③黄金のパイロット
③黄金のパイロット
コンテナの大会は一年に4回。
四月の春季大会。これは地方で開かれ、先の大会はない。
八月のIH。県大会→支部大会→全国大会の順で開かれる。
十月の新人戦。これは三年生を抜いたメンバーで出場する。他の大会とは異なり、三人で出場する。
ニ月の選抜大会。これは県対抗で、選抜メンバーが名古屋港で凌ぎを削る。
横港は春季大会に出場することができず、IH予選を待つ状態である。
「入部希望者、募集してまーす。即レギュラーですよー。兼部でも構いませんよぉー。」
「お、篤!グッモーニン!放課後ボウリング行こうぜぃ」
「ごめん、今日自主練するから。」
「あ、そう。わかった。後でな。」
「おう。」
「港先輩!」
「どうした?高橋。」
「母さんの処置してくれたあの人。誘えませんか?」
「え、あいつはな…やめた方がいいぞ。」
「で、でも…港康介さんでしたっけ?」
「おう」
「僕から誘っておきます。」
「駄目だ。俺が断られている。それより、今日お前デッキマンやってみるからな。どっちがいいか決めないとな。」
「そうでしたか。すいません。わかりました。じゃあ、また放課後に。」
「おうよ。」
「ZZZzzzz」
「おい、港起きろ。うるせぇんだよ」
「んん、あっ?んだよ港、テメェ英語の時間だけやけに俺のこと注意してくるよな何?高峰先生好きなの?ははっ!んなわけねぇかこんな年増ごめんごめん怒んなよ」
こいつ、ふざけやがって。
「篤!どうしたの急に、港君も困ってるでしょ。というか年増ってなによ。」
篤……高峰先生がコンテナ部の顧問になったことは知っているが、自分が「港君」と呼ばれるのに対して、この男は「篤」と呼ばれている。
なんだ、この差は。
好意を抱かれている。
間違いない。
だからこそ、諦めさせる必要がある。
差を見せる。ここで燃えるような奴は、放っておけば治る。
だが、ここで少しずつお前は眼中にないと示していけば麻衣のことを忘れるやつもいる。
そう、それでいい。幻影から解放してやればいい。
港篤のことを篤なんて呼ばない。
彼も港君なのだから。
「おお!初ラシャり成功ですね!」
「おお、ちょっと待ってろよ」
煙草の煙が四人のコンテナ部員を霞ませる。
「あんなクレーン操作されたらラッシャーが可哀想だな。遅すぎる。」
「おい!倖田!」
「ああ、はい!」
「ちょっとあっち見といてくれ」
「わかりました〜」
南斗は駆けた。
「康介、今度父さんも携わって開館する横浜港業記念館の前日公開に来なさい。」
「あ、はい。いつですか?」
「明後日だ。土曜日だし、塾も休みだろう。」
「はい。」
二日後……
「マスコミの皆様は13-30からよご入場となります。10-00〜12-00までは関係者の観覧となりますのでご了承ください!」
康介は係員に案内され、記念館に入った。
最初のフロアは、連続ハイジャック事件についてだった。
次のフロアは港業の誕生。
これを語るのに横港は欠かせない。
初代校長・港雄平。
四年前に死んだ、康介の祖父である。
そして次にあったのは、第一回、二回、三回のコンテナIHである。
横港コンテナ部の黄金時代の写真。
パイロットの倖田南斗。
ラッシャーの源田康平。
デッキマンの引田光彦。
その三人の横にいる小学校高学年くらいの女の子。
「見たことあるな、この子。」
思わず声に出してしまった。
とても可愛い子だ。
「誰だろ、ッッ!!」
高峰先生…間違いない。
雰囲気も、目鼻口も。
全く同じである。
頭が真っ白だった。なぜ、黄金時代の横港生と高峰先生がともに写真に写っているのだろうか。
高峰先生がコンテナ部の顧問をしているのと関係があるのだろうか。
「先生……コンテナ部とどんな関係があるんですか」
「えー。新しい警備員の方が二人入られましたので名前だけ紹介させていただきます。」
そう話すのは教頭の中田である。
「えー。校門側が田中武さん。コンテナ実践施設側が倖田南斗さん。」
「えっ?」
思わず叫んだ。
「高峰先生、なにか?」
「あっ!え、ぁら、いや、なんでも」
倖田さん。横港に戻って来たんですね。
どの面をさげて戻ってくるんですか?
