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鬼刻の夜明け―卒業式。鬼になった彼女を、守れなかった俺は  作者: MASAO
九章

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慟哭 5

 小夜子さよこを犯した。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」

 完全なる黒鬼こくきと化した晃治が恍惚こうこつ咆哮ほうこうを上げ続ける。本能に身を任せた行動が晃治を黒き獣へと導いたのだろうか。

 剣の如き双角そうかくが激しく輝く。

 ゾクッ

 一瞬。晃治は恐怖を感じ我に返った。

 何だ…鬼神きしんの我が恐怖だと…どういう事だ?

 黒鬼こくきは自問する。

 ゾクリ

 まただ。

 黒鬼こくきは得体の知れない危険を本能で感じ取った。

 どこに危険があるというのだ…危険などありはしない…ここには我と糸の切れた女だけ…何をおびえているのだ。

 だが警鐘けいしょうは鳴り止まない。

 黒鬼こくきは眼下にいるゆかりに視線を向けた。

 驚愕きょうがく

「なっ!?」

 鋭い眼差し。

 溢れ出す力。

羅刹らせつっ!!!」

 ゆかりの口から発せられる男の声。

 近くに転がっていた桃迅激とうじんげき黒鬼こくきを目掛け一直線に飛んでくる。

 パアアアンッ

 桃の木より造られし刀身が砕け散り、姿を現す白銀の一閃。

 黒鬼こくき咄嗟とっさにその一撃をかわし後方へと飛び退いた。

 呼ばれし刃はゆかりの手に静かに収りゆっくりと立ち上がった。

 黒鬼こくきは知っている。

 鬼神に恐怖を与える力…その力を秘めし一振りの太刀。

 邪鬼滅殺じゃきめっさつ

 あらゆる魔を斬り。

 あらゆる鬼を滅する破邪はじゃの力。

 その剣撃は空を裂き海を割る。

 その斬撃は大地を揺るがし炎を生み出す。

 故に金剛羅刹こんごうらせつは使い手を選ぶ。

 心悪しき者を選べば「じゃ」となり人の世を喰らい。

 正しき者を選べば「ひじり」となり世を守る聖魔せいまつるぎ正邪曲直せいじゃきょくちょく諸刃もろは心剣しんけんなり。

 その名を…

「ば、馬鹿な!? 金剛羅刹こんごうらせつだと!!!」

 黒鬼こくきは目の前に立つ、一糸纏いっしまとわぬ少女が手にする太刀を凝視して叫んだ。

「闇より生まれし 彷徨さまよえる魂

 我が鎮魂ちんこんに耳を傾け 

 その荒ぶるを浄化せよ

 森羅万象しんらばんしょうことわりもとづき 在るべき姿へ

 隠形おんぎょうなる者を滅殺めっさつする」

 霊言実動れいげんじつどう

 再び発せられた男の声。

 体内の霊気が上昇する。

「男の声…何者だ、貴様っ!」

裂空斬れっくうざん

 ゴウッと風を巻き上げ放たれる斬激。

「ハアッ!」

 黒鬼こくきはその斬激を鬼気で壁を創り防いだ。

 ゆかりの姿がない。

「上か!?」

 黒鬼こくきは頭上を跳ぶゆかりに目を奪われた。

 満月の銀光に照らされ、浮かび上がる白く美しい伸身宙返り。

 その姿はまるで天女の如く。

 手にはキラリと輝く金剛剣羅刹こんごうらせつ

斬魔撃光ざんまげきこうっ」

 空中で身をひるがえし繰り出される光の刃。

「ぐう!?」

 黒鬼こくきはその斬激を避ける為に横へ飛んだ。

 ドオオオンッ

 放たれたる白銀の閃光は地面をえぐり砂塵が宙を舞う。

 この攻撃パターン…。

 京一きょういち

 黒鬼こくきは次に来るであろう打撃技に備え背後を振り返った。

 しかし。

裂空破斬れっくうはざんっ」

「があああっ!?」

 更に裏をかいた真空十字の斬激が黒鬼こくきの背後を襲った。

「はあっ!」

 覇気はきを乗せた叫び。

 たまらずひざを突いた黒鬼こくきは、延髄えんずいに空中回し蹴りが炸裂し吹き飛ばされた。

「ぐ…き、貴様…京一ではないな…誰だっ…まさか!?」

「お前には理解できまい……友を……自分を信じる事が出来ず、ただ己の怒りに任せ、その心をけがしたお前には!」

 ゆかりの口を通して語られる。

「馬鹿な!? あり得ない…在るはずがない。神崎直人だと! 何故、我に喰われていないっ。何故そこにいる! 何故、貴様にそんな真似まねが出来る……何故だあああ!!!」

 狂ったように突進を開始する黒鬼こくき

「…お前は、もう一人の俺だ…」

 哀愁に満ちた眼差しを向けた。

「行くぞ、ゆかり!」

(ええ!)

