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ロバ耳!!  作者: 木村薫
23/24

 23 物語と歴史

 ここ最近の日曜日の夜は泣いている。

 大河ドラマ「八重の桜」だ。

 何度か活動報告で上げているのですが,大河ドラマはとりあえず観ている数少ないテレビ番組だ。 

 大抵は,春になると観なくなる。つまんなくなったら,興味はあっという間に消えてしまう。だからここ最近で最後まで観たのは「新撰組!」とか(三谷さんの脚本だったし,若いキャストだったし),「功名が辻」とか(要所にある仲間さんのコメディさがツボにはまった),「竜馬伝」とか(汚い画面で…福山さんら男臭さが)とか。

 とにかく気ままで,いい加減な見方の私。

 なのに,今回は観てる。

 これはねぇ,脚本に惚れた。


 ご存じない方の為にあらすじを書くと「幕末の怒涛にもまれて戦禍の真っただ中の会津で,鉄砲片手に戦う女性が主人公。「幕末のジャンヌダルク」と呼ばれた彼女は後の同志社大学創始者の妻となる人で…」という話。

 前半はその会津戦争までの様子。彼女の20代までを,京都を中心とした動乱も説明しながら丁寧に半年かけて描いている。

 今回の大河にはいくつものポイントがある。 

 ものがたりを描く上で,外してないポイント。


 激動の京都では,薩摩と長州の熾烈な権力闘争がある。登場人物は多く,政局は絶えず変化していく。

 勉強するだけでも難しいのに(笑)これを描くのは,もっと難しい。

 (小説を描く人は分かると思いますが,書く人が全ての動きを理解して人物に入り込めるほど感情を添わせないと,読み手を納得できるものは描けないのです…と思う)

 それをスマートに,実にスピードに乗せて描いている。

 文句はあると思いますよ。だって薩長同盟なんて,立役者の坂本竜馬はわずかに後姿のみだ。あの竜馬が後ろ姿の家紋一つ映されるだけで出番が終わった。

 だけど,ここで時間とってたらドラマの時間終わるから家紋を映すのみで終わらせている。

 大政奉還を決心する場面も,慶喜の横顔一つで終わらせた。ここ,書き手としたら沢山言わせたいセリフや心情描写があったはず。でもそこを敢えて横顔1カットで薩長の場面に変え済ませた思い切りの良さ。

 物語のスピードと,視聴者側の観るテンポを一番に考えているから出来る荒業です。

 

 あと,以前「篤姫」を観た方は分かると思うのですが,女性が主人公だと話が非常に進ませにくい。

 だって,歴史を動かすのはほぼ男だから。(古代の幾人かいた女帝をのぞけば。異論もあると思いますが,はっきり言えば武家社会は男尊女卑ですからね)

 何作もある幕末ものも,男性が中心となって描かれている。そうなるので,男性側で話を引っ張る人が必要になる(視点を作る)。

 今回は八重の兄様である山本覚馬という人物。京都や同志社に縁がある方は知っている。今回の大河はこの兄様がいたから,より魅力的になっている。

 京都の動乱のど真ん中にいて,そして近代化に爆走した人物。

 つまり,故郷の会津から動けない女性主人公と,戦場で動き回る男性陣の視点がある。

 会津はホームドラマなみのまったりさで,主人公が女性になっていく様や結婚生活を描く。

 京都はドロドロの政局と混乱と銃弾飛び交い,焼け野原となる場面が描かれる。

 対比させながら,二つの話を描いている。本当に違う世界の話のようだ。

 だから,舞台が会津になって場面が一つに重なると素晴らしい効果が出る。

 会津のホームドラマで主人公たちに感情移入をしている大部分の視聴者は,その肌感覚のまま激戦の会津編へ引っ張られる。

 一般的な中級武士の家庭だった分,視聴者の感覚は会津の人々だ。


 それがはっきりと描かれたのが,八重の弟と兄の死亡が伝えられた時の家族の描き方だ。(兄は幽閉されてて死んでなかったのですが,家族には混乱の中で処刑された…と伝わった設定です。史実もこうだったのかな)

 父親は「子供達の死に際を伝えてくれてありがとう」と鼻水涙で頭を垂れる。兄嫁は無邪気な子供の顔を見た途端に耐え切れずに座敷の奥へ。そこからカメラは傍観者の位置から彼らを映す。

