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ロバ耳!!  作者: 木村薫
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24 相手を知るというコト

 小説を描く。それは本来,自分の内面の葛藤や空想妄想を記録という意味でも残す為なのかもしれない。

 でも実際書いてみると,真っ白なレポート用紙やPCの画面を埋めていくと,違う欲求が生まれてくる。そう,評価が欲しくなる。感想が欲しくなる。

 膨大な気力と時間を費やした作品を,誰かに見てもらいたくなる。

 なんだろうなぁ……この気持ちは。

 アクセス依存症がなくなった今も,それは気になる事です。読んだよ,という印はアクセス数として残っています。ありがたい事です。本当に。

 だからこそ,いつまでも心の中に存在する欲望というものに戸惑う。欲深い。私はきっと欲深い。

 もっと,描写を上手くしたい。もっと感情や心理を掘り下げたい。文化に根付く慣習や仕草を描いていきたい(無知ゆえに,ここは本当に難しい。もっと描いてきたい所です)。

 そして何より,誰かの記憶や心に残るような物語を描いていきたい。

 ふと夕焼けの空を見上げて思い出したり,流れる雲や景色を見て蘇る一文。そんな欠片を誰かの記憶に残せたら,それはどんなに素晴らしい事だろう。私の記憶や想いが,ネットを通した活字によって共有されるような感覚。

 

 誰かが読んでくれている。

 そう思うと,相手を考えてしまう。

 会った事のない,その相手を。

 通勤や通学時間,電車やバスの中で読んでくれたいるのだろうか。

 それとも,学校で友達と噂話をしながら読んでくれているのだろうか。

 夜,ようやく一息ついた時に気晴らしに読んでくれているのだろうか。

 男性? 女性? 学生? 社会人? 

 それならば,どんな展開が共感できるのだろう。

 自分の中の物語にある曲げたくない軸。変えられない展開。

 そこを楽しんでもらいつつ,自分の描きたいものを伝えていくには,どんな手段が有効なのだろう。

 視点は? どの感情に焦点を当てる? 戸惑いや苦悩より,甘いロマンスか? 共感を得るには,どのエピソードが効果的か? 展開のスピードは? 

 考えても,上手くいかない場合も多い。悩んで自滅する事も多い。

 でも,私はそういう事を考えるのが好きな性質だ。


 アンパンマン。

 何で子どもに人気があるのか。

 いや,人気ってもんじゃない。幼児関係の仕事をしていたから判ります。

 子どもの食いつき具合はハンパないっすよ。

 ハイハイの赤ちゃんから三歳児まで,アンパンマンには大抵の子が反応します。アンパンマングッズから,会話やふれあいの取っ掛かりが出来ます。ありがたい。

 小さい子は分かっているのだろうか。自己犠牲という世界にも稀なヒーローだと。いや,物語に込められた深層は関係ないのかもしれない。いや,あるのか?

 とにかく,人気の大きなヒントはあの顔だろう。

 すなわち,丸。丸。丸。そして,中央に置かれた赤い鼻,丸だ。

 シンプル。そして目立つ色彩。これに勝るものはない。

 多分ね。

 母親も保育士も,模倣しやすいですし。育児グッズに広く使われているし。小さい子が最初に描く図形は線から円だし(最近,きちんと円を閉じて描けない子が多いのは少し気になるが,それはまた別の話だな,うん)。

 誰も飢えさせないヒーロー。かっこいい。

 

 

 買い物をする。レジで待っている間,前の人のカゴをさりげなく観察してしまう。

 おばあちゃんが牛肉を大量に買って行く。連休前だから,子ども夫婦が帰省するのかも。一緒に入った焼き豆腐からしてすき焼きか。

 溢れんばかりに特売キャベツだけを買って行くおじさん。荒れた手から,飲食業をしているのかも。お好み焼きか,たこ焼きか,はたまたパン屋のカツサンドか。

 

 喫茶店で向こうの席の会話を想像する。

 オジサンが意外と甘いデザートを注文したり,それで何やら突っ込む家族の様子とか。

 あら,品がないわ。すみません。

 

 人生,自分のものしか判らない。でも,それでは何も描けない。想像できない。

 一時の幸せも,柔らかな温かさも,崩れ去る脆さも,焦燥も,嘆き怒りも,自分の体験から想像するしかない。

 そして,『自分』から想像したものは『自分』の範疇から出るのは難しい。

 だから,他人を観察して『他人』に近づいていく。近づきたい。

 そうしたら,相手が望んでいるものが判るかもしれない。

 相手の望むものに,近づけるかもしれない。

 それは,甘い予想だろうか。汚い妥協だろうか。

 

 アンパンマンについて少し書いた文章があったのでup。

 子供達にたくさんの愛をありがとうございました。合掌。

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