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1ノ6 異世界征服計画 序章!

 

「なぁ、アリシア?」


「どしたの……?」


 岩場を抜け、平原へと到達所で俺はふと、こんな疑問を投げかける。


「その……気になったんだけど、何で俺をこの世界に呼んだんだ? 自分で言うのもアレだけど俺、タダのコミュ障ぼっちだぞ?」


 アリシアは少し下を向き、何かを隠すようにモジモジと動いている。


「んー……私が、協力者を探してたから…召喚されたっていうのは分かってもらえた?」


「あぁ、それは分かったけど……どうして俺なんだ?」


「……たまたま」


「たま……たま?」


 彼女は蚊の鳴くような声の大きさで言った。


「たまたま私の魔法がかかった……アイス……食べたのがレン君で──」


「ハハハ……そりゃとんだハズレくじ引いちまったなぁアリシア!!!!」


 アリシアは一瞬驚き、後ずさりする。そして、瞼を閉じ、ゆっくりと言い始めた。


「そんなこと……ないよ。だって……レン君は、『戦略』考えられる。私には……出来ないから」


 突然の彼女からの褒め言葉に喉がつっかえる。そこまで言われると流石の俺も言い返せない。


「ん、なんか照れるな……。ありがと」


「うん……」


 


 平原に指しかかればもうテントは近い。その証拠として視界の前方には逆シュウマイ型のテントが所狭しと並んでいる。

 右遠方には家屋が小さく顔をのぞかせる。あれがルガルドの村なのだろう。出発前、テントでアリシアから教えて貰った。

 そして、ルガルドの村の更に奥。テントからは気が付かなかったのだが、一面群青に染まった平地が垣間見える。あの感じ────


「なぁ、ここの村って、もしかして海に面してる村なのか?」


 彼女はいつもの薄い笑みをその色白の顔に浮かべてみせる。


「うん、あそこはね……お魚が沢山取れるって、有名なんだよ?」


「なるほど……だから蛮族もそれを狙って……」


「流石だね……レン君……頭いい!」


「それ人生で初めて言われましたありがとうございまーす!!」


 アリシアはクスッと笑うと、少し間をあけて再び口を開いた。




「──ところでレン君、世界征服……って、どうすればいいの?」


 ギクッ……


 思わず俺は自分の足を止めてしまう。


「さ、さぁ……とりあえず、隊を大きくしてって仲間を集める……とか?」


「うーん……でも私は魔法騎士団の端くれ……だから、たぶんそんなに兵隊さん……養えないなぁ」


「今、どんぐらい養えるんだ?」


 アリシアは空を見上げ、考えるような素振りをしばらく続ける。やがて閃いたように人差し指をたてて言った。


「千人? ぐらいが限界かなぁ……」


 確かに、世界を征服するとなるとこの数字は世界を相手にするには乏しい数字である。


 あぁ……やっぱ無理ゲーなのかなぁ……これ。


  「でもね……騎士団の位が高い人はね……だいたい十万ぐらいの兵隊さん……貰ってた」


「魔法騎士団って位が付いてるのか?」


「うん……魔法騎士団はね、全部で二百人いるから……その中で順位が決まってるんだよ?」


「ちなみに……アリシアは?」


 するとアリシアは、申し訳なさそうに人差し指と人差し指を擦り合わせながら答えた。


「…………百九十六…………」


 二百分の……百九十六……。


 詰んだ……完全に詰んだ……異世界征服計画。白紙!


「済まない妹よ兄ちゃん先におうち帰ってるから後からこのポンコツ魔法使い見つけ出して帰ってきてくれ。俺はまだ死にたくない!!!!」



 [完]


