第十二話 初めての温もり
本日は三話投稿します。
また、本日でようやく序章が終わります。
「うっ(な、なんだ?温かい。何だかすごく、優しいぬくもり、春の日差しみたいな・・・)」
男が目を開けると何故か自分の頭を抱えて手をかざしている少女がいた。
良く見るとその少女の手からは緑色の光が出ており、それがまるで体の隅々まで行き渡るかのような温かさ
を持っていた。
「あ、気がつきましたか?大丈夫でしたか?」
「(な、なんだ!?相変わらず何を言っているのかさっぱり分からないけど、とりあえず悪い人じゃない?いやいや!騙されないぞ!その安易な考えでこれまで一体どれだけ痛い目を見てきたことか!)」
男はとりあえず離れようとして無理やり起き上がろうとするが、足にうまく力が入らずよろけて結局また倒れてしまう、更にその時、当たり所が悪く、腕を地面に強打して血が出てしまった。
「痛っ!くっそ!」
「あ!まだ駄目ですよ!急に動いちゃ!ちょっと待って下さい!」
少女が何事か呟きながら、今度は今しがた怪我をしたばかりの腕の部分に手をかざしていくとみるみる血が止まり、それどころか傷すらも消えていった。
「はぁはぁはぁ、こ、これでだいじょうぶ・・です・・・」
辛そうに顔色を悪くしつつも、男に対して笑顔を向けてくれる少女に流石の男も慌ててしまう。
そして気が付いた。
よくみるとあれだけボロボロで生傷ばかりだった体が、傷跡は残ってはいたもののほとんど血が出ていないことに。
「あ・・・・(もしかしてこの子が治してくれた?そうに違いない!さっきの光といい今の傷といい、多分あの緑の光そうだ!魔法とか?やっぱり魔法とかあるの!?)」
現実の世界には存在しない魔法のような物を実際に見たことでテンションが上がってしまう辺り、なかなかのオタクっぷりであった。
「あの・・・大丈夫ですか?まだどこか痛みますか?」
「あ・・・(何か言ってくれている。心配そうな顔。怪我の事を聞いているのかな?)」
少し何事か考えていた主人公だったがすぐに言葉を発する
「あ、えとその、ありがとう、すごく助かった。怪我はもう大丈夫みたいだ」
「えっ??えっと??」
その時男の背後、牢の入り口付近にいたもう一人の女性から声がかかった
「姫様、そろそろよろしいでしょうか?急がなければ奴らに追いつかれてしまいます」
「あ・・アグスティナ!この人、言葉が・・・」
「姫様!今はそれどころではありません!確かに我々のせいで彼が怪我をしたかもしれませんが、これ以上は我々には時間がないのです」
「そ、そう・・・ね」
そういうと姫様と呼ばれた少女は男に向かって話しかける
「ごめんなさい、私達には時間がないの。私に何か出来ればよかったのだけれど」
悲しそうなそれでいて少し焦っているような表情で男を見るそれが男にとっても何か事情があるとなんとなく察した。
「あ~、俺の事はいいから行ってくれていいですよ、って言っても言葉通じないんだったな」
そう思ってからせめて態度で示せないかと思い行った行動が
「ありがとう!助かったし嬉しかった」
立ち上がり笑顔でお辞儀をして手を振った。
こちらの世界でお辞儀や手を振ることに何か意味があったり問題があるかもとか考えはしたが結局わからないことはわからないため、それならせめて元の世界の常識で自分の知っている一番の感謝の気持ちでお礼を言うことにした。
ちなみに土下座をしなかったのは逆に自分を助けてくれと勘違いされてしまってはそれはそれで困るからだ。
いや、本当は助けてほしかったのだろうが、この世界に来て初めて自分を救ってくれた人に対してその人の重荷にはなりたくなかったという思いが出た。
二人のやり取りをみていたアグスティナだったが
「・・・・・姫様、そろそろ・・・っ!?」
その言葉を発した時、急に地下牢全体から振動と多数の足音が聞こえてくる
「しまった!追手がもう来たのか!?」
「アグスティナ・・・・」
「くっ!(どうする?今例の脱出路を通ろうとしてもここまで近づかれてはその時の音で見つかってしまう!)」
急に慌てふためく二人に何やら深刻な空気になったのを感じ取った男、ふと見るとアグスティナから急にキツイ視線を向けられる。
「(くそっ!この男のせいで余計な時間を!こいつさえいなければ今頃は脱出できていたというのに!この男さえ捨ておけば!いや、姫様はそういうお方ではない。ましてそれがご自分のせいで傷ついたとあっては尚更・・・)」
「・・・ごめんなさいアグスティナ。私が我儘を言ったせいで・・・」
「いえ、この牢にこの男がいたという事を知りえなかった私の不徳が致すところです。姫様が悪いわけではございません」
「でも・・・・」
お互いに謝りあうような奇妙な状態になってしまったが、らちが明かないと感じたのかアグスティナは先を促すように言葉を切り替える。
「それよりも先の事を考えましょう。こうなっては私が牢を出て囮になりますので姫様はその間に脱出路より避難を・・・・」
「駄目よ!それじゃあ駄目!せっかくここまで来たのに貴女を失っては意味がないわ!」
「で、ですが他に手立てが・・・・」
その時、それまで周囲を観察してジッとしていた男が動き出す。
さっきから来た道をずっと警戒していたアグスティナを見て、なんとなしにこの二人が追われている?という感じで予測した結果、男が取った行動は・・・・
ようやくヒロインの登場です。
魅力的なキャラたちがシナリオが描ければよいのですが・・・
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