21 電気は何処からやってくる?
今回の原発事故に関して,書きました。
正直,ずっと考えてはいたのですが…この問題は胸の中に入れておくべきかと。迷ってました。
ですが,作中の新聞記事を知ってもらいたくUPします。
作中の数字は中日新聞を参考にしています。
3.11から世界が変った。
一体何人の人がそう書いているのだろう。感じているだろう.
直接被害を受けた方々には,心からのお見舞いを。少しでも心休まりますよう,祈っています。
さらに実生活でも大きな変化があったと思う。
仕事の量が劇的に増えた人。減った人。家族が支援に向かって,環境に変化があった人。
そう。直接の被害は受けていなくても多くの衝撃を受けたと思う。精神的にも,価値観がひっくり返るような衝撃を。
私も,それなりに。
もちろん,被災された方に比べれば,それらは何てこともない事だと重々承知。
今回書く内容なそういう事ではない。
今まで見えてなかった……いや,見ようとしなかった事,気づこうとしなかった事。
電気の話。
発電機で作られた電気は,送電線で運ばれる。途中,変電所を通り,各電線を通り,家庭へと送電される。
一度,発電所へ行くと実感できます。
だって,送電線が発電所からスタートですもん。そこから高圧電線がぐいーーーっと張られていく。幹線道路沿いに,聳え立つ鉄塔。それが近隣の都市まで続いていく。壮観な眺めです。
私の生まれた場所は,そんな場所でした。
辺り一帯は工業地帯ですから,ポコポコ発電所が建ってます。
小さい頃の記憶に,『謎の建物』として変電所や送電線の塔があります。なだらかな里山が所々に見える光景の中に,ソレは存在していました。当たり前に。
海を背景に聳え立つ巨大な箱と煙突。
記憶の奥に仕舞われていたソレが火力発電所だと理解したのは,恥ずかしながら成人してからだった。
電力会社が資料館を創っているのをご存知だろうか。発電所の近くに小さな科学館のような様式で,子供にも発電の仕組みや電気の開発の歴史をわかりやすく解説したものだ。
これ,かなり面白いのです。
その発電所が火力なら,原料の石油の解説から始まり,それを燃やし,タービンを回し,発電するという仕組みを実験装置を使い体感する事で解説している。
実物を中心としたサンプル,模型,多用な色,身近なピンボールなど,視覚的に上手く訴えています。
なにより,実際にモーターを回させる。体を動かさずにはいられないチビッコにはもってこい。
汗かいて,息を切らしながら回し続けます。
そうして,帰りには記念におもちゃなんかもらったりして。入館料は微々たる金額。無料の所もある。
なんか,いい事づくめと思います?
いや,無料より怖い事は世の中にはありません。
「電気を作るのは便利な生活を支える為に不可欠」。「二酸化炭素を出さずに大量の電気を供給できる原子力発電所は不可欠」。「電気を使う事で明るい未来を作り出せる」って,そんな展示内容ですから。
今時,明るい未来なんて信じている人がどれだけいるのだろう。もちろん,「明るい未来」を祈っている。でも,どんな「明るさ」なのか疑問だ。
そんなん,人が持つ価値観で千差万別だ。
それに哀しいかな。
ドラえもんが語ったような「誰ももが笑って暮らせて最先端な技術に囲まれて過ごせる」未来が来ないことは,大人になれば判る事だ。
いや,電力会社が出資して造ったんだから,それは当然だ。子供向けだし夢がなきゃね。
ついでに,ガス会社が作った資料館も行った事がありますが,「電気」を「ガス」に置き換えれば展示内容は大まか同じです。ガスも「二酸化炭素の発生を抑えられる」らしいですよ。確かね。
ガスに支えられた生活も「省エネ」で「明るい未来が作り出せる」らしい。
でも,原子力とガスではおおきな違いが一つある。
廃棄物の有無だ。
あの日以来,最大の問題になりつつある。
放射性物質による汚染。
目に見えないソイツの事も,資料館は「一応」解説してはある。「一応」。
でも,それは全体の展示面積から言えば僅か。私が行った場所では,ワンフロアが「二酸化炭素の発生を抑え温暖化に効果があり」「発電効率がよく経済的な」「地震にもびくともしない最強耐震施設」原子力発電の展示に使われていた。放射性物質,放射能に関する展示は,壁の一角に造られていたものと,地中深くガラス容器に密封されて「安全」に「保管」されるという模型2つのみ。さらに。自然界の放射能と自然界には存在しないプルトリウムの放射能をごっちゃ混ぜ。
これじゃあ,危険性の隠蔽だ。
その電力会社の資料館へ見学に行ったのは2年前ほど。
