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この世界の科学、あの世界の魔法  作者: SIM
第二章 東京区役所警察機動課
8/11

7.とか言う前に平穏が崩れた

ちょっとだけ短め。

なぜ休日の方が執筆スピード遅いのだろう……設定やら何やらが曖昧だからですね(白目

「きゃっはー!あなたがアヅマさんです?噂はかねがねです!」

 噂って……どうせ資料を見て適当なこと抜かしているのだろう。

 はっきりと起きたアホ毛クセ毛頭のそいつは僕がアヅマ?だと知るや否やこうしてハイテンションで飛び跳ねている。

「ずっと会いたかったんです!あのその、握手!握手してくださいです!」

「はぁ?嫌だ。っていうかうるさい」

「はぁう!言葉を……言葉をかけてもらっちゃいましたきゃっはー!」

 いちいちやかましい。

 いやほんと、マトモなのいないの?

「あ」

 部屋中を走り回っていたそいつが、唐突に止まる。

「自己紹介してませんでしたです」

 唐突に落ち着いた声音でそんなことを言う。

「はぁ……」

 正直鬱陶しいことこの上ないので別にしてもらわなくてもよろしいのだが。

 そんな僕の心境はお構いなしにそいつは言葉を紡いで行く。

「それでは……こほん、です。世の中には、二つの危険なことがありますです」

 いきなり何を言っているのだろうこいつ。

「それは、意図的に起こされた危険と、予期せずして起きた危険。で、この内の、予期せずして起きた危険のことを──」

「ユラギ、あんたそれ『事故』紹介になってるわよ」

「事故と──ふぇ?」

 ユイの指摘に目が点になるクセ毛頭のそいつ。

 ……なんだ、ただのアホか。

「あ、じゃあこういうことです?赤ちゃんが妊娠したことをご両親に報告──」

「それ『事後』紹介にゃ」

「今は午後五時──」

「『時刻』紹介だろう」

「我が国日本は「今度は『自国』紹介なんですね……」魔法先進国……」

 機動課メンバーに総ツッコミされて撃沈した。

 今までボケに回っていた奴らが全員ツッコミに回る様はある意味で……いや、普通に異常だった。僕まで日本語が変になってきたじゃないか。

 あうあう、と涙目で動物の鳴き声みたいな声を漏らすそいつに、

「……自ら己を紹介するって書いて、自己紹介なんだけど」

 思わずボソッと呟いてしまった。

 そんな僕の言葉を目敏く……耳敏く?拾ったクセ毛は目をキラーンと擬音と共に光らせ立ち上がった。

 まるで、その言葉を待っていたとでも言うように。

「なるほどそういうことかです!

 機動課《魔女》部隊所属、18歳、仄仄ほのぼのユラギです!きゃっはー!アヅマさんに自己紹介してるですぅー!もっともっと知ってもらうためにボク頑張っちゃいますですよよよよよ!」

