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ロバ耳!!  作者: 木村薫
18/24

 18 見えなくなりました

 幽霊やら怪奇現象ありの,今回です。

 怖がらせる気はありませんが,「死ぬほど嫌い!」等々の方はお戻り下さい。

 あんまり,怖くないと思うんですけど……。

 以前、見えないはずのモノが見えると書きましたが。

 ここ最近、ちょっとした異変が。

 まったく見えなくなりました。

 いやはや。激変です。

 今回は、そういう『むこうの世界にいっちゃってる』話があります。

 目に見えるモノのみを信じる方、科学を信じる方、そういう方々は不快に思う話かもしれません。

 引き返すなら今のうち。警告はしましたよ。

 




 という訳で。ここまで読んでる方はOKという事ですね。いきますよ。


 以前の回でも話しましたが、見えるか見えないか……という色分けをしたら見えるタイプ、程度でした。

 怪しげな声を聞く。見えない人の足音を聞く。ありえない音を聞く。そういうのは日常茶飯事。

 相手からの視線を感じる事も多かったし、意思を感じる事も。

 でも,そーいうの,全くなくなちゃったんですよね。いやはや。不思議です。

 以前も書きましたが,実は十円ハゲを患っていた時は酷かった。最近は新たなハゲもあった。でも,すぐ治りました。そうなったら,見えなくなったんです。

 よかったんだけど,どーなってんだか。

 

 さて。見えなくなった今の感想は。

 まぁ,とりあえず何も考えなくていいのは楽なんだけど。ってトコです。

 急に飛び出した『見えない人』に慌ててブレーキかけなくてすむし。安全運転できてると思います。

 大きな県道の交差点ど真ん中で蠢く『何か』にビビる事ないし。

 夕暮れ時に,古いお寺の旧街道で狼のような『何か』が踊るのを見ることもない。

 

 そう,日常の中に『ありえないもの』が存在しているのは,私にとって『普通』の事でした。

 『普通』って便利だけど,少し困ったチャンな言葉です。

  見えない人の『普通』と見える人の『普通』は,実は少し違うんですよ。

 同じ風景を見ていても,違うものを見ていたり感じたりしてるんです。

 お出かけしているとナビを見なくても「あぁ,この道は旧街道だったんだなぁ」とか,「この山,お不動さんか薬師様か,何か奉ってあるな」とか。

 昔の人が残した気なのか,その土地の持つ気脈なのか,独特の気を感じる事もあった。過去の人たちの巡礼の流れを見たこともあった。

 もちろん,それは肉体の目で見えるものではないと判っている。私以外の人は,何事もないような雰囲気だ。だから余計に,妙な感じだ。


 実は,音だけなら小学生の頃から聞いていた。

 実家に同居する家族以外の人がいましたから。あと,そういう見えないものが通る道があったので。

 高校生になると,目で見える事も出てきた。まぁ,それでも偶然だよねと済ましてきた。

 25歳を越えてからが凄かった。お肌の曲がり角になってからです。それは関係ないか。


 お風呂の覗くツワモノがいた。

 許すまじ。


 寝ている私を触ってくる不届き者もいた。

 死んでも,そーいう事をするなよ。

 馬鹿は死んでも直らんとは,真実ですよ。本当。


 夜中に,金縛りをかけて説教してきたおばさんも。

 勘弁してください……。夜は寝かせて。本当に。

 

 そうそう。

 寝ている寝室で走り回る子供もいた。

 夜中に走り回るなー!

