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鬼刻の夜明け―卒業式。鬼になった彼女を、守れなかった俺は  作者: MASAO
六章

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約束 3

 どれ程の時間が過ぎたのだろうか。

 朝倉は浅い眠りから覚めた。

「…何時だ?」

 壁時計に目をやる。

 午前一時。

 三時間程、居眠りをしていたようだ。

「お目覚めのようね。朝倉哲也あさくら てつや君」

 突然、横になっている朝倉の頭上から女の声が響いた。

「なっ!?」

 その声に反射的に視線が走った。

「誰だっ」

 体を起こしながら声の主を見た。

「あら、そう騒がないでくれるかしら。決して怪しい者ではないのよ」

 女は少し長めの髪を指で挟み枝毛を探しながら言う。

「怪しくないだと!」

 朝倉の簡易ベットに黒いコートを広げて腰を掛け、同じく黒の上下スーツを着たつやのある女。若干、朝倉よりも年上に感じられる。短めのタイトスカートから妖しくスラリと伸びた白い足を組み替え、ニコニコしながら朝倉を見た。一見すると人好きしそうな綺麗な顔立ちの笑顔に見えるが、その瞳の奥には大人の女性が持つ妖艶ようえんさが見え隠れする。が、それ以前に不法侵入をしている時点で十分怪しく危険だと朝倉は感じた。

「不用心ね、鍵が開いていたわよ。まあ、そんなにかしこまらないで。私も君と同じ警察官なのよ。だからね、もう深夜なんで、お・し・ず・か・に」

 やはり女は動じる事なく、まるで子供をあやすように優しく答えた。

 鍵が開いていただと? 嘘だ! 俺は二重に閉めている。朝倉はこの女が只者ただものでない事を直感した。

「警官だと。ふざけるなよ!」

 朝倉は更に声を荒げて叫んだ。

「はぁ…もう、仕方ないわね」

 女は朝倉の背後に向かって顎をしゃくり上げながら声を掛けた。

 カチャリ。

 ハンマーを引き起こす音。

「な!?」

 刑事である朝倉ですら、滅多に聞く音ではないだけに驚いた。

 後ろをゆっくりと振り返った。

 薄暗いダイニングキッチンの中に一人、ガッシリとした男が同じく黒いスーツでそこに立っていた。黒く光るニューナンブの銃口が朝倉を捕らえている。

 侵入者は一人ではなかった。

 朝倉は二人に挟まれていた。大して広くもない部屋にも関わらず、こうも前後を簡単に取られてしまった。”特殊な訓練を受けている”と朝倉は感じ取る。

 頭の中で警鐘が鳴り止まない。

 朝倉自身も訓練を受けているが、この二人とはまるで質が違う。

「少しは立場が飲み込めたようね。朝倉君」

 女が再びニッコリと口を開いた。

「…何者だ」

 刑事へのお礼参りはたまにある話だが、朝倉には全く覚えのない者達だった。いや見知った者ではないからこそ、その線も捨て難い。

「先程、申し上げたように私達は警察官よ。少し毛色が違うんだけどね」

 ほがらかな笑顔を浮かべてはいるが、細くなった目の奥が鋭く光る。

「公安警察か?」

 朝倉は女の「警察官」という言葉ともう一人の男がニューナンブを持っている事から答えを導き出した。

御名答ごめいとう。なかなか良い洞察力を持ってるわね君。それじゃ、自己紹介。会話に困るでしょう? 私は安西あんざいとでも名乗っておくわ」

 安西と名乗った女はからかうように答えるとゆっくりとベットから腰を上げた。胸元を強調するスーツを着ているため体のラインが妙に色っぽい。しかし、秘密主義の公安警察が名乗った名など信用するに値しないなと朝倉は思った。

「俺に何の用だ。公安に目をつけられるような事はしていないと思うがな」

 少し目のやり場に困りながら、侵入者が同じ警察官であると解った朝倉は落ち着いて質問を返した。が、やはり危険だという状況は何も変らなず警戒心を強めた。

「それがしているのよ、困った事に、だけどね。今日は君に忠告をしに来ただけよ。今、君が関わろうとしている事は国家最重要機密に関わる事なのよ。事の重要性を解ってる? これ以上の関与は”非国民”と言う扱いになるのよね。国家に対する反逆者として、私達は君の身柄を拘束しなくてはいけなくなる訳。それは君も望まないでしょう?」

 安西は酔いしれた様に流暢りゅうちょうに語る。

「どういう意味だ」

「それは君がよく解っている筈よ。まあ、このまま別件逮捕という手もあるわね。日本には銃刀法という法律があるからね。こういった手段は君達の十八番おはこよね。朝倉君」

 明らかに朝倉が手に入れたガバメントを指している。自分の行動が筒抜けになっている事に朝倉は息を呑んだ。

「あんた、何を言っているんだ。意味がよく分からんが」

 何も知らないふりをして情報を手にする。刑事の捜査でも時折、使う手段に朝倉は出た。

「君。私達を舐めて貰っては困るわよ。これ以上「アレ」に手を出してはいけないのよん」

 安西はおどけて言った。

「…あれとは…」

「あれは「アレ」よ。ほら、君のお仲間のおじいさんが血祭りになったでしょう? アレに触れた罪ね、名前は…そう、平井三郎だったかしら? ぶんわきまえずに踏み込むからよ、みっともない話よね。あははははははっ、バッカみたい」

