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1ノ2 過去

 

 ハァッ……ハァッ……


 息が上がる。


 ハァッ……ハァッ……


 小さな頃から、学校で繰り返し繰り返し、嫌という程やらされてきた「走る」という行為。

 足を上げ、自分少し前にその足を押し付ける。それを左右交互に繰り返す。何とも単純な行為だ。


 ハァッ……ハァッ……


 俺は八畳一間の安全地帯(セーフティゾーン)を動き回るだけの力があれば生きていける。だから、こんな行為なんて学校以外でやるなんて有り得ない。そう思っていた。


 ハァッ……ハァッ……


 アリシアのテントから30m、ぐらいだろうか。一番近いテントに辿り着つく。俺はもうクタクタだ。


「ごっ……ハァッ……ごめんくだぁーい……ハァッ……」


 すると中から、弱りきった、しかしどこか強い芯の存在をを感じさせる、そんな声が聞こえる。


「誰……だ……」


 俺は一瞬、口を開くのを躊躇い、立ち止まった。しかし、一呼吸置いて、自分の身分を勝手に捏造した。


「あっ、アリシアさんの、知り合い……です」


「アリシアさん? エクスブルグ様のことか? 」


「あっ、はいぃ、その人の事だと思います」


「……良かろう……中に入ってくれ」


 先程のアリシアのテントの中での事を思い出し、記憶を繋ぐ。そして、少しだけコミュ障を発動させて。テントへと歩みを進める。


「うわっ……」


 俺は、目を疑った。先程の声の主の男が、寝そべっていた。白い布を腕に巻き、深紅の液体で身を染めていたからである。


「どどどどどうしたんですかッ!」


「見ての通りだ、不甲斐ない……蛮族共にやられたのさ」


「うわわわすぐにでも応急薬と携帯食料と砥石をッ」


「砥石は要らんだろ! まぁまずは落ち着け、座ってくれ」


 男は、指を振るわさせながら地面を指さす。


「それで、お主、何しにきた?」


 この言葉に、頭から飛んでいた事が戻ってくる。渚月…ッ。


「あの、女の子見ませんでした? これぐらいの──」


 俺はそう言ってアリシアに言ったように説明する。


「さぁ、二日前から寝たきりだからな……、外のことはさっぱだ」


「そう……ですか……」


 俺は希望の芽を摘まれたような感覚に意気消沈し、肩をすぼめた。


「ところで、少年。お主エクスブルグ様と関わっているのか? 」


「いっ、いや、関わっていると言うか、()いたり轢かれたの関係と言うか……」


「お主、死ぬぞ」


「えっ…………」


 それは突然であった。死という言葉がここまでの重圧を放つものだなんて、想像したことが無かった。


「そなた、この隊に来て日が浅いのだろう?」


「あっはいぃ、約二十分ぐらいですかね」


「ではお主、彼女の立場を知らないというのか?」


 妹のことで頭が一杯で、考えすらしていなかった。


 アリシアとは? 彼女は一体、何者なのか。


「アリシア=エクスブルグ=ハセガワという女のことは、この蒼の国で知らない人の方が少ないものと思っていたが」


 俺はこの瞬間、初めて彼女の本名を知った。


 アリシア=エクスブルグ=ハセ──────


 長谷川!!


 偶然だろう、きっと偶然だろう。そんな異世界に来てみても日本名とか、偶然と信じたい。プププッ〜。

 俺は喉に迫り上がる笑いを殺し、平然を装う。すると、男は再び口を開く。


「少し、彼女の話をしよう」


 俺は、渚月の事を気にかけながらも、その男の言葉に耳を傾けた。


──────────


 彼女、アリシア=エクスブルグ=ハセガワは三年前、蛮族の捕虜となっていたが、王国軍に救出され、蒼の国エストレアの王都パルシオンまで連れてこられた。

 当時もボロ布に見を包み、いかにも見窄(みずぼ)らしい姿であったと聞く。服……には見えないローブを纏っていたらしい。

 その後、王都で魔術の才能を爆発的に開花させ、そりゃ数多の敵をバッタバッタとなぎ倒してきたらしい。そこに至る経緯は私も聞いたことが無いのだが。

 その功績を認められ、今では国王に続く国家権力でもある王国魔法騎士団の一角に数えられるほどの魔法使いだ。


 しかし、彼女が使う魔法は、この蒼の国エストレアでは珍しい……というかこの国で唯一、と言っていいだろう。

 エストレアで魔法と言ったら、水や氷を操る青魔法のことを表すということは、お主も知っておるだろう?


