第三十五話 解決
漢玉葱は一玉につき200ゴルド、魔角牛の全身は20,000ゴルドで売れた。帰還の指輪は5,000ゴルドで、念話の指輪と違って一回で買いなおさねばならないので、それらを差し引いて利益は15,600ゴルドである。上々であった。
「やっぱ、以前に俺が倒したことあるやつ、仔牛だったんだな」
「そういえば仰ってましたね、上層に湧いた魔角牛を倒したことがあると」
「ああ。恐狼の生息圏に近い、かなり上層の中でも深い階層だったけどな。今日のやつと比べると、身体が二回りぐらい小さかったな。素材の買取価格も、5,000ゴルドほど安かったし」
あの仔牛も、それから俺が初めて迷宮に入ったときに出会った大ムカデの幼体も、本来の出現階層よりも浅い地域にいた。今までずっと、弱さゆえに生息域を追われてきたのだと思い込んでいたが、もしかしたら最初から浅い場所に湧いているのかもしれなかった。
魔物が出現する迷宮の仕組みは、いまいち謎が多い。
「まあ、細かいこと考えてもしょうがないか。喫茶店行って甘糖珈飲もうぜ」
「ご主人様、それよりも武器を研いでもらった方がよくはありませんか? 魔角牛に何度も斬りつけていましたし」
「まだダグラスに研いでもらうまでもないと思うんだがなあ。実質、一匹しか斬ってないし。でもまあ、念のためやってもらうか。先に喫茶店に寄って、甘糖珈飲んでから行ってもいいと思うぞ?」
「それはそうですが」
ダグラスの店は職人街にあるので、ここ商業ギルドの買取広場からだと、喫茶店のある商店街のほうが近い。
「先に武器を研いでもらって、帰りに喫茶店に寄るのでもいいが。みんなはどっちがいい?」
エマたちに聞くが、三人とも首を傾げる。
「どっちでもいいわよ?」
じゃあ、エマも喉が渇いてるだろうし、先に喫茶店へ――そう、俺が言いかけたときのことだ。
「ごめんね、君たち、ちょっといいかい?」
明らかに俺たちへと向けられた声だったので、振り向いて声の主を見た。
額に汗をびっしりと浮かした、青年と呼ぶには少し歳を食った細面の男性が、俺たちの後ろで息を切らしていた。
「さっき、ダグラスって名前が聞こえたような気がしたんだけど。鍛冶屋のダグラスさんのことかい?」
「ええ、そうですが」
パーティを代表して俺が返答をすると、彼は感極まった体で、良かったあ、と天を仰ぎながら諸手を上げた。
「すまないが、彼の店の場所を知っていたら、教えてくれないかい? 急用があるんだが、場所を知らなくてね」
「別に構わないですが、急用があるのに店の場所を知らないんですか?」
俺がそう指摘すると、彼は困ったような、苦い顔をした。
「ぐ、そこを言われると弱いんだけどね。ちょっとダグラスさんに用があって、慌てて駆けつけようとしたものの、ギルドメンバーから店の場所を聞くのを忘れていてね。職人街を総当りで探すしかないと思ってたところなんだ。君たちに会えて、いやあ、僕は運がいい」
そう言って、彼はハンカチの袖で額の汗を拭った。よほど急いでいたのか、仕立ての良さそうな絹のチュニックは汗で濡れている。ちょっと気の弱そうな笑顔が、人当たりのいい印象を受ける兄ちゃんであった。特に悪人にも見えない。
「ちょうど僕らもあの店に用事があったところです。良ければ一緒にどうです?」
「いいのかい? 助かるよ」
安堵した表情で、俺たちを拝むような仕草をする彼であった。
道すがら、彼が話しかけてきたので、俺は世間話に興じていた。
「へえ、まだ迷宮に潜りはじめて間もないのか。最近はあまり行ってないけど、僕も冒険者でね。駆け出しのころは、ダグラスさんの打った剣を持って迷宮に行ったものさ」
「あ、冒険者の方だったんですか?」
とてもではないが、気の弱そうな笑顔や、お世辞にも肉付きのいいとは言えない身体からは、冒険者という職業を想像することは難しかった。
