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鬼刻の夜明け―卒業式。鬼になった彼女を、守れなかった俺は  作者: MASAO
二章

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闇風 4

「気にいらねえな」

 最初に平井が口を開いた。

 二人を乗せた車は少しにぎやかな街に出ていた。

「何がです?」

「親友が警察に追われているのに平気な面していやがる、それに神崎直人を心配する素振りも見せねえと来た」

「確かに、少し素直過ぎるかもしれませんね。しかし言っている事は嘘とも取れませんし、最近の子ってあんなもんじゃないですかね。でも何かが引っ掛かるんですよ…なんて言うか、違和感かな」

 朝倉は暗闇でガレージのライトを受け笑ったように見えた隆司の顔を思い出す。

「何だよ、お前刑事みたいだなぁ」

「みたいじゃなくて刑事ですっ」

 からかう平井に朝倉はビシっと言った。

 空はすっかり日が落ち既に夜になっていた。

「署に戻る前にどこかで飯でも食って、集めた情報を整理してみるか」

「そうですね…あそこにしましょう」

 朝倉は丁度左側に現われたファミリーレストランへと車を入れた。

「いらしゃいませー」

 元気良くウェイトレスに迎えられた二人は喫煙席の窓際に案内された。

「こういう所は余り来ないんだがな、朝倉」

 どこか落ち着かなそうに平井が言う。

「そうなんですか、メニューどうぞ」

 朝倉はメニューを差し出す。

 二人はしばらく黙ってメニューを眺めた。

「ご注文はお決まりでしょうか」

 ミニスカートの制服を着たウェイトレスが平井に近づき声を掛けた。

「お、あ、ああ…そのな、嬢ちゃん」

 しどろもどろする平井を見て朝倉が助け舟を出した。

「まだ決まっていないので」

「何だお前、まだか早く決めろ!」

 言いかけた朝倉に平井は言った。

「決まったんですか?」

 朝倉は意外そうに平井を見る。

「ああ、とっくにな」

「ひどいな平井さん」

「あのぉ…」

 ウェイトレスが困った顔をしてオーダーを待っていた。

「すみません、たらこスパゲッティーで」

 朝倉の言葉にウェイトレスは「はい」と応えると端末にオーダーを入力した。

「何だお前、スパゲッチーとはずいぶん小食だな。もっと食え」

 平井が文句をつける。

「俺は今、余りお腹が空いて無いんですよ」

「そんな事で…」

 刑事が勤まるかよ。と言いそうになり平井は堪えた。刑事は嫌われ職業なのを十分承知しているからだ。

「あのぉ」

 ウェイトレスが再び催促する。

「あ、ああ、すまないね嬢ちゃん、俺はこのデミ…何とかソースのハンバーグとチキン南蛮にご飯を大盛りでな」

 平井はメニューの写真を指差し注文した。

「はい、デミグラスソースハンバーグ&チキン南蛮のライス大盛りですね」

「そう、それ!」

 ウェイトレスはメニューの確認をした後、厨房にオーダーを届けるため奥へと消えた。

「平井さん、歳の割にずいぶんとこってりした物食べるんですね。大丈夫ですか」

 平井の身体を気遣い朝倉が言った。

「歳の割が余計だ朝倉。俺は好きな物や食べたい物はしっかり食うぞ。何せこんな仕事だから事によっちゃ、いつ死ぬか分からんからな。だからお前ももっと食え、いい若い者が」

「ですから俺はそんなに空腹ではないんです」

 言った朝倉だが平井の言う事も最もだと感じた。

 しばらく待つと料理は全てテーブルに並び二人は今日集めた調書について話しながら素早く食事を済ませた。食器を片付けに来たウェイトレスにコーヒーを頼みようやく落ちいた。

