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鬼刻の夜明け―卒業式。鬼になった彼女を、守れなかった俺は  作者: MASAO
七章

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覚醒 4

 キイイイイイインッ

 暗闇に響き渡る。

「隆司!」

 霊気の刃と黒き剣が蒼き火花を散らす。

「ははは、スゲーなあ。スゲーぞ直人!!!」

 隆司の笑いがこだまする。

 かつて友であった二人は木の枝を足場に宙で剣を斬り結ぶ。

 キシイイインッ

 直人の斬り込みに応え隆司も斬り込み、二人は夜空でつばり合う。

 時が止まった。

「感じるぞ直人!」

「何!?」

「お前の中から俺と同じ獣の気配をな!」

「うおおおおおお!!!」

 雄叫びと共に直人が姿勢を移動させ空中で回し蹴りを放った。赤い瞳が更に血の色へと染まっていく。

「けははははは、当たるかよそんな蹴り!」

 隆司は言うと黒い剣を押し出し直人を蹴り込み引き離した。そして、その反動を使って近くの枝へと跳び去る。

「ぐあ!?」

 体勢を崩した直人は真っ逆様に地上へと落下していく。

「間違いねー。お前は俺と同じだ」

「言うなあああ!!!」

 直人は落下の体勢から肩に装備されているクナイを隆司の着地予測ポイントへ放った。

 同時に直人は身体を丸め前後に回転をさせながら遠心力で落下の軌道を変えた。そして近くの枝を片腕で掴むと鉄棒の要領で回り、枝の上に飛び乗った。

「どこだ!」

 迂闊うかつにも直人は隆司を見失ってしまう。

「どこ見てんだよ直人おおお!!!」

「ぐはあっ」

 背後から痛烈な蹴りを食らい直人は吹き飛んだ。二人の力は一見同じレベルに見えるが隆司の方が一枚上のようだ。その証拠に隆司は余裕の笑みすら浮かべている。

「バカだなあ、直人。よそ見するのは事故のもとだぜ。あれ程教えてやったろうに」

 吹き飛びながら落下する直人を見送り隆司が言った。

「くそお!」

 後方にいる隆司を横目で確認しながら直人は迫り来る地面に備えた。

「死んじゃうかな?」

「この程度でっ!」

 直人の赤い瞳が見開いた。

 衝突する瞬間、直人は柔道の前周り受け身の要領で左腕から地面に転がり落ちる。人の生への執着がパラシュートの着地要領を知るはずもない直人にそれを行わせた。角度の付いた落下を回転する事により衝突のダメージを逃がした。そうして身体に受ける衝撃を最小限に直人は止めたのだ。

「…やるじゃん…」

 隆司は舌を巻いた。

「うおおおおおお!!!」

 ガッ

 転がりながら、直人はその勢いを利用して立ち上がり、地面を蹴り込んで隆司に向かって一気に跳躍した。蹴った地面が勢いよくめくれ上がる。

「隆司いいい!」

 蒼く光る桃迅激とうじんげきを構え直人は隆司に迫る。

「その顔だぜっ」

 シャッ

 空を切る必殺の一撃。

「速い!?」

 直人は再び隆司を見失った。

「ギャハハハッ。その顔だぜ直人、俺はそんな必死な顔を見た事がないぞ。お前でもそんな鬼気迫る表情って奴が出来るんだな!」

 隆司は今までいた木の枝から、かなり離れた高い枝に立っていた。

 先程までの打ち込みとはまるで速度が違う。

「ナメやがって!」

 間違いない俺は遊ばれている。直人は苦虫を噛み潰した様な苦渋に満ちた表情を浮かべた。

「いい顔だな直人。もっと俺を楽しませてくれよおおお!」

 ザンッ

 隆司は左右の枝に跳び移りながら直人に迫る。あまりの移動速度に直人の目には何人もの隆司の残像が映った。

「くっ!!!」

 避けられないと悟り直人は桃迅激とうじんげきを正眼に構えた。

 右か…それとも左。

「直人おおおっ!」

「!? 下だと!!!」

 隆司は残像を残し、最後に下の枝に移り直人目掛けて黒い剣を振り上げた。真下から枝ごと斬る気だ。

「おらああああああ!!!」

 シャッ

「ぐっ!?」

 隆司の剣が直人の顎先をかすめる。

 直人は咄嗟とっさに後方宙返りでそれを回避した。

「よう、どこに行くんだよ?」

「バカな!?」

「あーら、よっと」

「ぐがああああああ!?」

 だが、隆司は回避した直人の隣に平行するように現れると、空中に浮いているサッカーボールでも蹴るように直人の脇腹に回転蹴りが炸裂した。

 直人はそのまま数メートル離れた木の幹に激突し、地上へと落下した。

 ドンという鈍い音。

 直人の身体全体を巨大なハンマーで叩いた様な衝撃が走る。受け身を取る暇すらなかった。

「直人君よお、死んじゃったかなあ?」

 隆司は直人が倒れている所にフワリと着地するとゆっくり近づいて来た。

「があっ!?」

 直人はバトルスーツの耐ショック性能に助けられていたが背中を強く打ち呼吸困難に陥っていた。いかに、バトルスーツが強固に作られていても、それの中身が水分の塊であるのだからダメージを受けない筈がない。かなりの高さから落ちたのだ生きているのが幸運なくらいだった。

