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よく晴れた夏の日。
私は、いつものように領地の町を歩いていた。ふわりと翻るワンピースに、ヒールの高くないブーツを合わせている。それはたぶん、貴族にしては粗末で、平民からすればいい商家の娘くらいの服装。片手にカゴを持ちながら、買い物を済ませていく。
なんとなく、いつもは入らないお店に立ち寄る。いかにも古書店という雰囲気だ。
「すみませーん…」
だいぶ年期の入ったベルの垂れている扉を引くと、薄暗い店内に声を掛け、後ろ手で扉をゆっくり閉じる。ほんの少し古びた匂いがするが、思っていたよりも埃は無いし、かび臭くも無い。外は暑いというのに、この中はひんやりとしている。
「あのー…」
再度声を掛ける。どうやら、薄暗いのは店の人が留守であることを意味していたようだ。それにしても、鍵を掛けないなんて不用心だと思いながら、外に出るために扉を押す。
「お嬢さん…」
誰もいなかったはずの店内から、声が響いた。
「…」
ゆっくりと、彼女は意識を手放した。悲鳴をあげるなんてことを通り越して、ただ静かに気を失った。
「…まいったな…」
彼女を抱き留めた彼は、ぽつりと呟いた。
***
(なんだかふわふわする…)
うっすら目を開けると、見知らぬ天井。カッと目を開けてベットから起き上がる。
「起きたか?」
声が聞こえた方に顔を向けると、優しそうな顔をしたおじいさんがいた。
「あれ…私…」
「すまなかった。気を失うなんて思わなかったものだから」
申し訳なさそうな顔をされると、こちらにも非があったような気になってしまう。
「気になさらないでください。私が、おじいさんの気配を感じ取れなかったのが悪いんです」
ヘラりと曖昧な顔をして笑う彼女に、彼はますます困ったような顔になる。
「驚かせてしまって、本当にすまない。見ての通り、お嬢さんに金品で詫びるなんてこと出来やしないから…なにで詫びればよいものか…」
「いいですよ。もう十分です。たくさん謝っていただきましたし、気を失ったのは私の落ち度ですから」
「いや…しかし…」
まだ食い下がってくるおじいさんに驚く。彼女は、曖昧な笑顔から打って変わって、にっこりと笑う。
「じゃあ、ひとつだけお願いを聞いてもらえますか?」
彼女は、引かないおじいさんにお願いをすることにした。彼は目を瞠り、そして決意したように頷いた。
異世界恋愛ものを見て書きたくなったので書きました。
誤字脱字があれば、報告してくれると嬉しいです。