「3センチ、3センチ、5センチ」
『ガチャッ!』
「おい、高橋……………………お前やばいって!デッキマンの才能がやばいって!」
野口が早口でしゃべる。
「そうっすか?」
「いや、お前はすごいぜ」
澤田が真面目な顔をして言う。
無線で篤も褒める。
「すげえや。早く新ラッシャー見つけないとな!」
「ええ?デッキマン決定ですかぁ?」
「つべこべ言うな!」
「すんまそん」
「倖田さん!」
煙草を吸っている南斗に麻衣は後ろから声をかけた。
「??」
「お久しぶりです。」
「ん?麻衣ちゃんじゃないか。」
「気安く名前で呼ばないでいただけますか?」
「横港の教師になったの?夢叶えたんだ!すごいじゃん」
「あなた、なんで、どのつら下げてここに来たんですか?」
「そういえばさ、やめて欲しいよね、きみ。」
「は?」
「やる気がないなら顧問なんてやめちまいなよ」
「あなた、どの口が言うのですか?」
「あの子たちが可哀想だ。ずっと見てたけど、一度も顔を出さない。聞いてみたら高峰先生って言ってたよ。二週間見てるけど、少しも。見せない。代わりはいくらでもいるでしょ。」
「仕方ないでしょ。押し付けられたんだから。」
「そんなんになっちまったのか君は。」
「まあ、何と言ってもいいですけど、さっさとこの学校を出て行ってください。」
麻衣はヒールをツカツカと鳴らして校舎に歩いて行った。
「麻衣ちゃん、ごめんな。そんなんになっちまったのも、おれのせいだよな…できることって言ったら、二つだけか…」
依然、煙草の煙はコンテナ部の設備を見にくくしていた。
「はろー。」
「え?あなただれですか?」
警備服を着た35くらいの髭を生やした男がコンテナ部に声をかけて来た。
「俺の名前、わかる?」
「わかりませんけど」
澤田が少し苛立った口調で言う。
「倖田南斗。」
「倖田、みなと?はっ!しらねぇな!」
篤が見下した口調で喋る。
「嘘だろ」
野口と澤田がハモって篤の言葉を遮る。
「おまえ、知らないのか。倖田南斗を。」
「しりませんよ。先輩方、知ってるって言うんですか?」
「知ってるもなにも、横港コンテナ部黄金時代のパイロットで
獣眼の能力を持った男だよ」
野口が体を震わせながら言う。
「黄金時代って、IH三連覇のときですか?」
「その通りだ。」
「獣眼って、なんすか。俺が使う20cmの能力よりすごいんすか?」
「そりゃ、だって、獣眼は…」
「20cm?ああ、鳥目か。」
倖田が会話に入って来た。
「鳥目は上空から下までの距離を予測できる能力。獣眼は、一度もクレーンを止めず、コンテナを積むことができる獅子の力、数秒でクレーンを移動できる豹の力、クレーンを揺らして一発でフックを引っ掛ける虎の三つの技を同時に扱える、パイロットの最強能力だ。」
「すげえ。でも、そんな人がなんでここに。」
「まあ、色々あってね、俺がわざわざここに来た理由、わかんない?」
「わかりませんよ」
篤は即答した。
「確かにな。」
澤田が言う。
「いや、わかります。」
高橋が叫ぶ。
「ほう、」
「コーチに、なってくれるんですよね?」
「嘘だろ。」
「いや、ほんとだよ。君すごいね。すぐ分かった。」
「あんたがコーチに?笑わせんなよ」
「いや、頼んでみよう。コーチが倒れて、新顧問はあれだ。ここに実力があるコーチが入ってくれたら・・どうだ?」
野口が鋭く言った。
篤が倖田に近寄る。
「あんたが変なことをしたらすぐにやめる。それでいいな?」
「もちろんだ。」
篤は倖田に手を差し出した。
倖田はその手を握った。
「じゃあ、パイロットの子。」
「はい。」
「名前は?」
「港篤。」
「よし、獣眼見せてやるよ。」
倖田がコックピットに足をかけた。