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鬼刻の夜明け―卒業式。鬼になった彼女を、守れなかった俺は  作者: MASAO
六章

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約束 6

 朝倉は梅澤うめさわ市方面から奥田間おくだま周遊道路入り口、「安らぎの森」パーキングを目指し愛車を走らせていた。得体の知れない二人組によって、今度は自分が追われる立場になった事への驚きと焦りが朝倉を逃走させる。とにかく身を隠せる場所をと考え「安らぎの森」に決めて走った。真夜中の山奥なら奴らも想像できまい、何より明日は十二年前の現場へ足を運び再調査をするつもりであった。そしてこのパーキングは、その現場から少し奥へ行った所に存在し、しかも奥田間おくだま登山道の入り口となっているのだ。一晩、姿をくらますには丁度いい。再調査もかねて一石二鳥だと朝倉は思った。こんな状況下でも捜査を優先する自分は、やはり刑事なのだと朝倉は苦笑した。

「しかし、あの女、安西あんざいとか言ったな…何者なんだ。本当に公安、それとも闇風か…どちらにせよ俺はもう引き返せないようだな。平井さん、俺はイケる所まで走ってみますよ」

 朝倉は平井の名を口にした。

 途中、車のトランクに積んである普段着に朝倉は着替え、同じく積んであるスニーカーを履いた。いつでも署に泊まり込めるようにしている刑事のたしなみだ。

 そなえあればうれいなし。朝倉はそう思いながらダッシュボードの中に隠しておいたガバメントの確認をした。

 黒く冷たい鉄の塊は、触れるのを”まだか”と言わんばかりにグリップが手にフィットした。身の危険を感じている朝倉はそれをズボンの中に挟み装備する。ホルスターが有ればいいのだが、生憎あいにくそんな物はこの車には無い。まるでヤクザの鉄砲玉だと再び朝倉は苦笑した。

 深夜の梅澤うめさわ街道。車を飛ばさなくとも五十分程で、朝倉を乗せた白いスポーツカーは目的の地に着いた。辺りは夜の静寂に包まれていた。

 異変に気づく。

「何だ?」

 周遊道路と「安らぎの森」パーキング入り口のゲートが壊され開け放たれている。梅澤うめさわ警察署で巡査長が言っていた「周遊道路のゲートが壊されている」と言う言葉が思い出された。

「全く、壊されたんなら何らかの対策を考慮して置けばいいものを。このまま放置じゃ、職務怠慢だぞ…それとも、どこかにパトカーでも止まっているのか?」

 今は自分も追われる身だという事を思い出し辺りを見回した。

「ん?」

 パーキング内にヘッドライトの点いている単車があった。夜の冷気にエンジンが止まったのかブルーメタリックのバイクは静寂の中、煌々(こうこう)とライトをつけていた。

 不審に思った朝倉は車をパーキングに入れて、それを確認する為に下りた。持ち主がいるのなら少し注意をしなくては、そんな警官根性が働く。近寄りながら自分も十分不信だな、と感じながら朝倉は歩いた。だが近付くにつれ、その辺りには人っ子一人いない。

「どういう事だ…?」

 バイクのヘッドライトは登山道入り口を照らし出しているだけであった。

 ドクンッ

 心臓が激しく鼓動する。

「黒いサイドカーだと!?」

 身体が震える。

 朝倉は我が目を疑い、そのサイドカーの止めてある所まで走った。

「…間違いないこれだ」

 息を切らせながら呻いた。

 若干、左サイドのテールボディーが削れ、テールランプが損傷しているが間違いなくこのサイドカーは「神崎」のものだ、そう朝倉は確信した。

 朝倉は寝ていた所を公安に踏み込まれ、逃走したお陰でこの「安らぎの森」パーキングに、このタイミングで来る事が出来た。降って湧いたチャンスに興奮する。

 朝倉はエンジンのある位置をボディーの上からそっと触れた。

「温かい! そう遠くへは行ってない筈だ」

 これは平井さんの導きか! 朝倉はそう考えずにはいられず、急ぎ車に戻ると入れっぱなしだった紺のミリタリーハーフコートを羽織り装備を整え、LED懐中電灯を手に単車のヘッドライトが照らし出す登山道入り口を急ぎ登り始めた。