 朝倉の問いに安西が挑発的に乗った。

「き、貴様ら闇風やみかぜか!!!」

 平井の死を笑われた朝倉は一瞬にして頭に血が上り口を滑らせた。相手は情報操作の専門だ。朝倉のような普通の刑事が誘導尋問できる相手ではないのだ。

「あらやだ、そんな事まで知っているのぉ? 困ったわね、君は踏み込んでしまったのね。成程、成程。そう踏み込んじゃったのねえ。前言撤回…この非国民め!」

 安西の形のいい眉が歪み、穏やかな顔が一変して鬼の形相に変った。

 ボクッ

「ぐっ!?」

 安西が不意に朝倉の鳩尾みぞおちに白い膝を叩き込んだ。たまらず朝倉は床にうずくまった。

「貴様の身柄を拘束する! どこまで嗅ぎつけていたか、じっくり吐かせてあげるわ。数日は寝られないと覚悟する事ね」

 愉快そうに安西は言った。

「れ…令状はあるんだろう…な」

 呻きならが朝倉は声を絞り出した。

「何言っているの君は? 私達を誰だとお思い? 一般の警察と一緒にされては迷惑よ、君らのような面倒な手続きは簡略化されているの。命令…勅令ちょくめいに関してはあらゆる特権が許されている。探偵ごっこは終わりよ朝倉君」

 ガッ

「ぐが!」

 安西は笑顔で言葉が終わると同時に、うずくまる朝倉を蹴り上げた。

「ちょっと、拘束よ手錠を出しなさい!」

 もう一人の男に安西が声を掛けた。

 手錠を手に男が朝倉を迂闊にも覗き込んだ。

 その時。

 ドガッ

「ぐっ!?」

 男が油断して目を離した瞬間、転がっていた朝倉が拳を激しく顎に叩き込んだ。

 男はそのまま壁によろめく。

「きゃっ!?」

 安西はそのあおりを喰らい床に尻餅しりもちをついた。よろめいた男は再び拳銃を取り出そうとふところに腕が伸びた。

「くそっ」

 ガシャンッ!!

 刹那せつな、朝倉は自室の二階の窓から身を投げ出した。

南無三なむさんっ!!!」

 死ぬかも知れない。そう思ったが身体が先に動いてしまった。

 ドンという鈍い音が辺りに響く。

「う、痛てえ…」

 朝倉は運良く下の路地に止めてあった車の屋根に落ち何とか大怪我をまのれたが、車の屋根はかなりひしゃげている。急いで朝倉はそこから地面に飛び降りると少し離れた駐車場にある愛車へと暗闇の中を駆け出した。

 その様子を二階の部屋から確認した男が逃げ去る朝倉に照準を合わせた。

「やめなさい」

 安西がそれを制止した。

 男はその命令に黙って従う。

 今の騒ぎで、デスクトップのPCがスリープから立ち上がり”ようこそ、やみかぜへ!”のページが表示された。

「…このサイトも、そろそろリニューアルかしら」

 安西の言葉に反応した男がモニターの萌えキャラを黙って凝視した。

「はあ~。少し騒ぎすぎたわね。彼の移動手段は車よ、発信器はとうに付けてあるんだから、行き先はこちらに全て筒抜け。それにしても彼、タフね。元気のいい子って私好みなのよね」

 闇に消えゆく朝倉の背を見ながらペロリと舌なめずりをする。

「彼を追うわ。この場は放棄、撤収よっ」

 安西は恋をした乙女のようにうるんだ瞳を輝かせていた。




「はあ、はあ、はあっ」

 朝倉は真っ暗な駐車場に止めてある車まで全力疾走するとドアミラーの外装を外し、そこからスペアーの始動キーを取り出すと車内に滑り込んだ。

 ブロウォン

 ロータリエンジンの低い唸りが上がる。

 早くこの場から離れなくては。そんな焦る思いが一気にアクセルを踏み込ませた。

 ギュルルルッ

 ツーローターのパワーはドライブシャフトを通して駆動に伝わりアスファルト面にブラックラインを刻む。辺りにはゴムの焼けた匂いが漂う。急発進をした白いスポーツカーは、加速を掛けながらリトラクダブルが開きライトオン。行く宛ても無く真夜中の逃走劇へと消えていく。

 朝倉を乗せた車は梅澤うめさわ街道を目指し加速する。すでに目的地は無意識下で決まっていたのかも知れない。何か見えない力にいざなわれるかの様に。


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