開かずの部屋
「……着きました、ここです」
なんだか肩透かしを喰らったような気分だった。
ユイさんに案内されたのは客室が数多く並ぶ通路の一番奥、いわゆる角部屋の1つだった。
それはなんの変哲もない部屋の扉。周りの客室とくらべても差異がない。
「ここが?」
本当は案内したくない部屋というやつなのか。
俺の問いかけに小さく頷いたユイさんはおもむろにその場で身を屈めた。
自然と俺のユイさんを見ていた視線も落ちる。
部屋の前の地面には、なぜかトレイに載せられた空の食器類があった。それらは明らかに使用済みといった感じでリアルに汚れている。
一応の確認として他の客室たちにも目を向けてみるが、当然というか、食器類などが置かれていることはない。
「この部屋に誰か、いるんですか?」
「………………」
恐る恐るといった感じで問いを投げるが、ユイさんは答えない。
ただ黙って空の食器類が載ったトレイを持って立ち上がるなり、改めてこちらに身体を向ける。
「アラタさん、この部屋は絶対に開けないでください。それさえ守ってくれれば大丈夫です」
意味深にそれだけ言って、では次に行きましょうと言うのだから納得いかない。
「ちょっと待ってくださいユイさん!」
「………………」
ユイさんは通路の中心で足を止め、首だけで振り返った。
「開けたら、開けたらどうなるんですか」
なんで開けてはいけないのかというのより、開けたらどうなるのかという方がなぜか強く気になった。
なにか嫌なモヤモヤ感が心中に渦巻く。
「どうもなりませんよ。でもそういう決まりですから、決して開けないでくださいとしか」
「それはユイさんも?」
「はい。私も開けたことはありません」
困ったように眉を曲げながら答えたユイさんは、再度俺を促し歩く。
なんとも腑に落ちない。最後にその部屋の扉を一瞥し、後ろ髪を引かれる思いをしながらもその場を後にした。
「あの部屋についてなんすけど、最後に1つだけ聞いていいですか」
「ええ、どうぞ」
「ユイさんはあの部屋の中になにがあるのか知ってるんですよね?」
「…………なんでそう思ったんですか?」
「さっき俺が部屋を開けたらどうなるのかって聞いたとき、ユイさんは『どうもなりません』って断言してたから」
ユイさんの歩く背中に言葉をぶつけると、逡巡考えるような間をとった後。
「そうですね、確かにあの部屋になにがあるのかは知っています。でも、知ってるだけです」
どこか含みある発言に、しかし俺はそれ以上問い詰めるようなことはしなかった。
――――まあ、1つだけって言ったしな。