つまり,震災前はこんな状態でも世間は問題なく流していた。
原子炉の中の作業がどれだけ危険なのかも。線量計が鳴ったら,数値が低い場所に機器を置いて働く事も。一定の線量を被曝したら仕事を切られるが,別の原子力発電所へ行って繰り返し働く原発ジプシーと呼ばれる人たちの事も。その人たちにどれだけの報酬が出ているかどうかなんて事も(もちろん,命の対価として考えられない額だ)。
放射性物質を含んだ雑巾も,使用済み核燃料も,とりあえず地下深く仕舞いこんで「人が踏み込んではいけない」「誰も知らない禁域」にする事も。
私達が使う電気の2~3割は,そんな多くの物質や土地や「人の命」すら使い捨てにしたうえで造られていた。
「二酸化炭素を発生せず」「経済効率はよい」「絶対的安全」というキャッチコピーで,使い続けていた。
「温暖化防止」や「省エネ」を薦めながら,オール電化を推進していたのが何故か。
原子力発電所の地元に大きな会館やら建物が乱立しているのが何故か。そして送電ロスがあるから発電所かが離れるほど不経済なのに,自然が沢山で都市から離れた場所に建設されているのは何故か(送電線を通るときに,電力は抵抗で幾分かは目的地に着く前に消えてしまう)。
何故,電気代の中に「電源確保税」が存在しているのか。
考え矛盾を問い詰めれば答えは明確だった。
あまりに,何も考えていなかった。考えようとしなかった。
「現在」の生活を失うのが怖かった。
その結果が福島だ。
福島県ではない。福島は,今や「落日の日本」と同意語だ。日本に住んで,住み続ける者は「hukusima」人だ。
そう思う。
この夏は,電力不足らしい。
東京電力はともかく,中部電力も浜岡原発を停止させた。だから電力不足らしい。
ちょっと待った。
中部電力は火力発電が多い。冒頭に書いたように,圏内の半島にゴロゴロあります。鉄鋼などを扱う工場では敷地内にも発電所があるのは地元なら周知の事。
調べてみました。
中部電力管内での原子力発電量は一割ほど。
現在,関東地方で行われている節電運動では通常の2~3割は電力の消費を抑えられているらしい。じゃあ,単純に考えてもさ。
現状の生活を維持できる節電をした上で,現在休止中の火力発電所を稼動させれば,大規模停電はおろか経済活動を失速させる事はならないのではないだろうか。
もちろん,燃料費がかかるから電気代はかかるかも。いいよ,電力会社自身も節約してくれるなら納得する。一般的民間企業並の節約を望みますが。
5月12日の中日新聞の記事。
東京電力の発表だと,今夏のピーク時必要電力は5500万KW。供給見通しは5200万KW。不足分は300万KW(他社電力会社からのヘルプ100KW含む)。
こんな発表がされているけど。
けど,7月下旬に広野火力発電所が復旧される。そこの供給量は380万KW。
さらに消費が殆んどなく垂れ流しで消えていく夜間電力を使って水をくみ上げ,沢山の電力が消費される昼に水を落下させる力で発電させる揚力発電の見込みは400万KWとされていますが。
東京電力管内の揚水発電能力は1050万KWのはず……らしい。
東京電力の総発電供給量は6000万KWは越える。余裕じゃん。
この記事を書いた記者さんも書いている事なのだが,何故に「電力不足」などと政府と電力会社は叫ぶのか。
つまり,原子力発電所を止めると現状の生活は送れなくなると脅しているわけで。
何で?
そりゃ原発は巨額の富を生むドル箱だ。それは知っている。判ってしまった。
だけど,今回の件で原発はあまりにハイリスクな事を皆は知ってしまった。通常運転の儲けとは桁が違う損失に何故気づこうとしないのだろう。
そんなにオイシイものとは,もう思えない。
そして,この記事を書いたのは一地方紙。大手新聞社やTV局などのマスコミは「この夏は電力不足!」と叫んでいる。
政府と一緒に。
そんなに,貴方達は原発を継続したいのか?
こんな事になっても?
福島の原発は,まだ収束してない。まだ復旧の見通しすら不透明だ。
「ただちに健康上問題はありません」とは,「長期的に見たら問題がありますよ」って事だ。
問題は,何も解決していない。現在進行形だ。
なのに,メディアの露出は減っていく。何も終わってなんかいないのに。
もっと考えなくては。もっと気づかなくては。そう自省する。
頼りになるのは,情報を嗅ぎ分ける嗅覚と,収集力と,そして良心なのかな。きっと。
私の配慮不足で不快な思いをさせてしまっていたら,申し訳ありません。
また作中の数字に間違いがありましたら,お知らせ下さい。