第十三話 奴隷 その3
エマとエミリアが疲れて寝てしまい、結局なし崩しに昨晩は寝る運びとなった。
俺はというと、椅子に座って考え事をしたまま、ずっと過ごしていた。エリーゼは、主人より先に寝るなど云々と言っていたがもちろん寝かせた。
早朝に二時間ほどうたた寝してしまったので節々が少々痛むが、もはやあの小さな椅子は俺が考え事をするときの定位置になっていたので、慣れたものである。
これからどうすべきか、どう行動すべきかを俺は一晩中考えた。
その過程で、俺は腹をくくったのである。
エミリアの言う通り、中途半端に手を差し伸べても根本的な解決にはならない。
何とかして、彼女たちが奴隷商の元に戻らずに済むよう、奔走しようと思うのだ。
昨晩こっそりと確認しておいた俺の残金は、銀行に預けてある半端なものも含めて、全部で75,620ゴルドである。チェルージュから貰った魔石は使ってしまったので、これが俺の全財産だ。
眠気で目を擦る少女たちを起こし、顔を洗わせてから階下に降り、宿の亭主が用意してくれた四人分の朝食を採る。一口が大きい俺は、少女たちより幾分か先に食べ終え、ぼんやりと彼女たちの食べる様を見つめていた。
現状で、すでにドミニカは、ずいぶん甘えさせてくれている。
彼女は商売人だ。とある客だけを特別扱いしては、他の客が不公平に思うだろう。それなのに、俺が宿に三人もの少女を連れこんでいることの追加料金を取ることもなく、二、三日様子を見てくれるという。旦那から話は行っているだろうに、朝飯を四人分用意することにも文句を言うでもない。
それはあくまで、ドミニカ本人の好意から来るものであって、そこに甘えるべきではなかった。いつまでも、現状を維持することを許したわけではないのだ。
(まあ、今あれこれ考えても仕方がないんだけどな)
「よし、食ったか。んじゃ、ちょいと全員で出かけよう」
まずは、やるべきことをすべてやってしまおう。
最初に向かったのは、ダグラスの鍛冶屋の向かい、仕立屋サフランである。
「この子たち全員に、そこそこ丈夫で、動きやすく、目立ちすぎない、金欠気味の俺の懐にも優しい、普段着から下着を替えも含めて二着、靴も一足ずつ、あしらえてくれ」
何せ昨日の夜から考えていた台詞である。要点だけを伝えた俺の注文に、よしきたとばかり店の女将は採寸にかかる。少女がみな首輪をつけているから、彼女たちが俺が所有する奴隷なのはわかっているはずだ。しかし何も言うことなく、女将は仕事に取り掛かった。大人の配慮という奴である。
時間がかかるようならどこかで時間を潰そうかと思ったが、揃いの衣装でも構わなかったという事情もあり、既存の品に手を入れるだけですぐに着られるようになるものばかりで、三十分もしないうちに三人の衣類は調った。
店では着させず、紙に包んでもらっただけで、各人にそれぞれの服を持たせて次の場所へと向かう。
二つ目の目的地は、風呂屋であった。
ここは入場時に代金の200ゴルドを払うやり方の店なので、入り口の受付で三人で風呂を使うことが可能か確認を取る。
大丈夫のようなので、自然と三人のまとめ役といった形になっているエリーゼに、全員に身体の洗い方を教え、清潔になったら今までの服を捨て、今日買った服を着て出てくるように申し伝える。
面食らった様子ではあったが、ともかくも了解してくれたエリーゼに少女たちの引率を任せ、待ち時間を利用して俺はひとっ走り冒険者ギルドへと向かう。少女たちが風呂屋から出てきた時に待たせてはいけないのでここは急ぎであった。
冒険者ギルドに駆け込むと、目当ての人物を探し――いた。
何やらカウンターの中で書類作業をしていたディノ青年を捕まえ、今晩の予定はないか聞く。
「何か相談事がある? それでしたら今でも。私事なので仕事が終わってからの方が都合がいい? 私で良ければお付き合いしますが。ええ、夕方六時には上がりますよ」