 だが彼女が使う魔法は、いや、魔術と言うべきだろうか。


 エクスブルグ様は、光の魔法。白魔法の使い手でなぁ…。


 爆発的火力と、速度。それから回復性能まで備えた、ほぼ完璧と言っていい、そういう類の魔法だ。

 青魔法ではない魔法がどれほどこの国において忌み嫌われているのか、そなたも耳にしたことぐらいはあるだろう。


 それが故、彼女は今、魔法騎士団の中でも底辺。実力がありながら下位魔法騎士として扱われている。

 それに加えて、兵士を指揮する立場である魔法騎士でありながら、彼女は指揮官としての才能は……。


 彼女の指示と言ったら『つっ……突っ込めぇ』ともう一つ。


『まっ……まもりをかためろぉ』ぐらいしか聞いたことがない。


 お陰で俺たち兵士は、戦に出る度にボロボロになってしまう。

 ハハハ、まさにこんな姿になってしまうわけだ。

 魔法騎士に意見など出来るはずもなく、お陰で兵士の士気はほぼ0だ。まぁ、あの男、第一分隊隊長のガレンだけは別だがな。


 これでわかったであろう?改めて言わせてもらう。


 このまま彼女と関わると。


  お主、死ぬぞ。


────────


 長い話を半分愚痴であるかの如く語った彼は、一つ、大きく深呼吸をした。



 俺は、この後、彼女とどう関わっていけばいいのだろうか。


 どういう因果かは知らんが、おれこんな異世界にやって来てしまった以上、愛しの我が家に、妹を見つけて帰らねばならない。そんな身である。

 そんな状況の中、俺はカクカクシカジカで最初に話すこととなった異世界人、アリシアに対して、『不注意な人だけど優しい人』ぐらいな印象しかなかった。


 だが、思い返すと少しだけ妙な所もあった。


 《う〜ん……、君のいた場所からは……ちょっとだけ遠い……かも? 》


 違和感の塊であったその言葉を思い出す。そして、俺は電撃にも似た衝撃に襲われる。




 アリシア、彼女は、俺のことをッ……知っているッ。



 となると、渚月のことも知っている可能性が高い。


 …………ッ!!




「──……ねん! おい、少年!」


「はっはい!」


「ずっと下を向いているのでどうかしたのかと。まぁ、お主にも思う所はあるのだろう。だが、命があるうちにここの陣から逃げ出した方がいい」


「はい……でも、俺は彼女に聞きたいことが出来た。だからッ、しばらくはここでお世話になる……かもしれません」


「そうか……勝手にしろ、忠告はしたぞ」


「お話、ありがとうございました! 」


 俺はそう言うと、テントを出るべく足をうごかす。


 アリシア、彼女は無事だろうか。


 きっと、食い止めるだけと言っていたから。すぐに帰ってくるだろう。




 外に出ると、当たりはすっかり夜の(とばり)に飲み込まれていた。


 右側のテントから届く光が、より一層強くなって俺の元へととく。


 ──────が、前方のテントに灯はまだ灯っていないようだ。


 暗い、ただ暗かった。人の気など、分かるはずもないほどに。


 ──すると、その暗黒の中にただ一つ、光明が……。




 いや、人だ。


 その白とも金ともわからない髪の毛。


 布のツギハギで作ったかのようなローブ。


 俺はそんな人間、1人しか……


 ────────でも。



 何かがおかしい。


 彼女がいるなら、前方のテントにいるはずの第二分隊はとっくに帰ってきて────────。


 一歩、また一歩と近づいてくるその輝きは────。




 真紅の、淀みで身を包んでいた。



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