「やっぱり弱そうに見える? こう見えて結構ベテランなんだけどなあ、いつまで経っても強そうには見えないみたいなんだよね」
肩を落としてうなだれる彼であった。どうも、ひょろっとした外見に劣等感を持っているらしい。
「そういえば、ダグラスが店を持ったのってつい最近だけど、あなたはどこで彼と知り合いに?」
我ながら露骨な話題逸らしだと思ったが、彼はすぐに表情を切り替えて話題に乗ってきた。扱いが楽というか、善性の人物であることは間違いない。
「ダグラスさんの修行時代に、剣を打ってもらったことがあるんだよ。ヴァンダイン氏の弟子の中では一番ダグラスさんが腕が良かったからね。あの武器は使い心地のいい剣だったな」
「そうでしたか。今も、いい腕をしていますよ。あの店で武器を買うと、他の店のものじゃちょっと満足できないです。今度、買い物をしてみてはどうですか?」
俺が水を向けると、彼はちょっと表情を翳らせた。
「うん、まあ、そうだね」
彼が気落ちする理由がわからなかったが、もうダグラスの店の前に着いてしまったので、話はそこで打ち切られた。
「ここがダグラスの店です」
鉄鉱石に店名を書き込んだ看板代わりの置物を見て、彼は俺たちに深々と頭を下げた。
「ありがとう。助かったよ」
「そこまでのことではありませんよ。私たちも用事がありましたし」
「や、そういえばそうだったか。ううん、それはちょっとまずいなあ」
一体何が彼をそうさせているのか皆目わからないのだが、彼は頭を抱えて悩み始めた。しばしの煩悶の末、何かを決意したような顔で、俺たちを再び拝む。
「ちょっと恥ずかしいところを見せるかもしれないけど、ごめんね?」
「よくわからないですが、わかりました。気にしないことにします」
「そう言ってくれると助かるね。じゃあ、入ろうか」
よし、などと気合を入れて、彼は先行して店の中に入っていった。俺たちも、遅れて店の中に入る。中ではダグラスが店番をしていて、俺たちと彼を交互に見比べて目を白黒させていた。
「どういう組み合わせだ、こりゃ?」
「ダグラスの店の場所を知りたがってたから教えたんだが、まずかったか?」
「ギルドメンバーに道を聞くのを忘れたままホームを飛び出してきまして。途方に暮れていたところに、彼らがダグラスさんの話題をしていたのを聞きつけて、道を教えてもらったんですよ」
「ってえことは、お互いが誰だか知らねえのか?」
俺と彼は、顔を見合わせて首をかしげた。間違いなく、お互いに面識はない。ダグラスはため息をついたまま、俺が連れてきた細面の兄ちゃんの方をあごでしゃくった。
「そいつが『竜の息吹』のギルドマスター、リカルドだ。で、こいつが、お前んとこのバカが迷惑かけてるジルだ」
お互いに心当たりのある名前だったため、俺たちは顔を見合わせて、えええええ、とのけぞった。
「自己紹介はダグラスさんがやってくれたので、早速ですが本題に入りましょう。
実は、ギルドメンバーから事の経緯を聞いたのが昨日なのですが、彼らは『竜の息吹』がヴァンダイン氏の系列鍛冶屋から締め出されたと言うのみで要領を得ないのです。原因がダグラスさんらしい、ということでここに駆けつけたのですが、何があったのです?」
「お前なあ」
気まずそうに頬を掻くリカルドとは対照的に、呆れ顔のダグラスである。
「なんでギルドマスターのお前のところに情報が上がってねえんだよ? 事が起こってから、もう一ヶ月は余裕で経ってんだぜ?」
「迷宮に潜ったりとか、その、最近新居を買いまして、悠々自適な半隠居生活をしていたというか。あまりギルドの運営に関わっていない日々が続いていまして」
「てめえが適当なギルド運営してっから、下の締め付けが甘くなってバカが方々に迷惑かけてんだよ。半端な運営するぐれえならとっとと頭を降りやがれ。誰か、ギルドの運営に深く関わってたやつに譲ってよ」
