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1ノ3 戦略

 

「……ッ! 大丈夫なんですか! アリ……ハセガワさん!」


「……アリシアが……いい」


「……ですよね、今、薬持ってきますね」


「大丈夫、治癒魔法と気合で……何とかする。慣れっこだから……気にしないで」


 気合いかよッ! 金髪異世界人の癖に! 昭和かよ!


 心の中で密かにツッコミを入れると、アリシアは持っていた木の棒を、自分の左肩の傷口に振りかざす。


「ぷち、ひぃる!!」


 木の枝先端を中心に、光の輪が1、2個と出現し、躍動する。やがて、魔法陣へと成長を遂げ、蠢く。


 すると、左肩を見るも鮮やかな赤黒に染まっていた布が、元の小汚いローブへと戻っていく。


 ……これが、アリシアの光魔法……?


 見るも美しく、無機質に枝を回るそれの繊細な挙動に思わず息を詰まらせる。


「ぷち、ひぃる。私が……名付けた……かっこいい!」


 寝そべりながらこちらにグッドサインと薄い笑みを惜しみも無く振るって来る。


 俺は苦い笑みを浮かべながら眉毛をピクピク動かすことしか出来なかった。


 ────────────



 数十分前に遡る。


 俺は、闇の中、一人歩く少女を見た。


 その少女は、左肩を握りしめがら。真っ直ぐこちらに歩いてくる。


 重い、そしてどこかおぼつかない。そんな歩みを重ねる。



 やがて少女は俺の元へ辿り着く。そのまま倒れるように、重力に敗れたかのように。俺に全体重を預ける。


 彼女のそれに驚き、息が詰まる。そして、しばらくして落ち着きを取り戻す。


 すると彼女は、口を開く。彼女の吐息だけがこだまする──。やがて、絞り出すように音を発した。


「ただいま……」


「第二分隊、全損……私だけ……また」


 ()の灯らないテント群を見てしまう。


「蛮族の侵攻は何とか……止められた。でも、私の為に……私を生かす、ただそれだけのためにッ……命が、五百近くの命がッ……──」


 悲しさ、怒り、悔しさ、その全てが俺の脳裏に重く突き刺さる。


 そして、彼女目から流れ出す一筋の雫が、頬を伝っていた。


 彼女は顎にギリッと力をこめ、俺の胸をトントンと叩いた。そして、彼女の目が、力無く。(まぶた)の重さに抗うということを忘れていった────。


 ────────


 ほどなくして彼女、アリシアは意識を取り戻し、治癒魔法により左肩も回復したようだ。


 今は俺の隣で、すずずっとお茶をすすって心を落ち着かせているようだ。


 だが俺は彼女に妹の件を含め、聞きたいことが山ほどある。


「なぁ、アリシアさ────」


 すると、遮るように。


「こっちの損害……いや、亡くなっちゃた……魂。確かに、すごく……たくさん。でも、蛮族たちも。今は、弱ってる……そんな気がする。だから、私──」


「ダメだ!!!」


 お茶を飲み干し、歩き出した彼女の手をパシッと捕まえる。


「全部、隣のテントの人から……聞きました」


「そっか……聞いちゃった……か」


「でも今は……違うの。第一分隊で……攻めれば……きっと────────」




「ダメなんだって!!!! 俺は、そう言ったぞ!!!!」




「──ならッ……どうして今じゃ……。今しか……無いよッ……レン君! 君は……戦いのこと。何もわからない……知らない!」


「あぁそうだ……確かに俺は知らない。何にもな。何でこの世界に来ちゃったのか。それすらも知らないよ……。でも! だからといって! 人が沢山……五百近くの命? 違うだろ! 一人ひとりに名前があり。個性がある。彼らは……皆は……アンタのコマじゃねぇんだぞ!!」