 1ノ終 エピローグ────




  「────待って、レン君!」


「いやだぁもう僕おうち帰る! こんなポンコツと世界征服とかナツキ見つける前に天界に召されてジ、エンド────」


「ポンコツは……ちょっと心外……かも。でもね、これは順位なんだよ? つまり」


「あぁ聖母マリアよこの僕を────つまり??」


「蒼軍として……ちゃんと功績を挙げれば、騎士団の第一席、第二席も……夢じゃない」


 それが無理ゲーだって言ってんだよなぁ。


 俺はアリシアにも分かるぐらいあからさまに顔をしかめる。


「わわわ……ごめんごめん……でもね、これがホントに夢じゃないの」


「どゆことだよ」


 俺は平原に生えていた長い草を蹴り飛ばす。そして半ばやり投げな表情で聞いてみる。


「今回の任務……蛮族の撃退はね、エストレアにとってはものすごーく……価値のあるものなの」


「価値……?」


「紅と翠の他に、この蒼の国には……敵対してる大きな勢力が二つあるの」


「もしかして! そのうちの一つが?」


「そう、それが蛮族」


 あぁ、そういうことか。

 つまり、蛮族を撃退、あるいは討伐をすること。それがこの蒼の国エストレアの悲願だった、ということか。それなら────


「蛮族を倒す。そうすればアリシアのランクも?」


「らんく……? 順位の事なら……きっと五十は上がると想うよ?」


 ──無理ゲーが、鬼畜ゲーに変わった、それだけのことだった。でも俺の目は確かに、希望を垣間見た。それに──


「蛮族を倒せば、もう一つの敵対勢力も楽に倒せるかもな」


 アリシアが首を傾げ、目に一層強い光が宿る。


「え? どうやって?」


「フハハよくぞ聞いてくれた! 説明しよう」


「うん……よろしく!」


「蒼の国はもし二大敵対勢力の片方を倒せば、一方にかけていた軍事力をもう一方の討伐に費やすことができる!」


「おおお……なるほど」


「そこでもアリシアが戦果をあげれば? ハイ、どうぞ」


 アリシアは手に持った自称、杖。すなわち木の棒を眺めながら十秒ほど考え込む。そして、また閃いたのか、人差し指をたてて話し始めた。


「百位以内も……夢じゃない……!」


「そのとぉーーり! 大正解!」


 俺のリアクションが少しツボにハマったのか、彼女は口元に手をあてクスッと笑顔を見せる。


「レン君! 百位以内だよ! 百位以内に入れば……兵隊さん三万人は養える!」


「そりゃいいや、でも────」


「ん?」


「俺たちの目的は……あくまでも世界を丸ごと征服することだ。蒼の国で偉くなることじゃない。つまり、最終的には蒼の国も────」


 アリシアは軽く頷く。そしてまるでこの話を待っていたかのように、こちらを向き直す。


「わかってる……この国にも、笑顔になれない人。たくさん……いる。それに、今の国王は兵隊さんのこと、駒としか思ってないから。だから──」


俺は、彼女に微笑みかけながら声をかけた。


「よし! ポンコツ魔法使いがここまで分かってるなら問題ナッシングだな!」


 突然、彼女は黙り込んでしまう。しかし、よく見ると木の棒の先端に微かな光が宿っている。


「あの……アリシア……さん?」


 光は徐々に大きくなり、やがて魔法陣へと昇華。そして木の棒の先端をこちらに突きつけ──


「ジェネレート・ハイブス!」


 突然、全身を包み込むような激しい痒みに襲われる。額の下、耳の裏側、うなじの少し上、背中の微妙に手が届かないところなど、絶妙にいやらしいところが痒くなる。


「ポンコツって……言った!」


 ヘソの上側、俺の大事なデリケート〇ーン、足の指と指の間まで痒い。


「ごめんなさいごめんなさい許してくださいお願いします痒い痒い痒い痒い!!!!!!!」


 またも口元に手を当てクスクス笑って──痒っ──いるアリシアが手にっている木の棒を──痒っ──こちらに向かって振りかざす。

 すると、全身を包み込んでいた痒みが、溶けるように消えていった。


「ハァッ……ハァッ……そうでした。この人一応王国トップクラスのポンコツ魔法使いでした……ハァッ……ハァッ…」


「レン君……?もっと笑顔にしてあげようか?」


 アリシアが再びこちらに木の棒を突きつけてくる。その顔はこの夏の暑さも吹き飛ばす程の威力を持つ氷属性を帯びた満面の笑みで満たされていた。


「ぴぇぇぇぇぇぇごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」


「むぅ……許す」


「ハァ……助かった……」


 俺は安堵で肩をなでおろすと、逸れてしまった話題を再び戻す。


「とりあえず……今は……蛮族を倒すことだな」


「そうだね……でも。倒すわけじゃない」


 俺は、彼女なら必ずこう言うだろうと思っていた。みんなを笑顔にしたい、そんな願いの持ち主が誰かをを倒そうとするわけないのだから。


「あぁ、わかってる。大丈夫だ。考えもある」


アリシアが俺の肩を掴み、こちらを見つめる。


「教えて……教えて……!」


 彼女はまるで子供のようにダダこねるが、この作戦はリスクがデカすぎる……。だから──


「ガレンさんたちと合流したら……な」


「うぅ……気になる」


 ガレンさんは……無事なのだろうか。きっと、囮作戦の囮役を買ってくれた分損害も多いはずだ。


「無事かな、ガレンさんたち」


「大丈夫! 彼は……強いから」


 アリシアがどれだけガレンという人物に信頼を置いているのかはまだ分からない。でも、確かな信頼関係がそこにあるようだ。


 ──────


 気がつけば、俺たちは既に平原をぬけ、テントのある丘まで来ていた。

 日も西に傾いてきて、右方のルガルドの村からはチラホラと灯が見えている。


 先の戦闘で犠牲となってしまった魂たちの期待に応えるために──

 俺たちを全力で信頼してくれているであろう村の人たちを守るために──

 アリシアの夢を、実現させるために──


 そして、渚月を探し出すために──



 世界を、征服するための第一歩として──



 このテントに帰るまでの長い道のりの中でアリシアと話しながらも考え、考え、考えてきた『戦略』を───


 


 アリシアのテントに辿り着くと、空は西から水色、黄色、橙色、紺色、黒といった具合に見事なグラデーションを描いていた。


 俺たちはまだ出発してから一日もたっていない、なのにこの場所がひどく懐かしく、暖かい──


 今度こそ、絶対──成功させて見せる。


「アリシア、ガレンさん呼んできて貰ってもいい?」


「もう? 始めるの? お腹、空いてない?」


「確かに……ちょっと腹減ったかも。でも、ご飯はこれが終わったらでも遅くないだろ?」


「分かった……ちょっと待ってて」


 そう言うと、アリシアはガレンを呼び出すため、テントを後にした



「────さぁ、作戦会議を始めよう──」


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