6 音楽好きとイヤホンと
私は音楽なしでは生活できないタイプだ。
けど,携帯プレーヤーを持っていない。なぜか。理由は二つ。まず一つ,絶対に事故るからだ。自信もって言える。
音楽好きならするであろう,脳内ステレオ状態。つまり,頭の中で曲を反芻するという裏技。これはかなり心地よい。自分の好きな音を拡大して楽しむ事が可能だ。
裏のギターだけ,打ち込みのこの音を,ボーカルのこのフレーズのここの音域だけ……色々と楽しめる。
その脳内ステレオのバッテリーは無限。本人の集中力しだいで数時間でも可能。訓練しだいで伸びる。
いい事ずくめ,の気がします? そうウマくいかないのです。集中すればするほど,周りの音は聞こえなくなります。気をつけないと,変人扱いされます。
学生時代に脳内ステレオの音と妄想に囚われて,自転車で電柱や標識にぶつかった武勇伝は数知れず。自転車を壊し,眼鏡も壊した。こんな危なっかしい奴は,さすがに周りにはいなかった。親も心配しただろう。ごめんよ。
その幾多の教訓をいかし,携帯プレイヤーを持たない。脳内ステレオでこの惨状。使ったら,周りに多大なご迷惑をかけるのは明白。
車の運転も「今日は注意力散漫かも」と思った日は,音楽を切っている。聞いてると,妄想が始まってしまうので。
そしてもう一つの理由。
「イヤホン禁止令」
中学高校と,私は吹奏楽部に所属していた。
中学の時は御気楽な部活動だった。なにせ,私の入学と同時に創部だったから上下関係ないし,みんな素人。
が,高校は違った。学力と通学時間の釣り合った高校を選んだだけだったのに。
別に帰宅部でもよかったのだが,真面目にも入部してしまった。そう,見学のつもりが入部していたというパターンだ。
そこの顧問,M先生はストイックな人だった。
せいぜい地区大会銀賞か銅賞の高校を在任4年 (確か)で8県代表参加の地方大会で銀賞受賞までにしてしまった,私達の中では伝説の人。
M先生曰く,「イヤホンはするな。耳が悪くなる。互いの音を聞き分けて合奏出来んのは,話にならん」との事。
当時,CD携帯プレイヤーが普及していた。高校生でも手が届くぐらいの値段。今の主流はHDの携帯プレイヤーですけどね,その頃はCDでした。
通学途中の高校生の何割かは耳にイヤホンを入れて歩いていた。その通学中はもちろん,自宅でもイヤホンを愛用するという生活パターンが固まりつつあった時だと思う。
その中での「イヤホン禁止令」。
かなりのブーイングがでたが,M先生の指導を受けるうちに反発もなくなった。
みんな,口にこそ出さなかったが,互いの音を聞き分けて音を重ねる合奏が,心地よかったんだと思う。少なくとも,私は心地よかった。
あの多感な時に,生の音を聞き分ける行為をしていたお陰で今の音感やセンスが出来たと思っている。別に耳で商売していないけどね。
音を聴くという大きな趣味が出来た事は大きい。多分,一生楽しめると思う。
さて,では今もイヤホンをしてないかと言えば……M先生ごめんなさい。イヤホンしてます。
携帯プレイヤーを使わない私が何時イヤホンを使用するのか。
音楽をPCのHDに落としているからです。しかも,ゆっくり聴くのは夜か休日の朝ぐらい。そうなると,イヤホン使用じゃないと。今は音のマナーも厳しい時代ですからね。
一杯日本酒を傾けながら,夜な夜な聞いてる訳です。
が,最近問題が出てきた。
なんか,高音がビリビリしている。文字にして表現するのは,難しいな……とにかくイヤホンの不調です。
思い出せば,このイヤホンって何時買ったんだろう。
そう記憶をたどっていくと,入院中に心当たりが。そう,退屈しのぎにTVを聞くために病棟で買ったものだった。
音質悪いと思っていたら,数百円モノだったとは。
いつも酔っ払って聞いてるからあんまり気になってなかったとはいえ……お恥ずかしい。少しお酒の量,減らそうかな。
