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1ノ1 出会い、そして離別

 

「…………じょうぶ? ……」


 ゆっくりと、瞼を動かしてみる。


「だい……じょうぶ?」


 白い光が差し込んでくる。


「大丈夫?」


 見慣れない天井の下、俺、一ノ瀬蓮は覚醒した。


「ほへ……ふほほぉい……」


 まだ意識が朦朧とする中、誰のものかも分からない問いかけに応答する。


「しっかり……して!」


 俺は上も下も分から無くなるぐらい揺さぶられる。

地面に鞭打ち状態にされているのは流石に初体験である。これには睡眠厨の一ノ瀬氏も堪らず身構えてしまう。


「あぁあぁあぁぁぁ……」


「やっと起きてくれた……ね」


 気が付くと、寝転んだまま天井見上げている状態になっている俺の視界の中に、白髪……だろうか、いや、白髪にほど近い金髪の女性がいる。服装は、黒いTシャツに黒いスカートを履いているが、Tシャツの胸元が少し開いているようだ。思わずそれを食い入るように見つめてしまう。

 すると、彼女の顔に薄い笑顔が宿る。

 俺は眼前の二つのビックなお山に視線をやってしまい、慌てて目をそらす。


「ヒッ……あ、あ、あなた様は誰様どちら様でし、しょうかっ……」


「私は…アリシア…あなた…は?」


「ぼっぼっぼっぼっ僕はええっとここは誰私は何処ええっとええっと、一ノ瀬蓮ですっ!! 」


 これがコミュ障というヤツの典型例である。

 俺はまた混乱して上も下も分からなくなってしまう。一瞬じたばたしてからすぐに正座をして、アリシアという女性の方を向く。額からは汗が滝のように流れ出てくるが、いつもの事なので気にしない。


「レン君……わかった……レン君……ね」


「そうですその通りですアリシアさんハハハッ」


 やっとの事で少しづつ落ち着きを取り戻してきた俺は、着ているボーダーのTシャツの襟の部分で、少しだけ汗を拭う。


 少し、状況を整理してみよう。


 ここは……どこだ?


 周りを少しだけ見渡す。狭い場所だ。広さは……八畳一間の俺の唯一の安全地帯(セーフティゾーン)の一回り小さいぐらいか……。アリシアのいる少し後ろには、膝の高さぐらいの四角い木製の机、いかにも安物であろうその机の上には、書物? であろうか、革らしきものに身を包んだ紙の束がある。隅にはボロ布、いや、あれはローブであろう。アレを服というのは少しばかり抵抗がある。

 今度はぐるりと一周見渡してみる。この感じは、どこかで見たことがある。テント、そうだ、テントの中なんだここは。

 そんなことを考えていると、アリシアがそんな様子を見かねたのだろうか。口を開き始める。


「ここは……ルガルドの村の東の平原。まぁ…君は…知らないかもね……」


 ルガルドの村、ルガルドの村、初めて聞く地名だ、まるで異世界にでも来たかの様な……────



 異世界!!!!



 全てが、繋がる……。

 そう言えば、俺はついさっきまで土や草の上にいたはず……。


 何でここに?


「ごめん……君の事……うっかりしていて……陸魚で轢いてしまったみたい……」


 陸魚……あの馬みたいな……?


 って言うか! ボケボケし過ぎもいい所でしょあなた! 陸魚ってんのにだって片手運転禁止とか携帯を使いながらの運転禁止とかあるでしょ!

