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鬼刻の夜明け―卒業式。鬼になった彼女を、守れなかった俺は  作者: MASAO
七章

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覚醒 2

「以外と早かったな。ご両人」

 煙草をふかし隆司が挑発した。

「隆司っ!」

 直人は叫んだ。

「よくここまで来れたな…大したもんだ」

 隆司は森の開けた小さなほこらの前で不敵に笑った。

「お前の鬼気ききが俺達をここまで導いた」

「へえ、いやあ~。ホント大したもんだ」

「逃走もここまでね」

 ゆかりはジロリと隆司を睨んだ。

「ククククク。元々、ここへ誘き出す為にきっちりと足跡を残してきたんだぜ」

「何っ!」

「ギャハハハ。イッツアショーターイム!」

 ドゴンッ

 隆司は掌でほこらを吹き飛ばすと中から鬼石おにしを取りだした。

「何をする気!?」

 ゆかりは護符の付いた鬼石おにしを見ながら不測の事態に備え、矢を素早く弓につがえた。

 パーンッ

 弾ける音。

 隆司は素早く鬼石おにしの護符をはがし、掴んでいた手の握力でそれを粉々に砕き散らした。

 ゴウッ

 黒い風がうなる。

「何だ!?」

「何をしたの!?」

 直人とゆかりは辺りを包み込む異様な気配に脅えた。砕け散った鬼石おにしの中から凄まじい鬼気ききが放出される。

 鬼気…いやこれは様々な人の負の念。

 怒り。

 悲しみ。

 ねたみ。

 うらみ。

 欲望。

 そして絶望。

 それらが入り交じった気質。

 あらゆる負の力が入り混じった、悪想念あくそうねんだ。

「うっ!?」

 ゆかりは突然ふさぎ込み嘔吐おうとした。

「大丈夫か深山!」

 直人はゆかりに駆け寄る。

「ううう…な、に…これ…は、人のしき念」

 ゆかりは必死に吐き気を押さえながら言った。

しき念…?」

「そう…これは鬼精体きせいたいの、鬼のえさ…好物よ…平気なの…直人君?」

「俺は平気だ。それより、どう言う事だよ!」

「忘れたの。鬼精体きせいたいは元々、人の魂だって事を…なぜ、人が”鬼”になるのかを!!!」

 ゆかりは苦しそうな瞳を直人に向けた。

「…負の念が魂を鬼精体きせいたいに変える…しき念の集合体…まさか!?」

 叫ぶ直人は隆司の頭上に集まりつつある黒く巨大な影を直視した。

「ギャハハハハハハハハハハッ」

 狂喜きょうきした隆司。

「で、デカ過ぎるっ!」

 直人はそこにある、人の持ちるあらゆる負の念に恐怖した。

「直人君逃げよう…あんな、あんな念を吸収されたら敵う相手じゃなくなる。悔しいけど私達の手に負えるような鬼じゃないよ!」

 直人はゆかりの脅えた顔を初めて見た。

 その間、隆司の額に妖しく瞬く鬼の角が一本出現し、頭上にある黒い塊がそこへ吸収され始めた。

 確かに直人は逃げ出したかった。だが、今逃げたからと言っても何も状況は変らない。それどころか事態が悪化するのは明白だ。

 隆司は俺がどこへ逃げてもきっと殺しに来るだろう、あいつにとって俺は目障りな存在だったらしいからな。いくたびかの戦闘で俺も鬼気ききを感じられるようになっていた。そんな俺でも解る程感じる、本能が危険だと警告する気質。

 あの気丈きじょうな深山までもが恐れおびえている…でも、きっとここで逃げ出せば力を手に入れた隆司によって、命を奪われる人がたくさん出るに違いない…以前の俺だったら顔も知らず、名も知らない人が死んでも冷静に「人が死んだ、かわいそうに」なんて思うだけだったのかもしれない。だけど、今は違う! 目の前で人が死んだ! 俺の両親が死んだ。隆司の家族も死に、知らないじいさんも死んだ。そして博子も一生あの状態であるならば死んでしまったも同然だ…もう人が死ぬのは見たくない。隆司は奪った命のの念を吸収し続け、更に強大になっていくんだろう。やっぱり隆司の助けられるのは、今この場にいる俺しかいないじゃないか! いつかは正面から向かわなければならない問題だったんだ。逃げられる訳がないよな。何より、もう俺は逃げたくない。受験の失敗が何だ! 俺はいつもいい加減な態度を演出して、言い訳の口実を作って逃げ道を用意していたんだ…俺はもう逃げない。俺の生きる道は一つしかないんだ。やって見せるさ全力で…やってやる。越えてやるよこの壁を!!!

