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リディア=フリウム、その名は領民に知られてはいたが、彼女の顔を知るものはいなかった。何でも小さなころから病弱で、お屋敷で療養をしているのだという。領民は彼女を心配しながらも、その弟ヴィタリーに期待していた。彼は町に下りては、何か不便はないか、困ったことはないかと聞いて回ってくれるのだ。それだけではなく、領民が言わずとも、問題を解決してしまう。御年15になる彼は、領主代理として名を馳せていた。その姉であるリディア=フリウム、御年16のご令嬢は____
「あーー!アミナさん!荷物を運ぶときは言ってくださいってば!また腰を痛めたらどうするんですか」
「リディー!一体、いつもどこから見てるんだい?」
「もう!私には全部お見通しなんですから、素直に頼ってください」
「いつもすまないね、リディー」
「これくらい何でもないのに」
今日も元気に市井に下りて、すっかり町に馴染んでいます。
***
重く澄んだ音が鳴る扉を開くと、リディアは元気よく挨拶をする。
「フェリスさん、おはようございます!」
そして、彼も微笑みながら挨拶を返す。
「あぁ、おはよう。リディー。また、人助けか?」
「人助けではなく、お手伝いです!アミナさんは、いつも無理をするんです!」
心配して怒る彼女の服には、荷物をどこに運んだのか泥やら草がついている。いつも自分の損を顧みない彼女。それは決して簡単にできることではない。
「さぁ、リディー」
「はい!」
裏庭に向かう二人の朝は、まず魔法の練習から始まる。
***
「あぁ…はやく帰りたい…」
「フリウム伯爵、領地の息子さんが気になりますか?」
「いや、ヴィタリーの噂は聞いているし心配はないんだ。娘のリディアが…」
「あぁ…あの病気がちだったお嬢さん」
「うん…リディアが心配でたまらないんだ」
「それなら、一度休暇を申請してみたらいかがでしょう?この夏はあまり忙しくならないようですし」
「いいのかい?」
「ええ。私も夏を涼しい領地で過ごしたいですから、昨日休暇を申請してきました」
それを聞いたフィル=フリウムは早速、休暇の申請をしに行った。
***
リディアは、父が帰ってくるとは露ほども思わず、魔法の練習に勤しんでいた。やっと、光魔法の攻撃をマスターした彼女はさらなる攻撃特化魔法を覚えるべく、次は防御がほとんどである闇属性の数少ない攻撃を習得していた。彼女の白い肌は、フェリスの防御壁のおかげか然程焼けていないが、父フィルが見ればきっと騒ぐだろう。彼は彼女が何をしても可愛いで済ませるが、認めたくない事には大人気もなく泣きながら騒ぐのだ。きっと帰ってきたら、彼女は市井に下りられないし、町の人と交流もできなくなる。だから、まだ帰って来なくていいと思っている。そんな願いも露知らず、父フィルはホクホクとした気分のまま申請の下りた紙を持ってタウンハウスで帰宅の準備をしていたのだった。