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鬼刻の夜明け―卒業式。鬼になった彼女を、守れなかった俺は  作者: MASAO
二章

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闇風 5

 白いセダンは浅黄あさぎ警察署の地下駐車場の定位置に止まった。

 時計は夜の9時を指している。

「うさんクセーなぁ」

 おもむろに平井が言った。

「は? 何がですか」

 事件の事に意識の取られていた朝倉が聞き返した。

「お前、もう少し洞察力を働かせろ。たまに抜けてるよな」

「すみません…で、何なんですか?」

「あれだよ」

 顎をしゃくりながら駐車場の端で車に乗り込む一組の男女を指した。

「あの二人がですか」

 黒いコートをひるがえし乗り込んだ二人を遠目で確認して朝倉が言った。

「ああ」

「本庁の人間じゃないんですか。今回の事件で向こうの人間も大勢この署に来ていますから」

「だといいがな」

 そう言うと平井は歩き出し朝倉もそれに続き階段を上りだした。

 二人は署の三階に設置されている捜査本部へと向かう。

「何だ?」

 朝倉は言った。

 本部のある廊下が何か騒がしい。

 捜査員百名を収納するために二つの会議室をつなげた本部から機材の運び出しが行われている。

「おい…こりゃあ」

 平井が驚いた顔をして呟いた。

「どう言う事だよ!」

 朝倉は、脇を通る本部の撤去をしている若い警察官に詰め寄った。

「し、知りませんよ…何でも捜査本部の縮小だそうですよ」

 怒鳴られた若い警察官は迷惑そうに答えた。

「縮小?」

 平井は眉をひそめた。

「そんな馬鹿なっ。本部長は!」

 朝倉は再びえた。

「な、中にいると思います」

 若い警察官はそんな朝倉に恐るおそる答えた。

 キッと扉の中を睨み朝倉は元捜査本部へと足を踏み入れた。

「本部長っ」

 本部長と呼ばれた四十代の男はいた。

「朝倉か捜査ご苦労」

 本部長は朝倉の姿を確認し声を掛けた。

「どう言う事ですか!」

「上からの命令だ。捜査本部を縮小するのでここを引き払っている」

「なぜですか、昨日の事件ですよっ。半年以上捜査に進展が無いと言うなら縮小という事も分かりますが。納得できません」

「お前が納得するしないは関係無い。組織内での命令は絶対だ。この件に関しては私も理解が出来ない…だが命令は命令だ」

「くっ、しかし」

 朝倉は唇をかみ締めた。

「もう、それ位にしとけ朝倉」

 その時、他の捜査員と話しを終えてきた平井が朝倉を制した。

「平井さん…」

 悔しそうに呟く朝倉。

「平井さんご苦労様です」

 本部長が言った。

「しかし、こいつの言い分も解かる」

「捜査本部はとりあえず資料室に移動です」

「担当人数は?」

「平井さんと朝倉…だけです」

 平井の言葉に本部長は言い難そうな顔で答えた。

「馬鹿な!」

 信じられないと言ったように朝倉が口を挟んだ。

「落ちつけよ朝倉」

「署長に直談判しますよ俺はっ」

「本部長、あんたには悪いが俺もそうさせてもらうよ」

 朝倉の言葉に平井も同意した。

「構いませんが、署長はもう帰られました。二人には明日、署長室に来るようにとの事です」

 本部長が答えた。

「そうか、今日はもう無理か…仕方が無いな。行くぞ朝倉」

「ちょっと待ってください、平井さん」

「ほら行くぞ」

「まだ始まったばかりの捜査ですよ!」

 浅倉は驚きを隠せなかった。

「いいから来い!」

 平井が目配せをした。

「しかし…平井さん」

 え? と言うような顔を朝倉はした。

「頭を冷やせ浅倉っ。悪いが元本部長、俺達はもう上がるわ」

「構いません。お疲れさんです」

 本部長はムっとした顔で二人を送り出した。

 平井に引かれるように朝倉は会議室を後にする。

「放して下さい!」

「ほれ」

 朝倉の言葉に平井は素直に従った。

「平井さんは聞き分けが良いんですね」

 乱れたコートを直しながら朝倉は言った。

「年の功だよ。それに良いも何も内輪揉めしてもしょうがないだろうに。そんな事より新しい情報が入ってたぞ」

「新しい情報?」

 朝倉は平井の言葉の意味が解からなかった。

「何ボケてんだお前。神崎だよ神崎直人」

「神崎。どんな情報ですか!」

 朝倉は平井に食い入る。

「お前、普段は冷静なくせに急に熱くなったかと思うと周りが見えなくなるその性格直せ、時として判断を見誤う。刑事失格だぞ」

 さとすように平井は言った。

「…すいません。それで一体どんな」

「ああ、大間川河川敷付近で高校生らしき酔っ払って寝ていた男子生徒と肩を怪我した、血と泥で汚れた女子生徒を乗せたって言うタクシー運転手の証言だそうだ」

「不信な男女ですね。いや…もしかしたらそれは」

「分からん。この時期卒業式は至る所で行われていて、高校生の卒業飲み会なんて事も珍しくないからな。もしかしたら泥酔した彼氏を彼女が運んでいて転んで怪我したのかも知れない。だが、ひょっとすると」

「どこまで乗せたんです、そのタクシーはっ」

緋桜ひざくら市の帝都線高田駅だそうだ」

「緋桜の高田? 今日不在だった女子生徒、確か深山ゆかりの家は…高田駅付近、でしたよね」

「ああ、そうだ。それと学校の屋上で刃物が発見された。神崎の指紋とは一致しなかったそうだが。こりゃ、何か関係があるかも知れねえな」

 「屋上…杉森の話では神崎は竹下博子と屋上で会っているはずですよね!」

 眼鏡の下でキラリと朝倉の目が光る、同じく平井の目も鋭く天井を睨んだ。

「あとな部屋の血痕。仏さん以外のもあったそうだ。まあ二人でも何とか捜査は出来るさ」

「神崎直人のモノでしょうか?」

「さてな。それともう一つ、今日の十九時三十分位に神崎が我が家に帰ってきたそうだ」

「それは本当ですか!」

「ああ、警備の警官が追ったそうだが、神崎とおぼしき人物を前にして後ろから何者かによってのされたらしい」

「協力者がいる!?」

 興奮したように朝倉が叫んだ。

「まだ、断定は出来んな。何せ当の神埼は行方不明だからなぁ」

「そうですね」

「ああ。だが、おそらくは…どっちにしろ明日署長に詰め寄ってからだな」

 平井は癖で頭頂部をさすった。

「はいっ、それでは今日は早くに休んで明日からの英気を養うとしましょう」

「それしか手がないからなぁ。こりゃ”裏”があるぞ朝倉」

「はい!」

 二人は事件に関する新しい糸口を手に入れ、先程までの出来事を忘れたように帰路の徒についた。


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