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EXODUS ~太陽系滅亡~

作者: 津辻真咲


2018年夏。

「今日も30℃を超える真夏日になりそうです。熱中症には気を付けて下さい。では、今日もいってらっしゃい!!」

桜美智さくら みちは天気予報を確認すると、母に手を振った。

「お母さーん、いってきまーす!!」

「はい、いってらっしゃい。」

母は笑顔で彼女を学校へと送り出した。

――あーあ、今日も暑いなー。夏休み返上で受験勉強なんてヤダなー。

――あーあ、今日も暑いなー。太陽なんて無くなっちゃえばいいのにー。



「美智!! おはよう!!」

親友の鈴木蘭すずき らんが話しかけて来た。

「おはよー」

桜美智はテンションが低めだ。

「あれ? 今日元気ないじゃない?」

「だってもう受験勉強したくないんだもん」

桜美智は愚痴をこぼした。

「だったらさ、今度の休み海へ行こうよ!!」

鈴木蘭は机へと身を乗り出してきた。

「無理!!」

「何で?」

「まだ宿題終わってない」

「そーなの?」

鈴木蘭は少し驚いた表情をした。

「海なんていつでもいいじゃん。海は無くならないんだしさ」

桜美智はそう言うと、机へと顔を伏せた。

「それもそーだけど」

鈴木蘭は腕組みをする。すると。

「あっ!! そろそろ時間だ。それじゃ私、保健室でサボって来るわ」

「え!? ちょっ、ちょっと!?」

桜美智は教室から出て行った。

「まったく」




保健室。

「先生、ベッド借りるね」

「あら、また?」

先生は呆れていた。一方、桜美智はそんな事など気にせず、ベッドへ潜り込み、寝息をたてた。




「……きろ。お……ろ」


「おい、お前。起きろ!!」

「ん? え?」

桜美智は周りを見渡す。すると、そこには10歳くらいの少年が立っていた。

「誰? っていうか、ここどこ?」

桜美智は再び辺りを見渡す。

「ここはドーム型シェルターに決まってるじゃないか」

その少年、白崎春樹しらさき はるきは呆れて言った。すると。

「ドーム型シェルター?」

桜美智はきょとんと首を傾げた。

「ふぅーーー、寝ぼけている……」

白崎春樹は呆れたのか、視線を逸らす。

「ここって……」

「お前、部屋のnumberは?」

彼は話を先へと進めようとする。しかし。

「どういう事?」

――俺には、手に負えない寝ぼけヤローだ……。

白崎春樹は呆れながら、窓の外を指さす。

「え!? 一体何!? まるで火星みたい」

桜美智は目を丸くして驚いた。

「ここは東京湾だった所だ」

「ここが海!? どうして水が無いの!?」

「海ははるか昔に干上がったよ」

「どうして干上がったの!?」

「よく窓の外見てみろよ。太陽があんなになっちゃ、海も干上がるだろ」

「太陽があんなって」

桜美智は窓の外を見た。

「何、この大きな太陽」

「ただ単に赤色巨星になっただけだよ」

「赤色巨星?」

「ってお前、本当にいつまでも寝ぼけているな」

「ん?」

桜美智は再び、首を傾げる。

「俺は白崎春樹、10歳だ。お前は?」

「私は桜美智、18歳。」

「18歳!? ってことは高校3年生!?」

「そうだけど」

「それじゃ、どうして今こんな所にいるんだよ!?」

白崎春樹は声を荒げた。

「え?」

「今日はセンター試験の日だぞ!!」

「ん? センター試験は1月だよ?」

「はぁー。いい加減、脳起こせよ」

白崎春樹はため息をついた。そんな中、桜美智は再び首を傾げた。