 こいつもこいつで、キャラ濃すぎ。

 ほら、見なよ。隣じゃ、あまりのキャラにキタノが呆然としているじゃないか。

 ミーハーな感じに毒気を抜かれたように放心するキタノに少しだけ安心する。

 またキレかけたりしたら僕の精神が持たないっての。

「ところで、噂のアヅマさんって誰様です?」

「知らねえ」


「これでみんなの自己紹介は済みましたね。わからないことは共に生活していく内にわかるでしょう」

「は?なに、僕らここで暮らすわけ?」

「違うわよ。家はそれぞれちゃんとあるから」

 つまり、なんだ。ソラが誤解するような言い方をしただけと。

「もう、同じようなものじゃありませんか、ユイ」

「職場と家は、ちょっと同じとは言えないわよ?まあそんなことより、そろそろ寝ときなさい」

「あ、そうですね。それでは、ソラは奥の部屋にいますので……ふぁぁ……」

 小さなあくびをたたえ、部屋の奥の方にある扉へと歩いて行く。ユイもそれについて、そのままその中へ消え、部屋に静寂が流れる。


 先ほどまでのやかましさはどこへ行ったのか。

 いや、まあ、うるさいよりは格段に良いのだが。

 シノイがまたもテレビに噛り付いたため、部屋にバラエティ番組の作り笑いが溢れかえる。

 ユラギは糸が切れたようにまた机に突っ伏し、そんなユラギの亜麻色の髪をチヒロが引っ張ったりして遊んでいる。

 キタノは物珍しげに部屋を見渡していた。

 僕と言えば、特にすることもなかったために観察することにした。

 何を?──もちろん、この《魔女》たちを。

 僕は馬鹿で、咄嗟の判断というやつが苦手だ。

 考え無しに突っ走り、それをいつもキタノや『仲間』にカバーしてもらってきた。

 そんな僕は、考え無しでもどうにかなるようにと事前情報をできるだけ多く集め、前以て考えておくことにしたのだ。

 その場で考えられないのなら、情報から戦況を予測し、取るべき行動を決定しておく。

 これならば、想定外のこと以外は考え無しでもどうにかなる。

 想定外のことが起こった時は、その時だ。『仲間』の力を借りれば良い。

 都合が良いとは思うが、本来仲間なんてそんなものだろう?

 誰に言い訳をしているのか、自分のことを客観視しながら部屋にいる《魔女》たちを観察する。


 まずは柊城ひいらぎシノイ。

 椅子に正座して、背もたれの部分に両手を乗せながらテレビに噛り付いている。

 地毛か染めているのか判断できない、綺麗な金髪を短めに揃えていて、全体的にどこか大人びた雰囲気を感じさせる。

 まあ、22歳なのだから大人ではあるのだが。どうもこの空間にいる《魔女》たちは子どもっぽくて感覚が狂う。

 覇気のない目。まぶたが半分落ちかかっている。

 ……眠いのなら寝たらどうだ?


 次に鷺沼さぎぬまチヒロ。

 ぴょんぴょん跳ねるユラギの髪の毛を弄びながら、時折こっちを見ている。その度にツインテールが揺れてわかりやすい。

 視線が合わないようにはしているが、なんとなく、僕が見ていることを察している節がある。

 こいつ、ああ見えて案外食えないな。

 頭の中がお花畑のように振る舞いながら、常に空気を読み、それをあえて壊すタイプ。

 僕と似ている気がする。

 だが、気がするだけだ。事実、この静かな時間を、チヒロは黙って過ごしている。

 空気を壊す時と、そうでない時があるようにも思える。


 そして、一番謎なのが仄仄ユラギ。

 人間像が掴めない。

 キャラがどうとかじゃない。

 むしろ、性格だけで言えばたぶん、一番マシな方だ。

 口から飛び出る発言は奇々怪々。だが、頭の中は割と整っていそうな感じ。

 チヒロが、あざとさを備えたキャラだとしたらユラギは天然モノだ。

 普段がマトモなだけあって、突飛な行動が予測できない。そういう、僕の苦手なタイプ。


 観察してみれば、初見とは大分違う印象が見られる。

 その結果、意外にもチヒロが一番相手にしやすそうだ。

 まあ、疲れるからしたくはないんだけど。

 さて、何をしろと言われたわけでもない。

 少し外に出るか……。

「あれ?ミナミちゃんどこ行くの?」

「キタノがついてこられない場所」

「あー、トイレか」

「なんで今の一言でわかるんだよ。気持ち悪い」

「あはっ、意味のない罵倒はムカつくなぁ。殺しちゃうゾ?」

「殺せるなら殺せよ」

 そんな会話をしてから部屋を出る。

 さて、どこへ行こうか。

 ああ、もちろんだけど、トイレなんか行くつもりはない。

 いつも僕にべったりついてくるキタノから離れたかっただけだ。


 ここは区役所。

 少し見学みたいなのしてみるか。

 まずはここがどこなのかの確認だが……それは来る時にすでに終えている。

 区役所四階。この上には屋上が広がっている。

 どこかで見たことのある構図には苦笑いした。

 階段を降り、三階、二階と下り、一階に辿り着く。

「おっと」

「んぁ?」

 階段を降りて角を曲がったところで誰かと肩がぶつかってしまう。

「ああ、悪りいな……って、おお」

 謝って来た相手は、僕の顔を見るなり驚いたような顔をした。

 はて、どこかで会ったことはあったっけ?

