8 萌える! 天体観測
今年は世界天文年だそうで。なんでもガリレオの天体観測から四百年とか。
四百年だろうが五百年だろうが,私は今日も夜空を見上げる。春の夜空は,また風流なり。何がいいって,そんなに寒くないのがいい。だって,冬は寒くて数分単位でしかベランダに出れませんから。どんなに夜空が澄んでいたって,冷え性には,辛い季節なんですよ。
夜空を見上げるのが好きだ。いや,夜空じゃなくても好きだ。昼間も時間があれば眺めていたいのが本心。学生の時はお気に入りの非常階段口から,首が痛くなるほど空を眺めていた。実家の屋根に上って空を見上げていた。あぁ……懐かしい。そんなに空気がきれいなトコじゃなかったけど,秋は透き抜けるような空だった。近くの空港から飛び立つ国際線の飛行機が雲を一筋,青空に描いて飛んでゆく。その光景の美しかった事。空気の層を実感する天頂付近の藍色に,その向こうにあるハズの宇宙に想いをはせたりしたものだ。あぁ,世界はかように美しい。
さて,そんな今年に世紀の瞬間が訪れる。そう,ご存知の方も多いでしょう。皆既日食だっ。
知らない方に,少し補足。太陽と地球の間に月の軌道が重なる。となると,地表に月の影が落ちる。そこの場所では太陽が月の影に隠れる現象がおきます。これが日食。皆既日食とは,太陽が月で全て隠れる現象。つまり,昼間に太陽が隠れてしまうという事。これはスゴイですよ。天地反転の大騒動ですよ,いや,ホントに。しかも,今年は日本でも! 奄美地方,鹿児島の離島地方で十数分にも渡って皆既現象が起きる! これは今世紀最大と言われていたりする。これって,かなりスゴイ事なんですよ。
さて,こんなに騒いでいますが,日食という現象は地球上で珍しい事ではありません。年に一回は起きる。でもね,観測地点が南極やジャングルのど真ん中では,一般人では観測不可能です。いや,行く人がいない訳ではない。いわゆる『皆既日食マニア』の人は行くらしい。でも,そんなの普通は不可能だ。この地球上で一般人も行けそうな,いや……観測可能な空間で起こる皆既日食となると,機会はぐぐっと少なくなる。例えそれが離島だろうと,住人百数十人の島だろうと,その範囲が狭まろうと,貴重な機会なのだ。だって,地表の三分の二は海。地球は広大なり。
運命の刻は七月二十二日。さて,この日めがけて商戦も激しくなってきました。各旅行会社のパンフレットには,『皆既日食観測ツアー』なるものが出始めた。しかも,上海もある。いえ,条件のあう地域帯には上海もあるのです。地図を見れば一目瞭然。私の憧れの国ブータンから伸びて上海から鹿児島離島の悪岩島周辺,奄美大島北部,種子島南部,および周辺海域まで。宿泊施設やトイレや水の確保確実な場所という,世界中からの観測者を受け入れられる全条件を整えられるのは上海だ。……金銭やビザの期限が確実な方は,上海が確実なのかも。はぁ……。各旅行会社,足元みて20万前後で攻めてきています。しかも,周辺海域クルージングになればお値段もそれなりで。キャンセル待ちも,かなりの倍率。
私もそれなりに考えてみた。幸いにも,いや……幸いなのか。観測地帯には,遠ぉい血縁の家もある。生まれてこの方,電話で一二度しか話したことのない親戚だけど。……世間では,これは他人というだろう関係だけど,無理言って厚顔厚かましく押しかける手もある。実家の父の仕事関係で旅館か民宿を押さえてもらう事も考えた。けどね……家族持ちには不可能だ。例え旅館を押さえれたとしても,遠慮なく血縁も家に押しかけても,小さな子がいては不測の事態に備えられない。小さい子というのは,不測の時に必ず高熱を出します。慣れない食事で必ず体調を崩します。そう,あの辺りは魚中心。以前あの辺りの島を訪れた時,普通に置かれていた醤油が魚醤だったのにはタマゲタ……。我が家には未就園児がいる。無理っす。断念。
さて,では本州在住者は日食が見れないかといえば,そんな事はありませんっ。2012年,北陸東海や関東地方で金環日食が見れます。僅かに太陽が大きいので黄金のリングが出来上がり,昼間の闇は完璧ではないですけど,まぁ……妥協しましょう。楽しみです。詳しくは国立天文台のサイトをご覧下さい。LET‘S アクセス!