 そんなことを考えながら俯いていると、彼女が再び口を開く。


「呼びかけても……返事ないから……ここまで連れてきちゃった……エヘ♪」


 少しだけ長い淡い金髪をなびかせながら、舌をペロッと出す。

 おいおいおいちょっと待て! と言いかけたが。助けて貰っていたのは事実だった様でなので、礼を言うのがジャパニーズスタイルだ。


「助けていただき、ありがとうございます。ところでここから最寄り駅までのルートを教えていただけると嬉しいのですが……」


 続きを言おうとしたが、何かが心の楔となって突き刺さる感じがする。


「駅……エキ……なに……? それ… 」


 えっ、駅を……しらない。この人の中に駅という概念は無いのか……。

 あぁやっぱりか……俺はとうとう異世界に来てしまったらしい。ここで俺の疑念は確信へと変わる。


「唐突にお聞きしますよー。いいですかいきますよここは、異世界、イ、セ、カ、イですかそうですか?」


「う〜ん……、君のいた場所からは……ちょっとだけ遠い……かも? 」


 彼女はまた薄い笑みを浮かべた。

 ん? この人、俺を知って…? いや、俺はこんな人見たことがないはずだ。第一こんな金髪美少女を俺のメモリーから削除出来るわけがない。

そして、俺にはもう一つ、絶対に明らかにしなければいけない問題を抱えていた。


「いっ、妹……見ませんでした? 黒髪に少し茶色が入ってて、なかなかに美少女で、身長がこれぐらいの……」


 俺は立ち上がり、自分の胸の当たりに、手の横でトントンとやって見せる。


「いっ、妹さん? ……わっ……私はみてない……よ? 」


 微かに動揺したように、彼女はその淡い金髪をポリポリと掻く。

 俺は、素手で心臓を鷲掴みされたような感覚に身を震わせた。これは、恐怖か。戸惑いか。額から汗が一雫滴り落ちてくる。


 すぐにでも、探しに行かなきゃ。


 俺と同じ様にここに来たのなら、まだ近くにいるかもしれない。

 気づくと俺は、口より先に足が動き出していた。


「──ちょっと、探しに行ってきます!!」


 テントの出口まで辿り着いて、やっと口が動いた。

 とりあえず、俺が最初にいたであろう平原らしき場所まで──────



 ドスッ!



 何かが俺にぶつかった。


 壁? いや、違う。男だ。


 俺より縦にも横にも一回りは大きい巨体の持ち主。肌の色は少し暗めで、聞こえてくる声はどこかどっしりとした重厚感がある。

 壁と感じたのは、その鍛え抜かれた肉体と、さぞ持ち主に大切にされているのであろうと感じさせる重鎧のせいだろう。


「エクスブルグ様! 蛮族の部隊が行動を開始。ルガルドの村周辺に陣を構え、こちらに進軍して来ていますッ!」


 その巨体に突き飛ばされた俺は、ひたすら周りをキョロキョロと見渡すことしか出来なかった。


 軍? 蛮族? 何のことだかさっぱりだ。


「もうここまできちゃったのか……じゃあ私達もでようか。でもガレン、君達は陣を守っててほしいな……」


「しっ、しかしッ、私も……」


「私が行くよ……第二分隊のみんなに出るよって伝えといて」


「いっ、いけませんエクスブルグ様。あなたが出撃すると言うならば、我々第一分隊もッ!」


「ダメ……なの。君達がここで傷ついちゃ……君達は私の隊の最高戦力……だから」


「……ッ、分かりました! 第二分隊に伝えておきます!我々は陣の前方を守備します。では、ご武運を」


 そう言って、男はテントから立ち去って行った。


 やっと再び平然を取り戻したた俺は、しばらくの間ガレンと言う男に視線を向けていたが。やがてアリシアの方へと向ける。


「この世界では、戦争……争いごとがあるんですね、少し驚きです」


 俯きながら内心を語った。だが戦争というワードを聞いて少しの驚きだけで済んでたのは、日頃から読み漁っていたラノベから来た異世界知識からだろう。まだ実感は薄いのだが。


「そうなの……だから、少しだけ……空けるね? 蛮族を止めて来たら、また戻ってくるから……ね」


 そう言うと。彼女は気だるそうに立ち上がり、机の上に置いてある木の棒を手に取る。


「後で……ね、レンくん」


 そう言い残して、テントの隅っこにあったボロくてくすんだローブを身にまといながら外の方へ足を進めた。

 俺も、妹を捜索するため、立ち上がろうとする。しかしきっと俺の膝も疲れたのだろう。俺の意思に対して微かな抵抗を見せる。それでも俺は立ち上がり、テントの外へと飛び出した。

 そこから見える景色は、至ってシンプルなものであった。アリシアのいたテントと同じ、シュウマイを逆さまにしたような形である。だが一回りほどそれよりは小さい。そんなテントが所狭しと並んでいる。

 このテントは丘の頂上に位置しているらしい。というのも、ここからは周りの景色がよく見える。

 遠い前方のテントからは、消しゴム大のサイズの人間たちが慌ただしく動いている。


 ヒッ、人が多い……。コワイヨボクコワイヨ。


 ……ッじゃなくてきっとあれが第二分隊という組織なのだろう。ダメだダメだ──。


 視界の左端には、遠くの方に家がちらほらと見える。それから青、という言葉以外で表現することが躊躇われるほどの純粋な青の絨毯、これは海なのだろうか。

 そしてそこに近い場所には、これはもう米粒大の大きさにしか見えないが。これまたテントがある。テントだということは理解できるが、人は見えない。そして辛うじて分かるのが、こちら側のそれと限りなく近いシュウマイテントであるという事だ。

 すると突然、視界の右側のテント集団の所から光が届く。一、二、三と増え続ける光。赤く灯されたその灯は。どこか暖かいものがあった。


 もう日没も近いらしい。俺はは一瞬止めかけた自分の足に、再び力を込め、大地を蹴り出した。


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