「……ああ、あの変なおじさんか」

「喧嘩売ってんのかガキ」

 その人は、《レオーネ》が奪われた日に街ですれ違った、現代においては珍しく、魔法の気配がまったく感じられなかったあの人だった。

「どうしました志島さ──」

 後ろから、あの時も一緒にいた青年が追って来る。

 背広に身を包んだ姿はまるで警察のようだ。

 っていうか……。

「あんたら、警察だったんだ」

「街中ですれ違っただけだが、よく憶えてるもんだな。ここで何をしている」

「ちょっとね」

 別に話すこともない。

 すれ違っただけの間柄だ。そうそう長く話したいとも思わないし。

 僕はその場を後にする。

「知り合いですか?」

「前に街ですれ違っただろうが」

 背後からそんな会話が聞こえてくるが、興味はなかった。


 その後入り口から外へ出る。

 出ても良いものかと一瞬悩んだが、僕らは自由にして良いと言われているのだ。別に遠慮することもないだろう。

 すでに朱い空が僕を迎え入れる。

「眩しいな……」

 真正面、西では沈みかけの太陽が光の残滓を撒き散らしていた。

 ちょっと首を傾け上を向けば、天高く聳えるスカイツリーがあった。

 《レオーネ》はあそこから飛び出し、どこかへ消えた。

 その後、沈んだスカイツリーは何事もなかったかのようにまた姿を現したのだ。


 この世界に戻ってきてからの一ヶ月、本当に様々なことがあった。

 学校に戻ってくれば留年扱い。

 平穏なんかそっちのけでテロが起こるし。

 かと思えば一週間は何も起こらず。

 急に現れた機動課には勧誘され、僕はそこに所属している。

 あまりのイベントの数々に疲労困憊だ。

 このトラブル体質も、『あの世界』から持ち込まれたものかもしれない。

「あーあ、だとしたら厄介だなぁ」

 誰にともなく呟く。

 区役所の敷地から踏み出て、コンビニにでも行こうかと思案したその時。


 ──ピー──ガッ──ザザッ──


 何かの放送機材から漏れ出るノイズの音を聞いた。

 何かが背中を這いずり回る感覚。


『──あー、てすてす』


 どこかで聞いたような機械質な声。

 間違いない。


『久しぶりだなぁ、箱庭の人間。一週間、平和に過ごせてたかい?』


 ──テロリスト……ッ!