「?」

「だったら自分で確認してみろよ」

白崎春樹は新聞を桜美智に手渡す。

「新聞?」

「今日の新聞だ。」

「西暦50億5034年1月20日……」

「な?1月だろ?」

白崎春樹は腰に手を当てて仁王立ちになった。

「……」

しかし、桜美智の方は、唖然として声が出なかった。

――西暦50億年。

「どうした?」

白崎春樹は桜美智の様子に気付いた。

「西暦50億年!?」

「ややこしいな。どこに食いついてんだよ!!」

「西暦50億年ってどういうこと!?2018年じゃないの!?」

「お前、それって過去から来たって言いたいわけ?」

「なるほど、タイムスリップしていたのかぁ」

「それはこっちのセリフだし、和むなっ!!」

白崎春樹は再び、声を荒げた。

「でも、何でタイムスリップしたんだろ?」

「人の話を聞け。どうせ重力波か何かだろ?」

「そーなの?」

「知らん。まだタイムマシンは発明されてない」

「えーーー!!」

すると、スピーカーから蛍の光が流れた。

「え? 何で蛍の光が?」

「あぁ、もう消灯時間ってことだ」

「消灯時間?」

「節電のために個室以外のロビーの区域の暖房設備を一時切るんだよ。ということで、俺は部屋に戻るわ」

「え? それじゃあ、私は」

「野宿だな」

「……」

「ちなみに言っとくけど、今日のドーム内の最低気温はマイナス5℃だから」

「……」

「嘘だよ。中に入れば?」

「いいの?」

「あぁ」




「まったく、世話の焼ける奴だ」

「それより、いくつか聞きたい事があるんですけど!!」

「聞きたい事? 何だよ?」

「まず最初に!!」

「?」

「どうしてドーム内のロビーがあんなに寒くなるの?」

「だから言ったろ? 節電のために暖房設備を一時切るんだよ」

「節電ってエコのため?」

「何で滅びる惑星のために節電するバカがどこにいるんだよ!! 今世界はエネルギー不足なんだよ。エネルギーの大半はソーラー発電でまかなっているんだ。しかし、太陽はもうすぐ無くなる。だから世界政府は電気エネルギーを貯蓄し始めたんだ。ソーラー発電以外で発電できるようになるまでの電気エネルギーをな」

「へぇーって、ちがーーーう!! そうじゃなくって、どうしてドームの外は灼熱なのにドームの中はだんだん気温が下がって行くのっていうのが聞きたいの!!」

「あぁ、それか。それは単なる設計ミスだ」

「設計ミス!?」

「このドームは熱エネルギーを吸収する物質で出来ているんだが、設計者がうっかり内断熱を設計し忘れたんだ。だからドーム内の熱も吸収してしまうんだよ」

「何だ、そうなんだ」

「で? 次の質問は?」

「えっと、どうして太陽が赤色巨星っていう大きな姿になっちゃったの?」

「ふぅー。お前それ高校生なら知ってて当然な事だぞ。まぁ、お前は過去から来てるんだからしょうがないか。いいか、太陽は核という半径約10万kmの中心部分で核融合反応を起こして輝いている。水素を核融合させてヘリウムにしてるんだ。だけど、中心部分の水素が全部ヘリウムに変わったら、次に太陽はヘリウムよりも重い元素である炭素を核融合で作り始める。炭素の次は酸素。そうやってだんだん太陽は大きく膨らんでいくんだ」

「そっか。それじゃ、太陽が死んで白色矮星とかって何?」

「恒星の死には2種類ある。超新星爆発を起こしてブラックホールや中性子星になるものと、周りにガスを吹き出して白色矮星になるものがある。太陽は質量が軽い方だから、周りにガスを吹き出して白色矮星になるんだ」