 平井の吸う銘柄の煙草がここにはない事を朝倉は忘れていた。

 この朝倉が進むきっかけとなった道標のブルーメタリックの単車は、隆司のスーパーバイクだという事を知らない。

 平井の導きではない。

 そこへ誘うは鬼、進むは鬼道きどうである。

 ヒュウ

 春の冷たい夜風が笑った。




 夜の闇に紛れてそれは着陸する。

 梅澤うめさわ市に程近い、奥田間おくだま周遊道路の途中にあるヘリポートに黒塗りのヘリコプターが無音で一機、舞い降りた。

 スライドドアが勢いよく開く。

「さすがに冷えるな」

 ヘリから降りた細身で金髪の男が言った。

「寒さのせいで、後れでも取る気かしら次郎ちゃん?」

 続いて降りた色白でショートカットの女が次郎をからかう。

 紅い口紅が印象的だ。

「姉貴、そんな事ある訳無いぜっ」

 次郎は女に少し膨れたように言った。

「まあ?」

 女はおっとりとした調子で次郎をあしらった。

「ふざけている暇はないぞ、桜!」

 背後から野太い男の声が二人に飛んだ。

「すみません…一郎兄さん」

「でもよ、兄貴!」

 黒いバトルスーツを着た二人は一郎を見た。

「二人とも解っていると思うがこの任務は、我ら「かすみ」のグレイト級としての初任務だ。ここで”鬼”に後れを取れば、率先してサイバリンク強化調整を受けた意味がない。鈴宮すずみやは”最強”の闇風やみかぜとして、他を圧倒せねばならない。そうすれば頭首の爺様も深山みやまの小娘を気に掛けずに済むというもの。あの老いぼれの跡を継ぐのは我らかすみだ。まして行方ゆくえが分からぬ「金剛羅刹こんごうらせつ」など不要。闇風の実権は我ら”鈴宮”のもの。故にこの身をヤツら、マッドサイエンティスト共に差し出し更なる力を手に入れたのだ。気を抜くでないぞ。桜、次郎」

 一郎と呼ばれたスキンヘッドのガッシリとした男の目が鋭く光る。

 歴戦の戦士の目だ。

「ああ、解ってるって兄貴」

「はい、私もあんな殺風景な施設で測定のための訓練なんてもうまっぴらです」

 桜と呼ばれた女はウンザリした様子で言った。

「だけどよ。予定じゃ、ここで深山と新入りをピックアップするんじゃなかったか?」

 次郎は辺りを見回した。

「状況が変わったんじゃないかしら」

「…うむ。桜よ、目標の位置は解るか?」

 一郎は桜の問いかける。

「はい、少々お待ちを…」

 桜は目を閉じ意識を集中させて鬼気を探る。

 その間、次郎はヘリから武器を取り出した。

「…南西、直線距離で約9000メートル付近の山中を西に移動中…それと、人が三人追うように移動しています」

「三人…変じゃねーか? それにダムじゃなかったのか」

 準備を整えた次郎が口を挟んだ。

「確かにな…二人の間違いではないのか? 報告と違う」

 一郎は桜に言った。

「そんな事はありませんわ! 私のこの千里眼せんりがん探知はお二人より正確です!」

 桜は反論した。

「ふむ…まあいい。状況は刻々と変化するものだ、現場に行けば解るだろう」

 一郎は腕を組みながら次郎に目線を送る。

「よう兄ちゃん。俺達これから目標に向かうから、もう帰投していいぜ」

 次郎はヘリのパイロットに声を掛けた。パイロットは復唱するとヘリを離陸させ黒い空へと消えていった。

「状況開始だ…かすみ、参る」

 三人はヘリを見送ると、一郎の掛け声と共に疾風さながらに黒き森の中へと走り去っていった。




「ずいぶんと山の中に来たものね」

 安西玲香あんざい れいかはハンドルを握る男に言った。

「彼ったら刑事なのに、こんな人気のない所に来ちゃって、やっぱり追われる者の心理ってやつかしらねえ?」

 だが、男は全く反応することなく曲がりくねった峠を進めていく。

「…はあ、全く被験体だか何だか知らないけど、私一人の方がまだマシだわ」

 玲香れいかはナビゲーションモニターを眺めながら言った。

「そろそろね」

 GPSの示す地点が近い事を告げた。

 黒いセダンはそれから程なくしてパーキングに到着した。

 そこにはヘッドライトの点いたバイクと破損したサイドカー、そして朝倉の白いスポーツカーが止まっていた。

「こんな真夜中の山奥にしては、また随分とにぎやかねぇ」

 不審に思った玲香れいかは独りつぶやいた。

 男は車を降りるとスーパーバイクのヘッドライトで浮かび上がる登山道入り口を指さした。

「そっちに移動しているって事? 彼、誰かとランデブーでもしているのかしら…ま、いいわ。行きましょう」

 玲香れいかは闇風から支給されている暗視ゴーグルを装着すると、男に声を掛け不慣れな山歩きに入った。

 今、ここに追われる者と追う者。倒される者と倒す者が集結しようとしていた。


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