「それが、そのう。和気藹々というか、仲の良い人間同士で集まってギルドを組んでいたもので。経営を任せられるというか、ギルドマスターみたいな気疲れする仕事をやってくれる人物に心当たりがなくてですね。私としても隠居したいんですが、後を任せられる人物がいないというか」
「互助会としての役割としてはお前のギルドは成功してるかもしれんが、ゆるい規律しか作らねえからこういうことになるんだ。しかも後任者を育てられてねえってのは、お前の怠慢だろうが。それで半隠居生活しつつギルドのことはすっぽかしだあ?」
「はい、はい。仰ることは、まったくごもっともです。で、お怒りの件は後でまたお叱りを頂戴するとして、いまは事件の経緯などをですね、恥ずかしながら教えて頂けると――」
熱くなっていくダグラスに対して、どんどんと縮こまっているリカルドであった。もともと善性の人物だと思っていただけに、こうなると哀れでもある。
「バカバカしくて話す気にもならん。ジル、お前さんがかわりに説明しとけ」
ダグラスは奥に引っ込み、付き合ってられないとばかりに葡萄酒の樽を取り出して飲み始めたので、俺とリカルドは顔を見合わせる。お願い、と言わんばかりに両手を合わされたので、俺は事件の経緯を簡単に説明してやった。
「赤の盗賊団」の討伐経緯を話したくだりでは、「ああ、君があの討伐をやりとげた人なのか。『竜の息吹』も郊外の開拓にはギルドメンバーが参加していたからね、助かったよ」などと能天気な声を出して、ダグラスに睨まれたりしている。
逆に、エディアルド少年がダグラスの依頼に現れて、俺に絡みだしたことを話したあたりでは、顔面蒼白になって脂汗をかき始めた。
「要するに、エディアルドはジル君に借りがある立場なのにも関わらず、逆恨みしていると。しかも冒険者ギルドのパーティ募集の場において、ジル君を名指しで排斥しようとした、と」
「単純に言うと、そういうことですね」
深いため息をつくと、リカルドは天を仰いで嘆息した。
「客観的で、とてもわかりやすい説明だったよ。ジル君の言うことが本当なんだろうって簡単に信じられるぐらいに。なるほどなあ、だからダグラスさんがブチ切れて締め出し食らってるのか。この件に関与してないギルドメンバーから、どうにかしてくれと泣きが入ってね。何件か報告が握りつぶされてたらしく、初めて知ったのが今日なんだ」
「冒険者ギルドの募集広場に頼らずともパーティを作る目処は立ってるというか、
ちょうどパーティを組んで今日、一戦行ってきたところなんで、実のところ、あまり気にしてはいないんですがね」
俺は、物も言わずに控えている後ろの三人娘をちらと見る。
「そう言ってくれると嬉しいよ。でもギルドとしては、けじめ付けないとなあ。はあ、兄貴を亡くしたからどうにか生計を立てたいってうちに来たあの子には、熱意が感じられたんだけどなあ」
俺は、記憶の中にあるエディアルド少年の攻撃的な性格を思い出す。なるほど、好意的な見方をすれば、向上心があるとか、熱意があると言えるだろう。
短い付き合いではあるが、何となく俺は、リカルドの性格をつかめてきた。お人よしすぎて、他人を疑ったりしないのだろう。その大らかな性格が人を集め、「竜の息吹」のような大所帯のギルドを作るきっかけになり、その反面、今回のような事件が起きているのだ。
正直なところ、被害者と加害者の立場を抜きにして考えれば、俺としては好感の持てる人物である。
「で、処分はどうすんだ? ぬるい対応されてもこっちは収める気はねえぞ?」
二つ目の樽を呷りながら言葉を挟むダグラスであった。
「ジル君の排斥に関わったギルドメンバーの追放、それとジル君の名誉回復のために、一連の経緯と、うちが悪かったってお詫び文を各所に設置するぐらいでどうでしょう?」
「バカの処分はそれでいいが、ジルにとっての旨味がまるでねえだろう。ギルドが迷惑をかけました、一ヶ月以上も経ってうちが悪かったです、おしまい、ってか?それは通らねえよ」
「い、いくら包めばいいですか?」