こんなにも皆既日食に燃える私,傍から見れば異常のようです。一時,周辺の宿泊施設や交通手段のサイトを漁っていた姿は,鬼気迫るものがあったらしい。だって,こんな機会ないじゃんと家族を説得しても,引かれまくった。それはね,皆既日食の動画を見てないからですよ。そう思う。
私,1999年トルコ・ルーマニア周辺で観測された時の動画を見てしまったからです。
皆既日食という現象に興味を持っていたのですが……。なにせ,小学生の時に『皆既日食で地上が闇に包まれると,鳥は鳴き叫び,風が吹き始める』なんて記述を読んでしまった。だから,昼間に暗くなるという瞬間を見てみたい願望が強くあったのです。私が天文に興味を持ったキッカケと言ってもいい。
二年ほどまえ,馴染みのプラネタリウムで『皆既日食』のプログラムがあったから当然見に行きました。そこで,やったのです。99年の皆既日食の瞬間の動画の上映を。それは……美しい光景でした。99年当時も各ニュース番組や動画で見たのですが,やっぱり大きなスクリーンでみるものは違います。
日食前は,世界中の人が集まっているだけあって色んな言語が聞こえます。もちろん動画を撮影している日本人の声は大きいのですが,英語フランス語,馴染みないトルコ語か何かも聞こえたり,それは賑やかに。そして段々と太陽が隠れていくと言語がドヨメキに変っていくのです。風の音,鳥の羽ばたく音,世界がざわめいていくんです。どこからともなく,カウントダウンが始まり,様々な人種言語が一斉に『4,3,2,1,WOW!!! 』と叫ぶ。幾多の言語の感嘆の叫びが響きます。確かに,世界がその瞬間に一つになります。鳥も犬も人も叫んでいます。風も草木も吹き荒れます。生き物が,一つの現象に,共鳴する瞬間。これは奇跡です。これほど美しい光景は,私は思い浮かびません。
鳥や犬が叫ぶのは,太陽が急速に隠れる事による気圧の変化でしょう。風が吹き始めるのも,また然り。科学で説明できます。それは判っているんだけど,生きる物が叫んでしまうその瞬間には,立ち会ってみたい。生きてるうちに,その瞬間に立ち会ってみたい。あぁ……悔しい。
そう,空を見上げるだけなのに,規制が多い。自分で規制を作っている点もあるけど,夜空を見上げるのは,規制が多い。女ならば,尚の事。
しし座流星群,ご存知だろうか。昨今話題になったのでご存知かと思う。11月中旬の夜更けに流れる流星群だ。これも2001年に大規模の流星雨が観測されたのでご存知かと。ニュースになったし。私も見ました。寒さに震えてみてましたよ。えぇ……自宅の庭先で。
当日,いそいそとスタジアムコートを引っ張り出しポットに熱湯を用意しだした私を見て,家族はかなり驚いていた。空好きだと話してたが,寒い夜空の下,数時間も外にいるとは思わなかったらしい。
インスタントコーヒーにマグカップを籠に入れた私に,『どこで観るの? 』と恐る恐る聞いてきた。当然,私は郊外の堤防まで行くと答えたところ……猛反対。今思えば,当然だ。散々説得されて,自宅の庭先で観測。街中です。いくら夜中といえども,ベットタウンですよ。夜間の光は結構なもんです。うっすら白く見えるんです。その中の観測……泣けてくる。それでも,当日はオリオン座を横断する流星も見れました。あの時の流星は凄かった。翌日の寝不足は凄かった。これもまた,いい思い出だけど。
女一人で,夜空を見上げる。これはかなり難しい。治安悪いですからね。今の世の中では男でも危険でしょう。ましてや女だと身の危険が倍です。じゃあ,何人か集まればという話でしょうが……知り合いに星空を眺める趣味の人がいません。あぁ……物好きなのかな。今,本気で天文台のサークルに入ろうか迷ってます。仕事が忙しいのがネックですね。もう少し,生活の時間にゆとりが出たら行こうかな。地元のプラネタリウムも改装に入るしなぁ。新しいところを開拓しなければっ。あとは,夏にキャンプにいくとか。やっぱり夏の山でみるペガサス流星群は格別ですから。あー! 本気で行きたくなってきた。星を見たい。夜空を見上げたい。空の色が変る明け方を,夕方を,360度ぐるりと見たい! となれば,やっぱ海か山にキャンプかな……。やぶ蚊だけ,困るんだけど……覚悟決めようかな。春先の夜空を眺めながら,遠くから夜桜の妖気を感じながら,ぼんやり考えてたりする。女の天体観測って,難しいです。