 寄り沿い泣き崩れる母と兄嫁の背中を,廊下の奥から撮るカット。まるでお手伝いさんのような(下人と言うのかな?),一緒の屋根に住んでいる者のような視点。

 角場の竈の前で,人から隠れるように声を押し殺して泣く父親を背中から格子越しに撮るカット。これも同じ。

 視聴者はどうしたって,山本家の一員の感覚で見てしまう。そして恐ろしい事に,脚本家はこの視点のまま視聴者を会津戦争に持ち込む。

 

 さらに,史実に沿う場面は非常にあっさりと淡々と描いていく。

 砲弾飛び交う戦場はもちろん,悲劇として今回の大河で陽が当たった「二本松少年隊」。13歳頃の子供達の鉄砲隊の悲劇を,誇張する事もなく時間を引っ張る事もなく,伝えられる実話を織り交ぜ(少年隊の一人に斬られた政府軍の隊長が「子供だ! 殺すな!」と部下を必死で止めたのは実話らしくて…)。淡々と話を進めて折りたたむ。そんな事されると,視聴者は観ている話が作り(ドラマ)だと思えなくなってしまう。

 最後に,瀕死の少年が八重のいる救護所に運ばれた所はツッコミましたが(車がない時代,大八車ぐらいしかけが人の移送手段がないですからあり得ない),ここは八重に看取られて死んでいき視聴者に唯一の救いを与えます。 脚本家,うますぎる~! 泣いたよ。分かってても釣られたよ!

 会津戦争で沢山の人物が死んでいきます。脚本家は,半年後に全てを壊していくつもりでホームドラマな会津を描いていたんですよね。破壊の為に。

 脚本家さん,怖すぎる。辛い仕事だっただろうなぁ。でも,今回は視聴者が「登場人物達(会津武士)の視線」で会津戦争を疑似体験していきます。

 知るほどに,第二次世界大戦終盤の一億玉砕と被る。当時の軍部に明治から薩長に圧迫されて出世できなかった東北出身の軍人がようやく出てきたからと指摘もありますが…そうなると,岩倉殿や薩長への恨みは70年前まで生きていたんだなぁ。

 生々しい。



 そう。ここまで観る側を会津側に引き寄せている今回。今までの歴史の表舞台では薩長が中心なだけに,考えさせられる事が山のようで。

 学校で習ったのは,江戸城の無血開城まで。五稜郭の事は酷く小さく扱われてたから,つくづく歴史というものは勝者が描くとよく分かる。

 以前,鹿児島にいった事があるのです。観光案内をお願いしたタクシーの運転手さんは,非常に誇らしげに地元が生んだ英雄の話を繰り返した。そして西南戦争の悲劇を語った。

 まだ,幕末明治の歴史は生々しい記憶として地元に残されているんですよね。

 という事は,ようやく福島も土地も鶴ヶ城の悲劇を語れるぐらいに時が経ったという事かな。もちろん,震災の応援で今回の大河が決まったのは知っていますが。

 あまりにも辛い事実は,かえって人には話したくないものです。当事者の心で整理されて,傷が癒えてから血の涙を流しながらようやく語るものです。だから,ようやく会津の残った念は日本中の人に知ってもらう事で浮かばれるのかもしれません。

 それなら,いいです。どれだけでも泣きます。見ます。

 いつか,震災の悲劇も映像化されるんでしょうか。防災番組で,多くの震災当時の映像が残されたのを知っています。ですが,丁寧に成仏させれる作品が生まれるのでしょうか。

 誰か,百年後でもいい。造ってほしいです。



 これほど幕末を生々しく感じた作品は初めてです。

 本当に……。

 新政府軍が進軍する時に,ご先祖様はどんな事を考えてみてたんだろう。

 母方の曽祖父が,見ているはずなんです。お仕えしていた藩は早々に降伏して薩長に街道を開いたようなんです。

 さて……。曽祖父はそのあと,地元の行政と教育の近代化を急ぎ薩長側の役人を支援して民主化運動を手伝っていきます。

 曾孫は何も言えませんが,当時の事を考えると,歴史の渦の中でのあがきや息遣いが感じられる。本当,平和に暮らしてる曾孫は何も言えないけど,その懸命さが伝わる。

 幕末と明治って,けっこう「ついさっき」なんだなぁと,実感してます。


 まだしばらく,日曜の夜は泣きますねぇ。ティッシュとアイスノン準備して,また観ます。

 

 

 


 

 

 久々の投稿がコレ(笑)。

 お気楽なのですが,また何かあれば書きます。

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