった、誘拐のパターンが濃厚になってきた。
とここで男二人が会話をし出した。
「いや~、しかし笑いが止まらねぇぜ!何せ遂にお頭の言っていたエルフを捕まえたんだぜ!このガキ一匹でウン千万って金で売れるってんだからよ!」
ハゲが大きな声で笑いながら話し出すが、声が若干ダミ声っぽくて少し聞き取りずらい。
「でゅふふふふ、こ、これでおいらたちまたやりたい放題・・で・・出来るんだなぁ!また食いたいもの盗みまくってやるんだなぁ!」
こっちのデブは・・って誰だよこんな奴異世界に設置した奴!
誰もがデブ、ヘンタイ、オタク、と言われたらすぐに想像が付くような典型的な奴じゃねぇか!
喋り方まで似せてくんなや!リアルデュフフとか初めて聞いたわ!
「女も金も酒も食い物も、いくらでも奪いたい放題だぜ!お頭があの地位にさえ戻ってくれりゃあな!このガキを商人に叩き売って、その金を元手に仲間を集めて以前の地位にさえ戻れば俺達だって族長クラスの扱いに昇格するかもしれねぇぜ!」
あ、はい把握しました。
随分と説明口調で話してくれるな、すっげぇありがたいけど違和感ありありだぜ。
「でゅふふ!エ、エルフじゃない・・も、もう一人の子供は・・・お・・・おいらが・・も・・貰うんだな!おいらの・・こ・・子供を産んでもらうんだなぁ!!」
おま!しかもロリコンとかこいつどんだけ想像通りなんだよ!
気色悪い顔してニチャっとした笑み浮かべやがって鳥肌立つわ!
髪の毛逆立ててる以外が、ほぼただのキモオタじゃねぇか!
今時リアルでもそんな奴、絶滅危惧種だぞ!
「へっ!相変わらずガキが好きな変態野郎め。そんなガキのどこがいいのやら。まぁ俺はとっとと帰って酒を飲み干してぇ。お頭も金とあの力があれば以前の地位に戻るのもきっと容易いに違いねぇ。こりゃマジで笑いが止まらねぇぜ!」
ま、ここまでの会話の内容からしてもう確定だな。
うん、遠慮いらんな。
「でゅふ・・・でゅふふふふふ。」
「がっはっはっはっはっは!」
最後に笑い声を聞いたジュナスはこれ以上は不要と言わんばかりにネームレスへと体を預けた。
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