「苦しそうだなあ? もうちょっと、このまま面白いから見物させて貰うぞ」

 そう言うと隆司は直人の傍らにしゃがみ込んで覗いた。

「…こ、殺して…やる…」

 隆司のふざけた態度に直人の怒りが頂点へと駆け上がる。

 赤く光る瞳。

 更に黒く染まる勾玉。

「やってみなよ」

 挑発する隆司。

「ぐがああああああ!!!」

 怒りの雄叫び一つ。

 直人の身体から強大な鬼気が放出された。

 それを本能的に危険だと判断した隆司が後方へ飛び退いた。

「…やっぱりお前も同類じゃねーかよ」

 隆司は妖しいニヒルな笑みを浮かべた。

 ゴウッ

 一陣の黒き風となって直人は隆司に飛びかかった。

「おおおおおおおおお!!!」

「ヤバ!?」

 隆司ですら一瞬、反応出来ない程の圧倒的な速度で迫る。桃迅激とうじんげきを握る手の平から煙が上がり、ジリジリと直人の手の皮を焼いた。

 ズキンッ

 全身を襲う耐えがたい痛み。

「ぶはっ!?」

 直人は今一歩という所で動きが止まり突然、口から血を吹き出した。ドーピング薬の効果が切れた瞬間だった。加えて連続服用と肉体に急激な負荷を掛けた為の身体の悲鳴。

 オーバーワークだ。

 瞳も赤から茶色がかった黒に急激に戻る。

「もらったあ!」

 隆司はそんな一瞬を見逃さずに、黒い剣を無防備になった直人の胸に稲妻のような一撃で突き刺した。

「があああああああああっ!!!」

 直人の叫びが黒い森に響き渡った。

「終わりだな。なお…」

 ダンッ

「ぐおおおおおおおおっ!!!」

 言葉が終わる前に直人は隆司の体の正面を蹴り込み、胸を貫通している剣を抜くため、渾身の力で後ろへ跳んだ。

 傷口から吹き出す温かい血。

 そのまま直人はボロ雑巾のように冷たい地面に転がると、身体からだを横たえ必死に呼吸を繰り返した。

「諦めが悪いなあ。俺とお前とじゃあ”格”って奴が全然違うんだよ!」

 ボクッ

「ぐはっ!!!」

 隆司はゆっくり近づくと直人に蹴りを入れる。手加減をして苦しむ様を楽しんでいるようだ。その気になれば直人の身体を蹴り飛ばし、内臓破裂で即死させるくらい今の隆司には造作もない事だ。

「…気にいらねーな、その目つき」

 直人の諦めていない目が隆司をにらみ上げる。

「…テ、テメェを…殺す…こ、殺してやる…がっ!」

 直人の口から念の籠もった言葉が切れ切れと漏れる。

「望み通り殺してやるよ。直人!」

 黒き剣を隆司は大きく振り上げた。

 トスッ

「がっ!?」

 その時、どこからともなく放たれた一本の矢が隆司の背中に刺さった。

「そこまでよ! 彼はらせない…呪束じゅそく!!!」

 ゆかりが今、ようやく二人に追いついたのだ。

「何のおまじないかな。ゆかりちゃん?」

 隆司はゆっくりと振り向きながら背中の矢を引き抜いた。

「な、何で効かないのよ!?」

 奴の鬼気が強力だから…。

 それだけではない。直人の惨状を目の当たりにしたゆかりは意識を集中できず、霊気を十分に乗せられなかったのだ。だが、確かに今のゆかりの力では隆司の動きを封じる事が出来ないのもまた事実。

 ゆかりは唇を噛みしめた。

 身体がきしむ。

「うっ!?」

 ゆかりもドーピングの効果が切れ始めていた。

「に…にげ…ろ…ぐほっ!?」

 口から鮮血が溢れ出す。

 はあ、はあと虫の息で直人は言う。

 ドクドクと流れ出る血潮が地面をくれないに染めていく。

「そんな事出来る訳無いよ!」

 ゆかりは今にも事切れそうな直人に涙の訴えをした。

「おい! 俺もいるんだぜ、お二人さん。安心したまえ、まとめてあの世に送ってやるからよ…でも、その前にゆかりちゃんとは楽しい事をしてからだ。生きてんなら、そこで俺達の”むつみ合う姿”をじっくりと眺めてからきな、直人」

「きゃあっ!?」

 突如、目の前に現れた隆司は平手一発でゆかりを押し倒した。

「や、やめ…ごはっ…が!」

 気管に流れ込んだ血が口を塞ぐ。

 直人の弱々しい声は隆司には聞こえる筈もない。

「あはははははは! 思い出すぜ博子をっ。今から、最高に楽しませてやるぜ!」

「い、いやああああああっ!!!」

 ゆかりは馬乗りになる隆司を必死に払おうとするが、身体からだがまるで言う事を聞かない。自分の身体ではないようだ。いかに訓練を積んだゆかりでも連続の服用は身体の自由を奪うに十分過ぎた。


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