 数秒の沈黙。彼女は、俯いたまま動かない。


 両手か震えている。雫がこぼれ落ちている。


 やがて、彼女はこちらを鋭く睨みつけ、口を開く。


「分かってるよ、そんなの……私が一番……。じゃあ君は……レン君は……村の人たちを見捨てるって……そう言いたいの……?」


「──いや、違う。今夜出る」


「言ってること……違うよ……私、さっきから……そう言ってた」


「確かに今、敵はさっきの戦闘で疲弊してると思うよ。でも、俺が言いたいのは時間の事じゃあない。戦闘においてのストラテジー、つまり戦略だ」


「セ、ン、リャク? 」


「アリシアさん、あんた今まで兵士たちににどんな指示を出したことがある?」


 彼女は何かをひねり出すように俺から見て右上の方を見上げる。彼女の目の潤いが、テントの中まで届く赤白い光を反射している。


「『つっ……突っ込めぇ』とか『まっ……まもりをかためろぉ』とか『あっ……穴を掘れぇ』とか……かな」


「いや何でそこ穴掘ったし!! プレーリードックか!! ──────っじゃなくって!」


「穴は、お金が無かった時……地面掘ればなんか出でくるって、そんな気がしたから……」


「それに兵隊さんを使うな兵隊さんを!! …まぁいい。戦略っていうのは、それ一つで勝敗を分かつことになる大事なだいーーじなものなんだ」


 彼女は俺の方へと身体を近づけ、目をキラキラさせながら熱心に聞き入っているようだ。


「……ん、私……気になってきた」


「例えばだ、蛮族の人達の所に軍隊を近づけました。そしたら蛮族の人達、どう動く? 」


「これは……簡単……蛮族が、出てくる」


 すると、薄く勝ち誇った様な表情を作り出す。


「__だよな、まぁ……そうなる。じゃあ、この間、蛮族の陣の中は?」


 少しだけ困った顔をして、彼女は「んん……」とつぶやく


「これも少し考えれば簡単だろ。答えは、陣の中にはもうほぼ人がいな──」


 俺の言葉はまたしても彼女の言葉に遮られる。


「あっ! じゃあ、そこに……攻撃……届けば!」


「あぁ、勝てるね」


 突然、彼女に手首を捕まれ。上下にふんふんと振られる。


「すごい……すごいよレン君……やっぱり私じゃ、こんなの……思いつかないよ」


 いやいや! でもこれタダの囮作戦だって! 小学生でも分かるって! って言うかもしかして……。



 この人! 脳みそ! 豆腐!



 赤点大魔王で数学学年最下位という名誉の勲章を授かったこの俺でさえも思わず白目になってしまうほどに。彼女は、頭がアレだった。


 すると、どこか聞き覚えのある野太い声が耳に入り込んでくる。


「エクスブルグ様! 少々宜しいでしょうか! 」


「ガレン──!ちょうどよかった。今から……出るよ!」


「はっ、蛮族の討伐ですね!今回は、突撃ですか!防御ですか!」


「今回は……違うよ」


「デッ……では! 穴を掘るのですか!」


「………レン君……この、あたまきんにくに……今回の『戦略』、教えてあげて……」


 気合で傷口治そうとする輩とどっちが脳筋だよ!!


 っと心の中でツッコミを入れる。すると、大男は怪訝そうな表情を浮かべ、こちらを向いた。


「あなた……は?先ほどもいらっしゃった様ですが」


「あっ、いっうっえっ一ノ瀬連です!!」


 ちょっと待て! ホントに囮作戦でいいのよ!


 っでも、異世界から来たからには『最強チート!』とか『引きこもりハーレム!』とか、そういうウハウハポジションに置かれる筈。ハッ、俺強いかもw。


 でも、もし、だとしたら……きっと……上手くいくはず!!


「レン殿、して、エクスブルグ様の言う『戦略』とは?」


「ええっと、まずは、蛮族軍を出陣させ────────」


 俺は、『戦略』をガレンに伝えながら、己の拙い頭で必死に考えた。


 どうすれば、確実におびき出せるか。


 蛮族────きっと野蛮で猪突猛進な、悪党共だろう。


 だったら、敵陣の前で挑発でもしていればきっと怒り狂って飛び出してくるはずだ。


 この部隊には、もし攻撃されたとしても少しは持ちこたえくれそうな風貌の持ち主、ガレンと第一分隊の戦士達で務めてもらおう。


 そして、敵が陣をを飛び出した直後、背後に回って攻撃をするための部隊を決める。


 こちらは圧倒的火力を誇るアリシア、細かい指揮を流すための俺。それから第一分隊の魔法使いたちで一気に叩き込もう。


「っと……こんな感じの作戦でどうでしょうか」


「……っ、素晴らしい!これなら勝利出来る!」


 アリシアが待ちくたびれた様子で、小さなあくびをする。


「もう、おわった……? じゃあ……ガレン……第一分隊、出撃!」


「はっ!」


  そう応えるやいなや大男は、堂々とした素振りでアリシアのテントを後にした。


「私たちも……出るよッ……レン君」


「はいっ!!」



「……君の聞きたいことは、この戦いが終わったら……ね」


「えっ……はい……」


  やはり、彼女は俺と妹、渚月を知っている。


  渚月のこと、俺がこの場所にいる理由。


  それを知り、無事に愛しの我家(マイホーム)に帰還するために──────


 

  俺は自らの握り拳にに勝利を誓い、テントを後にした。









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