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そこにいたのは、玲玲たる美青年。透き通るような肌に、本来は冷冽な眼差しをするであろう紫紺の瞳は、こちらに向けられたまま瞠られている。


「だ、れ…」


掠れた私の声を聴いてか、彼は驚きを引っ込めて口を開いた。


「フェリス」


彼の口から出てきたその名前に、今度は私が目を瞠る番だった。まさか、フェリスさんに何かしたんじゃないか。強盗か、殺人?


「フェリスさんに、何をしたの!!」


あの人が負けるはずなんてない。きっとこの男が、不意をつくような卑怯な手を使って__


「っふ、ふははは!!」


眉目秀麗な青年は、いきなり笑い出した。何がおかしいの?と眉をぐっと寄せると、彼は観念したとでもいうように両の手をひらひらと挙げている。


「俺がフェリスだ。リディー」

「…は?」


リディアは、頭が追い付かないことを言われマヌケな声を上げた。彼が?フェリスさん?何を言っているのか、さっぱり分からなかった。だって、私の知るフェリスさんは御年70歳くらいのおじいさんで、こんなに若くない。


「いやいや、普通に信じられませんから。さっさと、フェリスさんを出してください!無事なんでしょうね!怪我でもさせてたら、何万倍にもしてあんたに返してやるんだから!」


すでに私の中で相手が強盗でもなんでもよかった。恐怖心なんてものはひとつもなくなっていたから、襲い掛かって来ても返り討ちにする自信があった。


「だから、俺がそうだってリディー」


呆れたように笑って腰を上げる彼に警戒態勢を取ると、ますます笑みを深める。


「ほら、見てなよ」


何属性の魔法なのか、そもそもこの国の魔法なのかもわからない。あっという間に、彼の姿が私のよく知るフェリスさんになる。


「どうだ?」


その聞き覚えのある低い声に、警戒を解く。


「ほ、本当の本当に…?」

「本当の本当に」

「強盗がっ、フェリスさんに、なってる、とかじゃない?」

「本物の俺だよ。俺が、強盗なんかに負けると思ってるのか?」


目の前が霞んで、止めどなく零れていく涙のせいで声が震えてしまう。


「ゔぅぅ…よかったぁぁ」


淡い光がほどけて、彼の姿が若い方に戻る。すっかり安心した私は腰が抜けたように地面に崩れおちる。


「まさか、こんな時間に来るなんて思わないから。ごめんな、驚かせて」

「ほんとですよぉぉ」


くはは、と声を上げて笑う彼が私の手を掴んで立ち上がらせてくれる。目線を合わせて、親指で涙を拭う彼の顔にはひどく似合う微笑が湛えられている。



***



しばらくの嗚咽が止まらなかった私は、落ち着きを取り戻してから彼に問うてみる。


「どっちが本物のフェリスさんですか」

「こっちの俺が本物。本当の年齢は19だ」

「…フェリスさんがおじいさんになる理由がわかりません。宮廷魔術師にだってなれるのに…」

「ん?そんなの簡単だ。俺が古本屋をやりたかったから。じいさんになっとけば、いくら魔法を使えたって登城させられないだろ?」


何てことないように、言ってのけた彼の目には真摯な光しか見えない。


「そんなに…古本屋になりたかったんですね…」

「…宮廷に参じるよりも魅力的な仕事じゃないか?」

「…激しく同意します」


今は素直にそう思う。今年がデビュタントの年だから、王都に行かなければならない。父の嘘が役立ってくれるなら、この上なく父に感謝するのだけれど。


「そういえば、リディーは何の用でここに来たんだ?」

「あっ!!あのですね、私、明日からしばらくお店に来られないんです」

「そうか、分かった。用事が終わったら、ちゃんと来るように」

「はい!じゃあ、帰ります!」

「危ないから、送っていく」

「いやいやいや!!大丈夫です!ほんっとうに!平気です!」


大慌てで彼を押し止める。綺麗な顔には疑いの色が浮かんでいるが、ついてこられる方が非常にまずい!!


「…ふぅん、まぁ今日は引くけど。今度こんな時間に来たら、強制的に送り届けるから」

「了解です!それでは!」


意気揚々と店を出ていく彼女を見て、彼の目は愛おしむように(しな)った。

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