「で、神崎をどう思う?」

 平井は煙草に火を付け朝倉に問いかけた。

「そうですね。色々とフラストレーションの溜まる年頃ですがホシだと断定するにはまだ足りませんね」

浅倉は周りに他の客がいないのを確認すると平井の目が”大丈夫だ”と言っていた。

「まあ、学校での生活態度は決して良いとは言えなっかったようだが、成績は並みの上。普通の生徒だな不良になりきれない、あれ位の年齢だったら仕方ないかもなぁ」

 平井は遠くを見るような眼差しで言った。

「はい、俺にもそんな時期がありました」

「俺は昔過ぎて忘れちまったよ青春なんてよ」

「青春ですか平井さん、歯が浮いてますよ」

「茶化すな。でもな受験に失敗したくらいで両親殺したり、恋人を重体にするかねぇ?」

「ですが、そういう事件も実際にありますが」

「ああ、でもな。こういった事件には大概背景に行き過ぎた反抗期や愛憎によって引き起こる暴力行為ってのが以前からあるだろう。神崎の日常には学校や近所でも警察沙汰に成るような事、過去に一度も無いって言うしな」

「ええ、補導歴はありませんでしたね。しかし、そういう模範的な人間が突然豹変して事件を起こす。そんな例はいくらでもあります」

「確かに、今まで扱ってきた事件にもそういった理解できない犯人を見てきた…「魔が差した」としか言いようのない人間かぁ」

「魔が差す、ですか?」

「やりにくいなこういうヤマは。とにかく神崎を確保しない事には事件が見えん」

「恐らく、証言の通り凶器から出た指紋に神崎の物は付いているでしょうし、河川敷に放置された奴のバイクに壊れたスマホ…物的証拠から見れば神崎がホシなのは難いですが、神崎の部屋のガラス、南と西の二方向が割れてました。西は外へ、そして南は内側に、外から何かで割ったか何かが飛んで来た可能性…あるいは第三者の侵入。しかし部屋にはそれらしき物の痕跡がない。加えて遺体の無い部屋に残る多数の血痕…」

 朝倉は眼鏡をはずして汚れを拭った。

「そして隣人の証言、窓の割れる音と何か大きな物が落ちた音。それを聞いて隣人が尋ねた所に神崎が凶器を持って立っていた。だが、庭にはそんな大きな物は落ちていなかった。ちょっとしたミステリーだなコリャ」