不安そうに、ちらちらと俺とダグラスを交互に見るリカルドである。うん、善性の人物だ。
「俺としちゃ、事が丸く収まればそれでいいし、金まで貰おうとは思わないけどな。リカルドさんはどうも憎めないし」
俺の言葉に、ぱあっと笑顔になるリカルドである。うん、善性の人物だ。
「こいつにさん付けなんか必要ねえぞ。呼び捨て、いや、リカちゃんでいい」
「リカちゃん――その、一応、僕、深層冒険者なんで、勘弁してもらえると」
心底へこんだのか、うなだれるリカちゃんである。うん、面白い人物だ。
この人を中心に、人が集まっていった理由が、なんとなくわかる。
「じゃあ、貸し一つにしとけ。ジル、なんか困ったら、こいつを一回アゴで使っていいぞ」
「それぐらいでいいなら」
爽やかな笑顔で、使いっ走りを承諾するリカルドである。大手ギルドのマスターともなれば、見栄があったり、威厳を損なうことを気にするものだと思っていたが、彼はそんなことを全く気にした様子がない。やっぱり、善性の人物であった。
「さて、思わぬ寄り道があったけど、反省会しようか」
ダグラスの店を後にし、場所を移してここは行きつけの喫茶店である。
空いている椅子にエマの板金鎧を積み上げ、俺たちは各自一杯の甘糖珈を前にして円形の机を囲んでいた。鎧姿に帯剣した俺たちを迎え入れて、無口なマスターは気にした風でもない。
「俺のミスは、火矢で魔角牛の脚を集中攻撃するように指示を出した後、ろくに効き目がなかったのにもう一発火矢を撃とうとしたことだな。エマが突進を避けきれない可能性を考慮して、俺が前衛として魔角牛に向かっていくべきだった」
「わたしのミスは、突進をよけられなかったことです」
エマが沈んだ顔で告げた。あれだけ派手に跳ね飛ばされたというのに、外傷は一つもなかった。かわりに板金鎧のわき腹のあたりが少しへこんだが、それも些細な傷である。正面から食らっていれば、この程度の被害では済んでいまい。当たり所が良かったのだ。
「それは仕方ない。レベルが上がって、板金鎧を着たまま軽々と動けるようになれば話は別だろうが、今はまだ重みに慣れてないだろう」
エマは、ふるふると首を横に振った。
「きっと、よけようと思えばよけられました。牛が向かってきたとき、斧で叩くかどうか、迷ってよけるのがおくれました」
俺は驚いた。恐狼の突進を俺が長剣で相打ちにしたように、魔角牛の突進を避けるのではなく、闘斧で迎撃しようとしたというのである。
「結果論になるが、魔角牛みたいに頑丈で攻撃力の高い敵なら、回避に専念するべきだったな。もちろん、前衛として敵の攻撃を受け止めないといけない魔物もいるから、一概には言えないけど。総じて、俺たち全員が経験不足なのは間違いない。魔物ごとに戦い方を変えていかないと」
「ご主人様、経験不足といえば、迷宮素材の採取方法も知っておいた方がよくはありませんか? 今回は漢玉葱の掘り方がたまたまわかりましたが、他の素材も、採取するときにコツが必要なものがあるかもしれませんし」
「それは俺も考えていた。後で商業ギルドに行って、迷宮素材の一覧と採取の仕方を調べるつもりだったよ。魔物シリーズ図鑑もそこで買ったんだ――話が逸れるが、魔物シリーズ図鑑、完全版買いたいなあ」
「手持ちの図鑑に中層までの魔物は全部載ってるけど、深層に行くなら欲しいわね。前情報なしで迷宮に潜るなんてぞっとしないわ」
エミリアは真顔であったが、先ほどから甘糖珈のカップを顔の前から離していない。よほど気に入ったのか、小まめに啜っては甘さを堪能している。
「そういえば、俺が魔角牛の足止めに向かっていったとき、火矢で目潰ししてくれたのは助かったよ。エミリアのおかげで、俺が安全に脚を斬りにいけた」
「ミスといえば、私にもあるわ。最初に魔角牛の脚に火矢を当てて、あまり効いていなかった時点で、顔面狙いに切り替えて魔法を撃つべきだったわ。ああいう敵を足止めするのが、私の役割なのに」