 直人が叫び、それにゆかりは応えた。

空裂斬くうれつざん!」

 黒鬼こくきは手にした太刀を振るい、衝撃斬が直人を狙う。

 その際生じた突風が、放たれた鬼気に乗せられ竜巻が発生した。

「く!?」

 直人の視界を奪った。

「我が荒ぶる絶対にして強大なる黒き闇の力

 今、そのめいを鬼気とし森羅万象しんらばんしょうことわりのもと

 前方なる敵を粉砕せよ

 黒き風はそれを砕き

 瞬く閃光はその者を焼きつくせ」

 黒鬼こくき詠唱えいしょう

「どこからだ!」

 竜巻の轟音と視界不良…しかし、それだけではない。鬼気をとらえる事が出来ず直人は警戒する。

木霊術こだまじゅつ…来る!)

 ゆかりの声が直人に響いた。

閃光空牙せんこうくうがあああ!!!」

 ピシャアアアアアアンッ

 頭上より発生した稲妻いなずまの斬激が降り注いだ。

桔梗界壁ききょうかいへき

 ゆかりの叫びと共に額の上に五芒星の光が走り形を成す。

 ドオオオンッ

 落雷衝撃。

「うおおおおおお!!!!!!」

 電光石火の斬激は頭上に現れた五芒壁ごぼうへきにより四方へ走り抜ける。が、終わる事はない。

 直人は斬術ざんじゅつの重圧にたまらず片膝を突いた。

 雷電らいでんが髪を結っていたゆかりのリボンを切り裂く。サラサラと美しい黒髪が下ろされた。

(くっ、このままじゃ…直人!)

「我がしんに宿りしほむら

 降魔ごうまほのおと化し

 烈火れっかごとく立ち昇れ

 の敵を討ち滅ぼす刃となり

 その灼熱しゃくねつの力を示せ」

 直人の中で力が昇華する、霊気が紅蓮ぐれんの炎を具現化し羅刹らせつへと伝わり始めた。

「…この詠唱えいしょう…馬鹿な!?」

 黒鬼こくきの驚きの声。

炎旋風烈火ほむらせんぷうれっかあああっ!!!」

 直人の雄叫びと共に羅刹らせつより立ち昇る霊気が炎が如く燃え上がり、一気に振り放った一撃は雷光を斬り裂き黒鬼こくきへと向かう。

 ブウオオオオオオンッ

 灼熱の炎斬えんざん黒鬼こくきを取り囲むと爆散をした。

(…ほむら…)

 ゆかりの声。

 爆煙が収まり黒鬼こくきは姿を現す。

「き、貴様が何故…穂村の…京一の必殺剣を知っている…何故だ!!!」

 炎にその身を焼かれはしたが、辛うじて斬激をかわした黒鬼こくきは叫んだ。

 月光に照らされ、暗闇に幽鬼の如く浮かび上がる美しい肢体。

 風に吹かれ、揺れる癖のない長い黒髪。

 少女は手にした羅刹らせつを黒鬼に向けた。

「もはや語る事は…無い」

 直人は静かに言った。

(直人…)

 ゆかりの小さな声。

(怖いか…?)

(ううん、そんな事無い…でも)

 弱々しくゆかりは聞く。

(…力を…意志を継いだ)

 優しく直人の意識が語った。

(え…?)

龍脈りゅうみゃくから力を引き出せるか?)

(…知っているけどやった事無いよ…)

(大丈夫…俺が一緒だ、お前にならきっと出来る、ゆかりになら…)

 ゆかりは融合した事により直人の言わんとする事が意識に流れ込んできた。

(…解った。やってみる)

 意を決しゆかりは意識を集中させ始めた。

「答えろ貴様!」

 シュッ

呪束じゅそく!」

 直人は髪の毛を引き抜き霊気により高質化した暗器を放った。

 霊力よりも気功術きこうじゅつに近い。

「ぐっ!?」

 黒鬼こくきは瞬時に動きを封じられた。

いにしえより 地に悠遠ゆうえんなる力よ

 我が呼びかけに応え

 その大いなる力を我に与えよ

 けがれ無きくうなる力

 我に応えよ…)