「なんか……ぜんぜん分かんないや」

「教えて損した」

白崎春樹は呆れた。

「だって、超新星爆発とか中性子星とか分かんないんだもん」

「いいか、超新星爆発は……」

白崎春樹は桜美智にいろいろと教えていった。


「というわけだ。分かったか?」

「はい」

「完璧だな。ま、これも俺の教えがいいせいかな」

白崎春樹は自分でそう言って、満足していた。

「そう言えば、私って、いつ帰れるの?」

「は!?」

「だって、過去から来たんだよ?」

「無理だろ」

「えぇーーー!! 何で!?」

「知るか!! っていうか、タイムマシンなんてねぇーーーよ!!」

――そうだった。

「どうせ、私なんて、元の時代に戻ったって、いい事なんて」

「はぁー。俺も手伝うよ」

「何を?」

「タイムマシン」

「もう!! いい!!」

桜美智は部屋を飛び出した。すると。

「おい!! 待てよ!!」

白崎春樹は彼女の後を追いかけた。一方、桜美智はガラス越しに外を見ていた。

「そういえば白崎君はここで何やってるの?」

「俺はここで太陽や荒れ果てた地球の写真を撮ってる」

「写真?」

「こんな写真なんて機械に任せればいいって言う奴がいるけど、俺は違うと思うんだ。母なる太陽と地球が滅ぶんだ、人間自身がそれを見守らなくてどうするんだって思うんだ」

「……」

「なぁ、その……」

「?」

「お前の名前っていいよな」

「え?」

「〈さくらみち〉って、この桜道のことだろう?」

白崎春樹は雑誌の桜並木の写真を見せて言う。

「あぁ、よく言われる。私の字はね」

桜美智は紙に自分の名前を書く。

「こうだよ」

「なんだ、ありふれた漢字だな」

「まぁね。よく言われる」

「俺さ、桜並木を歩いたことが無いんだ。まぁ、宇宙コロニーに行けば、庭園にあるんだけど」

「そっか」

「……」

「?」

白崎春樹は顔を赤くする。

「どうしたの?」

「お前ってさ、どんな奴がタイプなの?」

「え?」

「ダメなのか!?」

「いや、減るもんじゃなし別にいいけど」

「じゃ、言え」

「えーっと、100歩譲って、あなたみたいな人」

「それじゃ、俺がお前みたいな歳だったら付き合ってくれるってこと?」

「え、あ、それは……」

「それは?」

「秘密」

「聞いて損した」

「?」

「そうだ。お前、写真撮りにいっしょに来るか?」

「え!? いいの!?」

「あぁ、ドームの外見てみたいだろ?」

「うん!!」

桜美智は目を輝かせて、頷いた。




「ここがドームの出入り口だ」

「うわー!! 大きい!!」

「違う。そっちは機械用だ。人用はこっち」

そこには、小さな扉がぽつんと備え付けられてあった。

「なんかイメージと違う」

「何か言ったか?」

「いいえ、何も」

「外に出る前に渡す物があるんだ」

「?」

「これ」

白崎春樹は桜美智に断熱シールドの機械を渡した。

「何?」

「断熱シールドだ」

「断熱シールド?」

「半径1.5メートルのところに断熱のシールドを作るんだ」

「へぇー。断熱服とかじゃないんだ」

「スイッチを入れてポケットに入れとけ」

「はい」

桜美智は断熱シールドのスイッチを入れた。

「いい? 行くよ」

「OK」

白崎春樹はドアの開閉ボタンを押す。すると、ドアが開いた。

二人は外へ出た。

「これが未来の地球……」

すると、桜美智は悲しそうな顔をした。

「……」

白崎春樹はそんな桜美智を黙って見つめた。

「ほら、行くぞ」

「うん」

白崎春樹は写真を撮る。

――太陽が無くなるって、こういうことだったんだ。

桜美智は、周りの荒野を見渡していた。


二人はドームの中に入った。

「どうだった?」

「すごかった。人間なんて、まだまだだなぁって思った」

「そうだな」

すると、報知器が鳴った。


「何!?」

「きっとフレアーの大爆発だ!!」

「フレアー!?」

「要するに、大量の熱エネルギーがやってくるんだよ!!」

「そうするとどうなるの!?」

「このドームがその熱に耐えられればいいんだけど、もし耐えられなかったら、このドームは吹き飛ぶ」