今や楽曲がダウンロード出来る時代。音質が悪いのは,再生媒体の問題なんですよね。現に,PC直通のステレオは凄く良い音だ。
あと,あんまり音質にこだわってなかった。何故か。PCで聴くのは動画サイトが多いってのもある。
最近TV番組が不調なのは,動画サイトを見る若者層が増えてるからとか。
納得。違法だとは判っていても,見そびれた番組や,話題性のあるコーナーとか,いいトコ取りで見れますもん。私も愛用してます。
大体が,ライブ映像かPV。違法だ。でもやめられないのよぉ。
COIDPIAYのツアーをBBC前のフリーライブから追い,夏の大阪でのライブまで見れたときには感動しましたよ。つい先日も,東京であったカプセルのi○UNES店内のライブ映像を見れた時も驚いた。……ネットって,動画サイトって偉大です。地方在住には,ありがたい。
画質が悪くても,音質が悪くても,いいんです。その場の生の空気を共有できる。さらに,世界中の同好の志を知ることが出来る。
パフュームを東欧らしき少女が歌ってる映像にはたまげた。英語の歌詞の字幕を作ったPVには,ファンの愛情を感じてしまったよ。違法でもさ。
そう,動画サイトでの問題点で一番にあげられてるのは違法性だ。
作り手としては,やっぱ腹立つでしょうね。お金も労力もかけて作り上げた作品を,公表したとたんに無料で多くの人が見てしまう。「やってらんねぇよ」ってのが,正直なとこでしょう。私も「ポニョ」が公開直後に動画サイトに流されたのをニュースで読んで同情した。そりゃ,やりすぎやろ。
さて,じゃあ,動画サイトは悪か。
違うと思う。そう,物事に白黒はっきりつけれないでしょ。
最近は企業側も確信犯的にCMを動画サイトに出している。露骨に企業名を明かさずに,スマートにね。ネット関連会社やジーンズのCMは,見事に私もひっかかった。あれはかっこよい映像だったなぁ。最近のHD内臓の録画機器はきちんとCM飛ばしの機能がある。CM自体が絶滅危惧種になりかねない今,貴重なアピールの場なんでしょう。
動画サイトを利用しようという動きがある今,ルールが作られてる変革期なんでしょうねぇ。見る側のモラルの問題も大きい。でもね,見てみて良いと思った曲は大抵買ってます。私の場合は。つまり,ウインドーショッピングだ。今までのCDの販売では,お店や会社がお薦めの音楽しか視聴が出来なかった。みんなラッピングされて売られてる。ジャケ買いなんて出来ない一般庶民や学生は,二の足を踏んでしまう。それに比べれば,どんなモノも視聴できるので有難いのです。結果,製作側に恩恵があるのではないかと……。そのうち,動画サイトで新人のキャンペーンしたりして。都合よすぎる解釈かも。
いずれにせよ。
私としては,もはやなくてはならぬもの。なくされては,困る。
まだビデオしかない過去の時代の映像まであるので……時々,予期せぬ出会いが出来て涙してしまうのもしばしば。
1994年の最初のリバーダンスの映像が見れた時なんか,泣いた。本気で。もう,一生見れないと思っていた伝説の舞台。
高校の時に聴いてたtake that のPVが見れた時は,笑った。当時の友達との何気ない会話や雰囲気がリアルによみがえった。嬉しかったな。
多分,これ書いたら,また見ると思う。最近のお気に入りはsugerlandだ。子猫の方じゃないですよ。
イヤホンのコードをPCに差し込むたびに,M先生の言葉を思い出す。
こんな生活をして耳に負担をかけ続ければ,再び楽器を手に取る時に酷く後悔するかもしれない。けど,そんな時くるだろうか。だって,器楽演奏の才能がない事は,高校で嫌というほど味わったんだから。本当,とてつもなく上がいると背筋が凍る思いは何度もしたもの。
だから,今は思う存分音楽を楽しんで聴こう。そう,思ってる。