二人のみなと
港氏物語
2074年・連続ハイジャック事件が起こり、飛行機の運航が禁止となった。
そのため、必然的に貿易は海で行われるようになる。日本政府はその時になってようやく港で働く人が減ってきていることに気がつく。
政府は大慌てで横浜に港業高校を設立。
学費が安いことや港業の安定から、入学希望者が殺到。横浜港業高校は一年目から一気に活気づく。一年後には博多にも港業高校ができ、全国各地に港業高校が広まっていった。
二十年後・・・・・・・
二十年前と同じように横浜港学校は活気づいていた。
四月下旬。二年二組の教室、麻衣は授業中に寝ている生徒を叩いた。
「起きなさい。港篤」起きない。
「起きなさい!」
「はっ!」やっと起きた。
「授業中は寝ない!小学校で習うはずよ!」
「すいません。気をつけます。」
と言いながら寝る体勢になっている。
この篤と言う生徒は勉強こそできないが、コンテナ部所属で、コンテナ操作がうまいらしい。まあ、英語教師の麻衣には関係ないが。
①二人のみなと。
七時限目が終わった。篤は、コンテナ部の部室に走る。今日は学校にあるコンテナとクレーンを使って練習を行える。
これを使った練習を行えるのは水曜と土曜だけなので一秒でも長く練習したい。
部室に駆け込む。まず見えるのが、「神奈川県大会まであと六十六日!」という張り紙だ。港業高校が増えたからといって海沿いの市に一つずつあるだけなので、最初が県大会だ。しかし、問題はそこではない。コンテナの試合は、その場その場でミッションを出され、その課題をやってのける早さを競う。
人数は、クレーンを操縦するパイロット一人、コンテナを見て指示を出すデッキマン二人、コンテナとコンテナをつなげるラッシャー二人の、五名が必要だ。だが横浜港業高校コンテナ部には、入部したてでまだ何もわからない一年生を入れて、パイロット一人、デッキマン一人、ラッシャー二人。四名では試合には出られない。必死に部員を探しているのだ。横浜港業高校コンテナ部は過去、第一回、第二回、第三回の全国大会で優勝を飾っている。だが少しずつ部員が減り、優秀な指導者が出て行き、今となっては五年連続で、試合にも出られていない。
篤はロッカーからコンテナ部のユニフォームであるウィンドウブレーカー・シャカパンを取り出して着替え、走って練習場へ向かった。
「野口先輩、澤田先輩、こんちわ」
「おう、篤。」澤田新之助が言う。彼は身長が高く、筋肉質だ。ものすごく洒落ている名前でもある。
「遅いぞ。もう高橋は素振りしているぞ。」
野口隆が言う。背は低く、痩せている。成績は学年トップだ。こちらは澤田の名前とは対照的に名前がダサい。
コンテナ部の素振りというのは、ラッシャーが使う鉄の棒を突き出して回し、それをひたすら繰り返すことだ。
「おーい!たかはしー!篤来たからはじめるぞー!」と澤田が遠くにいる高橋に向かって叫んだ。高橋が走ってくる。
「港先輩、こんちわ」
「おう。」
「よーし。高橋加入後初の実演はじめるぞ!」
「はい!」
篤は走ってクレーンのコックピットに乗り込む。マイクの付いたヘッドホンを付けた。デッキマンである野口と話すためだ。
「よし、これから普通にコンテナを十五個船に積む。」と野口が言う。
「うーい」
篤は左のレバーを前に倒した。前に進む。
レバーは左が前後、右がワイヤーの上下だ。
「まず船の奥に一つおけ。」
「うい。」
左レバーを前に倒す。ワイヤーに引っ掛け、船の奥におく。
「その横にあと三つだ。」
「ういっす」
簡単に置く。
「これを繰り返せ。」
「ういうい。」
「ういは一回!」
「う~い」
ここからが本番だ。一つ引っ掛け、船の奥に向かう。コンテナの上にコンテナを置くときはコンテナの上の四隅にある直径十センチの穴にコンテナの下の四隅にある直径十センチのくぼみを入れるとても難しい作業だ。
