4 見えるんです
今回は,いわゆる『幽霊話』アリです。
あまり怖がらせる趣意はありませんが,苦手な方はご遠慮ください。
見えるか見えないか。黒白はっきりさせるのなら,私は「見える」タイプだ。
何がって,はい,ズバリ「この世のモノではないもの」です。
今回はそういう話です。前置きにもありますが,全く信じない方は読まなくて構いません。
古今東西,霊界だの幽霊だのの存在証明を求める議論は尽きませんが,こればかりは簡単にはつきませんから。疑う人の理論もしかり。確かに納得できます。大抵の目撃談というものは,脳の錯覚と言えるし。UFOやらも含め,目撃者の描いた「こんなん見ました」というイラストは下手でよく判らないし。何故だろう……そして,私も絵心はない。
ここまで読む方は,ソッチ系に関心がある方と仮定させていただきます。怖いもの見たさってやつですよね。
ですが,私はあまり怖い思いはした事ないんです。あぁ,一つあった。リアルに怖いのが。
自動車を運転中,二車線の交差点での右折時でやっと矢印が点灯して「さぁ,行くぞ」という時,歩行者が突然走りこんできてブレーキをかけたら……生きている人ではなかったとか。
その瞬間エンストしてしまい,後続車からクラクションの嵐。
当然です。あの時はすみません。きちんと余裕をもって目視をしていれば「死んだ方」か判別できていたんですから。
怖いって,私の運転が怖いんですよね。
でも,結構あるんですよ。あちらの方はこちらが見えてないと思って,道路交通法を守らないのだろうか。一度聞いてみたいものです。
そう,こちらとあちら,見えないものという前提があるのでしょうか。そんな話を一つ。
私はコンタクト愛好家なのですが,花粉症でもあります。目に症状がでる方はわかると思いますが,かなり痛い。運転する事もある日中はともかく夜は辛いので眼鏡なのですが,そうなると視力は落ちる。普段は家の中用だから困らないのですが,しかたなく町内会の用事で近所に届け物をしていた時の事です。
私が住んでいる所はいわゆるベットタウンで,住宅地です。街灯がなくても,家々の明かりで苦労なく歩けます。
月も綺麗な秋の夜,眼鏡の私が歩いていると前方の路上駐車の側に人が立っていた。近所の人かは,眼鏡でよく見えなくて判らない。が,このまま無視して近所の方々の印象を悪くするのはイタイ。知り合いだと,後々の関係もある。こういう時私は取り合えず,誰構わず笑顔で挨拶して近づく事にしていた。
八方美人。下手な鉄砲数打ちゃ当たる。
「こんばんは」
何かありました?
そう言おうとした途端,私のカンが警告を発令した。この感覚,この空気。生きている人から感じる気が感じない。
なんといえばよいのだろう。とにかく,人が纏っている空気がなくなった感覚といえばよいのか。
視線が合った瞬間,全身鳥肌。
時代遅れのデザインの服に,キツいパーマの髪型の女性。
相手は,誰かから話しかけられるのをかなり前から待っていた。そして,それがかなり稀だという事も判っていたようだった。互いに,固まった。
相手も驚いていた。そして,笑顔。うん,あれは多分,獲物を見つけたっていう怖い笑顔。
途端,彼女から「話を聞いて」オーラが全開になった。
「ごめんなさいぃぃい!! 」
逃げたさ。もう,全力ダッシュで。
だって,私は見えるだけなんです。話を聞いて云々するなんて芸当,出来ないんです。そういうのは,プロの所に行ってもらわないと!
般若心経のお題目だけ唱えて逃げて,玄関へ。
以来,夜でも外出はコンタクトを必ず装着する。そして,見えてしまっても無視。
薄情者と言われても構わない。だって,見えるしか能がないんですから。
見えてしまう時は大抵,相手の強く思う事を感じてしまう。
だから,見えるんですと告白すると,信じてもらえない。そりゃそうだ。ないものが見えて,しかも相手の感情が伝わってわかるなんて,嘘臭い。
信じてくれる人でも「いいねぇ」などと軽く言われてしまう。
でも,現実は大きく違うのだ。
私も小さい時は,不思議な事を見たかった。
何か,人と違う特技を持ちたかった。
でも,持つ事が幸せでも優越感を持つものでもない事が,今は身に染みてわかる。
それに,つらいモノを見てしまう事も多い。
家族で食事中に,幼い姉弟の霊に見つめられた時。
彼らは,暖かい家族の団欒を欲しがっていた。皆で温かい食事を食べたがっていた。
その感情が分かっても,私には何か出来るはずもなく,ひたすらに無視をしていた。
僅かでも情けをかけてしまえば,彼らに「何とかしてくれるの?」と希望を持たせてしまうかもしれないから。それは,彼らの為にならない。
私の出来る事は気付いてないふりをする事だけ。
パチンコ店の周りでぼんやりと歩く中年の男性の霊。
近くには花束。
フラフラと車が行き交う県道を歩いていく。
何度も何度も。
家に帰りたいけど,帰れないその姿を見ても,私には何も出来ない。
見えるという事は,決して良い事ではない。
子どもの頃,ここまではっきり見えなかったのは,多分弱かったから。
現実から逃げていたい気持ちが強かったから。
「見える」あちらに,希望はないんです。
「生きている」こちらに希望はある。
自分の力で,未来を変えていけられるんだから。自分のキャラすら,変えていけられるんだから。
それは,はっきりと判る。
私は昔から,自分が好きじゃなかった。
イジメにもあった。何度も。
自殺という言葉が,頭の片隅に何度も浮かんだ。
大切な文字通り「半身」といえる存在も失った。
信用する人がいなくなった時もある。
殺したいほど人を恨んだ事も,私が恨まれるほど酷い事をした時もある。
彼らは,まだ私の事を恨んでいるだろうか。
助けられる人を,自分の力不足で無くしたこともある。
自分が弱くて,言い訳ばかりしていた。
プライドだけ妙に高くて,自分が傷つきたくなかっただけで,周りから逃げていた。
けど,今は違うと言いたい。
自分が弱かった事を認められるだけ,強くなったと思う。
だから,自然と見えるようになったと思う。
辛いものを「見て」も日常が送れる耐久性がついた,といえばよいのか。
変な話,「見える」ようになる前,私は円形脱毛症になっていた。
十円ハゲ,である。五つほど。
さらに,五百円玉大のハゲも。
髪型で上手く誤魔化せたので,日常生活に支障はなかったけど。
かなり,色々あったから,そのストレスが体に出たんだろうと思っていた。
精神的に落ち着いたら治るだろうと,治療もいい加減に受けていた。
そして自分の心境が落ち着きだした頃から,「見える」ようになってきた。不思議なもんだ。
今はもちろん,全部のハゲが治っっている。
そう,思っていた。えぇ,思っていたとも!!
……先日,またハゲが見つかった。
もう笑うしかないぞ。
この流れでいけば,私,さらに「見える」ようになるんでしょうか。
レベルUPっすか?!
どうなる私! どうする私!
まぁ……これでホラー小説も書けるようになると,前向きに考えておこうかな。
考えるしか,道はないかも。
経験者,一報求む!