恩に着る、夕方六時頃また来る!と言い捨てて俺はまた風呂屋にとんぼ帰り。まだ少女たちは出てきていなかったので、呼吸を落ち着かせながら彼女たちを待つ。
青空を眺めながら、つい先日まで平和に迷宮に潜る生活をしていたことなどを、遠い昔のように思い出しながら――
「あの。ご主人様。お待たせしました」
声がした方に振り向くと、若い娘が三人、湯上りの艶姿で俺の方に近寄ってくる。三人とも、汚れでくすんでいた髪や肌が健康な血色を取り戻しており、見栄えのしない簡素な服とはいえ、上下とも新しい装いに着替えた少女たちは、年齢相応の華やぎを見せていた。
隷属の首輪がついていたり、手入れのされていない湿った髪が無造作に伸びているために今一つ垢抜けてはいないが、風呂に入る前と比べると見違えるようである。生活が落ち着いたら床屋にも連れていきたい。
「ん、見違えたぞ」
「身体を洗うなんて、久しぶりで、とても良い気持ちでした。ありがとうございます」
深々と頭を下げるエリーゼ。すっかり三人のまとめ役というか、代表者といった感じになっている。無軌道な少女たちの意識をまとめるのは確かに苦労しそうなので、俺にとって有難い存在であるといえた。
ただ、エリーゼも背が高く、落ち着いており、他の少女より世慣れているからそうなっているだけであって、彼女もまた、非力な少女であることを忘れてはなるまい。無理をさせるべきではなかったし、事あるごとにエリーゼに頼っていては彼女の負担が増えるだろう。
「俺のところにいるうちは、何かされたからって有難く思う必要なんぞないぞ。一々礼なんぞ言わなくていい」
「そういうわけにも――お言葉ですが、ここまで奴隷を優遇するご主人様なんて、いませんから」
「別に優遇なんてしてないぞ。むしろ着せる服とかが貧相で申し訳ないぐらいだ」
「とんでもありません。清潔な服を用意して頂けるばかりか、入浴までさせて頂ける奴隷なんて――」
「俺は非力だからな。俺が思った通りの、満足な生活を送ってもらうことは、しばらくできないだろう。いいか、お前たちぐらいの年齢の女の子は、もっと自由であるべきだ。家事の手伝いぐらいならしてもいいだろうが、過酷な労働に従事させるなんてのは間違いで、大人の力不足だし、怠慢だ。大人は子供を守ってやらにゃならん。したくもない仕事なんざせず、勉強したり、友達と遊んだり、三食におやつもちゃんと食べて、夜になったら寝るもんだ。犯罪奴隷については特に否定しないし、貧困奴隷も、大人が自己責任の借金のツケを払う分には、仕方ない面もあると思うが――子供を搾取するなんざどんな理由であれ言語道断だ。俺の待遇が良いっていうんなら、それはこの街全体が間違ってるんだ。この件に関しては、たとえこの街で同じことをやるのが俺しかいなかろうが俺が正しい。間違っているのは他の大人全員だ」
風呂屋の前で熱弁をする図というのは、ちょっと滑稽なものである。こうしているうちにも、血まみれのむくつけき男たちが風呂屋へとどんどん入っていっているのだ。
少女たちも黙り込んでしまったので、気恥ずかしくなった。帰るか、と呟いて歩き出した。
「あの、失礼ながら。ご主人様は、年齢はおいくつになるのでしょうか? それと、その。お名前を私たちに教えて頂けると」
(――あ)
「名前、教えてなかったか、すまんすまん。俺は今16だ。名前はジル・パウエル。帰ったら自己紹介でもしようか」
帰り道の途中、いくつかの店に寄り、茶と軽食、四人分のコップなどの食器、それに少々の甘いものを買ってから帰宅する。鯨の胃袋亭では出されない昼飯のかわりであった。これだけあれば足りるだろう。
宿の二階、自室に帰ると、小さな丸机に買ってきたものを広げていく。
この街でもごく一般的に飲まれている紅茶は、人数分を容器にまとめ売りしてくれる物で、容器を持参するとその代金の分は安くなる。人数分に分けるコップは自前で用意しなければならないので、帰り道に買ってきたばかりだ。