コンテナの真上についたので右レバーを倒し、吊り下げたコンテナを下ろす。ここからが神業と言われる繋ぎ方だ。二十センチ前で止め、野口からの指示を待つ。
「篤、少しずつレバーを倒していけ。」
「はい。」
指示に従う。そうするとガチャンという音が聞こえた。
「今、高橋がラシャったぞ!」
「初ラシャりせいこうですね!」
「ちょっと待ってろよ」
野口が高橋にかわった。
「やりましたよ!」
「よかったな!初ラシャりがこんなに気持ちよく入るなんてすげえな。」
「そうなんですか?」
「おう。お前の実力出すために、メンバー見つけねえとな。」
「はい!」
麻衣は職員室で資料を作っていた。
教師というものは子供たちに授業をするだけの仕事ではないので、残業も多い。
早く帰ってしまいたいので目を見開き続きをする。その時、肩を叩かれた。
「高峰先生、少しよろしいですか?」
振り向くと、校長だ。
「はい、なんでしょう。」
「お願いがあるのです。」
「聞きましょう。」
「横原先生が休職されたことはご存じですよね。」
「もちろん。」
「横原先生が顧問を務めていたコンテナ部の顧問になっていただきたいのです。」
「え」
「いま顧問にも副顧問にもなっていない先生が高峰先生しかいないのです。大丈夫。コーチはいますし。一人顧問がいないとダメなのです。」
とってもとっても面倒くさいが、ここで断ったら麻衣の好感度が下がる。いちおう、引き受けよう。「はい。喜んで。」
「ありがとうございます。では早速明日の朝練に・・・・・・・・・」
え、クソめんどくせえ。でも、ここは・・・「もちろん。」
「起きなさい。港篤」
「起きなさい!」
「授業中は寝ない!小学校で習うはずよ!」
「はい、では授業を再開します。」
二年二組の港康介は授業を行う英語教師、高峰麻衣に見とれていた。
年上の女性に憧れる時期だと言われればそれまでだが、康介は本気だ。
それにしてもあの港篤という男が気にいらない。授業中に寝るなんて。ありえない。
居眠りすれば怒ってもらえるだろうか。
勉強なら授業など聞かくても学年トップだ。
学校には港業のいろは学びに来ている。
父は港業界のトップであるから、エスカレーターで幹部になれるがそれなりに現状を知っておかないと仕事ができない。
康介が嫌いな人種は熱血バカと、ろくに仕事もできないくせに親の力だけで上にいる奴だと言っているが、本当は親からの束縛から解放されたいだけだ。
康介は下校しようとリュックを手に持った。
すると、肩を叩かれた。
「おい、港。まあ、おれも港なんだけど。」
振り返ると港篤だ。
「なんだ?」
「お前、帰宅部だよな。」
「そうだが。」
「コンテナ部入らないか?」
「断る。」
「頼むよ。」
「もう一度だ。断る。」
「たのむ!このとおりだっ!」
土下座をし始めた。
「やめろ!」
「お前が頷くまでやめない!」
「三秒以内にやめないとなぐるぞ!さん、ニイ、イチ!」
康介は足を振り上げる。」
篤の顎に当たり、そんぐりかえった。
派手な音が聞こえる。
「なんで!なんでコンテナ部やなんだよ!」
「コンテナが操作できたって、なんにもなんないからだよ。あんなクズみたいなもの、勉強する時間を削ってまでやるなんてバカバカしいからだよ。わかるか?」
篤の肩がピクっと動いた。
「ク、クズ?ふざけんなよ!」
篤が殴りかかってきたので、よける。
二発目が来たので受け止めて投げる。
「最後に一度だけ言おう!はいらない!」
康介はリュックを持って教室を出た。
「こっちからお断りだ。」
負け惜しみが聞こえた。
「新しく顧問になった高峰です。」
二年二組の英語を教えているこの教師が篤は嫌いだった。そこそこ美人ではあるが、教師としてのやる気が感じられない。
コンテナ部の顧問を引き受けたのも、断ったら好感度が下がるからとかいう理由だろう。
あと1年半共に活動していくと思うと、先が思いやられる。