裕一の仕事場!
まだぎりぎり夏休み……ですよね?
僕は優よりも一足先に休暇を終え、また出勤です。仕事は基本的にはさほど辛いものではない、というかむしろ楽な方だと思う。まぁ基本的にはだけど。
それで僕は今、私服出勤で仕事場の前にいる。後で着替えるのでここまでは私服で来い、って雇い主が。さてと、じゃあ行きますか。
「おはようございます、裕一さん」
「あ、おはようございます綾乃さん」
綾乃さんはここでは数少ない同僚だ。と言うより唯一の同僚か。
「ところで、なんでまたそんな格好してるんですか?」
現在の綾乃さんの格好は着物、それも振袖に近い派手なもの。いや、綾乃さんは元が美人なので似合ってはいるんだけどね。まぁ、個人的には着物にはショートカットよりも長い髪が合うなとは思うけど。
「ほーちゃんの思いつきで。あの、変ですか?」
「いや、むしろとても似合ってますよ」
「そう…ですか? 良かった」
今のわずかなやりとりで綾乃さんの顔は上目遣いの不安そうな顔(個人的には曇り顔と読んでいる)から、にぱーという形容がぴったりな笑顔(晴れ顔)に変わった。
「そうそう、さっきほーちゃんが裕一さんが来たらすぐに来るように言ってました」
ふぅ。結局言われずともすぐに行くって。
「分かりました。では」
「はい」
綾乃さんと別れ一度更衣室へ向かう。そしてスーツに着替えるのが僕の仕事のスタートだ。
コンコン
「おはよフベッ!」
部屋に入っていきなり枕を投げられましたよ。
「遅いではないか!待ちくたびれわ」
ほーちゃんこと佐原歩水は怒ってるっぽい。因みに僕の仕事はこの子のボディーガードだったりする。この仕事に就いた時、最初はどれだけ師匠を恨んだことか…
「じゃあ、着替えくらいはしといてよ」
そう、彼女は今まだパジャマのままで椅子に座っている。つまり、枕は投げるために用意していたのだろう。いや、オイ。
「眠いんでまた寝るんじゃ。なんなら一緒に寝るか?」
これが師匠を恨んだ原因だ。この子はとにかく常識がない。しかも、容姿が素晴らしいの形容ができるほどだから質が悪い。最初は驚き過ぎて何も言えなかった。
「寝ないっての。当たり前だろ」
「なんじゃ、つまらんの」
少し拗ねたように言われても…ね。
僕の雇い主にして彼女の佐原大門さんはいわゆる成り上がりで恨みや妬みに晒される事も多い。本人はそれを覚悟して生きてきてるし、これからもそのつもりらしいが娘が危険な目に会うのは我慢できずこのような半軟禁状態にした。つまり、バカ親のせいでこの子は世間知らずになった訳だ。
「裕一や、またいつもの紅茶を入れてくれ。その間にウチは着替えてくるでの」
もう一つ、この仕事を恨んだ原因は彼女の人使いの粗さもある。最近は慣れたし、何故か少し改善された。
適当な返事をしつつ、僕はもはや日課となった紅茶を入れる作業に取り掛かった。美味いと言ってくれるので悪い気がしないんだよな。
「紅茶はできたかの」
あぁ、この感覚は慣れる事はないだろうな。あろう事か彼女はものすごく薄い純白の浴衣のような下着と言われても通りそうなものを着てきやがった。体型も完璧なので17歳とは思えないほど艶かしい。途中、言葉が乱れた事は勘弁して欲しい。慣れない感覚とは恐ろしいものなのだ。
「なぁ、いくつか聞いていい?」
「なんじゃ、急に?まぁ、構わんがの」
「なんでそんな格好してるんだ?」
「暑いからの」
暑いからってほぼ下着じゃないか。
「別に裕一しかおらんし問題ないじゃろ」
その僕が若干以上に困ってるんだけど
「なぜじゃ?」
「はぁ。ところで、男の友達っているの?」
「話が飛び過ぎじゃろ」
いいから、答えてって
「う〜む、おらんな。裕一と父上以外の男とは関わりもない」
はぁ、やっぱりか。となると、これから少し説教だな。あのバカ親のせいだ。
「あのな、とりあえず男と女が2人きりってのはそれだけでそう言う関係を疑われるの。んで「そう言う関係とはなんじゃ?」」
ゴツン!
「痛い!何をするのじゃ!」
人の話を遮る奴に容赦はしないんだよ
「分かった! そして悪かった! じゃからその手を下ろしてくれ!」
ま、これ位で良いかな。躾は大事だよね、うん。
「じゃあ、続けるね。それでそんな薄い服じゃ余計に勘違いされる訳だ。と言うか僕以外の男がここにいたらとっくに襲われてるよ」
「無視も良くないと思うんじゃがの。まぁ良い」
いや、あの、ぶつぶつ言われても聞こえないんですが…
「あぁ、そのためのボディーガードじゃろ? それより何故裕一以外なのじゃ?」
「僕には自制心が人並み外れてあるから」
もちろん、はったりだ。そんな物、さしてあるとも思えないくらい
「裕一になら構わんがの」
なっ!? 顔が不覚にも赤くなった…と思う。このバカは真顔で言うから無駄に心臓に悪い。
「そういう事を言うなって言ってるだろ!! 大体、お前は…」
「のう、ウチからも少し頼みたい事があるんじゃが」
「何?」
後で気付いたが、話を遮られていたのに気付いていなかった。動転し過ぎたね。
「ちゃんと名前で、歩水と呼んでくれないかの? お前呼ばわりはもうたくさんじゃ」
「分かったよ、歩水」
そう言うと歩水は嬉しそうに目を細めた。正直な話、僕も呼び方に困っていたんで渡りに舟だ。そうじゃなければ、いきなり受け入れたりしなかった…と思う
「ところで、今度どこかに出掛けないか?」
「なんじゃ?また急に」
「いや、お前…歩水に世間の常識を体験させるのも良いかなって思ってさ。具体的には遊園地に」
「父上が許さんじゃろ」
「いや、それがくれたんだよ。向こうで極秘に1人雇ったんだって」
「本当か!?本当じゃな? よし、行こう!」
こうやって無邪気に騒いでると年相応に見えるんだけどね。そう思いながら、実は僕も結構楽しみにしていたりする。護衛の仕事は増えるのだが。まぁ、歩水は妹みたいに内心思っているのでさして苦にもならないだろうさ。
今日は佐原 歩水さんをお呼びしました!
歩水「なんじゃ?」
いや、自己紹介をお願いします
歩水「説明も無しとはの。まぁよい。名前は歩水。年齢は数え年で18、今の数え方なら17じゃ。身長は170あるかどうかじゃの。他に聞きたいことはあるかや?」
食べ物関係と、自慢を1つ。
歩水「自慢はこの腰までかかる髪じゃな。手入れに四半刻はかかる。好きなものは……そうじゃな湯葉、かの。嫌いなものは虫焼きじゃ」
へぇ〜、やっぱ髪の手入れって大変なんだ。いや待った、虫焼きって何!?
歩水「冗談じゃよ。ウチに好き嫌いなどありはせん」
綾乃「あら、ピーマン嫌いじゃなかったかしら?」
歩水「綾姉、なぜここに!?」
綾乃「裕一さんから教わったの。それでは次回もお暇書き!!宜しくお願いします」
歩水「うぅ、ウチが言おうと思っていたのじゃが…」
……僕なんか後半喋れもしなかったよ
歩水「綾姉はやはり手強いの」