木を削りだして持ち手を付けた四人のコップに紅茶注ぐと、紅茶の香りが狭い部屋に広がった。
食事は、パフォーマンスとして店頭で丸焼きにしている羊のうち、焦げかけた表面の肉の部分をナイフでそぎ落として、平焼きと呼ばれる薄く焼いたパンにはさみ、香辛料や乳精を混ぜたソースと、刻んだ少量の葉野菜をかけたものだ。
いわゆる「挟み物」としてのパン料理では、この街ではポピュラーなもので、迷宮焼きという商品名で親しまれているものである。
おやつがわりの甘味は、果物にしようかとも思ったが、少女たちが菓子を食べたことがあまりないのではと気づき、焼き菓子を買うことにした。小麦と卵、砂糖などで焼いたシンプルな焼き菓子で、製作者の名前と、魔法の焼き菓子という意味をこめて、マギレーヌと呼ばれているものだ。
「飯はあたたかいうちに食うべし」
地属性を代表して崇められている地母ドロレスに長い祈りを捧げる家庭もあると聞くが、俺は気にしない派なので、さっそく迷宮焼きに食らいつく。焼いた小麦の香ばしさ、削った羊肉の脂、肉のうまみ、香辛料と乳精の奥深い味。
「うむ、うまし」
どうも俺が食い始めないと少女たちは食が進まないようなので、最初の一口は早いところ始めるようにしている。少女たちが美味しそうに食べ始めるのを見計らってから、机の下で指を刺して血の紋章を起動させる。
「食いながら見てくれて構わんよ。これは血の紋章って言って、本人の情報を表示させるものだ。迷宮の入場証がわりにもなるんだが。俺の名前とか年齢は見ての通りだ、よろしく」
慌てて迷宮焼きから口を離し、よろしくお願いします、などとエリーゼが頭を下げ始めたので、食事を続けるよう促す。エマはエリーゼの仕草を見て、真似してぺこりと頭を下げる。ほとんど聞き取れない声で、同じくよろしくおねがいします、などと呟いている。エミリアは不承不承と言った体で、頭を下げる。まだ心を開いてはもらえていないらしい。
「その、ずいぶん大人びていらっしゃるのですね、ご主人様は」
「良く言われるよ、お前本当に16歳かって。ああ、そのうち話そうと思っていたが、俺は記憶喪失でな。一ヶ月より前の記憶がないんだ」
いつものように、森の中で目覚めたことや、その森の管理者――チェルージュのことはぼかした――に助けられてMPの一割を吸われる加護を取り付けられたこと、目覚めたときからざっくばらんな言動をしていたので自分にとってこれが自然なこと、魔石をもらってこの街で冒険者として活動していること、最近ようやく自分の食い扶持を稼げるようになったことなどを話した。
「そんなわけでな、1,000,000ゴルドって言っても、自分で稼いで溜めた金じゃないんだ。ご主人様だなんだと敬われるようなことは、俺は何もしてないんだよ」
「それは違います、ご主人様。ご自分のお金を私たちに使って頂いたことには、何の違いもございません。エミリアも、そのう、昨日失礼を申しましたが、どうかお許しを頂けますと――」
「髪の毛一筋ほども気にしていないと思えば嘘になるが、エミリアの言ったことは正論だと思うし、耳が痛かっただけで、エミリアを悪く思ったりはしていないからそこは安心してくれ」
「そう仰って頂けますと――」
「そんなことより、実は気になってたんだが、エリーゼは何歳なんだ? 俺が言えた義理じゃないが、とても大人びているように思える。他の二人も、言いたくないことは言わないで構わないから、これから短い間かもしれんが――いや貧乏人で、すまんな――みんなで暮らすんだ、俺もお前たちのことを知りたい」
「ええと、私は12になります。エマとエミリアは、11です。奴隷としてそれぞれ買い上げられた時に、それまでの名前は捨てられましたので、みな、名前は奴隷商人が名付けたものです。同じ年に買った奴隷には、同じ頭文字から始まる名前を付けるのがあの店の主人の決め事だったようで」
「奴隷になると名前まで奪われるのか。胸糞悪い話だ。以前の名前を名乗りたければ名乗っていいぞ?」