「世間一般の魔術師ならそうかもしれんが、今は使える魔法の種類が少ないからなあ。そう言われてみれば、闇属性の視野阻害とか、氷属性の氷結とかがあれば、交戦する前に有利な状況を作りだせるかもしれんな」
「そうね。ほんと、初期投資がかさむのね、冒険って」
やれやれといった体で、甘糖珈を飲み干すエミリアであった。マスターに目配せして、おかわりを注文してやる。
「甘糖珈のおかわりで思い出したわ、反省会には関わらないんだけど、お金の分配案を決めてきたの。発表してもいい?」
俺が頷いたのを見て、懐から地図とは別の紙を取り出すエミリアである。そこには、生活費などの必要な支出などが事細かに書き込まれていた。
「まず、宿代が毎日5,000ゴルド。場所を選べばもう少し安い宿もあるんだけれど、治安が悪かったり、食事がついていなかったりで、鯨の胃袋亭は居心地がいいのよね。これに加えて、保険というか、誰かが大怪我をしたり、病気をしたりして、冒険に行けなくなった場合のことを考えて、キリよく5,000ゴルドを貯金として積み立てるわ。つまり、毎日の稼ぎから、10,000ゴルドを抜くってわけ。そして、余ったお金は四人で分配。生活費は各自で捻出する。これでどう?」
「いいんじゃないか? わかりやすいし」
「ご主人様と同じ額を頂くのは心苦しいのですが――」
「いや、そこは平等にしないとかえってまずいだろう。同じパーティで迷宮に潜ってるんだからさ」
「問題は、装備の買い替え代金なのよね。できれば、保険で積み立ててる5,000ゴルドには手を付けたくないわ。各自の分配金から捻出してもらうのが一番いいんだけれど、お金がかかる職、そうでない職があるし難しいわね」
「それは、買い替えが必要になったときにみんなで相談かなあ。俺やエマはもう、ある程度の装備が揃ってるから買い替えはしばらくないだろうけど、エリーゼやエミリアはまだ装備が揃ってないだろうから」
「この装備に不満を持ったことはないですよ?」
鋲皮鎧の胸に手を当てながら首を傾げるエリーゼである。
「いやな、仕立屋サフランの女将さんにこの前聞いたんだがな、魔物素材から作る防具で、狩人に向いた装備っていうのがあるんだよ。首狩兎の上位種に暗殺兎っていうのがいるらしいんだが、その毛皮で作った靴は、足音が一切しないんだそうだ」
「それはちょっと――正直、興味がありますね」
「だろ? 深層の魔物らしいから、お値段はもちろん高いらしいが。それと、いつかは二人の防具も銀蛇の皮鎧に替えないといけないと思ってるし。エミリアは魔鎧の魔法でしばらくは凌げるとしても、エリーゼは前に出ることもあるんだから鋲皮鎧じゃ不安が残るしな」
「新品で2,000,000ゴルドの鎧ですか。とても手が出ませんね」
「案外、そうでもないと思うけどな。今は中層に入ったばかりだから稼ぎもほどほどだが、もう少し奥に行けるようになれば、毎日手に入る金も増えてくだろうし」
「これからは手に入れた魔石も、いったん換金して全員に分配するわ。自分で吸収してレベルを上げたい人がいたら、自分で買ってもらうことになるわね」
「そういや、魔石はまだ換金してなかったな。いくらになるんだろうか」
「ねえジル。今日の午後なんだけれど、迷宮に行くのはやめにしない?」
二杯目の甘糖珈を目尻を細めながら飲みつつの、エミリアの提案であった。
「構わんが、急にどうした?」
「迷宮に行くのが嫌で言ってるんじゃないことはわかって欲しいんだけれど。今日の午後は、中層の素材の採取方法を調べたらどうかと思うの」
「それはいいな。そうしよう」
即決で採用である。確かに、採取の仕方がわからなくて、素材を目の前に涙を飲むのは御免だった。
「じゃあ、今日は商業ギルドの本部にいって、それを調べよう。行きがけに魔石を換金すればいい」
午後の行動予定を決め、しばし談笑する俺たちであった。