 一喝してしまった。子供相手に,本気で怒鳴ってごめん。でも,人の寝室で夜に走り回ってはいけませんよ。


 怖い思いもした。

 住宅地の道路に長い間止めてあった不審車両。年季の入った白のワンボックス

 「危ないなぁ」。そう思いながら横を通った途端に悪寒。思わず車を見ると,窓に張り付く若い男女達の複数の顔。

 苦しみ,恨み,恐れ。どす黒い負の感情がいっぱいで,苦痛に顔を歪ませていた。

 思わず悲鳴を上げてしまった。怖かった。

 地獄とか,あるのなら,きっとあんなのかもしれない。

 怖くて,その道は使えなくなった。

 季節が変わって恐る恐る通ってみると,不審車両は消えていた。

 あの車は一体,何に使われていたんだろう。

 

 百鬼夜行も体験した。 

 夜中に数十人もの足音を聞いた。

 いつもの足音とは,桁違いに冷気がある。

 距離がはっきり感じ取れない。

 方向も距離も判るのに,宙に存在するポイントからやってくる感じ。

 x軸とY軸の重なるポイントが,明らかにこの空間とぶれている。

 あれは,次元が違っているんでしょうね。

 この世界の空気と重なる,もう一つ別の空間。上手く言えないけど。

 決して生きている音ではない。関わってはいけない。物音を立ててはいけない。気づかれたら,邪魔をしたら,生きていく事を許されない。

 それだけははっきりと判ったので,息を潜めた。固く目を閉じた。

 体中の神経が恐怖で竦んでしまって,しばらく動けなかった。

 平安時代とかにある百鬼夜行の蒔絵。あれを思い出した。

 もう二度とアレは見たくない。感じたくない。

 

 そういう霊関係じゃなくても。

 子供達が一生懸命に工作や作業を夢中でしていると,体から白い蒸気が噴出していた。

 集中していれば,集中しているだけ。初めて見た時は,火事でも起きたのかと思ったぐらいに,煙が凄かった。

 部屋の中がサウナ状態です。

 あれは生気だったのかな。大人ではあまり見ませんでした。

 子供はそういうの多かったですね。子供自体,すごく眩しく見えた事も。ド派手な蛍光色っぽい感じで。

 いやぁ。若いって素晴らしいです。


 強烈な思い出だけですが。いや,結構色んなのを体験したなぁ。

 あんまり思い悩んだら,気がおかしくなる。本当に。

 そう。苦しみのあまり,薬や怪しげな神様にすがりつきたくなってしまう。「自分はオカシイ」という苦しみから逃れる為なら,「助けてあげるよ」という安い言葉に縋り付きたくなってしまう。

 でも,オカシイと何故思う? 人と違うものが見えてもいいじゃないか。

 だって,今肉体の目に見えているものだって曖昧だ。

 眼球の仕組みを思い出せば明白。

 光が当たり,様々な波長で反射してくる光が眼球に飛び込む。網膜に映ったそれは,電子信号になって視神経を伝わり,脳内で処理されている。

 と,いう事は。大げさに言ってしまえば,『見えてる』ものだって,みんな同じモノを見ているとは限らない。

 それぞれの脳で処理されてる違いがあるはずだ。捕らえる光に違いがあるはずだ。


 そう考えれば。考え直せば,こんな映像が見えることってオイシイ事じゃん。

 楽しんじゃえ。

 そう気分を変えることにして,奇妙な状態を楽しんでいました。

 お気楽に思えたのは,映像の不思議さがあったからだ。

 

 よく「どんな風に見えるの? 」と問われる事もあった。

 一言で言えば,目の前にフィルターを被せた感じ。

 アニメーションを作るのに似ているかもしれない。キャラクターのセル画に,背景のセル画を重ねるのを思い浮かべてください。

 誰もが見えてる『現実』に,ありえない不可思議な光景を重ねてみた感じ。

 判ります?


 色々見てきたけど,体験してきたけど,それにどんな意味があるんだろう。

 見えなくなった今,それを思います。

 意味のない事はこの世界には存在しないはずです。どんな事にも,偶然と思われる事にも,それらには意味があると思うのです。

 じゃあ,私はこれから何を見ていくんだろう。何を体験するのだろう。どんな事を考えていかなければいけないんだろう。感じていくのだろう。

 少なくとも,ホラー小説を書くためのネタで見てきた訳ではないと思うのですが。

 あぁ,ネタにしたら怒られるかな。

 見えなくなったこれからの毎日,何が起きるのか。

 また見えるようになるのか。

 少し,不思議な気分です。

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