 ゆかりの意識が素早く印を結ぶ。

 身体からだを中心とし、五芒星ごぼうせいが地面に浮き上がった。真夜中だというのに辺りが薄ぼんやりと光を発する。その光景は降り注ぐ白い雪の様だ。

 何だ…空中にある霊気が発光を始めている。

 黒鬼こくきはその異変に気づいた。

(龍より溢れし強大なる力よ

 我をうつわとしなんじを迎え求むる…)

 黒鬼こくきの意識がゆかりの詠唱えいしょう傍受ぼうじゅした。

 龍脈接合術りゅうみゃくせつごうじゅつ…霊力を吸収しているだと!? 何か大技を出すつもりか!

 黒鬼こくきは縛られた身体からだを解放しようと鬼気を増幅させた。

深山流奥義接龍線みやまりゅうおうぎせつりゅうせん!!!)

 ゆかりの詠唱えいしょうが完成し言霊ことだまにより術が発動した。

 ゴオオオオオオン

 地面に浮き上がった五芒星は激しく輝き、大地より龍の鼓動が駆け上がる。

 ゆかりの美しい裸体が白く輝いた。

 シュカッ

 瞬間、直人は再び作り出した暗器を左右後方に打ち込む。

 ザッと自分の前方に羅刹らせつを突き刺し、素早く印を結んだ。

「古来より方位をつかさどりし四聖獣しせいじゅうよ…」

 身体から溢れ出す強力な滅鬼めっきの力。

 黒鬼こくきは目を見張る。

 十字結界式じゅうじけっかいしき…この詠唱えいしょう。まさか、あれを放つというのか!? 人の身でありながら!!!

 鬼気増大。

 黒鬼こくきもまた大気に溢れ出した、無色なる力をその身に集め鬼気へと変換させた。

 尚も詠唱えいしょうは続く。

「我が肉をとし玄武げんぶ

 我が気脈をふうとし白虎びゃっこ…」

 直人の詠唱により、ゆかりの肉体の頭頂チャクラがゆっくりと開き出す。

 パシイイインッ

「させるか! 氷炎裂空破斬ひえんれっくうはざん!!!」 

 黒鬼こくき呪縛じゅばくを弾き飛ばし放った抜刀術、氷室流真空十字剣。

 キーンッ

「馬鹿な!?」

 しかし、その斬激は目標の手前で弾かれ四散した。

 術の発動を同時に三つも行うなど出来る筈がない!

 黒鬼こくきはその場に感じる気配に感づき両の目を見開いた。

 長く揺れる黒い髪。

 悲しみのうれいに満ちた瞳。

 そこに浮かび上がる一人の巫女。

「…さ、小夜子さよこ?」

 小夜子がゆかりの前に腕を広げ立っていた。

(もうやめて…)

 小夜子の声が黒鬼こくきに流れ込む。

「何で、何で僕の邪魔をするんだい…私の物にならぬと言うのなら…いっそこの手で、この手で殺してあげるよおおおおっ!!!」

 黒鬼こくきは叫ぶと同時に、手にした太刀を地面に突き刺し瞬時に印を完成させた。

 地面に浮かび上がる四神十字結界式ししんじゅうじけっかいしき

「古来より方位をつかさどりし四聖獣しせいじゅう

 我が肉をとし玄武。

 我が気脈をふうとし白虎……」

 黒鬼こくきは直人と同様の詠唱えいしょうに入いった。

「我が意志をとし朱雀すざく

 我が血流をすいとし青龍せいりゅう

 五体に宿り生まれし四神ししんよ 

 我がめいに従いその力を示せ

 なんじ 右手、南方を司りしけもの は朱雀

 汝 左手、北方を司りし獣 祖は玄武

 汝 後方に位置せし東方を司りし獣 

 祖は青龍……」

 ゆかりの白い肌に赤い血が所々線を引く。

 四方より呼び込まれる聖獣四神せいじゅうししんの力。

 その力は大地の力と滅鬼めっきの力により更に増幅されていく。

 巨大な力はプラズマとなり霊気の刃がゆかりを襲った。

(…ち、力が大きすぎる)

