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ロバ耳!!  作者: 木村薫
17/24

 17 家電に気合入れ!

 家電十年説というものを,ご存知だろうか。

 製造から大体で十年で,製品の寿命がくる。まぁ,そんな説。都市伝説のようなものだろうか。定かではないが,製品の技術のサイクルを見ていくと頷ける面もある。十年前出始めた『エコ』『省エネ』なんて言葉,今や当たり前だ。

 私といえば,基本は「もったいない」精神でやってます。壊れないかぎり,捨てる気はない。

 が,ここで十年とか言う前に大きな問題がある。 

 そう。私は使い方が荒っぽいのだ。非常に。


 廊下を曲がれば,本棚の横を歩けば,足の小指を強かにぶつける。

 焼き肉を取ろうとして,ホットプレートの端で手首を火傷する。

 買い物中,服に見惚れて壁に激突する。

 「ウケ狙い? 」と言われるほどに,私はそそっかしい。

 痛みに悶絶して飛び跳ねていても,蹲っていても,毎度の事なので同情の言葉すらかけてもらえない。

 何故に生傷がたえないのか。それは単に,動きが大雑把で乱暴だからだ。


 幼少時から,何度も注意された。

 「もっとキチンと」

 「お行儀よく」

 「足を使ってドアは閉めない! 」

 「もう少し,自分の動作を見なさい! 」

 「女の子らしくっ」

 出来ないよー!

 私,どうも,親の期待するような女性にはなれませんでした。

 品の良い祖母が眉をひそめて目を伏せるたびに,罪悪感は抱いた。でも,どーも駄目だった。この粗忽な所は,いい年になっても直らない。ごめんなさい。


 とにかく慌ただしく,そそっかしく,うっかりモノで,大雑把の私は少しぐらい家電の接触が悪くても平気だ。

 叩けば直るが信条なのです。

 テレビの映りが悪くても,こう横っ面をパシリ。

 リモコンが調子悪くても,こう手首のスナップを効かせてパンと手の平で。

 加湿器のファンが回らなくても,こう軽くパシリと。

 事の真偽はともかく(技術屋の父が言うに「接触が悪いんだから,通電は一時的なものだ。叩くな! 」らしいが),私は叩いて使い続けてきた。


 さて。我が家の働き者の家電達。

 そろそろ十年が近づいてきてます。家電って,最初は一気に揃えますからね。一人暮らし,同居,結婚,そんな時に。

 さて。我が家のテレビは昨年壊れた。独身時代から使い続けて十数年モノでした。

 テレビがない生活を一週間。結局は中古を買いデジタル化まで乗り切る事に。使えるからいいの。

 炊飯器は九年目。タイマーが壊れたのか,起床時に炊飯されなかった悲劇が連続三回。ようやく「アブナイ」と判断して買いました。基本米好きの私。肝心の炊飯機能が急に壊れてからでは恐ろしいので。

 固定電話,3のボタンがアブナイ。何回押しても,液晶画面に表示されない。と,思ったら一回押して五個分表示される事も。でもいいの。携帯電話あるし,電話を受ける分には困らないから。まだ粘るぞ。

 

 そんな中,洗濯機は頑張っていた。

 使い始めて,早くも八年目。

 日々多くなる洗濯物を洗い続けるキミの事,私は大好きだった。

 夏の大量のシーツやバスタオルも。冬場の毛布も。健気に洗濯してくれた。

 年々,私のお肌の衰えと同じにして,次第に妙な音が混ざっても洗濯してくれた。

 毎日休みなく七キロの許容量ギリギリを二回。それが三回になろうとも,キミは頑張った。

 そんな洗濯機クンに異変が起きたのは,秋口。

 ハーフパンツがジーパンになり,薄手のワンピがトレーナーになり,砂埃のユニホームが長袖になってきた,そんな時だ。

 まず,脱水がおかしくなった。

 当然私は叩く。エラー表示がでても,右横を叩いて気合い入れをすれば,キミは回りだす。

 そうやって使い続けた。

 が,次第にすすぎもエラー表示。

 何度もすすぐキミは,狂気じみてきた。叩いても叩いても,何度も注水してすすごうとする姿は,執念すら感じさせた。

 「これは,やばいかも」

 口にこそ出さないけど,そう思った頃だった。

 とうとう,脱水機能が壊れた。ピクリとも,動かなくなった。 

 

 さぁ。困った。

 偶然にも,幸いにも。その日は大きな用事もない休日。

 びしょぬれになって洗濯槽で固まる大量の洗濯物を前に,私は唸った。

 しょうがない。水を吸って重たくなった洗濯物を持って,コインランドリーに行くか。

 そう真っ当な考えが浮かんだ時に,私の中の物書き心が囁いたのだ。


 「昔の人は,手で洗濯してたんだよね」

 

 ファンタジー好きの私が,揺れた。

 当然だがファンタジーの世界には洗濯機がない。その世界の住人達は手で洗濯しているのだろう。

 そのやり方は? 達成感は? どのくらいの労力を使うんだろう?

 いやいや,待て私。

 七キロの三回で二十一キロの洗濯物を,手で仕上げるのか?

 そう私の理性が訴える。

 だが,物書き心は追い討ちをかけた。


 「今でもインドの洗濯屋さんは,ガンジス河で手で洗濯してる。脱水だけだし,不可能じゃないだろう」


 私,気付いたらバケツに濡れた洗濯物を突っ込んでベランダで立ってました。12月の寒空の下で,濡れた重い洗濯物を絞っていたのです。

 数分後,それは間違いだと気づいたのですが。

 

 結果を言えば,それはそれは,重労働でした。洗濯という行為で一番大変なのは,間違いなく脱水だ。

 洗濯機が偉大なのは,遠心力を利用した脱水機能。あの人間離れした脱水力は素晴らしい。徹底的に水分を飛ばすから,天日で綺麗に乾くのですよ。

 手では,絞っても絞っても水は絞りきれない。トレーナーやジーパンは,乾しても水滴が落ちる。下に見事な水溜りが出来ていた。

 綿の肌着は……若干伸びてしまった気がする。トレーナーも。

 元々荒れていた手は,バリバリに荒れて血が出るし。

 腕は筋肉痛になるし。

 手首はもちろん,手の平も筋肉痛になったのは初めてだった。

 腰を曲げて作業したせいで,腰が痛くなるし。

 もう,絶対に物書き心に誘惑されまい! と誓いました。

 この経験,一体何の役に立つのだろうか。いや,何時か役立つ時がくると信じて,この蛮行を行ったのだけれども……。一時間半かけた,この事後の私を襲った虚しさは,一体何?

 あぁ。洗濯機は,家電十年説で壊れたのか。はたまた,私の気合い入れで叩いた衝動で壊れたのか。


 我が家には八年を迎えた家電が,まだ二つある。

 電子レンジと,冷蔵庫。

 どちらにせよ,二つとも壊れては生活に即で支障がでるものだ。しかも,私の妙な『物書き心』の衝動が出ては……事態が悪化するのは明らかになりつつある。

 密やかなモーター音を聞きながら,家電十年説と自分の愚かさに恐れおののいているこの頃です。

 

 

 


 

 

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