「いえ、冒険者ギルドに登録されている戸籍も、もうこの名前で更新、登録されてしまっていますので、私たちのことはこれまで通りお呼び頂ければ」
食事の手が止まってしまっているので、まあ食いながら話せ、と再度促す。
マギレーヌを食べ始めると、甘いお菓子は本当に久々です、とエリーゼは相好を崩した。仏頂面を装っているが、彼女以上にエミリアがとても嬉しそうである。
「私は父親が盗賊ギルドに所属しており、人からも盗みを働く犯罪者でしたので、父が捕まったときに奴隷になりました。借金などはなかったのですが、父から盗賊としての技術をある程度教わっていたので、共犯としてみなされたのだと思います」
「みなされた? エリーゼって犯罪歴あるか?」
「いえ、ありません。確認して頂いても結構です。冒険者として迷宮に赴く際に必要な技術も盗賊ギルドでは教えていますので、ギルドに所属したり、盗みの技術を学ぶだけであれば犯罪歴は付きませんから」
「それで、父親のとばっちりで娘まで売られるのか? ずさんな法制度だな」
「略式裁判で有罪と判決されれば、犯罪歴になくとも罪にはなりますので――」
「裁判制度もあるのか」
といっても、話を聞く限りではお粗末なものなのだろう。裁判員の心証次第でどうとでもなってしまう程度の格しかなさそうだ。
「自分で話す?」
エリーゼが、傍の二人に話しかけている。
エマは首を横に振り、エミリアは自分でやる、と呟いた。
「私はエミリア。歳は11。生まれは商家。前も言ったけど、店が潰れて借金のかたに売られた。これでいい?」
エリーゼがお説教をしそうな気配を出していたので、機先を制して俺が返事をする。
「構わんが、そんなにつんけんしてると疲れないか? 一ヶ月だけかもしれんが、それまで一緒にいるんだ。仲良くしようぜ?」
しかし、説得の効果もむなしく、エミリアの眉間に寄った皺は一向に消える気配がなかった。
「言っとくけどね、私は冒険者っていう野蛮な人種が嫌いなの。酔って暴れるわ大声で騒ぐわ、品性の欠片も感じられない。何かある度に力で解決しようとするもの。あんたも同類よ」
「命賭けて迷宮潜ってるとな、息抜きとして盛大に騒ぎたくなる気持ちもわからんでもないからなあ。羽目を外しすぎない限り大目に見てもらいたいもんだが」
「人に迷惑をかけてまで息抜きしないといけないなら冒険者なんてやめちゃえばいいのよ」
「双方の歩み寄りの問題かねえ。冒険者は騒ぐのをちょっと控える、街の人らは経済の基盤になってる冒険者が騒ぐのをある程度目こぼししてやる、それでお互い譲歩しながらやっていくしかないと思うが」
「その、のらりくらりとした態度も私、嫌いだわ」
「うむ、俺のやることなすことすべて肯定されてヨイショされても気持ち悪いからな。言いたいことは何でも言ってくれ」
「ご主人様、エミリアが失礼を――」
口を挟んできたので、ちょうどいい機会である。エリーゼにも言いたいことは言っておこう。
「エリーゼ、俺以外の誰かに買われることがあったら、今のエリーゼのやり方で正しい。機嫌を伺って保身に回らないと、何かとやりにくいこともあるだろうから。だが、俺といる時は、思ったことを言ってくれ。諫言耳に痛し、って言い回しがあるだろ。自分にとって気持ちのいい言葉しか言われないと、人は過ちに気づけないし、成長もしない。前に言ったろ? 俺は奴隷制度、そのものが嫌いなんだ。俺のやることなすことにお世辞を言う、俺がいい気分になる、そんなのは正しいとも思わないし、仲が良い間柄だとも思えない。俺が間違ってたら遠慮なく言ってくれ」
エリーゼはしばし絶句した後、深々と頭を下げた。
「かしこまりました――エマですが、開拓村の出身です。村が貧しくなって、売られました」
エマの髪を撫でながら、エリーゼは続ける。
「開拓村?」