「!?」

「来い!!」

白崎春樹は桜美智の手を引いて、走り出した。

「何!? どこへ行くの!?」

「北側にあるエリア40だ。」

「そこに行ってどうするの!?」

「そこに行けば宇宙へ行くためのエレベーターがある。それで宇宙へ逃げるんだ!!」

すると、轟音が辺りに響いた。

「何!?」

「きっと南側のドームの壁が吹き飛んだんだろう」

「そんな」

「急げ!! 巻き込まれるぞ!!」

――暑い。熱がもうそこまで来てるんだ。

「桜。これに乗れ!!」

「うん」

彼はカードをセンサーにかざす。しかし。

〈ERROR〉

「くそっ!!」

「どうしたの!?」

「エレベーターがERRORになってる」

「えっ!?」

「こっちのエレベーターだ!!」

〈ERROR〉

「こっちだ!!」

〈ERROR〉

〈ERROR〉

「なぜだ!?」

白崎春樹は機械を叩く。

――最後の一台。

白崎春樹はカードをセンサーにかざす。すると。

〈CLEAR〉

「よし!! これに乗れ」

「うん」

桜美智はエレベーターに乗る。

「白崎君も早く」

「俺は無理だ」

「えっ!? 何で!?」

「このエレベーターは一人用だ」

「そんな」

「大丈夫。俺は別ルートで宇宙へ行く。安心しろ」

「でも」

「いいから、行け」

彼はボタンを押した。そして、扉が閉まった。

エレベーターが動き出す。

――すごいG。

桜美智はその場に倒れた。




「さ……くら。さく、ら」


「桜!!」

「白崎君?」

桜美智は目を覚ました。目に前には白崎春樹の姿。

すると、桜美智は白崎春樹に抱きついた。

「ちょ……はいはい。俺は無事です」

白崎春樹は笑顔だった。

「でも、どうやって宇宙へ来たの?」

「エリア40の隣にあるエリア41のスペースマシンを使ったんだ」

「スペースマシン?」

「小さなスペースシャトルのことだよ」

「そっか」

すると、白崎春樹はあることに気付いた。

「桜……体が……」

「?」

「体がだんだん透けていっている!?」

「え!?」

桜美智は自分の手などを見た。

――そんな。

「白崎君」

「何だ?」

「いろいろと迷惑かけてごめんね」

「何だよ。いろいろって」

「消灯時間の間、部屋にいれてもらったり、宇宙のこといろいろ教えてくれたり。ありがとう」

桜美智は笑顔で言った。

「え?」

「だって、熱心に宇宙のこと教えてくれたでしょ? 私ね、今まで勉強が大嫌いだったの。でもね、白崎君から宇宙のことを教えてもらっていた時は学ぶことが楽しいって思えたの。だから、ありがとう」

「そんな……」

桜美智はだんだん消えて行く。

「さよなら」

桜美智はとうとう消えてしまった。




「さ……らさ……ん。さくらさ……ん。」


「桜さん。もう下校の時間ですよ」

保健室の先生が桜美智を起こした。

「あれ? 私……」

――夢? だったの?


桜美智は暑い日差しの中、下校していた。

――ほんとに夢だったのかなー。

「っていうか、さっきからポケットに違和感が」

桜美智はポケットに手を入れた。すると、そのポケットには断熱シールドが入っていた。

彼女はそれを取り出す。

「これって、断熱シールド」

すると、彼女は涙を流した。

「良かった!! 夢じゃなかった!!」


「桜?」

声が聞こえた。桜美智はその声のする方へ顔を上げた。すると、そこには18歳の姿になった白崎春樹がいた。

「やっと会えた」

「あなたは」

「白崎春樹だよ」

「白崎君!?」

「思い出した?」

「どうしてここにいるの!? っていうか何でそんなに成長してるの!?」

「タイムマシンを開発するのに8年かかった。」

「8年も?」

「あぁ」

「私のため?」

「あの時の質問に答えてくれないか?」

「あの時の質問って?」

「もし俺が君みたいな歳だったら付き合ってくれるっていう質問」

桜美智は涙を流す。

「答えは?」

「はい」



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