給仕服
「ここがアラタさんの部屋です。長年使われていなかった空き部屋ですが、ちゃんと掃除はしているので安心してください」
通された部屋は、まさしくユイさんの言うとおりだった。
六畳間くらいの小さな空間に、小窓が1つ。部屋の隅に折り畳み式の簡易ベッドが置かれているだけ。
生活感のかけらもない、急ごしらえで作った部屋という感じだ。
でも入ってみると意外と居心地はよさそうで、これもユイさんの普段の掃除の賜物か。
「ではアラタさん、準備が整いましたら、先ほどの玄関ロビーまでお越しください。給仕服のほうはそちらのクローゼットの中に掛けられていますので」
「分かりました、ありがとうございます」
ではお待ちしています、と深くお辞儀をしてユイさんは部屋の扉を閉めて行ってしまった。
あまり待たせても申し訳ない。
肩に提げたボストンバックをベッドの上に放るなり、急かすようにして給仕服へと着替えを済ませた。
「あら……とてもお似合いです」
上も下も黒一色のタキシードのような給仕服で玄関広間に現れた俺に、ユイさんは素直にそうほめてくれた。
「そうですか? ありがとうございます……」
照れくさくなって、思わずユイさんから目線を外してしまう。
だから、ユイさんが目の前まで接近していたことに気づかなかった。
「ちょっ、ユイさん!」
「暴れないで、ネクタイ、曲がってるから」
「え、あ、ああ……」
確かにネクタイが変に歪んでいたようで、ユイさんは俺の目の前で中腰気味の体勢になりながら、直してくれているだけだった。
変に慌てて挙動不審になってしまったことに尚もまた恥ずかしくなってしまう。
「これでよし……じゃあ、行きましょうかアラタさん」
「行きましょうかって、どこにですか?」
「館内の案内です。まだどこに何があるかも分からないでしょう?」
「ああ、なるほど、確かに」
これからここで仕事をするうえで建物の中を把握していないのは致命的すぎる。
「では、事務室から案内しますね。仕事内容は歩きながらでも」
そう言って、ユイさんは先ほどのように先導し始めた。