好奇心
開かずの部屋の前は、まるでそこだけの空間が切り離されているかのような感覚に見舞われるほどに静かだった。
扉の前に立ち、顔ごと視線を地に落とす。
そこには昼間と同じようにトレイに載った食器が置かれている。
今日の献立は、各種バケットとビーフシチューだ。
パンは欠片ほど残っており、ビーフシチューのほうはにんじんとブロッコリーだけが綺麗に残されていた。
そんなことよりも。
「やっぱり、この中にはなにかいるのか……」
食器を持ち上げ、再確認するように独りごちた。
耳を扉の先に向けて神経をとがらせてみるが、それらしい音は聞こえてこない。無駄に高鳴る自分の心臓の心拍音だけだ。
――――ちょっと覗くだけなら。
そんな考えがよぎったのは悪魔の気まぐれか。
その本意に誘われるように、トレイを持たない方の腕が扉のノブに伸びていく。
『アラタ、絶対にここを開けちゃダメよ』
そんな声とも言葉とも取れないようなものが頭の中でふいに浮き上がってきて、伸ばしかけていた腕をおろした。
そうだった、ユイさんに強く念押しをされていたのだった。まだ初日だというのにこんな一時の好奇心のせいでバイトをクビになったらたまったもんじゃない。
一度深呼吸をして気を落ち着けてから、その場を逃げるようにして部屋に背を向け去った。
そういえば、さっき頭に浮かんだ言葉か声は、昼間のユイさんのそれではなかったような気がする。
しかし、特に思い当たる節もない。昼間の記憶を曖昧に思い出しただけだろう。
人の記憶なんて結構いい加減なもんだ。