 空に響き渡る声は、非日常を忘れた人間たちに思い出させた。

 おまえたちの命は、私が握っているぞ──と。




 月島カグヤの家はアパートの一室。そこにはすでに何もなかった。

 あったのは家具のみ。

 日常生活に必要そうなモノは片っ端から部屋の外へ持ち出され、手がかりになりそうなものなど何もない。

 女性の部屋を漁る行為に特に抵抗がない志島テッペイが次々と部屋を荒らす。

「チッ……やっぱ何もねえか」

 テッペイとハルトは、月島宅に何か無いかと出向いてきていた。

 アパートの大家に鍵を借り入室。

 だが、案の定部屋は空っぽで、めぼしいものは何もない。

「そりゃあ、テロなんて起こすんだからそれなりの片付けはするでしょうね」

 テッペイの言葉に返すハルト。

 テッペイも同じことを思っていたため、舌打ちするだけに済ます。

 わかったことと言えば、これでカグヤがテロリストであることに疑いが無くなったこと。

「ったく、たった一人でテロ起こすなんざ正気か、月島カグヤは」

「……正気じゃなかったんじゃ」

 遠くを見るような目で言うハルト。

「弟が動かなくなって、病んじまったんじゃないんですか?」

「なまじ《政府》の上層部なんてもんに関わっていたから、癇癪がここまで膨らんじまったってことか……」

「《政府》ってなんなんですかね……」

 その言葉にテッペイは答えなかった。

 答えられるものではなかった。

 そもそも、この国の実態が不明瞭すぎるのだ。

 魔法先進国。

 それを治める《政府》。

 見えない魔力なんてものに身を委ねる国民。

 《政府》が隠れて造っていた、赤いロボット。

 この国は、狂い始めている。




 区役所に戻ってきた二人は自販機でそれぞれ飲み物を買う。

 テッペイはコーヒーを、ハルトはコーラを。

「……コーラ飲んだら腹痛くなってきたんでちょっとトイレ行ってきます」

「アホかおまえ」

 トイレに行ったハルトを見送り、一人ソファに腰掛ける。

 喉を流れるのは冷たく苦いもの。

 まるで、今の現状を描いているようだった。

 そんなテッペイに話しかける者がいた。

 その顔を見るなりテッペイは頬を緩める。

「おお、久しぶりだな」

 そこにいたのは、ごく平凡な顔をした男だった。

 少しばかり年齢より若く見えるその顔。

「よぉ、テッペイ。久しぶりと言っても、たった半月ほどだと思うんだがな」

「この二週間が濃かったからな。久しぶりに感じるんだ」

 その男の名は佐久間さくまリョウ。

 区役所に勤める者の一人だった。

 この二週間は、とある高校で教師をしていた。

 と言っても、前一週間はその準備で、本格的にしたのは後一週間。

 つまり、教師を勤めたのは実質ただの一週間だ。

「どうだったんだ、高校は。任務とはいえ教師をやらされたんだ。生徒といさかいがあったりしたか?」

「まったく骨が折れる連中だったさ。たった二人なんだがな。生意気でやってられん。一週間でお役御免できて清々した。機動課の連中には助けられたな」

「はっ、そりゃご苦労なこった。任務の詳細を知らない公安課は楽だぜ、リョウ。おまえもこっちに来ないか?」

「ちまちました捜査は割に合わん。俺には、特務課の方が性に合ってる」

 二人は同期だ。

 過去に同じ学校を卒業し、区役所への就職を決意。

 テッペイは警察学校へ、リョウは《政府》育成専門機関に身を置いた。

 その後、テッペイが先に警察学校を卒業し公安課へ入り、今では課長に。

 リョウはその五年後に特務課へと入った。

「にしても、なんだって教師なんだ。毎度毎度、特務課のすることは突飛でわからん」

「ちょっとな。まあ、特務課も機動課と同じで《政府》の後ろ盾がある。少しくらいの無茶は簡単に通ってしまうんだ。何をやろうと不思議ではない。さすがに、教師という不慣れなものには手を焼いたがな。危うくキレて魔法の加減をミスって怪我をさせるところだった」

 リョウはテッペイと違い、魔法を至って普通に日常生活に取り入れている。

 別にテッペイの考えを否定するわけでは無いが、今世、魔法があった方が良いこともある。

 もっと言えば、魔法が無ければできない任務もある。

「だがおかげで、こんな任務を言いつけられた理由もわかったけどな」

 久々に話すリョウは饒舌で、気分が良さそうに見える。

「気分が良いのは、それが理由か?」

 テッペイが問えばリョウは首を振る。

「それとは別さ。……たった一週間とはいえ、担当した生徒に『世話になった』って言われてな。こんな気分になれるなら、教師ってのも良いかもしれん」

 まああり得ないがな。と零し、立ち去ろうとするリョウ。

「久々に話せて良かったよ。それじゃあ、俺はまた次の任務があるからまたな」

「なんだよ、休む暇もねえのか?」

「公安と違って特務課は常に人手不足なんだ。悪いな」

 そう言ってその場から離れる。

 少ししか話せなかったとはいえ、友人との会話に心が軽くなった。

「うしっ。公安課の部屋に戻って資料をまとめるか……にしても、遅いな沖田。置いてくか」

 飲み終えたコーヒーの缶を捨て、二回にある公安課へと行くため階段に近づく。

「おっと」

「んぉ?」

 肩がぶつかった。

「ああ、悪りいな……って、おお」

 誰だと思い見てみれば、そこにいたのは、いつぞやに街ですれ違った青年だった。

 やはり今も脳内で何かが告げる。

 こいつは普通じゃない、と。

「……ああ、あの変なおじさんか」

「喧嘩売ってんのかガキ」

 のっけから失礼なガキだ。

 区役所とは不釣り合いな学ランに身を包む青年。

「どうしました志島さ──」

 後ろから、ようやくトイレから出てきたのかハルトの声がする。

 そのハルトも青年の存在に気付いたのか、言葉が尻窄しりすぼみに消えて行く。

「あんたら、警察だったんだ」

「街中ですれ違っただけだが、よく憶えてるもんだな。ここで何をしている」

「ちょっとね」

 学ラン姿のガキが、ちょっとでうろついて良い場所ではないのだが……。

 青年はそのまま入り口から外へ出て行ってしまった。

「知り合いですか?」

「前に街ですれ違っただろうが」

 今の会話は聞こえたはずだが、まるで興味を示さず歩いていく背中が、寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。

 まあいい、と仕切り直し、階段を昇る。


 それは、公安課の扉を開けた瞬間に起きた。


 ──ピー──ガッ──ザザッ──


「……?今なんか、変な音が聞こえなかったか?」

「え、ええ……」

 部屋の中に入るなり窓を開けるテッペイ。


『──あー、てすてす』


 そこから聞こえてきたのは、初めて聞く機械質な声。

 だが、テッペイはほぼ直感でそれが何なのかを察する。

「テロリスト……月島カグヤ──ッ!!」


『久しぶりだなぁ、箱庭の人間。一週間、平和に過ごせてたかい?』


 止まっていた平穏は、日常は。


 非日常に向かって、動き出した。

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