 肉体は許容範囲を超え始め悲鳴を上げた。

 集めた霊気は直人の開くチャクラを通して、滅鬼めっきの力へと変えられ地面に打ち込まれた暗器に流れ込む。

 輝く五芒星ごぼうせいの中に展開する十字結界式もまた激しく瞬いた。

なんじ 左手、南方を司りし獣 朱雀すざく

 汝 右手、北方を司りし獣 祖は玄武

 汝 後方に位置せし東方を司りし獣 

 祖は白虎……」

 黒鬼こくき双角そうかくが激しく輝き鬼気が拡大する。

「我が前方に位置せし西方を司りし獣 

 白虎びゃっこ

 その白く猛々しい力を我に……」

 大地より光の柱が天へと駆け抜けた。

 直人の言葉と共に四方に刻む十字に閃光が走ると羅刹らせつへと集まり激しい光を放ち出した。

「我が前方に位置せし東方を司りし獣 

 青龍せいりゅう

 そのあおき禍々(まがまが)しい力を我に……」

 また黒鬼こくきの結界式からも光が天へと立ち昇る。

 黒鬼こくきの太刀が額の双角と、十字結界より送り込まれる強大な鬼気を受け黒く、漆黒しっこくの閃光を放つ。

 辺りは直人とゆかりの発する白き光と黒鬼の呼び込む黒き稲光いなびかりがぶつかり合う。

「闇風秘剣術……四聖獣鎧破しせいじゅうがいは!」

 直人と黒鬼は同時に術を完成させ互いに大地より抜刀。

 羅刹らせつと直人に邪鬼滅殺じゃきめっさつの力が駆け抜け溢れ出す。

 黒鬼とその手の太刀に強大無比な鬼気がほとばしる。

えろ白虎びゃっこ、切り裂け白風牙びゃくふうがああああああ!!!」

 上段に羅刹らせつを構え繰り出されるごうの一閃。

うな青龍せいりゅう破砕はさいせよ烈流破れつりゅうはああああああ!!!」

 下段に構え、放たれたる鬼神のわざ

 駆け抜ける二つの力。

 閃光が具現化する。

 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオンッ

 龍虎対決。

 純白に輝く聖獣白虎せいじゅうびゃっこと青く……いや青と言うにはあまりにも黒い、群青ぐんじょうなる閃光青龍せんこうせいりゅうは互いにぶつかり合った。

 嵐。

 絡み合い天へ駆けのぼる二匹の獣。

「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」

(はああああああああああああああ!!!)

 直人とゆかりのシンクロした咆哮ほうこう

「ぬおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 憤怒ふんどに満ちた黒鬼こくきの雄叫び。

 天空で激突する龍虎。

 長引けば人間である二人に不利な戦い。

 黒鬼こくきの紅い眼が愉悦ゆえつの笑みをらす。しかし、白と黒の戦いは果てる事なく繰り返された。

 おかしい…何故、力の流出が持続できる…何故、肉体が耐えられるのだ。

 気配。

 黒鬼こくきは、羅刹らせつより滅鬼めっきの力を放ち続けるゆかりの背後に意識を向けた。

 決意に満ちた精悍せいかんな顔。

「貴様っ!?」

 黒鬼がえた。

四聖獣鎧破しせいじゅうがいは羅刹らせつに選ばれし、”滅鬼めっき”の力を持つ者にしか放てぬ伝説の秘剣術…あやつるは”鬼気きき”にあらず…)

 声が意識に流れ込む。

「またしても……京一きょういちいいいいいい!!!」

 更に鬼気が増幅され黒鬼こくきの肉体が一回り膨らんだ。

晃治こうじ…)

 京一きょういちはゆかりを支えるように立っていた。

「黙れええええええええええええっ!!!」

 黒鬼こくきが叫び、力の増した青龍せいりゅう白虎びゃっこを徐々に取り込み始めた。

 パーンッ

 マズルフラッシュ。

 この人知を超えた戦いに、およつかわしくない乾いた音が辺りに鳴り響いた。

「ぐおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 放たれた弾丸は、黒鬼こくきの額で輝く巨大な角を削った。

「はずれた……か?」

 茂みの開けた場所で玲香れいかに銃身を支えられる様に二発目を狙う朝倉がつぶやいた。

「…そうでもないみたいよ」

 続けて玲香は言った。

 だが、鬼の力の源は角、黒鬼こくきは膝を突いた。

 放たれた青龍烈流破せいりゅうれつりゅうはのプレッシャーが一瞬、弱まった。

「氷室おおおおおおおおおおおおお!!!」

 その一瞬の隙を見逃さず直人の滅鬼めっきが爆発した。

 白虎の爪が黒き龍を切り裂き、破邪はじゃきばがその身を砕く。

「おのれええええええええええええ!!!」

 ……私は

 決して……間違ってはいない…… 

 巨大なる伝説の白き斬光ざんこうが晃治を一瞬にして飲み込んでいった。


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