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夏だ、プールだ、おっぱいだ!

 放課後。僕は美波と帰り道を共にしていた。彼女とは幼馴染と言う関係上、小学校の頃からずっとこんなのだったりする。

「そういやさ、昨日は何してたんだ?」

 一緒に帰ろうとしたけれど、ついぞ美波は見つからなかった。仕方なく一人で帰ったんだけど。

「昨日なら、津田君とファーストフード店に行ってたよ」

「――津田君? 津田三好?」

「もちろん」

 へぇ、なるほどね。

「どうしてまた、津田君なんかと一緒にいたのさ」

「そ、それは秘密よ! 死んでも教えないから」

「……えぇ、残念」

 肩を竦めて、おどけたように笑ってみせる。

「まったく、幼馴染だからって何でも教えてもらえると思ったら大間違いなんだから」

 怒ったように俯いて、スタコラ歩いていく。なにかを誤魔化すときの癖だ。昔からずっと、変わらない。

 もう美波も高校生だし、恋とかするよな。僕はゆっくりと、思考の海に沈む――。

「――る、海陽! 生きてますか? 今までに見たこともないような真剣な目でボーっとできるなんてすごいね」

「えっ、やった嬉しい」

「褒めてないから」

 目の前にはいつもの美波がいた。眉を顰めて、「なんだこいつ」という視線を突き刺してくる。それに少しほっとしてしまって、そろそろドMに目覚めそうだと悟った。今度そっち系の動画でも見てみよう。

気付けば分かれ道が目前。右折すれば僕の家、左折すれば美波の家である。

「そんじゃあ、また明日~」

「おう、またな」

 特に手を振り合うこともなく、左右へと別れていく。ずんずんと離れる距離。何度繰り返しても、これだけは少し名残惜しい。

 振り返る。

 瞳に映るのは、前だけを見つめて元気に闊歩する美波の姿。自分を信じ、自信を持って生きる美波の姿。

そりゃあ美波だって、迷うことも涙することもある。僕はそれを身近で見てきたし、支えてきたつもりだ。でも。

でも、それは常に前向きだった。泣いて喚いて、もう一度立ち上がっていた。それが、石井美波という人。大切な、石井美波という人。

――僕は、どうだ。

守られて、支えられてばかりで。それでも今、崩れようとしている。笑顔で取り繕って、仮面をつけて、その先には何があるんだ。

「……はぁ」

 重い溜息を吐く。重力に任せて座り込みたくなったが、そうもいかないようだ。ぽつりぽつりと、地面に黒い染みが広がっていく。

 思い出したように雨が降ってきた。どうやら、濡れて帰るしかないらしい。


 漂う塩素の香りに過去のトラウマを掘り起こされそうになる。中学生のとき、泳げなくてむちゃくちゃからかわれたこと。小学校低学年のとき、水に顔をつけられなくてむちゃくちゃからかわれたこと。幼稚園ののとき、湯船に張ったお湯が怖すぎて泣いてしまったこと。……を、美波に知られてむちゃくちゃからかわれたこと。正直、帰りたい。

 仲良しこよしプール大会。本当に開催されてしまった。僕、泳げないよ。冗談でもなんでもなく。

「海陽……諦めなさい。ね?」

「いくら美波といえども、これはマジギレしていいと思うんだ」

「はいはい。私もゆっきーもいるし、帰るわけにもいかないんだから。女の子の水着姿も見られるし、頑張れ」

「よし分かった僕頑張る!」

「これまでになく爽やかな笑み……うげぇっ」

 えずくな。

 さて、気を取り直して今日はプール! ビキニ! これぞ天国! やったね! 無理やりにでもテンションを上げるんだ!

 突然だがここで、美波と羽ノ浦さんの水着をご紹介しよう。

まずは美波。バンドを巻いたような形の、バンドゥービキニというタイプだ。ピンクの花がたくさん散っていて、白い肌によく映える。ちなみにこのバンドゥービキニ、胸のラインをぼかしてくれる効果があるらしい、美波の場合……あー……色々大きいので、その必要はないと思います。いや本当に。顔を埋めたい嘘です。

そして羽ノ浦さん。こちらはブラ部分を覆うようにひらひらがついている、フレアータイプのビキニだ。美波とは対照的に水色で、こちらは小花柄。二人とも花柄だけど、並べてみると違いがよくわかる。羽ノ浦さんのは等間隔に花が並んでると言ったらいいのかな。このフレアータイプは、胸をひらひらで覆うことでラインを誤魔化すことができる。羽ノ浦さんの胸は……うん……小さごめんなさい。でも小さいのも好きだから無問題だけどね。

どうしてこんなに詳しいのかって? それは知らなくてもいいことさ。

「じゃあ二人とも、そろそろ泳いでらっしゃい。僕はこのベンチで座ってるから」

「え? まだ一人来てないから、もう少し待つわよ」

「一人、って誰のことだよ。……まさか、津田三好?」

「おっ、冴えてるじゃん海陽。その通り!」

 急速に下がっていくテンションを感じながら、美波の顔を見つめる。普通に楽しそうだ。よほど嬉しいのか、足でプールの水をバシャバシャ叩いている。

一方、羽ノ浦さんはひたすらに自分の爪先を見つめて、もじもじしていた。そんなに水着が恥ずかしいのかな。……あ、胸見つめてる。だよなぁ。隣には色々豊かな美波がいるしなぁ。

「――遅れてすみません!」

 お、来やがった。

「やっほ! 今日はごめんね、無理に誘っちゃって」

「いえ。誘っていただきありがとうございます」

 今まで見たことのないような、人の好さげな笑み。津田君ってこんな顔するんだなーと変に感動してしまう。

「こ、こんにちは。津田君」

「……こんにちは」

 羽ノ浦さんは消え入りそうな声で挨拶をし、黙り込んだ。津田君の方もちょっと眉をひそめている。なんだ、このお世辞にも仲が良いとはいえない雰囲気。

 しかし、こういう時こそお調子者の出番。僕の本領発揮である。

「こっんにっちは! というか話したことはあんま無いよね。もう初めましてでいい? 僕は佐那河内海陽といいます。これからよろしくな」

 にっこり笑って右手を差し出す。僕の勢いに気圧されたのかなんだか知らないが「こ、こちらこそ……よろしくお願いします」と、引かれつつも握手。

「よし、これで全員そろったわね。んじゃ後は各自適当にやろっか! ということで海陽、一緒に泳ごう」

「は?」

 幻聴かな?

「特訓よ特訓! 高校生にもなって泳げませんーだなんて、だいぶ恥ずかしいでしょ」

「僕、水中で十秒くらいしか息止められないんですけど」

「知るか」

 スタイリッシュに一刀両断された。そんなバナナ! やめて、本当に嫌なんだって!

 そっと逃げ出そうとしたが、容赦なく腕を掴まれた。途端に、昔のトラウマが蘇る。もう僕、溺れたくない……。こうなったらてこでも動いてやらないぞ。しっかりと足を踏ん張る。

「ああもう、さっさと行くよ!」

 痺れを切らしたのか、美波がぐっと僕の腕を引っ張った――瞬間。

 ぽよん。 

 柔らかーい、柔らかーい。この世のものとは思えない、極上の柔らかさが腕を包む。なんなんだ、これは。今まで触れたことのない感触だぞ。何事かと自分の腕に首を捻った、刹那のことだ。

「いやあああああああああああああああああ! 胸触んなボケカス変態ナスビィィィイイイイイイイイイイイイイイ!」

 華麗な一本背負いをキめられ、僕はプールへと沈んだ。


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