 俺は”闇風”だっ!!!

 直人の腹は決まった。強大な鬼になろうとする隆司を前に、自暴自棄じぼうじきになっていたのかも知れない。いくら口実を並べたところで本質はただ、この”現実”と言う世界から”逃げ出したい”の一心でしかなかったのかも知れない。だが、今を逃して隆司を倒す事は、恐らく不可能であるのもまた事実。

「うおおおおおおおおおっ!!!」

 その恐怖に打ち勝つ為に直人はえた。

「直人君…」

「隆司いいいっ!!!」

 滅鬼めっき揺らめく桃迅激とうじんげき正眼せいがんに直人は構え疾風はやてごとく隆司に跳んだ。

 キイイインッ

 隆司は直人の上段から繰り出された桃迅激とうじんげきたてのように変化させた鬼の腕でそれを防いだ。

「今、いい気分なんだから邪魔するなよなあああ~」

 シュウッ

「くは!?」

 直人は隆司から放たれた黒い鬼気ききに弾き飛ばされた。

「直人君!」

「くそぉ」

 直人は立ち上がり再び隆司に挑んでいくが、その度に吹き飛ばされる。

「もういいよ直人君! 逃げよう!」

 ゆかりが直人に駆け寄った。

「ダメだ。ここで逃げても隆司はきっと俺を追ってくる。きっとアイツはたくさんの人の命を吸い、今よりも強くなる…今ここでアイツを止めないと…たくさんの人が死ぬ!」

 咳き込みながら直人は言った。

「だからって、直人君が死んじゃったら意味がないでしょう!」

 悲鳴に近いゆかりの制止。

 ゴアアアッ

 その時、辺りにビリビリと感じていた鬼気ききが一カ所に集結をし衝撃波が走った。

「くっ!」

「きゃあ!?」

 直人はとっさにゆかりをかばい前へ出た。

「フウウウ、エネルギー充填完了…さあ、お前の最後の時が来たぞおおお。死ねよ直人!!!」

 カッと見開く赤い眼。

 空に存在していた負の念が跡形もなく隆司に吸い込まれていた。しかし、額のつのと両腕を除いて隆司はほとんど人の姿のままだ。だが、放たれる鬼気ききは以前とは比べ物にならない程強力だ。

「死ねるかよ!」

 ザンッと地を蹴り直人は駆けだし桃迅激とうじんげきを突きだす。

りねーバカがっ」

 ドンッ

「があっ!!!」

 隆司の放った鬼気のかたまりで再び直人は弾き飛ばされた。直人自身これで幾度目か分からないが地面に叩きつけられる。しかし闇風のバトルスーツのお陰で致命傷は負っていない。

