表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロバ耳!!  作者: 木村薫
4/24

 4 見えるんです

 今回は,いわゆる『幽霊話』アリです。

 あまり怖がらせる趣意はありませんが,苦手な方はご遠慮ください。

 見えるか見えないか。黒白はっきりさせるのなら,私は「見える」タイプだ。

 何がって,はい,ズバリ「この世のモノではないもの」です。

 今回はそういう話です。前置きにもありますが,全く信じない方は読まなくて構いません。

 古今東西,霊界だの幽霊だのの存在証明を求める議論は尽きませんが,こればかりは簡単にはつきませんから。疑う人の理論もしかり。確かに納得できます。大抵の目撃談というものは,脳の錯覚と言えるし。UFOやらも含め,目撃者の描いた「こんなん見ました」というイラストは下手でよく判らないし。何故だろう……そして,私も絵心はない。

 





 ここまで読む方は,ソッチ系に関心がある方と仮定させていただきます。怖いもの見たさってやつですよね。

 ですが,私はあまり怖い思いはした事ないんです。あぁ,一つあった。リアルに怖いのが。

 自動車を運転中,二車線の交差点での右折時でやっと矢印が点灯して「さぁ,行くぞ」という時,歩行者が突然走りこんできてブレーキをかけたら……生きている人ではなかったとか。

 その瞬間エンストしてしまい,後続車からクラクションの嵐。

 当然です。あの時はすみません。きちんと余裕をもって目視をしていれば「死んだ方」か判別できていたんですから。

 怖いって,私の運転が怖いんですよね。

 でも,結構あるんですよ。あちらの方はこちらが見えてないと思って,道路交通法を守らないのだろうか。一度聞いてみたいものです。


 そう,こちらとあちら,見えないものという前提があるのでしょうか。そんな話を一つ。

 私はコンタクト愛好家なのですが,花粉症でもあります。目に症状がでる方はわかると思いますが,かなり痛い。運転する事もある日中はともかく夜は辛いので眼鏡なのですが,そうなると視力は落ちる。普段は家の中用だから困らないのですが,しかたなく町内会の用事で近所に届け物をしていた時の事です。

 私が住んでいる所はいわゆるベットタウンで,住宅地です。街灯がなくても,家々の明かりで苦労なく歩けます。

 月も綺麗な秋の夜,眼鏡の私が歩いていると前方の路上駐車の側に人が立っていた。近所の人かは,眼鏡でよく見えなくて判らない。が,このまま無視して近所の方々の印象を悪くするのはイタイ。知り合いだと,後々の関係もある。こういう時私は取り合えず,誰構わず笑顔で挨拶して近づく事にしていた。

八方美人。下手な鉄砲数打ちゃ当たる。

 

 「こんばんは」

 

 何かありました? 

 そう言おうとした途端,私のカンが警告を発令した。この感覚,この空気。生きている人から感じる気が感じない。

 なんといえばよいのだろう。とにかく,人が纏っている空気がなくなった感覚といえばよいのか。

 視線が合った瞬間,全身鳥肌。

 時代遅れのデザインの服に,キツいパーマの髪型の女性。

 相手は,誰かから話しかけられるのをかなり前から待っていた。そして,それがかなり稀だという事も判っていたようだった。互いに,固まった。

 相手も驚いていた。そして,笑顔。うん,あれは多分,獲物を見つけたっていう怖い笑顔。

 途端,彼女から「話を聞いて」オーラが全開になった。


 「ごめんなさいぃぃい!! 」

 

 逃げたさ。もう,全力ダッシュで。

 だって,私は見えるだけなんです。話を聞いて云々するなんて芸当,出来ないんです。そういうのは,プロの所に行ってもらわないと!

 般若心経のお題目だけ唱えて逃げて,玄関へ。

 以来,夜でも外出はコンタクトを必ず装着する。そして,見えてしまっても無視。

 薄情者と言われても構わない。だって,見えるしか能がないんですから。


 見えてしまう時は大抵,相手の強く思う事を感じてしまう。

 だから,見えるんですと告白すると,信じてもらえない。そりゃそうだ。ないものが見えて,しかも相手の感情が伝わってわかるなんて,嘘臭い。

 信じてくれる人でも「いいねぇ」などと軽く言われてしまう。

 でも,現実は大きく違うのだ。


 私も小さい時は,不思議な事を見たかった。

 何か,人と違う特技を持ちたかった。

 でも,持つ事が幸せでも優越感を持つものでもない事が,今は身に染みてわかる。 


 それに,つらいモノを見てしまう事も多い。

 家族で食事中に,幼い姉弟の霊に見つめられた時。

 彼らは,暖かい家族の団欒を欲しがっていた。皆で温かい食事を食べたがっていた。

 その感情が分かっても,私には何か出来るはずもなく,ひたすらに無視をしていた。

 僅かでも情けをかけてしまえば,彼らに「何とかしてくれるの?」と希望を持たせてしまうかもしれないから。それは,彼らの為にならない。

 私の出来る事は気付いてないふりをする事だけ。

 

 

 パチンコ店の周りでぼんやりと歩く中年の男性の霊。

 近くには花束。

 フラフラと車が行き交う県道を歩いていく。

 何度も何度も。

 家に帰りたいけど,帰れないその姿を見ても,私には何も出来ない。


 見えるという事は,決して良い事ではない。

 子どもの頃,ここまではっきり見えなかったのは,多分弱かったから。

 現実から逃げていたい気持ちが強かったから。

 「見える」あちらに,希望はないんです。

 「生きている」こちらに希望はある。

 自分の力で,未来を変えていけられるんだから。自分のキャラすら,変えていけられるんだから。

 それは,はっきりと判る。


 私は昔から,自分が好きじゃなかった。

 イジメにもあった。何度も。

 自殺という言葉が,頭の片隅に何度も浮かんだ。

 大切な文字通り「半身」といえる存在も失った。

 信用する人がいなくなった時もある。

 殺したいほど人を恨んだ事も,私が恨まれるほど酷い事をした時もある。

 彼らは,まだ私の事を恨んでいるだろうか。

 助けられる人を,自分の力不足で無くしたこともある。

 自分が弱くて,言い訳ばかりしていた。

 プライドだけ妙に高くて,自分が傷つきたくなかっただけで,周りから逃げていた。

 

 けど,今は違うと言いたい。

 自分が弱かった事を認められるだけ,強くなったと思う。

 だから,自然と見えるようになったと思う。

 辛いものを「見て」も日常が送れる耐久性がついた,といえばよいのか。


 変な話,「見える」ようになる前,私は円形脱毛症になっていた。

 十円ハゲ,である。五つほど。

 さらに,五百円玉大のハゲも。

 髪型で上手く誤魔化せたので,日常生活に支障はなかったけど。

 かなり,色々あったから,そのストレスが体に出たんだろうと思っていた。

 精神的に落ち着いたら治るだろうと,治療もいい加減に受けていた。

 そして自分の心境が落ち着きだした頃から,「見える」ようになってきた。不思議なもんだ。

 今はもちろん,全部のハゲが治っっている。


 そう,思っていた。えぇ,思っていたとも!!

 ……先日,またハゲが見つかった。

 もう笑うしかないぞ。

 この流れでいけば,私,さらに「見える」ようになるんでしょうか。

 レベルUPっすか?!

 どうなる私! どうする私!

 まぁ……これでホラー小説も書けるようになると,前向きに考えておこうかな。

 考えるしか,道はないかも。

 経験者,一報求む!



 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