 平井はコーヒーを口にする。

「ええ、ホシが別にいるにしろあらゆる可能性を考慮し、あらゆる事に対して疑いの目を向けろ、ですね。平井さん」

 平井の言葉を借りて朝倉は言った。

「そう言う事だ。固定観念に捕らわれるなよ、とにかく神崎の足取りしか俺達には糸口がないと言う事だけは確かだな」

 言うと平井は立ち上がった。

「他の連中も何か新しい情報を手に入れたかもしれませんね。署に戻りましょう」

 平井は会計を済ませると朝倉の待つ白い覆面車両へと向かった。



 ピンポーン

 呼び鈴が鳴る。

「来たわね」

 ゆかりは言う。

「ああ」

 直人が心ここに在らずと言った風にゆかりに応えた。

「直人君出て」

 ゆかりは言うと部屋の奥に消えた。

 ガチャリと扉を直人が開けた。

「お待たせしました「ドコデモピザ」です」

 扉の外で直人と同い年位のピザ屋のデリバリースタッフが元気良く言った。

「ご注文の品はミックスピザバジルソースデラックスLサイズでよろしいですか」

 伝票を見ながらアルバイトは言った。

「あ、はいそうです、ちょっと待ってください。今、財布が来ますから」

 応えながら直人はピザを受け取る。

「すみませーん。お幾らですかぁ」

 ゆかりが駆け足で玄関にやって来た。

「えーと…税込みで2,800円になります」

「はい、5,000円で」

 アルバイトはお釣りを返すと元気良く帰っていった。

「あ!? メニューに書いてあったサービスのジュースがないっ。さっきの子忘れてるよ、直人君追っかけてもらってきて。早く!」

 ゆかりは叫んだ。

「お、おう」

 直人は仕方無しにアルバイトの後を追い、配達スクーターに乗る前に何とか追いつき缶ジュースを2本受け取る事に成功した。凱旋した直人をゆかりは快く迎えた。

「ありがとう。これを逃がしたら「ドコデモピザ」に頼んだ意味が無くなるところだったよ」

「ああ、そうだな」

 興味なさげに直人は言った。

「ここは今サービス期間中だから」

 ゆかりはアツアツのピザが入った箱を開けた。

 室内にバジルの香ばしい香りが広がり二人の食欲をそそる。

「美味しい内に食べよう」

 ゆかりはピザを皿に取ると直人に差出し、自分の皿にも盛った。

「いっただきまーす」

 ゆかりの嬉しそうな声が部屋に響く。

「いただきます」

 直人もそれに続いた。

 ゆかりはペロリと8分の一のピザを平らげ、もう一切れに手を出そうとして気が付いた。

「食欲無いの直人君」

 一切れ半位で食べるのをやめている直人に声を掛けた。

「いや腹は減ってる」

「それじゃ,美味しくない?」

「そう言う事じゃないんだ。うまいよ」

 出した手を引っ込めゆかりは、サービスの缶ジュースを手に取り一口飲んだ。

「どうしたの」

深山みやま、さっきのお前の話しだと「鬼」は簡単に言うと浮かばれない人の魂が始まりだって言ったよな」

 何か思い詰めたような顔で直人は言う。

「うん」

「…俺の両親もいつかは鬼になるのか」

「解からない生前どんなに善人でも死んでしまったら全く反対の性格になる事もある。それに直人君の両親はきっと自分の死をまだ認識してないと思う。だからしばらくは現世を彷徨うか殺された現場、あの家から出られないでいるか、もしくは自分の突然死に対していつの日か理解して清らかに上に昇るかも知れない。でも、殺された怨みの念が強くいつまでもこの世に残り、彷徨うのであれば…いずれは「鬼」になる可能性が出てくる、かも知れない」

 目を伏せゆかりは答えた。

「そうか」

 両親の死が再びブラウン官の中の出来事のように直人は感じ、ただ一言答えた。だが、直人は両親の霊体と接触した。今考えてみると父は「死」を理解していたのかも知れないが、母はそうでは無かったように見えた。死んだ人間がこの後どうなるかなどという事は誰にも分かるはずもない、ただ切に願う事は「鬼」に二人がならないで欲しいという事だけだった。

「直人君」

「あと、鬼は人の魂が元ならお前達のやっている事はイタチごっこじゃないのか」

「そうね。直人君、人の魂は何から出来ていると思う」

「解かるかよ」

「魂は肉体から出来ているの、そして肉体は魂から出来ている。この世界には必ず「つい」となるものが存在している、太陽に対して月があるように人の天敵が鬼ならば鬼を狩る闇風もまた鬼の天敵。古来より日本には夜を跋扈ばっこする「魔」、妖怪や魑魅魍魎ちみもうりょうそして怨霊が存在していた。八百万やおよろずの神が居る国だからその反対に位置する奴らが多いのも分かるでしょう。その頂点、日本四大妖怪の中で最も有名なのが鬼。四大妖怪とは河童、天狗、妖狐そして鬼を言うの。古代の人達はこれらの魔怪まかいを野放しにしてはいけないと考え祀ったりもしたけど結局、魔と呼ばれる物の怪と戦う力を持つ人間が人々を闇から助けたの。そして人々は魔を狩り闇を祓う力を持つ者に畏怖いふの念を込め”鬼”を殺す”鬼”と呼んだのが「闇風」の始まりと言われているわ。つまり私達は鬼や魔と言われる物達に対する人の持ち得た抑止力なの。鬼を完全に駆除する事は難しい、人が存在し続ける限り鬼は生まれ続ける。人が人として在り続ける為に背負ってしまったごうさがや宿命みたいなもの。けれど奴らを決して野放しにはしない、なぜなら私達”闇風”がいるから」

 ゆかりの強い口調には鬼へ対するのこだわりが感じ取れた。

「無意味じゃないんだな」

「ええ」

「それと、深山。闇風って言うのは…陰陽師おんみょうじなのか?」

「えっ、陰陽師?」

「ち、違うのか」

 直人は以前テレビで聞いた退魔師の呼称を口にした事を恥じた。

「陰陽師なんてよく知ってるね。正確にはかなり違うけど、まあ似たようなもんかな。陰陽道おんみょうどうも取り入れてるし」

「取り入れるって?」

「そうね。私達”闇風”は呪言道じゅごんどう、陰陽道、そして修験道しゅげんどうという感じに技を取り入れて独自に発展した「道」。かつて朝廷に仕えていたまじない師は、古くは呪言道、次にその座を陰陽道や修験道が奪い、その後それらの良い所を応用し発展させた密教が就いたりしてきたの」