 「直人君…」

 ゆかりは、それをただ見ていた。いや、強大な鬼を前にして動く事が出来ないでいたのだ。

「俺さあ、ずっと思ってたんだけど。お前武器なんか持ってズルくな~い?」

 そう言うと隆司は足下に転がっていた1メートル程の枯れ枝を拾い上げ鬼気をてた。

 一瞬、枯れ枝が歪む。そして変形を始めた。

「…何をしてる? 隆司!!!」

「な、何あれ…?」

 ゆかりは我が目を疑った。枯れ枝は一呼吸置いて西洋の黒い剣に変形したのだ。

「あはははっ。本当に変っちまいやんの。アイツの言う通りだぜ」

 隆司は赤い眼をパチクリさせ歓喜した。

「深山っ。何だよあれは!」

 血相を変えた直人はゆかりを見た。

「分からない…分かんないよお!!!」

 ゆかりは悲鳴を上げた。

「スゲーなぁ、直人…うん、決めた。この力を”Materialize(顕在化けんざいか)”と命名したぞ」

 隆司はまるで学校で直人に話すように語りかけた。

「マ、マテリアライズ…アイツ? ”アイツ”って誰だ!」

 直人は叫んだ。

「アイツはアイツ。俺の中にいるもう一人の俺だって、そんな事も分かんねーのかお前?」

 隆司は呆れたように言った。

「そいつは鬼だ! 鬼精体きせいたいなんだよ隆司…お前じゃない」

「そんな事は分かってるっての。アイツは俺に色々教えてくれるぜ。マテリアライズやこの地にある力…「氷室ひむろ」とか言う一族が昔に封印した鬼石おにしとかな」

 ケラケラと笑いながら隆司は言った。

「…氷室ひむろですって…まさかアンタ!」

 それまで恐怖のあまり震えていたゆかりが叫んだ。

 ヒュッ

 ゆかりの放ったクナイは隆司を目指し飛ぶが、鬼気に阻まれ当たる事はなかった。

「おっ、ゆかりちゃんもやる気になったな。ほんじゃ、リターンマッチと行きますか!」

 シャッ

 隆司は今までの速度とはまるで段違いの加速をすると一瞬にしてゆかりの目の前に現れ、手にした黒い剣を振り上げた。

 ゆかりは反応できない。

「隆司いいいっ!!!」

 直人の瞳が真っ赤に燃え上がる。

 懐の勾玉が黒く変色を始めた。

 ザッ

 黒き風。

 キイイイイイインッ

 衝撃音が響き渡った。

 …背中。

 誰?

 突如、目の前に現れた人物がゆかりには理解出来なかった。

「速えーじゃねーか…直人」

 隆司の振り下した剣を、直人は桃迅激とうじんげきで受け止めていた。直人は一瞬にして十メートル以上離れた位置から隆司の目前に出現したのだ。

「…直、人…君?」

 あまりの速さの出来事にゆかりは把握するのに時間を要した。

 鍔迫つばぜり合い。

 鬼気きき滅鬼めっきが干渉し火花を散らす。

「お前の、相手は…俺だあっ!!!」

 ガッ

 直人は隆司の剣を跳ね除けると電光石火でんこうせっかの正面蹴りを放った。

「ぐへっ!?」

 隆司はそれをまともに喰らい吹き飛ぶ。

「隆司いいい!」

 吹き飛ばされた隆司を追うように直人は低く跳んだ。だが隆司の赤い眼が追ってくる直人を捕らえると、そのまま回転して地面に掌を放ち蹴りを繰り出した。

 ガンッ

「くっ」

 直人は隆司の逆立ちをした様な鋭い蹴りを一文字に構えた桃迅激とうじんげきで防ぐ。そのまま隆司の足を起点に倒立伸身宙返り。直人は宙高く舞い上がるとそのまま近くの木の幹まで飛び、真横に着地した。

 ダンッ

 直人は幹のしなりを利用し、垂直に飛び上がった隆司の背中目指し桃迅激とうじんげきを構えて鋭角に跳んだ。

「イテエーんだよっ」

 隆司は直人の気配を背後に感じ、振り向き様に剣を振るった。

 シャーンッ!!

 斬り結んだ瞬間、放った斬撃は互いのベクトルを変え着地した。

「どういう事…何で直人君があんな”鬼”と対等に渡り合えるの? ドーピングしている私でさえ奴の動きを追うのが精一杯なのに」

 ゆかりは援護をしようにも二人の動きが速すぎて鬼を捉えきれない。

 対峙する二人。

「これだよこれっ。この何とも言えねー高揚感。博子を汚した時も感じた、これだよおおお!!!」

 興奮した隆司が叫んだ。

「黙れよおおお!」

 叫ぶ直人は揺らめき立つ桃迅激とうじんげきを隆司に振るう。隆司もまたそれに応え剣で受け止めた。

 残像を残す、まるで鬼神の如き直人の連撃。隆司もまたそれを受けながら、笑みを浮かべ直人に引けを取らない斬撃を繰り出す。

 閃光の攻守攻防を繰り広げながら、鬼神と悪鬼は戦いの場を開けた場所から森へと高速で移動していく。

「直人君!」

 ゆかりも二人を追い跳躍ちょうやくした。

 隆司の強大な鬼気ききに惑わされ、直人の身体から放たれる気配をゆかりは見逃していた。


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