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前編

初投稿なので、設定に甘いところ等あるかと思いますが、ご容赦ください。

「、、三匹目のこぶたは煙突から鍋に落ちてきたオオカミをシチューにして食べ、平和に暮らしましたとさ」


 静かに絵本を閉じ、最後に背表紙までゆっくりみんなに見せながら、男は子どもたちへの読み聞かせを終えた。


 上品で洗練された、いかにも上流階級といった感じの男が持つにしてはずいぶん年代物、、というか正直いってボロボロで所々染みもあるような汚い絵本だった。


 そんなことはともかく、その内容だ。


  修道女たちやこれまで慰問に来てくれた人たちが読み聞かせてくれた話と全然違う。


 二匹目まではオオカミにいともあっさり食べられ、三匹目のこぶたは逆にそのオオカミをシチューにして食べてしまうときたもんだ。


 その前までの場面でも三匹目のこぶたはオオカミを散々騙して出し抜いた。

 そろそろ“悪いオオカミ”とはいえ、かわいそうなんじゃないか?と思えてきたところで、ドボンでパクんだ。

 韻を踏んだわけじゃない。


 え、これ笑顔で「お兄ちゃん、面白かったよ〜」と言わなきゃいけないのか?ていうか共食いじゃないのか?、、と思わず絶句していたら、チビっこの中でも特に怖がりなトビーがフラフラと立ち上がった。


「お、おい(気持ちは分かるけど、泣くなよ)」


 と声をかけようとしたら、男に駆け寄り、


「お兄ちゃん、面白かった!!オオカミ食べちゃったから、もう襲ってこないよね!良かった〜」


 とキラキラと目を輝かせて拍手までしながら言いやがった。


 うんうんと男も笑顔で頷きながら、トビーの頭を優しく撫でた。


(え!?オレだけ?)と思わず周囲を見回すと、トビーのように喜んでいる奴もいれば、年長組の中にはオレのように複雑そうな表情の奴、あれ?いつもと違うよね?と不思議そうな顔をしている奴まで様々だった。


 正直ちょっとホッとした。


 タイミングを見計らったかのように男はおもむろに


「俺も()()出身なんだ」


 とこれまで〝私〟と言っていたのが嘘だったかのようにその口調や雰囲気までがらりと変えて言った。

 実際いつのまにかシャツのボタンをいくつか外し、姿勢もちょっと崩し、口調をちょっと変えただけで驚くほど親近感が増した。


「楽しんでもらえたようで何よりだ。この話は色々な版があるが、今回のが原典で、長年語り継がれてきた物語だ」


(え!?そうなの!?ていうか孤児院出身者って、マジか)


 何から驚いて良いかわからず目を白黒させているであろうオレの心の声が聞こえたかのように目が合い、思わず目を逸らしたくなったが、その力強い瞳に却って惹きつけられてしまった。


「といっても、俺が独り立ちしたのは10年以上前のことだから顔見知りは修道女のエリスさんくらいだけどな」


 と男が続けたのを遮るようにして、


「お兄ちゃん、お貴族様じゃなかったの?」


 まだ4歳のヤンが驚いたように叫んだ。


 男はそれを咎めることもせず、苦笑しながら


「貴族にならないかと言われたこともあるが断った。なっといた方がヒーローっぽくて、良かったか?でも結構お金持ちだぞ」


 今度は周囲を見なくても分かる。

 みんなオレと同じように目を丸くしているはずだ。


(養子にならないか?の間違えとかじゃないよな。それでも断る奴の方が少ないぞ。貴族になるのを断るって、、成金を自慢するのもどうかとは思うけど、そんな風には見えないけど、ちょっと、、いやかなり変な奴なのか!?)


 そんなオレを置いてけぼりにしながら、

「どうだ?絵本は面白かったか?」

 と変わり者の男は続けて尋ねた。

 トビーたちがすかさず

「うん!」

 と頷いた。


 そこでまた瞳の色が真剣みを帯びて、


「お前たちはこの絵本に出てくる誰になりたい?」


 そんな誰もが〝答え〟を知っていそうなことを場違いなくらいに真剣に尋ねた。

 そして戸惑うオレたちを余所に静かに自分の物語を語り始めた。


「これは俺の5歳の時からの愛読書だ。当時は字も読めなかったが、暗唱して、この本で字を覚えた。エリスさんたちには突然人が変わったように勉強に目覚めたって笑われたけどな」


「俺は心底感動したんだ。おぉっと勘違いするなよ。お前たちも感動しろと強制しているわけじゃない」


 ここでちょっと気障に肩をすくめ、そしてまた一瞬でこちらの居心地が悪くなるような()に戻り続けた。


「ただ俺には三匹目がヒーローに思えたんだ」



解釈は色々かと思いますが、こういった読み方もあるかなと。

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