「はい。街は、壁で覆うように守られていますが、人の住める地域を増やすために、壁の外に出て、森を切り開いたりして作るのが開拓村です。魔物の襲撃なども頻繁にあり、危険な仕事ですので、犯罪奴隷や、冒険者、それにスラム暮らしなどの、貧しい人々が依頼の一環として受けることが多いです」
「依頼か。ほとんど受けたことないなあ」
冒険者ギルドが発行する依頼は、街のゴミ拾いなどの雑用から、不足しがちな迷宮素材の調達まで様々であった。魔物を討伐する仕事は案外少なく、レベルが上がらないので俺は利用していない。
「エマの父親は冒険者で、腕は立ったようなのですが、その、後先をあまり考えない人だったようで。怪我をして迷宮に潜れなくなった時点で貯蓄がまったくなく、開拓村で働いていたと聞きました。母親はその、男性と寝るお仕事で、稼ぎの悪くなったエマの父と、エマを捨ててどこかに逃げてしまったそうです。エマも、父親との記憶があまりないと言っていましたから、放っておかれたのではないでしょうか――私とエミリアには、エマもたまに、話をしてくれるのです――エマの父親は、食べるのに困って、子供が売れる年齢の9歳に達したら、すぐにエマを売ってしまったそうです」
「ろくな話を聞かんな。俺たちがまともな家族になれるかは今後の俺次第、か」
自分のことを話されているときも、エマは少しうつむき気味に、机の木目あたりをじっと見ていた。
「にしても、ずいぶんとエリーゼは大人びてるな。言葉遣いもしっかりしたもんだし」
「法で、買い取った奴隷の教育期間が最低一年間、設けられているのです。奴隷としての心構えとか――要は、主人に逆らってはいけないということを徹底させたり、隷属の首輪に逆らう痛みを教えたりですね――礼儀作法を一通り教えるのも奴隷商人の義務ですので、私は真面目に覚えようとしました。その方が、高く売れて、良いご主人様にめぐり合えるかもしれないと思っていましたから」
その言い方だと、エマとエミリアは真面目に覚えようとしなかったということなのだろう。
「その首輪って、何か逆らったりすると痛むの?」
「犯罪にあたる行為をしようとしたり、主人の命令に逆らうと、装着者のマナを使って痛みが走るようになっています。最初は鈍い痛みですが、命令に逆らい続けると激痛になっていきます」
「マジか。んじゃ気をつけて俺も喋るようにするわ」
「――エマは、それで遊び半分に、無理な命令を出されて、こんな風に。最初はもう少し、喋る子でした」
はあ、と俺はため息をついた。とことん奴隷商人の性根は腐っているらしい。
「血の紋章とかもそうだったが、どんな仕組みで出来てるんだろうな、その首輪。犯罪とかもそうだったけど、命令に従うかどうかなんて、結構あやふやなものだと思うんだが」
「申し訳ありません、私も詳しくは存じません。魔法ギルドで作っているのは確からしいですが。体感だと、法で定められている罪を犯すと発動するものと、自分が命令に反した、と意識した瞬間に痛みが走るものの二種類が設定されているような気がします。ですので、最初からご主人様に言葉で逆らってもいいなどと明言されていれば、ある程度命令に逆らっても痛くはなりません」
「お、そっか。んじゃ君ら三人、全員俺に好きなように逆らってよし」
これで万事解決だと思ったのだが、エリーゼは苦笑顔だ。
「お言葉は嬉しいのですが、今の私たちに嵌められているのは仮契約の首輪ですので――おそらく、奴隷商の同意なくては細かいところまでは変えられないのではないかと」
「ふむ、そうか。仮契約で思い出した、ちょっとこの後出かけてくるので、部屋で留守番しててくれ。出歩いてもいいが、迷子になると困るので三人でまったり過ごしててくれると助かる。そう長くは出ないから」
「あ、はい。かしこまりました」
ディノ青年に、多少危険でもいいので大金が手にはいる方法がないか、聞きに行く予定なのである。そんな都合のいい話がほいほいあるわけはないだろうので、もし他に方法がなければ迷宮に潜り続けることになるだろうが。




