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鬼刻の夜明け―卒業式。鬼になった彼女を、守れなかった俺は  作者: MASAO
六章

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約束 4

 満月。

 世界の全てが穏やかな銀光に包まれている。

 そして静寂。

 満開の桜が白くおぼろげに浮き上がるさまが幻想的だと直人は感じた。

 時計の針は午前2時を指していた。

 奥田間おくだま湖ダム。

 人の造りし湖。

 ダムの入り口付近にある駐在所には明かりが灯っているが人の姿はない。

 直人とゆかりは昼間であれば湖を一望できるダムの真ん中にたたずんでいた。

 コツ

 コツ

 コツッ

 闇の中、ダムの端から人の足音が響いてくる。

 いや、人にあらず。

 直人とゆかりはバトルスーツに包まれた体を身構える。

 外灯の微かな光がその者を照らし出した。

 白いライダースーツ。

 赤い眼がニヤけている。

「いよお~。待ったかい? お二人さん」

 静寂を破り隆司の陽気な声が響いた。

烈風刃れっぷうじん!」

 ヒュン

 一呼吸置かずにゆかりの放つ降魔必中の一撃、破魔の矢が光を放ちながら隆司を目指し宙を走った。

 ガッ

「おいおい、いきなりは無いだろう? いきなりはよう」

 隆司はその矢を難なく左手で掴み取った。

「せっかちは嫌われるぜ。ゆかりちゃん」

 カランと矢は地面に投げ捨てられた。

「隆司、お前その左腕は…」

 直人が切り落とした筈の腕が付いている。

「あ、これか? 何かくっ付けてみたら見事に付いちまってよ。俺って凄くない?」

 隆司は楽しそうに言った。

「…何て強い肉体再生能力なの…やっぱり奴は手強いわ。私の遭遇した中で間違いなく最強の鬼よ。未だに人の姿でいられるのが不思議なくらい」

 ゆかりは息を呑んだ。

「隆司…お前をその鬼から救ってみせる」

 直人は静かに呟いた。

「さあ~てと、そんじゃあ。決着でもつけようか、直人おおお!!!」

 シャッ

 先に動いたのは直人だった。疾風の如く駆け出し携えた桃迅激とうじんげきを下方から隆司に斬りかかる。

 シュッ

 空を裂く音。

 隆司はその斬撃を紙一重でかわすと直人の顔面に閃光の如き拳を繰り出した。が、隆司から走る赤い影が直人を捕らえる瞬間、右に跳び退き監視塔を足蹴あしげに再び隆司に飛びかかると上段より桃迅激とうじんげきを振り下ろした。

 ガシイイイッ

 辺りに激しくぶつかり合う音が響いた。

「くそっ」

 直人は毒づいた。

「なめんなよ」

 隆司は直人の一撃を左腕で防いでいた。

 不自然に筋肉が大きく隆起した赤黒い異形、鬼の腕だ。瞬時に隆司は左腕を鬼化おにかさせ、それを防いだのだ。

「おらあああああああっ!!!」

 ブンッとその腕を勢いよく振り、直人の全体重を掛けた一撃を身体ごと吹き飛ばした。

「うおおお!?」

 直人は運良くダムの底には落ちず、監視塔の扉に叩きつけられた。

 ヒュッ

 その隙に鈍い光を放つクナイの雨が隆司めがけて飛来する。しかし、隆司はもうその場にいない。

「速い!?」

 ゆかりは隆司と直人を飛び越えクナイを放ち、着地と同時に矢をつがえたが標的となる隆司の姿がない事に唇を噛みしめた。

 背後に悪寒が走った。

「ダメだよ~ゆかりちゃん、不意打ちはぁ」

 隆司は喋ると同時に鬼の爪を一気に振り下ろした。

 ガシリと鬼の爪がコンクリートを砕く。

 刻まれた五本の爪痕つめあと

「なっ!?」

 隆司の驚愕した顔。

 反転したゆかりの顔と視線がぶつかり合った。

 時がゆっくりと流れる。

 ゆかりは華麗なる側宙返そくちゅうがえりでそれをかわし、天地を反転させながら瞬時に印を切った。

空裂破くうれつは!」

 しょうを突きだしゆかりの声が凛と響く。

「ぐはあっ!」

 ドンッ

 鈍い音が顔面を襲い隆司は吹き飛ばされた。

 霊気により発生し、ゆかりの言霊ことだまで発動した目に見えない衝撃波だ。

「直人君!」

 片膝を突き着地したゆかりが隆司から視線を外さず叫ぶ。

「おおおっ!!!」

 その声と共にゆかりの脇を直人は一気に、そして低く跳躍をしながら桃迅激とうじんげきを横一文字に構えると隆司めがけて左胴払いを振り切る。

 桃迅激とうじんげきが微かに揺らめき立つ。

 右手で顔を押さえた隆司がユラリと立ち上がった。

 カキイイインッ

 凄まじい低周波に似た音が辺りを包んだ。

「く!?」

 直人は呻く。

 隆司の鬼の手から鬼気ききが溢れ出し霊気を放つ直人の桃迅激とうじんげきしょうで受け止めていた。

 鬼気きき滅鬼めっきの干渉が霊的スパークを生む。

「いい加減にしろよ、このブタ共があああ!!」

 雄叫びと共に顔を押さえていた隆司の右腕も鬼の手に変形する。轟音を立てながらその腕が直人の顔めがけ放たれる。

「はあああっ!!!」

 直人はえた。

 パアーンッ

 隆司の放った拳を右足が垂直に蹴り上げるとその勢いを利用して直人は後方へ跳んだ。その瞬間、隆司の視界から直人が消えると、ゆかりが力を溜めながら弓を構える姿が飛び込んできた。

 キリキリ

「なっ!?」

 隆司が息を呑んだ。

烈風刃れっぷうじん!」

 ヒュンッ

 涼しげな音を立て弓は矢を解き放つ。

 闇に光の軌跡を残しながら矢は驀地まっしぐらに隆司に迫る。息の合った見事なコンビネーション攻撃だ。

 カーンッ

 ゆかりの放った矢は遙か後方の休憩所の柱に深々と刺さっていた。咄嗟とっさに隆司は体をずらしてそれを何とかかわしたのだ。

「て、テメーら卑怯だぞ!」

 隆司の頬に赤い糸を引いたように血が流れ落ちた。

退け)

 隆司の中で鬼精体きせいたいが言った。

「くっ」

(遊びはしまいだ)

 不満の顔を隆司は浮かべた。

さそい込め)

 再び心に鬼精体きせいたいの声が響く。

「直人っ、バイクで勝負だ! 約束だったよなあ!!!」

 隆司はそう言うと自分の単車のある所へと急いで跳躍ちょうやくした。

「隆司っ!?」

「行こうっ。直人君!」

 ゆかりの声が引き金となり直人は急ぎ隆司の後を追った。


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