「日本史はあんまり得意じゃないんだけど」

「つまり呪言道じゅごんどうと言うのは平たい話が超能力みたいな物で、闇風でもその流れを汲んだ技を今でも使われているの」

「超能力?」

「まあ、そうね「言霊ことだま」って知ってる?」

「言葉に何か霊的な力があるって言うあのうさん臭いヤツだっけ」

「それよ…そうやって「うさん臭い」って言うイメージを持つでしょう、それが言葉の持つ力。つまり、言葉というのは一種の「しゅ」なのよ」

「しゅ?」

「呪いよ。身近な「呪」だと自分の名前。「神崎直人」と言う人物はこんな時こう行動するとか自分らしさみたいな固定観念。つまり、名前に縛られている」

「分かるようなわからんような…」

「だからね、言葉という物には力があるの。その力を表している言葉が「言霊」なんです!」

 ゆかりが声を荒げて力説する。

「そうなのか…何かスゴイな」

「ね、神崎君もさっきとは違う感想が持てたでしょ。これも一種の言霊よ」

「そうか? 深山の説明を聞いたからだぞ」

「と、とにかく言葉の組み合わせで生まれる霊的な力が言霊ことだまで、呪言道と言うのはそれを応用した原始的な技なの。ほら、何気ない言葉が相手の心を傷つけたりするでしょう? 言葉は使い方次第でナイフのようになる。これと似た原理、霊力で言霊を使い物理的な衝撃を作り出すの。つまり術にプラスアルファする内なる力を昇華させて技の発動を促す物が呪言。そして私達はそれを「霊言実動れいげんじつどう」と言っているわ。そして陰陽道や修験道などの技や術を吸収して独自に発展したのが闇風、私達は様々な技や術の中から自分にあったものを身につけるの。もおちろん神具や法具、武器と言ったものは使用者に合わせたチューニングが施されているんだけどね。今の時代、対魔力は合理的に臨機応変になのよ」

 ゆかりは、「はあはあ」と言いながらジュースを喉に流し込んだ。

「つまり、闇風は「闇風」だと言う事なのか」

「そう。ちなみに私達闇風の特鬼戦とっきせん…”特殊鬼動戦闘員とくしゅきどうせんとういん”はBからA、Sの3ランクに分類されているの。これでも私は最前線にいるS級よ」

「S級?」

「ええ、スペシャルって事」

「そ、そうか。悪いなピザ冷えちゃったけど食べよう、深山」

 直人はゆかりの話を一通り聞いた後「眉唾物だ」とも感じながらも自分は生きている、成すべき事があるに違いない。だから今は体力をつけなくてはとピザを頬張り意識を切り替えた。

「うん」

 直人の言葉にゆかりは応えピザを一切れ皿に取った。

「技も闇風、人も闇風か」

「あっ、そうだ。明日、午前中にここを引き払うからね」

「どうして!?」

 直人は喉を詰めそうになった。

「だって今日、警察が来たから念には念をよ。さっきノートから本部に報告のメールを送ったら返信がすぐ来たの」

 そう言えば「鬼」についての説明の後、部屋に篭もっていたなと直人は思い返した。

「それで」

「直人君の件に関しては問題無いそうよ。警察への圧力も今日中にかかるって話しだけど。以前圧力を掛けたにも関わらず捜査を続行した刑事が居たらしいから移動しろだってさ、あと鬼を消滅させた力は非常に興味深いって、新しい戦力として歓迎するそうだよ」

 意気揚揚とゆかりは語る。

「そうか。で、どこに行くんだ?」

「本部が用意してくれたマンション」

「どこなんだ」

「さあ」

「さあって…おい」

「明日朝一にメールを送るそうだから、今日はたくさん食べて早く明日に備えましょう」

 言うとゆかりは再び食べ出した。

 直人もゆかりが分からないのであれば仕方が無いと、遅れた分を取り返すようにピザを食べ始めた。

「そう言えば、深山は何で闇風になったんだ。力があるからか?」

 直人を素朴な疑問をゆかりに投げた。

「家系…両親が闇風だったから」

 手を休めゆかりは悲しそうな目をして、それだけ言うと黙々とピザを食べ続けた。

 直人はそれ以上聞いてはいけない気がしたので質問を止めピザを食べた。

 夜は刻々と深けていった。


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